txt:長谷川朋子 構成:編集部
世界最大級の映画、音楽、テクノロジーの祭典「SXSW online」で配信されたカンファレンスの中で、注目すべきテーマのひとつが「変革するエンターテインメントの世界」だった。今やエンターテインメント界をけん引するNetflixをはじめとするOTT勢のオリジナル作品を手掛けるクリエイターたちが激動の2020年を振り返りながら、いったい何を語ったのか。SXSW閉幕から数日、余韻が残るうちに今からでも追っかけ再生が間に合う、見逃せないカンファレンス3本を紹介する。
1本目はゲースロを手掛けたHBOのインタラクティブコンテンツ戦略
オンライン上で初開催された今年のSXSWのカンファレンス数は230以上。フィルム&TV業界向けカンファレンスも数多く並び、クリエイター視点のものからマーケティング、流通、技術に至るまで揃った。エンターテインメント業界関係者はもちろんのこと、日頃から映画やテレビ、配信コンテンツを楽しんでいる映像ファンもビジネス目線で学べる内容も多い。共通して語られたテーマはコロナ禍のこの1年で激変したエンターテインメント業界の今と未来だ。
その主役にあるのが消費者トレンドに急浮上したNetflix、Disney+をはじめとする動画配信サービスである。まさにその流れに乗って、HBOブランドで動画配信サービスを昨年全米でスタートしたHBOにフォーカスしたカンファレンスが独断と偏見で選んだ注目の1本目だ。
カンファレンスタイトルは「Driving Innovation Through Emerging Tech with HBO」。登壇者にはHBO本体のワーナーメディアに所属するインタラクティブデザイン部門ヴァイスプレジデントのCathy Davenport Lee、同じくワーナーメディア所属のプログラムマーケティング部門ヴァイスプレジデントのDana Flaxらが並んだ。
HBOと言えば、日本でも多くのファンを抱え、世界ヒットした連続ドラマ「ゲーム・オブ・スローン」が代表作にある。2019年のSXSWではオースティンの街中で同作の最終シーズン公開前に大規模なプロモーション展開も行われた。得意とする良質で独自性のあるコンテンツを次々と世に送り出しているHBOがXR/AR/VRといったインタラクティブ系コンテンツに注目し、世界初のARエンターテインメントアプリ「My Daemon」などを例に最先端のコンテンツ戦略が語られた。
そもそもHBOがインタラクティブ系コンテンツに投資し始めた理由から赤裸々に明かし、Dana Flaxは以下のように話した。
コロナ禍で全ての計画をデリートすることになりました。一からやり直していくなかで、仕掛けたのがVRライブ。VRはまだ一般化されていませんが、少しずつ広がっています。
VR上で友人同士が繋がりながら、エンターテインメントを楽しむ経験にビジネスチャンスがあると考えたのだ。今年のSXSWの目玉にあった「SXSW Online XR」を体験した参加者であれば、納得できる言葉だろう。
ファンとコンテンツを深く結びつけるためにデジタルツールを活用していくことが今求められるコンテンツマーケティングとして、さらにiOSおよびApple Watch用のARエンターテインメントアプリ「My Daemon」を開発したというのだ。いわゆるウェルネス効果のあるアプリにある。ステイホームが続く中でHBOは新しいエンターテインメント体験をいち早く提供していく方針にあることがカンファレンスから十分読み取れるはずだ。
デジタルの変化は早い。それゆえにキャッチアップし続けるのみですね。
とCathy Davenport Leeと断言した。
今回のカンファレンスラインナップでHBO/ワーナーメディア関連はまだ他にもある。前述の通りHBOが昨年スタートした動画配信HBO MAXのオリジナル作品「Made for Love」の出演者らが登壇した「HBO Max’s Made for Love: Panel with Stars and Executive Producers」もそのひとつ。昨年、全米でスタートして1年足らずで6000万人の加入者が見込まれるHBO MAXの勢いを感じるものだ。
なお、今年は世界展開を拡大させていく計画があり、日本でもまもなく利用できそうだ。そんな訳もあって、HBOブランドに触れることができるカンファレンスは抑えたい1本なのである。
コンテンツ流通の最前線からアニメーション三大クリエイターまで
2本目は普段は表舞台に立たない米配給各社が登壇した「A Survival Guide to Alternative Film Distribution」を挙げる。アメリカをはじめ世界各地で今、劇場での作品上映が難しい状況にある一方で、OTTプラットフォーム上で新作映画の公開が相次ぐ。そんなコロナ禍が変えたビジネスモデルの可能性について、コンテンツ流通の最前線にいる配給会社の視点からたっぷり語られた。
最も興味深かったのはGIANT Picturesのデジタルディストリビューション責任者のNick Savvaが「独立系フィルムメーカーはもっとOTTプラットフォームを取引相手として活用した方がいい」と指摘したところにあった。Sarah Pirozek監督の「#LIKE」をその成功例として紹介し、独立系フィルムメーカーが制作した小規模予算の作品ながら、ハリウッド作品が並んだApple TVの中でトップ30にランクインしたのは劇場公開に拘らず、デジタルマーケティングを駆使しながら数多く存在するOTTプラットフォームにフォーカスしたからだという。
以前のような劇場ファーストのビジネスモデルには戻らないと思っています。OTTの台頭によって、新しいチャンスが生まれていることにむしろ注目したいです。未来に向かったクリエイティブ産業のあり方が今、求められているのです。
3本目はアニメーションファンであれば必見。モノづくりに関わるSXSW参加者全てにオススメしたいカンファレンスが「Animating Resilience」だ。トッププレイヤーであるNetflixとCrunchyroll、アメリカのカートゥーンネットワークであるAdult Swimの3社が並んだ。
Netflixからはアカデミー賞に2度ノミネートされた「Mark Osborne」のエグゼクティブプロデューサーJinko Gotoh、クランチロールからは「パワーパフガールズ リブート」なども手掛けたことのある有望株の若手クリエイターSofia Alexander、そしてAdult Swimからはアニメーション業界の顔である社長のMichael Ouweleenという豪華極まりない顔ぶれだった。
コロナ禍によって大きな変化を求められたアニメーション制作現場の現状をそれぞれ丁寧に語り、明るいアニメーション業界の未来を感じるコメントも力強かった。例えば、NetflixのJinko Gotohは以下のように強調した。
Zoomで一緒に過ごす時間をより創造的に共同作業を進めていくことがこの1年で最も直面している課題にあります。ただし、デスクトップ上であっても、人と人との距離は縮まっていると感じています。これまでミーティングをするのに何時間もかけて、飛行機に乗ることもありましたが、今は以前よりも確実に多くの人と繋がっています。
またCrunchyrollのSofia Alexanderは以下のように語り、
今は慣れ親しんだ仕事環境と離れた状況にはありますが、フリーランスの立場でも活動しやすくなっています。この小さなZoomの正方形の中で誰でもフラットにチャンスが与えられるようになったと感じています。
Adult SwimのMichael Ouweleenも次のように語った。
あらゆる面で不確実なことばかりですが、互いの共感能力が想像以上に発達していると感じています。この1年はそんな人が持つ美しい一面を見ることができました。
以上が見逃せない3本のカンファレンスである。全て英語字幕付きで視聴できる。これは多くの日本人参加者にとってオンライン開催の利点にある。4月18日まで引き続き視聴可能なカンファレンスも多く、SXSWをまだまだ味わうことができそうだ。
txt:長谷川朋子 構成:編集部