txt:島村漱 構成:編集部

プロダクションとはクランクインまでの準備と、クランクアップまでの怒涛の現場で成り立っている

映画の業界もCMの業界もプロダクションの段階に入るとクランクインからクランクアップまで、必要な時間からみれば映画の業界は物理的に2時間前後の作品であり、CMの場合は15~30秒、場合により60秒などもあるが、仕上げる長さが違うのは歴然としている。しかし長さこそ違えども映画もCMも「映像」である事は間違いない。

筆者が知る限りでも歴史的にみると、映画界の監督やキャメラマンは頻繁にCM作品に関わっており、現在も同じだ。民間放送が始まった1960年代前後の頃はまだCM業界には明確な演出・監督を専業にした人はいなかった。筆者の記憶では演出は広告代理店の担当者が行うことが多かった。作品の内容によっては映画監督がCM案件を手掛けた作品も多い。映画監督の市川崑さん、大林宜彦さんなどは大変多くのCM作品を残している。

市川崑
映画作品:「おとうと」(1960年)、「東京オリンピック」(1965年)、「犬神家の一族」(1976年)、「八つ墓村」(1996年)など多数
CM作品:「ホワイトライオン」(1966年)、「ディスカバージャパン<JR>」(1971年)、「サントリーレッド・オールド」(1980年~1990年)など多数

大林宜彦
映画作品:「転校生」(1982年)、「時をかける少女」(1983年)、「なごり雪」(2002年)など多数
CM作品:「マンダム」<う~ん マンダム>チャールズ・ブロンソン(1970年)、「ホンダ ロードパル」ソフィア・ローレン(1976年)など、世界の一流俳優出演のCMや「グリコ アーモンドチョコレート」山口百恵・三浦友和コンビ(1978年)など多数。

事実、筆者も助手時代は撮影に関わった某お菓子メーカーの「終バス」という題名の、京都市バスの車庫で展開する運転手と車掌・整備士のドラマCM(モノクロ4:3フィルム撮影)は、京都の歌舞伎座プロから監督が呼ばれてきた(※当該監督は後刻某代理店に入社クリエーティブディレクターになられた)。

また撮影部助手としても映画界の巨匠たちについて勉強させてもらった。人生初の海外ロケでは当時近代映画協会所属の故・黒田清巳撮影監督のグアム島ロケ(1968年)に同行したり(某食品会社新発売「ハウスジャワカレー」(CM)、後刻に黒田撮影監督担当のVP作品で特撮部分などを筆者が担当した。

撮影監督 黒田清己
映画作品:「裸の島」(1960)、「母」(1963)、「忍ぶ川」(1972)「不毛地帯」(1976)など
CM作品:清酒金陵「港の仲間」、ハウスジャワカレー「新発売」など

筆者がカメラマンになってからは、多くのCM作品で照明技師の岡本健一氏(黒澤明監督「羅生門」・溝口健二監督「雨月物語」などの照明を担当)や、また照明技師の中岡源権氏(五社英雄監督「226」勅使河原宏監督「利休」山田洋次監督「たそがれ清兵衛」などの照明担当)などと現場を共にした。その他の照明技師の先輩諸氏、美術関連先輩諸氏と現場を共にしたことは筆者にとって大きな財産となり、以降の筆者の撮影作品に大きな力になった。これは感謝しかない。その他の映画監督のCM作品、CM監督の映画作品は上げればきりがないほど両者は深い関係にある。

では映画とCMのプロダクションについて以下で解説していこう。

映画の場合

■打合せと準備

さて、映画作品では企画が決定すると、具体的なそれぞれの分野では戦場のごとく動き出すといっても過言ではない。撮影所内あるいはそれ以外の外部に作品の製作ルームが設けられ、作品がクランクアップするまでの基地となる。看板があげられ監督の名前を冠した「○○組」となる。この基地では打合せ等が常に行われる。もちろんオールスタッフ顔合わせと打合せが行われ、各部のスタッフが集められ現場は一気に活気が出る。

当然技術関連では機材などの確認、撮影の技術的な部分での準備・打合せがかなり綿密に行われる。この点は後ほど記する。

ここで映画現場の極一部のスタッフの仕事の分担を制作部・演出部・撮影部・照明部などを例にとり簡単にみてみよう。


製作部と所属制作部
製作部にはエグゼクティブプロデューサー・プロデューサー・ラインプロデューサーがいる。

  • エグゼクティブ プロデューサー:最上位に位置。製作総指揮者で、資金などの投資関係者
  • プロデューサー:企画段階から加わり、監督やスタッフの選出、製作過程の全体を管理
  • ラインプロデューサー:製作のスムーズな進行を考え、作業管理をコントロールする

そのほかにもそれらを助けるスタッフもいる。その中で以下の制作部員は活動する。

  • 制作担当:予算など全体的な管理を主とする
  • 制作主任:主としてロケ場所などを脚本に相応しい場所を探し交渉。それに付随した様々な事
  • 制作進行:弁当手配・スタッフロケバス手配・現場で必要なもの手配など

それぞれにおいて内容に応じ数名が関わる。


演出部
当然このトップは監督である。通常の作品であれば助監督は3人体制が組まれる。チーフ・セカンド・サードの3名、大作などの場合は適宜人数が増える。

  • チーフ助監督:演出部取りまとめ。スケジュール作成。監督と直結で撮影進行
  • セカンド助監督:衣装・メイク関連の管理と調整、エキストラの仕込み。オーディション原稿、オフ台詞原稿作成。撮影時は現場回し及びエキストラの動きを付ける
  • サード助監督:美術・装飾担当。文字原稿の発注やスマホ・PCなどの画面制作。本番時「カチンコ」担当

※この項の協力:フリー助監督 小田千裕氏

フリー助監督小田千裕氏のカチンコ


撮影部
もちろん、トップはキャメラマン(カメラマンともいう)。作品により撮影監督システムをとるケースもある。日本以外はこの方法をとることが多い。撮影監督(DP:Director of Photography)システムの場合は撮影監督はライティングの指示・キャメラのアングル・画調などは全て担当。オペレーションはキャメラオペレーターが行う。通常、撮影助手は3人体制であるが、カメラの台数に応じて助手の人数も増える。

  • チーフ(chief /1st):ほとんどキャメラマンの右腕的存在。計測がメイン(※撮影時のレンズの絞り計測等)照明部と連携して色彩と光のバランスをつくる
  • セカンド(2nd):キャメラのセッティング。フォーカス合わせと送り。フレーム内の整理
  • サード(3rd):機材周りの準備等(※フォース(4th)までつく場合もある)

撮影部の詳細は次号で紹介する。


照明部
トップは照明技師。照明部は常にキャメラマンとの連携の中でスタジオセットならば、シナリオにおけるシーンの「柱」に記されてある(注:後述クランクインの例にある1行目の囲みの中を参照)。時間や空気感などを考慮しシーン毎にライティングが行われ、役者さんにより臨場感を感じてもらい感情のこもった演技と素晴らしい世界を作り上げ、作品の質をより上げる。

  • チーフ:現場では、照明技師のライトプランを元に助手たちへ指示を行いライティングを行う。機材の手配、照明助手の招集だけでなく、照明技師とともにロケハン、カラコレなどにも同行する照明技師の右腕
  • 助手:撮影の規模によるが大体3~7名程度のアシスタント。撮影当日にチーフの指示を元にライトをセッティングする

照明部の詳細も次号で紹介する。


そのほかにも現場では、記録・録音部・美術部・装飾部(小道具・持道具など)・美粧部・衣装部・特殊効果など、現場における仕事の分担は明確にされている。

立命館松竹スタジオの箱馬と平台(写真撮影・提供:立命館大学 映像学部 品田隆教授)

■クランクインからクランクアップまで

さて、いよいよクランクインを迎えるとスタッフの前で助監督からまず出演俳優の紹介が行われる。そして「○○組、ただいまよりクランクインです!」の声がかかる。

スタッフ・キャスト達から「よろしくお願いしまーす!」と共に撮影の最初のワンカット目の段取りに入り準備ができ次第、

助監督「シーン○○ カット○○ テスト行きます」

監督「はいテスト行こう!テスト、よーいスタート!!」

高らかにカチンコの音が響く!(※映画は最初のシーンから順番には撮影しない。様々な要素を計算してどこから始めるかはその時次第だ)

そのあと続いて本番となりクランクアップまでの長い道のりがスタートする。

例えば、下記のようなシーンがあるとする。

シーン4 ○○家ダイニング(朝)

美紀がダイニングルームに入ってくるというト書きがあり、続けて妹の恵美子との会話があり母がオフ(カメラの外から加わる)。最後に主人公一郎が加わるといったシーンがあり、主役となる家族が全員出てくるシーンからスタート。こうしたケースでは、ダイニングの朝の空気感のわかる部屋のロングショットからスタートする。続けて各自の芝居やセリフで切り取られて、クローズアップやツーショットなどのカットが撮影される。

カチンコには#S4 #C1 #T1ないしは4-1-1と書かれる(多少カチンコの書き方等には現場や会社により違いがある)。

  • シーン(#S)脚本の中の柱に当たる部分。上記の囲いのある部分
  • カット(#C)同じシーンの中でカメラの位置が変わると数字が変わる
  • トラック(#T)の数字はカメラが同じ位置でNGになったとき撮りなおす回数(テイク)と比例して数字が増える。もし位置関係やタイミングでカットの最初にカチンコを入れられない場合は、カットの終わりにカチンコをさかさまにして打つ。これを「ケツかっちん」と言う

こうして撮影が始まると長い場合は3か月程度、短い場合1か月半は、ほぼ週一の撮休(スタッフ休日)以外はDAYシーン(昼間のシーン)やNIGHTシーン(夜のシーン)など脚本に記された開始時間など正確に香盤表が作成され、その香盤表に沿って各部で関係者に指示を出し、小道具や衣装なども間違いのないように揃えられ、段取り良く撮影は進められる。

※香盤表とは映画・CM含めて現場で渡されるスケジュール表。各シーンごとの登場人物や入りの時間・撮影の時間・必要な小道具・衣装などが記されている現場におけるスタッフ・キャスト全員の共通情報

CMの場合

スタジオホリゾント(三和映材社 大阪)

さて次はCMの場合、どのようにプロダクション段階は進められるのかをみてみよう。

■準備と打合せ

クライアントによる代理店競合に勝ち、CM制作が決定した広告代理店から制作会社がCM制作の依頼を受ける。最終的な内容の確認含めて、あらゆる面の確認作業となるPPMもプリプロダクションの段階で終えている。この件は前回のプリプロダクションCM編の時点で述べている。この時点ではプロダクションのプロデューサーが中心となり、その制作会社所属のPM(プロダクション マネージャー)が早速動き始める(PMは組織に属さないフリーのPMも数多くいる)。

企画をCMとして具現化するためには、クライアントから受け取った企画を、クライアントが考える広告の目的を最高の形で仕上げて納品する事がこの時点で要求され、実行しなければならない。撮影現場は劇映画同様に以下の方法がある。

  • スタジオ撮影(実写・アニメ・特撮など)
  • ロケーション撮影(戸外)
  • ロケセット撮影(住宅:モデルハウスなどを借用、ハウススタジオ(撮影用住宅)、戸外にセットを作る等)

これらのケースに沿って制作部は以下のような準備をしていく。

■担当PMの仕事と準備作業
  • 正確な予算の把握
  • 予算に基づき、より正確な現実的予算表作成
  • 納品日までのすべてのスケジュール作成・香盤表作成
  • 担当演出による具体的な演出コンテ作成
  • 適切な撮影スタジオの確保(セットの大きさ・天井高などは照明関連で必要情報)
  • 演出コンテに基づいた打合せと、スタジオの場合は美術デザイナーによるセットデザイン作成
  • 屋外の場合の演出コンテに基づいたロケハンと場所決定・撮影許可・場所使用許可など
  • 撮影スタッフ(カメラマン・撮影助手)、照明スタッフ(技師・助手)、録音部スタッフ、DITなどのスケジュール確保
  • 撮影直前オールスターフ打合せスケジュール
  • クライアントから撮影商品の準備(撮影用には別途創り確保)
  • ロケサービスへの車両の手配

CMにおいて商品撮影は最も重要である。撮影のための商品パッケージなどを作るのはPMの仕事である。筆者の経験では食パンを切るシーンのために食パン100本準備したり、プリンにスプーンを入れた瞬間にプルーンと震えるカットのために毎晩プリンを200個つくったり、箱物であれば角の折れ口などが目立たないように作ったものを10~20個造りガーゼで保護して当日にスタジオに持参するなど…。まだ不十分であるが上げればきりがないほど準備しなければならないことがあるのがお分かりかと思う。

■撮影開始

ロケの場合はロケ現場に、スタジオ撮影の場合は指定のスタジオにスタッフは参集し、準備の必要な場合、例えば照明部などは集合時間より早くスタジオに入り、演出コンテに沿って打ち合わせたことを確実に実施出来るように必要な光をつくるためのライト機材をセッティングしていく。

スタジオバトンをおろした状態(三和映材社 大阪)

この撮影前の段取りが良ければ撮影の進行状況もスムーズに進む。特にARRI HMI 18Kwなどの重量が76kgと大きなライトもあることから、安全確保のためにも早い時点での準備が必要である。また地明かりなどは高い位置にランタンのようなものを吊ったり、広い範囲でパネルライト灯体を吊り、光源を柔らかにするようなシルククロスの大きな布などで仕掛けをし、基本的な立体感やアクセントのないベースになる地明かり(ベースライトともいう)を作る。その後はそれぞれ映画においてもCMにおいても千差万別となる(基本的にどんな時間・どんな天気でも作ることは可能である)。

人物が芝居するところや立ち位置にはスタンドイン(撮影本番まで出演者の代わりとして立ち、ライティングやカメラの準備をしやすいようにする人)により人物へのライティングを行い、ハイライトや影をしっかりつくる。

準備が整たら撮影スタート。有名タレントが出演する場合、その出演シーンの撮影を中心に香盤が組まれる。タレントの出演シーン撮影が2時間しかない場合も多くある。すべての準備からカメラの動きテストなど含めてできた時点で「○○さん入られま~す!!」と制作部さんの声がかかりタレントがスタジオ入りする。

撮影現場には次に記する関係者やスタッフが集まることになる。

  • クライアント(広告主) 関係者・担当者
  • 代理店 担当クリエィティブディレクターなど
  • タレント関係事務所担当者・付き人
  • プロダクションプロデューサー
  • 制作部 制作進行 (2名以上の場合もある)
  • 演出(ディレクターとも呼ぶ)
  • 撮影カメラマン(フォトグラファーと呼ぶ場合もある)
  • 撮影助手 チーフ・セカンド・(場合によりサード)
  • 照明技師
  • 照明助手 チーフ以下通常3~4名(多ければ6名以上の場合も)
  • 録音技師・録音助手
  • ヘアメイク&スタイリストなど

また場合により様々なプロフェショナルが現場に入る。タレントカット及びその他セットで撮影の部分が終わると、あとは商品撮影が行われる。これは現場ロケやロケセットあるいはスタジオに持ち帰り撮影という場合などケースバイケースではあるが、商品カットの重要性は前述のPMの仕事のところでも述べたように、最も神経を集中させる作業となる。

■撮影終了とその後の作業

全カット撮影終了となれば「お疲れ様でした~!」の声でバラシ(片づけ)が始まる。何時間もかけて準備・撮影したが、このバラシのスピードたるや、驚くほど早いのが不思議である。

撮影部は撮影終了と同時に行うことがある。それは撮影データの受け渡しだ。フィルム撮影の場合は撮影済みフィルム缶に赤いテープで厳封し、必要事項を記入した缶票を貼り現像所に送る。デジタル撮影の場合は収録されたカードないしはハードディスクをDITやDM(Digital Manager)が正確に整理・確認し、然るべきポストプロダクションに送る。DITなどがいない現場では撮影部がその役目を担うことになる。

このように撮影済みの処理は大変神経を使い確実に編集の段階まで送り込まねばならない。

最後になるが、筆者が若いころに照明の巨匠・岡本健一氏に言われた言葉がある。

えぇ写真撮ろう思うたら、谷崎はんの「陰翳礼讃」目通しときや。

つまり光の事を考えんと良い写真は撮れんよ。と言いたかったのだと思う。谷崎潤一郎著の「陰翳礼讃」(いんえいらいさん)を筆者は今でも座右においている。

協力:株式会社三和映材社 大阪 / 立命館大学 映像学部

島村 漱(しまむら そう)
1960年立命館大学経済学部卒、某広告代理店系映像制作会社 技術部撮影課に入社。1993年に同社を定年退職後、映像関連人材派遣会社大阪支社立上げをサポート後退社。1995年フリー撮影者となり、その傍ら映像系専門学校の講師を務める。2001年に宝塚大学(旧宝塚造形芸術大学)映画コース教授、2007年に立命館大学映像学部の立ち上げに協力後、撮影・照明技術担当の一員となり客員教授として授業担当、現在に至る。(協)日本映画撮影監督協会所属監事

txt:島村漱 構成:編集部


Vol.03 [映像基礎講座] Vol.05