パナソニックの「GH5」と「GH5S」の違いをチェック
2017年3月に発売を開始したパナソニックの「GH5」は、記録時間無制限で4:2:2の10bitの記録に対応を実現、映像業界でも大変な支持を得た。2018年2月に発売を開始した「GH5S」はそれらの機能を継承しつつ、さらに高感度を実現した兄弟機種を実現している。しかし、画素数が非常に増えていく時代にあえ10Mセンサーを採用していたり、ボディ内手ブレ補正を削除するなど、「GH5」ユーザーの間でも「GH5S」は選ぶべきか?どうなのか?などの話題が交錯している。
そこで今回は、映像業界で活躍中のカメラマンやディレクターの方々に「GH5」と「GH5S」の選び方を語って頂いた。
- Vol.01 映像業界で注目のデジタルカメラ「GH5」と「GH5S」の魅力とは
- Vol.02 ショートムービーの制作で「GH5S」を試す
- Vol.03 高感度モンスター「GH5S」を試す
- Vol.04 4Kスポーツ番組の収録で「GH5S」を試す
画作りしたい人のための「S」
txt:中ノ子基高 構成:編集部
パナソニックのフラッグシップ・ミラーレス一眼「LUMIX DC-GH5」に、兄弟分となる「LUMIX DC-GH5S」が追加された。
2017年に発売された「GH5」はスタイルこそデジタル一眼の体を成しているものの、その性格は動画撮影用と言わんばかりの方向性を持っている。特に「4:2:2フォーマット10bit深度」の時間制限なし4K/60p、6K/30pフォト、非常に充実したマニュアル撮影機能&分りやすい説明表示といった、いわばオールパーパスなミラーレス一眼として数々の賞を受賞。販売台数も予想を上回る勢いを見せているモデルだ。
このGH5の兄弟分となる「GH5S」は総画素数が1193万画素と低く手ぶれ補正が非搭載で、スペック上は「あれ?スペックダウン?」と一瞬思ってしまうところだが、それは早計という他ない。早速、2つのモデルの違いを観ていこう。
なおGH5/5Sは非常に多機能なカメラだ。全機能を説明しているとそれだけでお腹いっぱいになってしまうため、本稿では主に2台の機能的な違いに焦点を当てた。GH5とGH5Sは、製品ロゴにSが付いて、赤いアクセントリング等が追加された以外、見た目も操作系も全く一緒。中身をよくわかっていなければ、マイナーバージョンアップかな?と思ってしまうのだが、果たして?
※本レビューで使用した本体はβ版のため、製品版と違う事があります。ご了承ください
GH5(左)とGH5S(右)。外見はほとんど同じだ
GH5のロゴ(左)とGH5Sのロゴ(右)。赤で「S」の文字が追加されている
イメージセンサーの改良、画素あたり面積の拡大
最も大きな違いは、Live MOSセンサーの総画素数が減少したこと。GH5の有効画素数が約2177万画素であるのに対し、GH5Sは大よそ半分の約1193万画素へと減少している。しかし、画素数は多ければ絶対良いというわけではないのは皆さんもご存じの通りだ。同じ物理的サイズのイメージセンサーにおいて画素数が少なくなれば、1つひとつの画素で取り込める光量は増えるため、暗いシーンでのノイズ感を防ぐことが可能となる。
このメリットをさらに高めるためにLive MOSセンサーに搭載されたのが、「デュアルネイティブISO」だ。通常、光センサー(Live MOSセンサーの各画素)には1系統の「オペアンプ」というアナログアンプが搭載されており、微弱な信号を増幅して外部に出力する。この時、光センサーで得られた情報にレベルのバラつきが多くあればそのまま「ザラついたノイズの多い画」として現れると考えると、分かりやすいだろう。低照度シーンを撮影した素材なら再生させるだけですぐに分かるし、夕方等のシーン素材でも編集時にゲインコントロールで持ち上げたりすると、顕著に表れる。
GH5Sに搭載されたデュアルネイティブISO対応高感度MOSイメージセンサーは、この信号増幅用オペアンプを2系統搭載しており、それぞれを低ISO感度時、高ISO感度時に切り替えて使うわけだ。それぞれのオペアンプはフィルタ特性・増幅率を最適化してアナログ処理する仕組みとなっているようで、低照度シーンでISO感度を上げざるを得ない場合でもローノイズな画面を維持でき、GH5のMOSイメージセンサー比8倍の拡張ISO感度204800を実現している。パナソニックのシネマカムであるVARICAMシリーズにも採用されている高画質化技術の一つで、暗部の再現性向上、自然光を生かした低照度撮影に威力を発揮する。
GH5S | GH5 | |
センサー、カメラ有効画素数/総画素数 | 4/3型Live MOSセンサー 1028万画素/1193万画素 |
4/3型Live MOSセンサー 2033万画素/2177万画素 |
ISO感度 (標準出力感度) | 【静止画時】オート/インテリジェントISO/80/100/160/200/
400/800/1600/3200/6400/12800/25600/51200/102400
/204800(1/3EVステップに変更可能)
【クリエイティブ動画時】オート/80/100/160/200/400/800/1600/3200/6400/12800/25600/51200/102400/204800 (1/3EVステップに変更可能) |
オート/インテリジェントISO/100 */200/400/800/1600 / 3200/6400/12800/25600(1/3EVステップに変更可能) |
というわけでサンプルを撮影してみたのだが、これがもう!面白いぐらいにまるで違う絵になった。GH5も感度の優れた高感度MOSイメージセンサーを使っているため、夜の繁華街程度の明るさがあれば、それなりの絵が撮れる。高解像度の静止画では多少ザラつく傾向もあるのだが、FHDまで解像度を落とせば、GH5とGH5Sとではあまり変わらない画質が保てる。しかし「照明のような光源がない」という状況下にあっては、GH5Sの広面積+デュアルネイティブMOSイメージセンサーの本領が発揮された。
■昼間の撮影で比較する
今回は筆者のギャラリーに展示してい博多中ノ子焼人形を被写体にしてみた。先日の福岡市発掘調査でも400~600年以上前からその発色技法があったと証明された技法を施している。屋内であっても、昼間の撮影では、GH5とGH5Sの性格付けがあまりよく分らなかった。というのも、FHDでの記録であればいずれも昼間の明るさがあれば十分高画質という印象。細かく観ていくと、GH5には暗部に若干のノイズ感を感じた程度だ。
■夜間の撮影で比較する
そこで夜間の撮影に切り替え、思い切って下の写真のような薄暗い環境下での撮影を行った。いずれも設定は、動画フォーマットがMP4(LPCM)のFHD24p、ビットレート100Mbps。感度は拡張ISO6400で行った(手持ちのSDカードがUHS-1しか余っていなかったので、FHD100Mbpsとさせて頂いた。手振れ補正はGH5本体側をオフにし、LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm/F2.8-4.0 ASPH側のPower O.I.Sを利用した。その他、電子手振れ補正等もすべてオフにした)。
1)GH5で撮影した映像
この照度であればこのような絵になってしまう。もっと感度を上げることもできるが、その分ノイズの量も増えてしまうし、全体的に白々しい色の絵になる。ドキュメンタリー放送等で画質が荒れている、あの感じだ。
2)GH5Sで撮った映像
ノイズ感が全くなく、素焼人形に施された漆掛けの「焼成前着色酸化還元法」によるしっとりとした発色が、きちんと再現されている。ちなみに静止画RAWデータ撮影を行った場合は14ビットカラーまでの記録が可能だ。天文写真や夜景、0ルクスに近いような暗闇であっても驚くべきほどの明るさと色の深さで撮影できる。天文写真も撮ってみたいと感じた(1本の12-60mmレンズを使って撮影したことによる映像キャプチャの位置ズレは、分りやすいように画像加工ソフトで修正している。色味、明るさ等はキャプチャした映像のまま)。
Cinema4K/60p対応
昔からパナソニックには、シネマ映像をビデオで実現して欲しいというユーザーが多い。そんなパナソニックだからこそ、ミラーレス一眼にも搭載したのがCinema4K/60pフォーマット。
GH5ではハイライトシャドウ機能を使って細かく映像を調整でき、複数のカメラを使って撮影される映画等のシーンにおいてはV-Log撮影機能と組み合わせることでシネマライクな撮影が可能となっているが、GH5Sは新たにCinema4K/60pフォーマットにも対応した。解像度が4096×2160ドットに横拡張されており、見た目は一般的な4Kよりも若干横長に感じる。アスペクトはシネマスコープほど横長ではないのだが、一般的な4Kよりも広い画角の映像であっても、これ一台で創り上げることが可能となったわけだ(もちろん編集用の対応アプリも必要になるが)。
V-Log機能は複数台のカメラを組み合わせた場合でもグレーディング時に正確な色再現を可能とするもので、これまでオプション扱いだったものが標準で利用できるようになっている。「さあ、私を押せ」と言わんばかりに主張するようになったRECボタン。ボタンのデザイン変更だけではあるのだが、GH5とGH5Sを両方持っている場合は、操作するときに気付く。筆者もテスト機2台において、このボタンのデザインによって「おっと、こっちはGH5S」と気付かされた。
GH5S | GH5 | |
動画の記録モード | C4K:60p/50p(4:2:0 8bit)、
30p/25p/24p(4:2:2 10bit) 4K:60p/50p(4:2:0 8bit)、 30p/25p/24p(4:2:2 10bit) |
C4K:24p(4:2:0 10bit)、
30p/25p(4:2:2 10bit) 4K:60p/50p(4:2:0 8bit)、 30p/25p/24p(4:2:2 10bit) |
GH5Sの赤いRECボタン
本気で画作りしたい人向けのプロスペックカメラ
と、ここまで説明してお分り頂けただろうか。GH5Sは、GH5のモデルチェンジ品とかそういうものではない。GH5が「動画撮ったら絶対面白いミラーレス一眼」とすれば、GH5Sは「本気で一眼映像作りをやりたい人のミラーレス一眼」とでも言うべきだろう。
GH5はそのスペックから「単体で4K/60pや動画撮影をこなせるミラーレスDSLR」だと感じる。特に広角から4K/FHDへ自在にトリミングできる6K動画撮影や最大240fpsまでのスロー映像は魅力だ(GH5Sも4K/60pや4K→FHDトリミング撮影、最大240fpsのバリアブルフレームレート等は可能)。
それに対し、GH5Sは方向性がそもそも違う。個人向けデジタルAVCのハイアマチュア向けというよりも、プロシューマー向けのスペックを民生モデルの筐体にパッケージングした製品という印象が強い。正直、機種名とかボディとか、「あんまり関係ないけど似てるから兄弟にしちゃった」みたいな?そんな印象さえ受ける。逆に言えば、ベースとなっているGH5の完成度もそれだけ高いということだ。
低照度であっても色がハッキリと浮き立つデュアルネイティブISOは、ブライダル撮影やドキュメンタリー撮影での現場収録でも非常に高いパフォーマンスを発揮する。特にブライダル撮影においては、過酷とも言える照明の暗さが作り手の頭を悩ますものだが、GH5Sなら低照度でも高い質感の色を再現できる。華やかなブライダル現場に、白っちゃけたノイジーな画面ってどうなのよ、と筆者も常々思ってはいたのだが、GH5Sならこの現状を劇的に改善できるだろう。
GH5Sの新機能として他に一押ししておきたいのが「タイムコード入出力」だ。筆者の場合も、「一人で撮影して一人で編集して…」なんて時は、TCなんてクリップ毎に頭からFree Runでくっ付いていればそれでいいと思ってしまうのだが、複数台のカメラを並べた時はTCで頭を作っておいた方が後の編集作業も非常に楽になる。特にコンサートなど複数のカメラで押さえるマルチカム編集では、TCは必須といっていいだろう。
パナソニックさん、本当にこれ、「コンシューマ向けLUMIXシリーズ」として出しちゃっていいんですか?と、疑いたくなる。
GH5SのTC入出力端子
モードダイヤルの下にあるフラッシュ端子は、GH5Sではタイムコード入出力端子としても利用できるようになった。付属のBNCケーブルを使って、他のGH5Sや映像機器と同期が取れる。
ただ欠点というか、シュリンクアウトされた部分もある。本体内でイメージセンサーを動かし手振れを吸収するボディ内手振れ補正機構は省略されている。これを取り上げて「なんで手振れ補正がないの」と嘆いている方も多いと思われるが、いやそもそも。手持ちでGH5S使って、あなた一体何の動画を撮るの…というのが実際のところではないだろうか。どうしても手振れ補正が欲しければ、レンズ内手振れ補正のPower O.I.Sを内蔵したレンズを使えばそんなに気になることはない。特にスチル撮影であればシャッタースピードを上げられるようにGH5よりも高感度なMOSイメージセンサーを搭載したわけだ。動画撮影現場で三脚を構えないことはまずないし、どうしても手持ち撮影をするのであればジンバルを使うことも常識になりつつある。
ボディ内手振れ補正、正直「残して欲しかった」という気持ちも少しはあるが、新機能の数々、MOSイメージセンサーの画素数を落としてかつデュアルネイティブISOを搭載するといった点を考えれば、GH5Sの性格付けが見えてくるだろう。
GH5Sは10.2Mのイメージセンサーを搭載
GH5Sに搭載されたデュアルネイティブISOイメージセンサー。オペアンプを各画素2系統搭載することで、暗部の描写能力が飛躍的に向上した。これまでも背面照射型やマイクロレンズセンサー等、映像業界では高画質化に膨大な努力が払われているが、オペアンプを切り替える方法は今後も更に伸びていく可能性が高い。
1台に絞りきれない(笑)
通常、新モデルが出ると旧モデルのスペックを凌駕しているものだ。が、GH5とGH5Sはターゲットが明確に異なる。車で喩えれば、同じボディに3500ccガソリンエンジンを載せているのか、3000ccディーゼルエンジンを搭載しているのか。他のスペックがほぼ一緒であっても、エンジン形式が違えば目的が変わる。ガソリンエンジンで伸びのある高回転域を楽しむのか、粘り強いディーゼルエンジンでエコドライブを楽しむのか。
この2台のカメラをその喩えに置き換えるのであれば、GH5は彩り鮮やかでトリッキーな構成も多用したいミュージックビデオ向け。30pの6Kフォトを使えば数年前に流行った画角シフト映像が4K/FHDで簡単に作れるし、高解像度映像をダウンコンバートする前提で撮影したほうがCG合成も行いやすい。バリアブルレートで予め撮影しておけば瞬間を切り出すことも手軽に行える。つまり(非常に大雑把な言い方で申し訳ないが)事前に深く考えなくてもノリで楽しい映像が創れる。そんなカメラだ。
対してGH5Sは、背伸びしても手に入らなかった数々のプロシューマー向け機能を搭載し、これまで手が届かなかったシネマモデルの領域を感じさせてくれる1台になっている。映画作りというのは、人件費ももちろん掛かるのだが、やっぱりどんなに小さなプロダクトでも高額な機材レンタル費が飛んでいくわけで、手弁当で自主制作を行ってもプロの映像にかなわない機材面の問題があった。それが今、僕らの手元まで降りてきているというのは非常に素晴らしいことだと思う。
(注:無論、ミュージックビデオでもシネマライクな演出や機材利用を行っているものもあるし、実際それらには多くのコストが掛かっている。逆にシネマ映像であっても機材や演出を工夫しminiDVの頃から数々の名作・実験作が創られている。ここで語っているのはあくまでも一般論としての話だ)
txt:中ノ子基高 構成:編集部