Audiのブースは上からキラキラしたリボンが無数に装飾されており、否が応でも足を踏み入れたくなる

txt:清水幹太 構成:編集部

来場者の気を引く“見せ方”は多種多様

CESというのは、言わずもがな見本市であり、見本市・展示会である限り、参加者は自分たちのプロダクトやサービス、アイデアを「見せる」「体験してもらう」「理解してもらう」ことを宿命づけられている。もちろん主役は展示をするプロダクトやサービスだ。

しかし、それらがいかにイノベーティブで素晴らしいものであったとしても、やってくる人々にそれが伝わらなくては意味がない、わざわざラスベガスまでやってきてお金をかけて展示している甲斐がないというものだ。

そういう意味では、CESという巨大な展示物の海の中から自分たちの商品に目を向けてもらうため、展示者は様々な手をつかって目立ち、頭一つ抜けなくてはいけない。そして来場者の言の端に乗って、メディアが取り上げてもらわなくてはいけない。すなわち、CESとは、新しいプロダクトやサービスの見本市であるとともに、「新しい見せ方の見本市」でもある。

Googleは、屋外に大きな滑り台を設置、そのほかにもモノレールをGoogleロゴでラッピングなどこれでもかという目立ち様

今年のCESも、来場者の気を引く新しい「見せ方」にたくさん触れることができた。中には、商品そのものは見たことがあるようなものでも、「見せ方」だけで強い存在感をつくっているようなブースもあった。

本稿では、展示されている商品ではなく、CES2020において繰り広げられる、そんな様々な「見せ方」に着目し、「見せ方」のトレンドや進化を考察しつつ、CESという見本市の楽しさや雰囲気を伝えることができればと思う。

真面目なIEEEが送るインパクトあるデモで具体化を狙う

電気・情報工学分野の学術研究団体、つまり学会であるIEEEのブースでは、学会としての活動などをパネルで紹介。どうしても地味で固くなってしまいがちな展示内容ではあり、なかなか人が集まりにくい内容ではありながら、そのブースには行列ができていて、圧倒的な存在感を周囲に振りまいていた。

IEEEのブースの真ん中にあるのは、巨大な金網でできた球体。しかもその球体が音を立ててゴロゴロ転がっている。よく見ると、球体の中には人間が入っていて、球体を転がしながら歩いている。一見拷問器具のようなものにすら見えるこの球体、実はVR用の「バーチャルリアリティ・ハムスターボール」と呼ばれるもので、VRヘッドセットをかぶった人間がVR空間を縦横無尽に歩き回るための「VRウォーキングマシン」だ。

じゃあこのマシンをIEEEが開発したのか?というとそれは全然違うらしく。この「バーチャルリアリティ・ハムスターボール」はVirtusphereという名前でかなり前に発表されていたものらしい。

「じゃあこれは何なのか?」と聞くと、案内役の方が「VRで火星の空間を自由に、無限に移動できるんですよ」と言う。「じゃあそのコンテンツがIEEEのものなのか?」と聞くと、「展示会でお客さんに来てもらうためにつくった」のだという。

つまり、IEEEというとかく扱う内容が抽象的な団体が、「客寄せ」のために開発した火星探索VRシステムということで、実はIEEEが展示している内容とはあんまり関係がなかったりする。しかしながら、その客寄せ効果は大きく、体験のための行列は途切れないし、行列に並んでいる間もIEEEの活動に関するパネルを見たりすることなどもできたりする。

ドローンも演出の一つ

一昨年あたりから、CES展示におけるインスタグラマブルな手法として、いろんな人のスマホカメラが向けられていたのが「巨大ドローン」だ。15mくらいもある巨大なドローンがブース内に展示され(展コンセプトモデルのため実際飛行しない)、プロペラがくるくる回っているだけで、人々は「なんだありゃ?!」となり、カメラを向ける。遠くからも目立つため、集客効果も高い。しかし今年になってこの方法を踏襲する起業もいくつか出てきて、いろんな場所で巨大なドローンを目にすることができた。

中でもHYUNDAIのブースでは、「自動車企業ではあるが、ドローンが一番目立っている」という大胆なアプローチも功を奏して、話題化に成功していた。

ドローンメーカーも負けてはいられない。元々ヘリコプターなど老舗であり、今やドローンメーカーのBELL社は、例年通り巨大なドローンを展示していたが、今年はそれだけではなかった。

BELLは「ドローン技術を活用したスマートシティの実現」という自社のミッションを、とてもわかりやすく、目を引く方法で展示していた。「5G」などもそうだが、「スマートシティ」みたいな抽象度の高い概念は、うまく展示して来場者に理解してもらう難易度がとても高い。

BELLがどのように「ドローン技術を活用したスマートシティ」を表現したのか?それは、LEDパネルとプロジェクションで構築されたミニチュアの街をつくり、中型の汎用のドローンを同様に「ミニチュア」として模型の中を飛行させて、建物の上のヘリポートからヘリポートへと飛び回る。建物の模型などはちょっとチープだが、非常に目を引き、「ドローン技術を活用したスマートシティ」のイメージがストレートに伝わってくる。医療機関や運送会社など、提携期間で情報を共有し、必要なときにドローンが物資や人を運ぶ。その様をわかりやすくシンプルに伝える、魅力的な展示だっとことはいうまでもない。

スマートシティをスマートにわかってもらうために

スマートシティというパッと表現しづらい概念を伝える、という意味では、韓国のモバイルキャリアであるSKテレコムのブースの手法がわかりやす過ぎて面白かった。

やはり街のミニチュアなのだが、そのミニチュアにプロジェクションマッピングを行い、アニメーションの力で目を引きつつも、そのミニチュアの下からは01010101101…みたいなデジタルデータがどんどん流れ出している、という、「スマートシティの概念を究極にざっくりまとめてとりあえずかっこよくする」という割り切りをもとに、人目を引くことを優先した大胆な構成は、難しい概念を展示する展示者は参考にすべきかもしれない(データがどんどん流れ出している様はややディストピアの趣もあったが)。

昨年、自由に折り曲げ可能なスマートフォンの発表で人を集めた深圳拠点のRoyoleは、大幅に広くなったブースの真ん中に、何百枚ものフレキシブルディスプレイでできた「フレキシブルディスプレイの木」をつくって大きな存在感をつくっていた。

1つ1つの「葉」となっているフレキシブルディスプレイはすべて同期した映像が表示されていて、枝や花のイメージを表示する。1つ1つのディスプレイの裏には扇風機がついていて葉っぱが風に揺れるように動いて、フレキシブルディスプレイの柔軟性を表現していた。フレキシブルディスプレイそのものにはCES的な新しさはないにも関わらず、物量と見せ方で人を集めインパクトを残す。

こういう「見せ方」は、一時的に客を集めるだけではなく、長期的な期待感にもつながっていく。ある種の「ブランディング」効果があるのは間違いない。CESの参加者には、毎年参加するリピータも多い。メディアも限られた時間の中で様々なブースを取材する必要がある。そんな中では、毎年インパクトの強い展示ブースをつくっている企業のブースには「今年は何をやるんだろう」という期待感が集まるということは、いう馬でもない。

「今年は何をやるんだろう」が明確に伝えるために

そしてその代表格が、LGとサムスンだ。LGは昨年、話題を呼んだ巻き込み収納型フレキシブルテレビとともに、曲面ディスプレイで囲まれた圧倒的な空間演出を行い、多くの人々を感動させた。そして今年は、ほぼ同じ表現をより洗練させて、ブースの天面に曲面ディスプレイを張り巡らせ、空や宇宙を表現していた。目新しさは弱いものの、インパクトは相変わらずで、より高精細になった映像とともに、人だかりをつくっていた。

サムスンのブースで目を引いたのはSeroという、スマートフォンとテレビを連動させた視聴システムの展示。どういうことなのかというと、スマートフォンから横長の映像をテレビに表示させると、テレビはいつもどおり横向き。縦長の映像を表示すると、テレビが回転して縦向きになるという、システムそのものが大胆でユニークなものだが、見せ方がとにかく派手だった。

鏡張りの部屋に複数のディスプレイを並べて、「ディスプレイのトンネル」をつくり、映像と音楽に合わせてディスプレイが軽快に回転する。コンテンツも回転に合わせて縦になったり横になったりする。そのトンネルをどんどん来場者が通り抜けていき、その先にシステムの説明パネルがあるという構造だ。ある種、展示されているものは「タダのディスプレイ」なのに、見せ方とコンテンツだけで誰もがカメラを構えて集まってくる。

こうして並べてみると、やはり韓国系・中国系の企業ブースの「見せ方」のうまさが目立つ。対する日本企業は、どうしてもおとなし目の展示が多い印象ではあり、こういった「目立ってなんぼ」の場では損している傾向はどうしてもある。日本企業が展示しているプロダクトはクオリティも高く、洗練されている。人に見てもらってなんぼの世界。「見せ方」は、もっと追求して行くべきだろう。

txt:清水幹太 構成:編集部


Vol.03 [CES2020] Vol.05▶︎