別会場で開催されるセミナーや個別展示にも注目
CP+では、本展示と並行して様々なイベントが周辺で開催され見逃せないプログラムも多い。今年のCP+におけるキヤノンの動画撮影機材の関連展示は本ブースの一部コーナーで行われているが、毎年それと平行して、映画製作とその技術関連のスペシャルセミナーを開催した。キヤノンは2011年11月のCINEMA EOS SYSTEMの発表以来、翌年の2012年から毎年このCP+にあわせ、CP+のメイン会場であるパシフィコ横浜に隣接するショートムービー専門の映画館「ブリリアショートショートシアター」を貸切り、CINEMA EOS SYSTEMに関わる最新の技術や映画作品をテーマにした関連セミナーを開催してきた。今年は2月13日午後の1日のみ開催され、2つのプログラムが実施された。
第一部 CINEMA EOS SYSTEM × PFF「PFF映画製作特別セミナー」 Vol.1
〜第23回 PFF スカラシップ作品『過ぐる日のやまねこ』の撮影テクニックについて〜
日本の映画制作の登竜門としてすでに30年以上の歴史を持つ、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)とキヤノンCINEMA EOS SYSTEMの初のコラボレーションイベントを開催。今年は第23回 PFFスカラシップ作品『過ぐる日のやまねこ』(2015年秋公開予定)を題材に、本作の上映観賞に続いて、監督の鶴岡彗子氏とカメラマンの小川努氏、そして、東京藝術大学で小川氏の師となる、北野武監督作品などで日本アカデミー賞最優秀撮影賞などの受賞歴を持つ、柳島克己撮影監督の3名を交えてのトークショーが行われた。
カメラマンの小川努氏
内容は、EOS C300とEFシネマレンズ・EFレンズで撮影された本作を題材に、映画監督や映画撮影者を目指す人に向けて、本作の撮影・制作における解説や、撮影の工夫やテクニックについての紹介がなされた。
柳島克己撮影監督
PFFスカラシップは、ぴあフィルムフェスティバルの流れを汲むスカラシップ制度で、1977年の本映画祭発足以降、若いフィルムメーカーを紹介し続けていたが、なかなか“映画監督”として認められる監督が育たない状況を鑑みて、1984年にPFF自らが映画製作を援助する仕組みとして「16ミリ映画制作援助作品(第2回作品より“PFFスカラシップ作品”と呼称)」がつくられることになったのがきっかけだ。このスカラシップはその年のPFFグランプリを受賞した監督のみに与えられる権利であり、賞の発表後、各受賞監督から企画を募り、専任プロデューサーとPFFパートナーズ各社が約3ヶ月の期間をかけてセレクション。その中で最も期待したいフィルムメーカー1名にスカラシップ権が与えられ、実際の映画制作を援助していくことになる。
約2年もの期間をかけて、じっくり制作していくPFFスカラシップは、“スカラシップ=奨学生”という意味の通り、監督自身が製作から公開までの映画製作全体のプロセスを学んでいく実戦的な場であり、園子温、李相日、荻上直子、矢口史晴など、これまでこのPFFスカラシップで劇場用映画監督デビューを果たしたメジャー監督たちも数多い。
今回の映画『過ぐる日のやまねこ』でプロの現場を初体験した鶴岡監督には、自身の作品イメージや作品制作現場での実体験、また監督とは東京藝術大学大学院の同期でもあるカメラマンの小川氏には、EOS C300の使用感や大型ロケにおけるプロフェッショナルな現場での撮影方法などが語られた。本作の制作に関わったわけではないが、小川氏の師でもある柳島氏からは、本作の撮影における技術的な指摘や感想、またご自身が関わられた過去のメジャー作品における撮影技法紹介や映画カメラマンとしての心得など、プロフェッショナルの視点からの意見交換がなされた。
「過ぐる日のやまねこ」 2014年 / DCP / 92分 / カラー 監督:鶴岡彗子、撮影:小川 努 製作:PFFパートナーズ(ぴあ/ホリプロ/日活)、アミューズ、コトプロダクション、凸版印刷、Eight and Half 提携作品 あらすじ:東京の喧噪から逃れるように、かつて暮らした田舎町に辿り着いた時子と、そこで孤独な毎日をを過ごす高校生、陽平。身近な人の死に囚われ続ける二人が出会い、やがて時子の過去が明らかに…
第二部『王妃の館』『相棒』撮影監督 会田正裕が語る CINEMA EOS SYSTEMで拡がる映像表現の世界
会田正裕 撮影監督
第二部では、今年4月25日からの全国公開を控えた映画『王妃の館』の撮影監督である会田正裕氏を迎えて、全編CINEMA EOS SYSTEMとEFシネマレンズを使用して、フランス・パリ市街とその近郊でロケ撮影された本作を題材に、その撮影技法とエピソードなどを交えたトークショーが開催された。
『王妃の館』は浅田次郎氏原作のシチュエーション・コメディ作品。パリに旅行する風変わりで訳ありのツアー客が巻き起こす珍道中の現代劇と、ツアー客の一人である有名作家、北白川右京(水谷豊)が書き下ろす、ルイ14世にまつわる17世紀のパリの小説世界を行ったり来たりする、映像化が難しいと言われて来た、かなり異色の作品だ。
本作では監督にTVドラマや『探偵はBARにいる』シリーズなどでも監督を務めた橋本一監督を起用。主演はTVドラマ『相棒』シリーズで主人公(杉下右京役)を務める水谷豊が、同じ“右京”つながり(偶然だったということらしいが…)で、この奇想天外なハートフル・コメディ作品に挑戦している。特に邦画では過去に例をみないような、パリ中心街でのロケ撮影、ヴォージュ広場に実在するホテルやルーブル美術館、邦画初となるヴェルサイユ宮殿貸切りによる大掛かりなロケなど、見所も満載だ。
本作はまだ本格的なプロモーション前という事もあり、あまり多くの情報が公開されておらず、主演の水谷豊の特異と噂されるキャラクターも未公開だが、本イベントではパリのロケ風景を中心に、特別編集された5分スペシャル映像が上映された。
全編EOS C500 × AJA KiPro Quadにより4K収録されている。使用された機材とその様子は本会場のキヤノンブース内の一部で展示されている。またEOS-1D Cや70Dも多用した長時間露光による静止画と同ポジの4K動画撮影の合成処理『ステッチング』によるシーンが多用されており、カラーもこれまであまり見た事のない、カラフルでオシャレな観光地“パリ”のイメージが表現された作品に仕上がっている。
また17世紀のパリの表現は、絵画調の色彩にこだわった邦画には珍しい凝ったカラーグレーディングが全面に施されている。またこの17世紀シーンの撮影には、山梨県甲府にあるアイメッセ山梨という展示会場に巨大なスタジオセットを建設し、劇場芝居風な設定による大掛かりなスタジオ撮影も行われている。このシーンでは背景のグリーンバックにもEOS-1D C、70D等で実際にパリで撮影された雲や背景などの画像が数多く合成で使用されているという。
会田氏のトークでは、パリ撮影でのエピソードやフランス撮影チームとのやりとりなど、これまで日本では体験できなかった貴重な撮影エピソードを織り交ぜつつ、本作にCINEMA EOS SYSTEMを使用した経緯や理由などを解説。特にEFシネマレンズのシリーズ内における色味の統一性や、様々なシチュエーションに対応する汎用性、そして予算や撮影規模にあわせて様々なプロの現場にもフレキシブルに対応できる EOSシステム全体の優位性を支持していた。
また昨今取り沙汰される4K/8Kといった高解像度映像へ向けても、すでに4K以上の高解像度撮影はスタンダードになる中で、今年からは解像度議論から、映像を見る人間の感覚を直接的に刺激する、諧調(色彩)やHDR(ハイダイナミックレンジ)に着目点が移って行くだろう事を示唆されていた。
トークの最後に映像表現における解像度と諧調の捉え方について「解像度で描く映像とは“縁取りの中で色彩を埋めていく、緻密でグラフィカルな塗り絵のような描写”、一方で諧調で描く映像とは“絵の具を重ねて描くことで、結果として境界線が浮かび上がる絵画的映像”」と表現していたのが印象的だった。
総括
近年では、CP+における映像関連イベントも重要視されてきており、来場者の興味も年々高まっていると思われ、CP+本体が主催の映像制作関連の各種セミナーも超満員という傾向が顕著だ。このキヤノンCINEMA EOS SYSTEMのスペシャルセミナーも、そんな中で貴重な体験ができる非常に良い機会なので、ぜひ毎年の開催を期待したい。その一方で、今回の柳島氏や会田氏のような、現在の日本映像界を代表する撮影監督の話を直接聞ける貴重な機会ではあったのだが、あまりQ&Aや懇親する機会が設けられていなかったのは少し残念だった。
実際の機材を操作しながらなど、来場者とのコミュニケーションを有機的に深めるようなプログラムの工夫などを考慮されればさらに良いイベントになったかもしれない。またCP+という一般向けのイベントではあるが、この会場に集まったの客層は映画製作などを目指す、撮影技術の知識もある程度持った層も多かったように思える。機材メーカー主催というせっかくの機会なので、キヤノンの映像テクノロジーにももっとフォーカスしたプログラムが欲しかった。また専用サイトでの参加応募は、早々に定員に達したということで〆切られていたのだが、当日の会場ではかなりの空席が目立ったことも非常に残念。先端映像制作にフォーカスした数少ない貴重なイベントでもあるので、次年度開催に向けては、ぜひ大幅なプログラムオペレーションの改善に期待したいところだ。