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映画「1917」に使われ話題のスタビライザーTRINITYとは?

ARRIは、カメラや照明、カメラアクセサリーに関して優れた設計、製造、販売で有名だが、最近はカメラスタビライザーシステムも話題だ。ARRIは2016年4月、ザハトラー/Vitec GroupからカメラスタビライザーのArtemisシリーズを引き継ぎ、カメラスタビライゼーションシステム(以下:CSS)と呼ばれる新しいビジネスユニットが誕生。カメラシステムからハイエンドジンバルまでカバーする唯一無二のメーカーとなっている。

CSS製品の中でもTRINITYはロングテイクで注目された映画「1917」の影響もあり、ますます話題だ。そんなARRIの新しいチャレンジであるCSSをテーマにしたワークショップがARRI祭2日目開催された。その様子を紹介しよう。

ARRI特集VOL09CSS説明写真
舟山氏と木村氏が登壇したTRINITYワークショップ

講演者はARRI Japanの舟山美千代氏とTRINITYオペレーターの木村太郎氏。セミナーは舟山氏のTRINITYの話から始まった。TRINITYは商品名で、ジンバルシステム「Artemis」に専用のTRINITY用ヘッド部分を装着したシステム。ステディカムの長所を活かしながら、ローアングルからハイアングルにすべてワンショットで移動できるのが特長。

ちなみにステディカムは、ギャレット・ブラウン氏によって開発されたティッフェン社が商標をもつ商品名であるが、カメラスタビライザーがステディカム以外の呼び名が定着しないために、ここでもステディカムと呼ぶと述べた。

一方、TRINITYはARRIのTRINITYのプロダクトマネージャーのカート・シャラー氏が開発したもので、舟山氏は1999年にアメリカでシャラー氏と出会った想い出のエピソードを紹介。その当時から特機に深く携わっていた舟山氏は、ステディカムを販売、メンテナンスをするうえで、マイナーなトラブル、メンテナンスに悩まされていたり、装着するベストはアメリカ人向けでサイズが合わない、異常に重いなどの問題を抱えていて、日本人の体型に合うものを探していたという。そんな時に、ニューヨークでArtemisを扱うシャラー氏と出会い、日本人の体格に合うようにサポートをしてくれた話を紹介。なお、シャラ-氏もARRI祭に参加を希望したものの実現ならず、参加者に向けたビデオメッセージで想いを届けた。

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TRINITYは、1秒未満にローモードからハイモードに移行可能

舟山氏によると、リモートヘッドをステディカムの上に乗せるアイデアは1990年代からさまざまなメーカーがトライしてきたが、どこも大きすぎる、長すぎる、バランスが取りにくいなどの問題があったという。その中でもTRINITYはもっとも完成形に近いと語った。

続いて、リモートヘッドのSRHを紹介。重量は9kgと軽量で、耐荷重が30kg。SRHの特長は、ハイスピードのパンにも耐えられる強度で、車の並走や車載に多様されているという。

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これまでのリモートヘッドは少しドリーがはじまってからではないとタリーがもらえないものに対して、SRHは助走がほぼ要らない。頭から使うことが可能で、最初からタリーをもらうことが可能だという

舟山氏が特に力を入れて紹介したのは、SRH搭載のラジコンカーで、モーションインポッシブル社のモジュラードリーシステムAGITOにSRH-3を搭載したも。AGITOとカメラ周りやSRHは連動し、レールは狭い300mmから広い409mmの軌間に合わせて調整が可能。ARRIは独占的に販売していく予定もあるという。

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AGITOのラジコンカー。オフロードやレールタイヤなど3つから4つの異なるタイヤが用意されていて、すべて対応
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駆動音が静かで、ベルリンのシンフォニーオーケストラで使用されている。スピードスケートやファッションショーで使用された実績もあるという

「何でもTRINITY」ではない。現場側と企画する側の蜜なコミュニケーションが大事

次に、木村氏によるTRINITYを使った現場紹介が行われた。なお、ここからは報道関係者を含めて写真、ビデオ撮影は禁止のため、セミナーの発言内容のみを紹介していく。

最初に紹介したのは、MONDO GROSSOの新曲で、BiSHのアイナ・ジ・エンドがボーカルを務める「偽りのシンパシー」のミュージックビデオの現場。できるだけワンテイクの中で上下に撮れる機材がほしい。MoVIとは違う、ドラマチックな画が撮りたいとのことで、カメラマンからTRINITYを使いたいとオーダーがあったという。

ただしワンカットに見えるが、途中でカットは入っているという。アイナ・ジ・エンドの踊りを木村氏が撮り、ライティングと美術をチェンジして、まったく同じ動きを再び撮る。3回、4回繰り返して、最後に編集でまとめたと紹介した。

TRINITYにはジョイスティックがあり、触らなければ角度が変わらない。角度を覚えていて水平も狂わないので、同ポジのキープが可能。TRINITYのおかげでなんとか撮れたと紹介した。

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ARRI祭3日目のワークショップの様子

次に「BOSS」と「ゴジラ」のコラボレーションCMの現場を紹介。完全復刻した初代ゴジラスーツと近年まれにみる規模のミニチュアの街並みを出現させた大掛かりな現場。ワンカットで見せて行き、つなぐポイントはできるだけ同ポジで切りたいという大変困難なオーダーだったという。

こういった要望にはモーションコントロールカメラシステムの「MILO」が候補になるが、ミニュチュアセットの中でMILOを動かすことはでいない。そこでTRINITYを使って、うまくつないで実現したという。上下のアングルも多くて、オペレーター的には大変な案件だったと振り返った。

「通常のステディカムで対応可能であったか?」との舟山氏の質問に対して、画面の手前にビルのミニチュアセットを入れ込んで、その奥にゴジラをとらえる構図が理想的な映像であり、ノーマルのステディカムでは高さの調整ができないので向かないと回答。TRINITYは、高さに自由度があるので、こういった現場の案件には最適と紹介した。

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最後に舟山氏は、日本でも知名度が向上してきたARRIのCSS製品であるが、オファーの面で問題を感じることがあるとも語った。舟山氏は、TRINITYやArtemis、SRHもスタビライズシステムと呼ばれているために、どんな条件でも揺れないと思われていて困っているオペレーターさんが多いという。

揺れないのではなくて、揺らしたくないのであれば、各オペレーターのジャイロを持参しなければいけない。揺れを防止して、何をオペレーターさんにお願いしたいか?できるだけプロダクションとの話のすり合わせを積極的に歩み寄ることが大事であり、ロケハンに動向して、クレーンとどちらがいいのかを確認したいと訴えた。

それに対して木村氏は、オペレーターもDPの方、監督の方と蜜にコミュニケーションをとることが大事であると述べた。過去、「カメラを目標に向けてまっすぐ突っ込んでください。それをCGに入れてあとで使います」と現場で言われた経験を明かし、ある程度の揺れは抑えられるが、TRINITYは精密な撮影をするための機材ではないという。そのあたりは、啓蒙していいといけないとコメント。機材の選択は、もうちょとコミュニケーションをとるのがとても大事なんだなと意見した。

舟山氏は、「何でもTRINITYでいい」「SRHは小型で楽だから」ではなく、現場でもっとも最適な機材を現場側と企画する側が歩み寄って一緒に作品作りをしていくのが大事だという。作品が出来上がるまでの到達期間は蜜なコミュニケーションのが要されることを、プロダクションサイドの方々にはお願いしたいと述べて講演を終えた。

txt・構成:編集部


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