txt:島村漱 構成:編集部
画作りの2大トップ「撮影部」「照明部」
皆様ご存知の通り、最近ではスタートボタンあるいは、シャッターボタンを押すだけで映像が残せる時代になった。昔から考えれば想像だにしなかったスマートフォンのカメラは写真はおろか動画撮影も可能で、その他にもレンズ変換や、スローモーション(ハイスピード)撮影も可能になってしまった。
テレビ放送初期はレンズを通して映像に結像されたものを編集や収録できないため、生放送しかない時代を通り、やがて磁気テープに収録した時代(録画)に移り変り、今となっては小さなカメラでSDカードをはじめ、記録媒体にデータとして記録し、再生はおろか編集をしてどこででも、またいつでも観ることが可能な時代になった。
余談だが、筆者が某広告代理店系映像制作会社の技術部撮影課に入社して間もない助手の頃、ある造船会社の進水式の撮影を行った。カメラは2台。1台は35mmのミッチェルカメラ(1000feet巻き装填済み)、もう1台はニュース撮影などで使われる35mmアイモ。現場に到着したのがギリギリの時間でミッチェルを現場で組み始めたら進水式が始まってしまい、船ではシャンペンが舳先で割られ、色とりどりの風船が空に舞う中、見事に海へ「ざぶ~ん」!!!結局撮影できたのはアイモで撮影した100feet(約1分少し)程に収まった映像だけ。笑い話にもならない。
筆者の学生時代には8mmや16mmフィルムを使用し、映画を製作するしかなかった。当時は学生諸氏も8mmフィルムで卒業制作をした方もいたように、フィルムで記録制作された方は多い。またCM制作に関わっていた筆者の現場においても、先に述べた余談の如く35mmフィルムや16mmフィルムで撮影したものを編集し、テレビ局にフィルムプリントで納品していた時代を経てきた。そして今では誰でも映像を撮影可能になり、子供でも簡単にいわゆる「YouTube」などを通じて映像を見ることが出来るようになった。
これは「撮る」(とる)ではなく「写る」(うつる)ということに過ぎないのではないか?素人の作品においてもビックリするような瞬間を画像に収めたものや、その場にいなければ撮影できない現象等が撮影でき、テレビなどを通じて観れるのは大変良いことであることは間違いない。しかし果たしていい事ばかりなのであろうか?筆者は時折疑問に思うことがあるのは事実である。これは筆者に限った事ではないのでは?と思いたい。
なお、今回は一部Vol.04の記述内容と重複するところもあるが、更に詳しく記述し、現場の様子を少しでも掴んでいただければありがたい。
画面に見えるものすべてを操る「撮影部」
撮影部は一つのシーンを、そしてワンカットを丁寧に映像に切り取るのが仕事だ。そのトップであるカメラマン(キャメラマン)はカメラのファインダーを通じて画面を整え、撮影助手たちはそれを支えて一枚の映像に集約する。作品により撮影監督※システムもあり、日本以外はこの方法が多い。通常の日本の撮影現場では、撮影助手は1~3人体制であるが、カメラの台数に応じて助手の人数も増える。通常は映画もCMも一台である。
- カメラマン:撮影部のトップ。ファインダーやモニターを通してみえる映像全てを整理整頓し確実に責任を持つ
- チーフ(chief /1st):カメラマンの右腕的存在。計測がメイン(※撮影時のレンズの絞り計測等)照明部と連携して色彩と光のバランスをつくる
- セカンド(2nd):カメラのセッティング。フォーカス合わせと送り。フレーム内の整理
- サード(3rd):機材周りの準備等(※フォース(4th)までつく場合もある)
※撮影監督(DP:Director of Photography)システムの場合、撮影監督はライティングの指示・カメラのアングル・画調などを全て責任をもって行う。オペレーションはカメラオペレーターが行う
■撮影機材の準備
撮影自体をフィルムで実施するか?デジタルで行うのか?の決定はもちろん作品内容など、様々な要因がその決定の基になるが、カメラマンの考えなどは大きな要素にもなる。製作過程において映画でもCMなどでも、この件は概ね早い時点で決まる。予算の問題も含めて大きく影響することなので慎重にプロデューサー等とも合議の上、決定するのが通常である。
例えば映画では小泉堯史監督作品、山田洋次監督作品、北野武監督作品、木村大作監督作品、是枝裕和監督作品などは常にフィルムで撮影されている作品が多い。本当にごく一部であるが、フィルム撮影作品を順不同であげてみよう。海外では「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」「TENET テネット」「アポロ11 完全版」、日本では「散り椿」「カツベン」「町田くんの世界」「峠 最後のサムライ」(2021年6月公開予定)など。そして「万引き家族」の近藤龍人撮影監督は、フィルムだが3パーフォレーションフィルムを使用しての撮影だった。CMにおいては、KDDI「au三太郎シリーズ」は全てフィルム撮影となっている。
※この項一部 コダック合同会社(Kodak Japan Ltd.)久保添氏提供 関連資料から引用
ただし、フィルム現像について、また現像後の処理についても、昔のようにラッシュ(フィルムで上げた陽画のポジフィルムである試写・仮編集用)や、オリジナルネガを東京・大阪間あるいは、各地方などに持参・郵送することは最近少なくなった。現像後ただちにデータを高速転送可能なプラットフォーム「HARBOR」で、ネットワークでつながっている拠点にそのまま転送できるようになったのだ。繋がっていない拠点やプロダクションにはデータを安全に伝送できる「FTS」を通じて転送ダウンロードが可能なため、時間には昔ほどリスクはない。もちろん、全素材のバックアップは当然ながら実施。HDDなどでの物理的な送付も行われている。
■フィルム撮影の場合
作品の撮影日が決定すると、撮影日に向けてフィルムの選択(現在はKODAK Film製品幾種かの中から選択)、カメラの選択、レンズの選択が行われ、テスト撮影なども実施される。また、カラーチャート・グレーチャートなどによる撮影テストを行い、そのネガ濃度などから検証してデータをとる。使用レンズによる色彩再現テスト、フィルターなどにおける撮影テストで確実なデータを把握する。そのほかにも、周辺機器とのマッチングやテスト、そして使用レンズそれぞれについてのフォーカステストも実施される(参考:使用カメラは35mm ARRI アリカムST/ARRIアリカムLT/ARRI435エクストリームなどから選択。そのほか16mmカメラも含む)。
※フィルムの場合、撮影間に事前に購入する必要がある。その手配などもあり、使用するフィルムと同じ乳剤番号でのテスト撮影や画調の決定もしなければならない
KODAK映画用フィルム種類
- コダックVISION3 500Tカラーネガティブ フィルム
- コダックVISION3 250D カラーネガティブフィルム
- コダックVISION3 200T カラーネガティブフィルム
- コダックVISION3 50D カラーネガティブフィルム
ネガフィルムはそれぞれ、スーパー8カートリッジ/16mm/35mm/65mmの以上4種類がある。そのほか、撮影用においてもB/W(白黒)フィルムでは
- イーストマン ダブルX(エックス)ネガティブ
- カラーリバーサルフィルム(反転フィルム)やKODAK トライX(エックス)リバーサルフィルム
などがある。撮影用以外のフィルムもあるが今回は省略する。
(※フィルム種類の項は「コダック映画用製品総合カタログ」2020年8月20日版を参考)
■デジタル映像撮影の場合
フィルムと違い、デジタルカメラでの撮影となるとカメラの種類も大変多く、各メーカーがそれぞれの考えにより積み重ねてきた技術を競う形で現在まで進化を続けてきた。
主としてフィルムカメラメーカーからの発展形となるカメラのARRI各種。一方で、テープ収録時代から電気製品やビデオカメラメーカーとして発展してきたソニー、パナソニックといったメーカーのカメラ。そして、フィルムカメラでも一眼レフなどの写真系メーカーが創り出したキヤノンEOSなど、様々な種類がある。更に最近では、一眼レフカメラも動画撮影機能は当たり前に組み込まれていることから、これらのカメラから経済的なこと、技術的な機能面などの観点から使用カメラを選択していく。
デジタルカメラの選択、レンズの選択、モニターを含めた多くのアクセサリー類・コード類の例として、下記が挙げられる。
- ARRI ALEXA LF/ARRI ALEXA MINI LF/ARRI AMIRA
- RED WEAPON MONSTRO 8K/RED DSMC2 GEMINI 5K S35
- Sony VENICE/PMW-F55/F35/FX9/FX6
- Panasonic AU-EVA1/VARICAM LT/PL/EF/35
- Canon EOS C500/C500 Mark II/EOS C300 Mark III/EOS 7D
- Blackmagic Design URSA Mini Pro そのほかNikonやCanon一眼レフカメラなどから選択
■レンズの選択
メーカーあるいはクラスにより発色や解像度などに差がある。その中からカメラマンの好みやカメラとの相性、撮影時間や場所などを考慮し、その都度使用するレンズを選択する(例:ARRI Signature Prime/ZEISS Supreme Prime/Angenieux Optimoシリーズ/Canonシリーズ/FUJINONシリーズ/Cookeシリーズなど多数)。
それ以外にも、最近のデジタル映画撮影が多くなった事から、その方面に強いDIT(Digital Imaging Technician)やDM(Digital Data Manager)などが現場に同行する場合、DITとDMの選考も行う。前者は撮影現場にスタート時から参加し、機材選定も含めた撮影領域・グレーディングやデーター変換・データー管理など、ポスプロ領域の作業も行う重要な人材でもある。後者は撮影収録メディアからバックアップメディアなどの作成を受け持つ(この項一部参考出典:JACデーターマネージメントの定義)。
フィルム撮影、デジタル撮影どちらであっても、撮影本番前に使用機材が決まると、実際に使用する機材やレンズを用いてテスト撮影が実施されることは前述しているが、ここでは少しそのテスト内容などを述べる。
■テスト内容
基準のカラーチャート・グレーチャートによるテスト。レンズの絞りを×2~32まで。そしてノーマル露出。逆に1/2~1/32までを撮影検証。
フォーカスチャートによるテスト。「infテスト」つまりレンズの無限位置におけるフォーカステストの撮影検証。
その他にも、レンズの発色テスト(色味テスト)や、カメラのフレームテスト(カメラのファインダーからの映像と撮影した映像のフレームサイズを確認する。
夜間撮影が多い作品などは、カメラの感度を上げた際の映像テストを基準チャートで実施。フィルムであれば、フィルムの基準感度(例:ISO200、400など)を×2や×3倍に現像時間をかけてフィルムを現像する、いわゆる「増感」。逆に減感することもある(減感とは指定の感度より低い感度で撮影する事)。もちろんそれに伴い現像時間にも影響する
以上のテストは全て現場で撮影時にはデーターとして参考にする。
大切なことはフィルムでも起きる事だが、デジタルの場合は更に怖いことに、簡単に映像が撮れる利点の代わりに、ボタン(スイッチ)一つの間違いが大きな事故になりかねない事を常に念頭に置き、確認を怠らないでほしい。そのため、撮影直前には撮影部全員が機材チェックの時間を作り、感度やコマ速(撮影時の標準の場合は24コマ/秒か30コマ/秒)など、それこそ指差確認位までの気持ちである。
ちょっとしたエピソードだが、筆者の経験で事故として記憶に残っているのは、もちろんフィルム撮影の現場で、機材はARRI 35 2CBVであった。ついに撮影終了という時に機材を点検したところ、どうしたことか回転ミラーシャッターが全て閉まった状態で撮影していたことに気がついた。後で分かった事だが、小さなシャッター閉鎖防止ボタンを何かの拍子に触れたもしくは押したことで起きたことである。もちろん、撮影後にどこで起きたかがわからないので試写を見たうえで決めることになり、現場から帰社した。後日試写で最後の2カットは暗黒の世界であった。とんでもない冷や汗ものであった。もちろんリテイク(再撮影)可能であったため、再撮影をしたことはいうまでもない。このようなことが起きない事が一番である。
さて、撮影部は事前の点検などをすべて終えて準備万端。いよいよ撮影本番へ向けてスタジオあるいはロケーションへ!
■撮影本番
スタジオないしはロケ現場に到着したら、助手たちは速やかに行動し、いつでも撮影できる体制を整える。機材車で決められた場所に到着。機材基地が決まればその場所にすべてを確認しつつ固めておく。
- 基地の側で三脚などを立てカメラ本体を搭載し必要な付属品を装着していく。デジタルカメラならモニターなども組んで映像が観れる体制にする
- DIT(Digital Imaging technician)ベースなどの位置確認とセッティング
- カメラおよびDITベースそれぞれの電源確保
- カメラへの配線(映像・音声共に)だが、最近はTeradex Bolt※などによる映像・音声のwireless送信が主流になってきたことから、スタジオ内を這うコードが減少傾向にある
- モニターへの画出し
- 録音部がいる場合はカメラ側の録音レベルチェック・TC(タイムコード)の同期確認
- また、当日の撮影予定・各位置での使用レンズの確認・カメラ位置の確認などは助手間で自主的に打合せ、その日に備える。また機材の各カットにおけるカメラサイドの設定なども間違いのないように確認をとる
- カメラマンは監督(映画)やディレクター(CM)どちらにおいても、まず最初の撮影カットの位置・そしてそれ以外の全体の流れを打合せで本番に入る。映画においてはシーンのカット割りはおよそ決まっている(時としては急遽予定を変え香盤にないカットを拾う場合もある)
- 最初のマスターショット(シーンの全体がわかるカメラ位置)にカメラを設置することが多い
※Teradex Boltとは、映像と音声などをワイアレスで送る装置。つまり多くのコードを現場で這わさなくても良いということではあるが、時折飛ばなかったり混線することにも要注意。
もちろん、該当シーンのライティングなどはすでに撮影部カメラマン・チーフなどと打ち合わせが行われており、当日すでにベースライトや大まかなものはスタート前に出来ている。カメラが入り本格的に人物関連のメインとなる光のセッティングは実際の役者ないしはスタンドインの人物が位置に立ちスタートする。
撮影が終了したら撮影データの受け渡しを行う。フィルム撮影の場合は撮影済みフィルム缶に赤いテープで厳封し、必要事項を記入した缶票を貼り現像所に送る。デジタル撮影の場合は収録されたカードないしはハードディスクをDITやDM(Digital Manager)が正確に整理・確認し、然るべきポストプロダクションに送る。
時間・空気・室内外、明かりと色を操る「照明部」
■機材の準備
照明部では撮影部と同時に、映画製作やCM案件について撮影が決まれば、機材などの準備が始まる。本番近くになると緊張感は大変なものだ。
東京・大阪・名古屋などの主要都市や各地に照明機材のレンタル会社があるので、そのレンタル会社に機材借用の発注をする。貸出機材についてはレンタル会社において常に整備されており、使用願いに合わせてリストと照合し、確実に搬出準備が行われる。
担当の照明部から機材レンタル会社に、本番当日に使う機材の詳細リストが提出される。初めて使用する機材は事前にデーターを集め、テストを実施する。そしてそれぞれの機材の下記をチェックする。
- 光量確認・色合い
- フリッカー(蛍光灯・LED・HMIや、昔から使用されている電球には少ない現象だが、光源が非常に細かい間隔で点滅している場合、撮影部と緊密にコミュニケーションをとり、カメラ側の撮影コマスピード(fps)などについて打合せが必要だ)
- ライト機材本体の重量・アクセサリーなど
ライト機材すべてのチェックが終われば当日まで照明設計プランが練られる。常に撮影部のカメラマンなどとは連携し、また内容により制作部とも連携を密にとる。時間表現や空気感をつくることには充分考慮し、シーン毎にライティング設計がなされる。朝・昼・夜の表現や天候の表現はもちろんのこと、心証表現さえも考慮して空気感を演出し、役者にその臨場感を感じてもらいながら自然に芝居ができる環境で、演技をしてもらうのが大きな役目。
CMなどの場合はPRする商品第一であると同時に、クライアントの想いをいかに演出上に盛り込んで映像上で表現し、商品のイメージや購買力の高揚につなげていくかが大きな課題である。
- 照明技師:照明部のトップ。照明のコンセプトなどを考える
- チーフ:現場では、照明技師のライトプランを元に助手たちへ指示を行いライティングを行う。機材の手配、照明助手の招集だけでなく、照明技師とともにロケハン、カラコレなどにも同行する照明技師の右腕
- 助手:撮影の規模によるが大体3~7名程度のアシスタント。撮影当日にチーフの指示を元にライトをセッティングする
撮影がフィルムからデジタルになりつつあるように、ライト機材の光源も最近ではHMI(DAYLIGHT)や電球(TUNGSTEN)、蛍光灯などにLEDが加わり、急速に進歩を遂げている。カメラによる表現力の向上も相まって作業効率がよくなっている。
照明機材の例を挙げると、ARRI LED Skypanel(LEDが並んだパネルでできたものを機器に組み込む)や、TitanTube(蛍光灯のような形状の筒にLEDを列したもの。電源も灯体がバッテリーを保持し自立可)、あるいはついに世界出荷が始まるARRIのLEDライト「Orbiter」など、数年前まではなかった機材が増えてきたことは見逃せない。
また、最新の照明機材の情報として、Fiilexというメーカーの機材に今後注目したい。詳しい機材の使い方などはFiilexのYouTubeチャンネルをご覧いただきたい。
(※同項資料提供 株式会社PARLAY 八田直哉氏)
■撮影本番
機材チェックなどが終わればいよいよ本番へ!撮影現場がロケであれスタジオであれ、搬入機材の置き場を確保し使いやすいようにレイアウトする。つまり作業効率が良い場所・順序を重要視している。
もちろん、現場では先に述べた撮影部のように劇映画などにおいては、主役級役者や監督プロデュサーなどのメンバー待機場所のケア、CMなどにおいてもクライアント・タレント・ディレクターなどの待機場所などのケアはすでに本番前には完成しておかなければならない。
CMの場合、クライアントが数名どこの位置においてモニターなどを見る体制がつくられているか?そのあたりは制作部などとの共有が必要である。
■ロケ撮影の場合
デイシーン(日中)は、事前にその当日のデーターを調査して、当日の太陽の周りや風、雲の動き、急な雨に対して等の対処も予め考慮し、さしあたり使用しない機材のケアも考えて置く必要がある。
大まかに準備が整えばひとまず朝食などをとりながら、その日の撮影の段取りを全員で共有します。仮に新人がその場にいる場合は、高所に固定したり吊り下げたライトなどを止めたボーダーロープの結びが完璧なのか、また新人を高所に上げる場合はベテランが同行する際に配置を確認。特にイントレ(高所にライト機材を上げる足場)作業はそのための扱い許可を持つものが作業をする。そしてそこにHMIの18キロ(灯体が約70キロほどの重量がある)等を上げたりする場合は安全確保を第一に作業を進めなければならない。ナイトシーン(夜)はシーンにあった照明だけでなく、劇映画の場合などは役者の心情とマッチした照明なども行う。
■スタジオ撮影の場合
おそらく撮影現場に一番最初に入るのは照明部と言っても過言ではないぐらい、照明部の朝は早い。他部署が来る前にライトを設置する必要があるからだ。
ベースになる明かり、例えばバトンなどに吊りものライトやホリゾントなどへの均一な明るさのライトなどは、先に述べたようにスタッフ集合前の早い時間に作業を済ませておくようにする。その際は役者や出演者の頭上などの事も充分注意して場所を考えて注意を図りながら設置する。
また劇映画であれば役者の控えどころや監督の居場所、そしてDITや録音部ベースなどのポジションには明かりが漏れないように漏れキリなどを準備しておく。
撮影部などのメインスタッフが入るまでにはほぼこの辺りまで準備をし、撮影部などのメインスタッフが入れば関係者とイメージの確認統一を行う。またスタンド・イン(主役の代わりにライティング作業中のみの代役)を立たせて芝居の立ち位置のメインのライティングが綿密に行われる。その際、人物と背景とのバランスを考えて光量にも大変留意して微妙に調整しながらキーライト・フィルライト・タッチライトなど、その時々や内容により適切なライティング作業が行われる。それこそ決まりはなにもない。その時のシーンの意味や気持ち、CMであってもそれは変わりはない。いかにその映像を観る人が作者の想いと同じ想いで観てくれるかであろう。
そしていよいよ役者やタレントが主たる位置に立てば、監督から「はい!じゃテスト行きましょうか」「テスト!よーいスタート!」の声がスタジオいっぱいに響き渡る。
そしていよいよすべてが整えば本番 「本番!よーい!!スタート!」あるいは「本番!よーい!ハイ!」
また、たくさんのライトを設置しているので、撤収も一番最後まで残っていることが多いのも照明部だろう。またみなさんが何気なく見ているその映像は、監督をはじめ撮影部と照明部はもとより、それぞれの持ち場のスタッフが各々の分野で長い時間をかけて慎重に準備を重ね、あらゆる技術を結集してできた結果なのだ。
良い映画はやっぱり素晴らしいものだ。いいCMは印象に残るもの。
この映像基礎講座のうちプリプロダクションからプロダクションなどの記事を担当したが、以降、録音部編、そしてポストプロダクション編にバトンをお渡しする。ご覧いただき、ありがとうございました。
協力:株式会社三和映材社 大阪 / 株式会社 アークシステム 関西営業所 / 株式会社ヒート 八田直哉氏
島村 漱(しまむら そう)
1960年立命館大学経済学部卒、某広告代理店系映像制作会社 技術部撮影課に入社。1993年に同社を定年退職後、映像関連人材派遣会社大阪支社立上げをサポート後退社。1995年フリー撮影者となり、その傍ら映像系専門学校の講師を務める。2001年に宝塚大学(旧宝塚造形芸術大学)映画コース教授、2007年に立命館大学映像学部の立ち上げに協力後、撮影・照明技術担当の一員となり客員教授として授業担当、現在に至る。(協)日本映画撮影監督協会所属監事
txt:島村漱 構成:編集部