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大荒れの天候は今年のNABを物語るのか?
昨日の砂嵐はおさまったものの今の時期のラスベガスとしては珍しく肌寒いくらいだ。それが、未だ収まらない会場の熱気を冷ますのには心地良い。4Kに始まり4Kに終わった感のある今年のNABだが、昨年までの4Kと異なり放送を前提としたUHDの広がりに目を見張るものがあった。放送における4Kの規格も決まり後は本放送に向けてラストスパートをかけているかのようだ。
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REDは6144☓3160のDRAGONセンサーを搭載したWEAPONを出展。WEAPONはマグネシウムボディとファイバーボディがある
デジタルシネマの4Kも民生機クラスの4Kカメラが出現した今単に4Kで撮影できるというだけの時期は終焉を告げたといえるだろう。上映用のデジタルシネマを前提とした場合、HDの16:9というアスペクト比よりワイド画面が必要になるが、それを解決するためにフィルムの時代はアナモフィックレンズを使っていた。もちろんこうしたレンズはアフォーダブルなデジタルシネマに馴染むものではない。
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ARRI ALEXA 65のセンサーは6560☓3100でこれをクロップすることで、65 mm5パーフォレーション(5120×2880)および35mm8パーフォレーション(4320×2880)にも対応可能
アナモフィックレンズを使わずにデジタルシネマのカメラで16:9以上のアスペクト比を実現する方法として最も簡単な方法はセンサーの画素が無駄になるが上下をクロップすることだ。クロップすることを前提に4K以上の画素数のセンサーを搭載したREDのようなカメラもすでに出現しているが、ARRI ALEXA 65は1:2以上のアスペクト比をもつセンサーを搭載しており、そういう意味で正当なデジタルシネマカメラが出現したといえよう。
LUMA TECHの1.3倍アナモフィックアタッチメントレンズILLUMINA Anamorphic。16:9アスペクト比のカメラでシネマスコープを撮影することが可能。比較的安価なPLマウントレンズなどを手がけるLUMA TECH社から発表となったものでF1.9までのレンズに適合する
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池上通信機4K対応カメラ(参考出品)。2/3型4K対応3板式CMOSシステムカメラ。現用のHDカメラと組合せ、4K映像を出力することができるカメラコントロールユニットCCU-980やベースステーションBS-98 Hybrid 4Kが用意されている
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Cooke Opticsのデジタルカメラ用25mmアナモフィックレンズ。Anamorphic/i Prime Lensesとして25/32/40/50/75/100/135mm 2x squeezeがラインナップされている
一方放送を前提とした4Kは2/3インチ3板式が半ば標準といえ、先般ご報告したとおり各社から対応カメラやレンズなどが発表されている。
また放送の場合はライブ運用が必須となるためスイッチャーやカメコンもライブ対応の製品が必要となるほか、マイクロやSNGなどの伝送システムの4K対応も考え無くてはならないが、伝送に関してはネットの利用が盛んになりつつある。特に今までマイクロなどのシステムを持たなかったソニーやパナソニックが積極的なのは興味深い。
TVU Networksなどもちょっと方向性が異なるもののこうした分野に早くから目を付け、先行した形で製品を発表している。ネットは光ファイバーによるインフラ整備が進み都市圏ではかなり高速な回線を容易に利用できる環境にあるほか、スマホの普及により無線によるIPも以前より高速かつ安価に広い地域で利用できるようになってきた。なによりもFPUよりも手軽に利用できる点が最大のメリットといえよう。
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OBバンに搭載されたTVU Networks社のTVU MLinkラックマウントソリューション
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ベルデンGVGのスイッチャー。video-over-IP (SMPTE 2022-6)に準拠した4K対応のプロダクションスイッチャーKarrera & Kayenne
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ベルデンGVGの4KカメラLDX86。HDにも対応しており、6倍のハイスピード撮影も可能。CCUやファイバーアダプターなど中継やスタジオ使用に必要な周辺機器も揃えている
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今回のNABで発表となったパナソニックの4KカメラAG-DVX200
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ソニーB4マウント3板式4KカメラHDC-4300。HD8倍速のスーパースローモーション撮影が可能なほか、カメラコントロールユニットHDCU-2000/HDCU-2500やベースバンドプロセッサーユニットBPU-4000などの周辺機器によりスタジオや中継に利用可能
現行のHD機材がそろそろ更新時期を迎える時期に差し掛かっているところもあるが、HDのシステムを導入した上で4Kのシステムも導入するというのは現実的ではない。特に4Kの放送はいまのところ視聴できる世帯が限れているため、採算がとれる状態ではないからだ。そこで、HDの更新時期に、両方に対応できる機材を投入することで、機材更新を即していこうという目論見もあり、今回のNABでは各社からHDとUHD両方に対応した製品が発表になり、今秋から年明けにかけて発売されるという図式が生まれているといえよう。
放送機器はメーカーごとに得意分野があり、ある程度の住み分けができており、共存共栄で進んできたが、VTRという呪縛から解き放され、ファイルベース化が進み、地上波以外の手段で放送が可能になり、他業種からの参入も相次いだことから、ボーダーラインがなくなってきた。ソニーやベルデンGVGは放送設備をシステムとして自社製品だけで構成できる方向へ向かっているが、BMDはそこから少し階層の異なる業務用(プロシューマーといわれる個人や企業・学校、イベント設備など)やポスト部分でそうした地位を確立している。
総括:やはりおもしろいNABshow。足を運べば、わかる映像業界の明日!
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ランサーリンクHDMIファイバーケーブル。HDMIを長距離伝送するもので、20mと100mがある。コネクターサイズの中にO/Eコンバーターが仕込まれており、HDMI機器からの電源供給が可能
今年のNABは大きなブースを構えるこうしたメーカーが製品ジャンルの幅を広げる一方で、より専門性の高い製品やマスに乗らないユニークな製品を出展するブースが増えたようで、ところどころにあった空きスペースを利用したラウンジがなくなり、サウスホールの奥なども以前空きスペースだったところまでビッチリとブースで埋まっていた。
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360heros社のGoPro用全天周撮影用システム。専用ソフトにより複数のカメラで撮影した映像を1つにまとめパノラマ映像として表示できる
放送に向けた4K製品も出揃い今年から来年に向けて一気に突き進んで行く一方でデジタルシネマ系の4Kはアフォーダブルな4Kからワンランク上を志向したものまで幅を広げあらゆる階層の制作環境が4Kに収束していく。今年のNABでは特にそんな印象を強く受けた。来年はどのような物が出てくるのかが楽しみだ。
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