txt:清水幹太 / 編集部 構成:編集部

いよいよ展示会が始まる

MediaDayが終わり、CES展示会場での展示がいよいよ始まった。CESの他の展示会と大きく違う点は、開発中のプロトタイプではなく、完成品としてマーケットに出ているか、近日中にリリースされる予定になっている「実際に動く・使える」展示物が多く展示されていることだ。大本が電気製品の見本市なのだから、それは理の必然で、早速展示会場では様々な「実際に動く・使える」プロダクトを見て、触って、体験することができた。

そして、展示物がプロトタイプより先の「商品化」のレベルであるということはすなわち、多くの展示物は商品化される程度には市場に対応した、ある程度一般化したレベルのものを多く見ることができるということでもある。全く見たことがない、新しいアイデアやコンセプトは、まずはコンセプトモデル的に展示され、そこからプロダクトになっていく。

プロダクトとして展示されているものは、ものすごく新しい、というよりは、概念が浸透して、カテゴリーとして一般化したものが多い。しかしそこは最先端のプロダクトを展示する見本市であるから、参加各社は一般化したカテゴリの中で、より新しい発想を競っている。「VR」という領域は一般化しているからたくさんの起業が完成品のVRプロダクトを展示しているが、その中でも、「新しい○○なVRプロダクト」を発表して他より一歩抜きん出るのだ。

CESにおいて、最も「味わい」があるのが、中でも、いよいよ一般化しようとしている前夜のカテゴリーだ。「熟れかかっている」カテゴリーと言っていい。そういったカテゴリーでは、一般化しようとしてはいるものの、「これ!」という定番が固まっているわけではないので、自由な発想で、ああでもないこうでもない、と実際のプロダクトベースで様々な実験的な試みを行っている。こういう段階で登場する「実験的」なプロダクトには、時折、「あれ?そう来たの?」「そっち行っちゃったの?」と思わせる、素晴らしくも愛らしい、「斜め上」から切り込んでくるものがあって、実に味わい深いのだ。

たとえば、VRの中でも、ライド型の映像連動マシンみたいなものは、もはや目新しくはなく、映像に連動して動くドライビングシミュレータのような椅子や遊園地のライドのようなもの、ローラーがついた靴を履いてローラーを転がすと前に進んでいくようなものまで、あらゆるアプローチのVRライドマシンが展示されている。

そんな中、目立っていたのが、ハンガリーのスタートアップであるYawVRだ。実は数年前にKickstarterでのクラウドファンディングに成功しているプロダクトで、CESへの出展も3年目とのことだが、不覚にも気づいていなかった。

今回初めて触れて体験するこのVRライドマシンは、非常にユニークな「お椀型」だ。お椀のようになった椅子に腰掛けてVRヘッドセットを装着する。ヘッドセットの中にはジェットコースターなどのVR映像が再生される。そしてこのお椀がぐいんぐいんとジェットコースターの動きに合わせて上下左右に動くのだ。感覚としては、ソリに乗って雪原を滑っているような身体体験になる。

このYawVRが素晴らしいのは、$1,490(約16万円)から購入できるということで、どうしてもごつい構造になり高価になりがちなVRライドマシンの領域でも、それなりにお手頃な部類であると言える。それも、このお椀型というシンプルな構造を採用したからということだろう。軽くて持ち運びやすいのも良く、イベントなどでも利用しやすい。もちろん自分のつくったソフトウェアと接続して動きを連動させることも可能だ。こんな「えっ?」と思わせつつもクオリティの高いアプローチの新しいものと出会えるのは、CESならではなのだ。

ドローンの展示は、水中へ

ちょっと前まではそこまで見なかったが、今年の展示ではこれでもかというほど多様性を拡げている領域はまだある。水中ドローンだ。昨年までにくらべて、水中を自由に操作・移動させて撮影する潜水艦タイプのドローン展示は数多くなり、多様になった。操縦するタイプのドローンだけではなく、ビート板のように手に持って泳ぎを補助するようなタイプの「ドローン」も派生する形で人気だ。

巨大な水槽の中で人が泳いでデモンストレーションするような派手なものを始め、実際に水の中でドローンを操作できるような展示も多く見かけることができた。

このビート板ドローンだと、中国系の水中ドローンスタートアップが、かわいいキャラクターを模したデザインの水中ドローンを展示していたり、今までは潜水艦じみた形状が主流だった水中ドローンデバイスも、カジュアルになったものだなあと思わせる拡がりが見られた。キャラクター製品が出てきたらもうそのカテゴリーは一般化しつつあるということだ。水中ドローンはもはや特別なガジェットではない。みんなのガジェットになりつつあるのだ。

そんな中、「えっ?」と思ったのは、ROBOSEA社の水中ドローン製品群だ。中でも目を引くのがサメにそっくりなROBO-SHARK。サメの動きをシミュレートしてワイヤレスで長時間潜水もできる。実際に動いているものが展示され、数ある水中ドローン展示の中でも異彩を放っていた。使用目的は、水中の調査やマッピング。

このROBOSEA社は、他にもフグっぽい形状の魚ロボなどを展示しているが、さらに「えっ?」と思わせるのが、リアルなアロワナを再現したアロワナロボ「ROBOLAB-GL」だ。もはや水中ドローンというよりは「魚アンドロイド」に近い。観賞用・エンターテインメント要素が使用用途ということで、つまりこれはもはや、水槽で魚ロボットが優雅に泳いでいるのを鑑賞する時代になったということだ。水中ドローンが一般化してカテゴリーが熟してくることで、こういう新しい「斜め上」の発想が生まれてくる。表面はアロワナ柄がプリントされた布で覆われている。

実際に水槽で展示されていたのは、同タイプの、アロワナ柄の表皮をかぶせていない中身のロボット魚で、しかしその泳ぎは侮れないものだった。ヒレをひらひらさせながら身体をくねらせて水中を移動する。実際の魚とみまごうばかりの動きを再現している。水中ドローン技術の発達に伴う、「ロボットによる魚の動きの再現」領域で静かなブレイクスルーが起こっているような印象を受けた。

拡張現実の世界も、視覚だけではなく聴覚や触覚の領域へ

AR=拡張現実の世界も、視覚だけではなく聴覚や触覚の領域にまで拡がりつつある。ちょっと前だと物珍しい存在だった触覚ARも今や1つのカテゴリーとして確立されつつあるし、いろんなアプローチが出てきている。

2年前、EMS(電気筋肉刺激装置)を搭載した、モーションキャプチャも可能な触覚スーツを発表して話題になった「TESLASUIT」が今年は専用のグローブを開発していた。もともとのTESLASUITのコンセプトが、自分の身体の動きをトラッキングしながら筋肉刺激によってその動きを矯正、リハビリやスポーツ、軍事といった領域で「正しい身体の動き」を再現するための「触覚ARモーション矯正スーツ」だったが、今年発表されたこの「TESLASUIT GLOVE」は、このコンセプトを指の動きにまで発展させている。

この男の子心をくすぐるサイバーなグローブが、自分の指の動きをトラッキングして、指の動きを矯正してくれるのだ。これがあれば、手先が不器用な私も細かい作業ができるかもしれない。「触覚AR」の幅が広がっていく中で、こんな「おせっかい」な触覚ARのアプローチも出てきている。カテゴリーが熟すと、こういうものが生み出されて、世の中が楽しくなっていく。

他にもARグラスなど、ますますブースの数が増え、洗練され多様になっている「味わい深い」領域が、今年のCESには多いように思える。数年前までは概念そのものが新しかったカテゴリーが、熟成のときを迎えて花開こうとしている。今年はそんな年なのかもしれない。

txt:清水幹太 / 編集部 構成:編集部


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