ATOMOS CONNECTとは
ATOMOS CONNECTは、ATOMOS社のレコーディングモニターをクラウドベースのワークフローに最適化する画期的なモジュールだ。既存のNINJA VやNINJA V+にドッキングすることで使用可能になるほか、ビルトインタイプとしてSHOGUN CONNECTがある。
モジュールをつけることでWi-Fi経由でネットワークに接続可能となり、Adobeの提供するクラウドコラボレーションツール「Frame.io」と連携することで、世界中のどこにいても、撮影したてホヤホヤのフッテージをプロジェクトメンバーにオンライン上で共有することができる。
筆者はFrame.ioがAdobeに買収されるより以前から、クラウドワークフローに関心の高いエディター経由でその存在を知り、特にステイホーム期間中の遠隔グレーディングのフィードバック作業などで活用していた。セキュアな環境下で、共有したい範囲の人にだけ簡単に共有でき、フォルダ階層を作って素材を格納できて、映像は1フレーム単位(これが本当にありがたい!)で、テキストや手書きで記入することができるのが、このプラットフォームの良さだ。シークバーにマウスオーバーすると、タイムコードが表示されるという、特定のシチュエーションで地味にありがたすぎる機能も搭載している。
今回は、そんな便利なコラボレーションツール「Frame.io Camera to Cloud(以下:C2C)」と連携したATOMOS製品を日本国内で取り扱うMEDIAEDGEから、「SHOGUN CONNECT」をお貸しいただき、レビューのための現場ではなく、実際の現場でもって、リアルなワークフローベースでの使い心地の良し悪しについてレビューすることにした。
現場に取り入れてみる
貸出していただいたタイミング的に、ショートフィルムの撮影期間中であったことから、中~長期間チームで運用・活用することができるか、また導入のハードルがどのくらい高いのか、普段のワークスペースの横にSHOGUN CONNECTをそっと据え置いて検証した。
実際の組織図としてはこんな感じだ。
全ての部署でなるべく最小人数にしよう、という監督のチャレンジングな姿勢もあって、各部署の現場にいる人数はかなりダイエットされていたが、物語の世界観を描くために必要なスペシャリストの数がどうしても多くなるので、結果的に組織図自体は当初の想定よりしっかりした感じになっていたと思う。
私の率いた撮影部では、基本常時Acam・Bcamの2カメ体制で、ソニーFX3の本体収録でSlog3による撮影をしたが、フォーカスプラーはなしで、主にAFを使用することが当初から決まっており、専任助手的なポジションは基本的にはチーフただ1人のみだった。どうしてものピンチヒッターで+1名とかそんな感じだ。そのため、それなりのカオスが予想されるなか、バックアップ関連で悲しい事件が起きないように、しっかりDIT(データ・イメージング・テクニシャン)は確保させてもらった。そんな立て込んだ状況なのでSHOGUN CONNECTは、DITのベースに設置させてもらうのが居心地が良さそうだと判断した。
通常のデータマネジメントフローだと、カメラから無線でDITブースに映像を転送し、DITがなんらかのキャプチャーデバイスでプロキシデータを作成してくれながら、リールチェンジのタイミングで撮影助手が生メディアを受け渡し、DITベースでカードリーダーなどを経由して大切なフッテージのバックアップを行ってくれるのではないだろうか。
今回も基本的にはそうだった。特に検証には忖度のない現場であったため、事故防止の観点から、SHOGUN CONNECTはあくまで補助的な存在で据え置き、使い心地については落ち着いてからレビューしようと思っていたのだ。が、意外なタイミングで役割が回ってきた。
別部署からの、まさかのニーズ
ショートフィルムの撮影は連日の撮影だったのだが、撮影が終わって帰宅中にスタイリングチームや美術チームから、翌日撮影するシーンとの繋がりで、持ち物の確認があった。「今日撮ったあのシーンの最後、小道具は何を持っていたか」とか「右手で持っていたか、左手で持っていたか」というようなものだ。
今回は遠慮がちにDITベースに設置されていたSHOGUN CONNECTだが、実は、現場に置いていたモバイルルーター経由で、収録したそばから、プロキシの撮影データをC2Cで順調にアップロードしてくれていた。また、組織全体の連絡用メッセージグループにも事前にFrame.ioの確認用URLを共有していたため、「ここに上がっています」という簡単な連絡だけで済み、<帰宅中にラップトップを開いて、そこそこ重い撮影データを1クリップずつ確認してキャプチャして送る>…または、<自分がデータを持っていなければ撮影部に連絡して教えてもらうという伝言ゲームをする>…というような誰しもにとって不毛な手間が省けた。これは、長時間で消耗した現場終わりには、思いがけず、ありがたい恩恵だった。
また、直接撮影部の誰かに確認をお願いするよりも、自分が確認しにいけばいいだけだから精神的負担が少ない、と言ってくれた他部署のスタッフもいらした。
どんな時にC2Cが必要で、どんな現場で威力を発揮する?
意外だったのは、SHOGUN CONNECTがモバイルWi-Fi経由でキビキビアップロードをし続けられていたことだ。正直、長時間稼働し続けてそれなりに発熱をしていたが、HDのプロキシデータは全く止まらずにアップロードできていたので、
たとえば、
- 少数精鋭で、
- 確実かつ手間をかけずにクラウドにプロキシをアップロードをした方がいいような現場で、
- でもDITを呼べるような予算感ではなく、
- しかも遠隔地にエディターがいて、
- なのに撮ったそばから編集して納品まで走らないといけない
ような案件であれば、間違いなく活躍するだろう。
短尺素材を大量に撮る現場で、物量が多くて早く吸い出したいのになかなかリールチェンジできず、キャプチャーボードを使わなければ、編集用にデータが吸い出せないような現場も同様だ。
逆に、たとえば個人的なVlogやシンプルなYouTubeの撮影・編集などワンマンでできてしまい、アップロードした先にコラボレーションする相手がいないような場合は、必要がないと言える。というか私なら、装備が重くなるだけなので持って行かないだろう。本製品が有用になる最小構成は、撮影部(カメラマン)とエディターの「最低でも2者間以上」な気がしており、特にクラウドを経由して作業が行われる場合だと思う。もしくは、何らかの理由で記録メディアをカメラから抜き差しすることなく、ささっとプロキシで編集しておきたいようなワンマンの時。
ATOMOS CONNECT/SHOGUN CONNECT/ZATO CONNECTの違い
私が今回お貸出いただいたのはSHOGUN CONNECTだったが、これは従来のSHOGUN(7インチレコーディングモニター)にC2Cの機能がビルトインされたもの。一方、ATOMOS CONNECTは、前述したようにNINJA V(5インチレコーディングモニター)やNINJA V+(同5インチ新型モニター)にクラウドツールの機能を「後のせ」できる商品だ。それでは、初出のZATO CONNECTはというと、ストリーミング配信に特化したビルトインモデル(5インチレコーディングモニター)で、ネットワークに接続するとYouTubeをはじめ、ライブストリーミングや、Webカメラのソースとして利用できるプレビューモニター。これらの製品はとにかくネットワーク環境さえあればWi-Fi接続できて、スタンドアロンで映像を再生したり録画したりできる筐体である、というのがミソである。
私はライブ配信ではない撮影が主なので、配信機能特化のZATO CONNECTを使うシチュエーションは少ないが、配信系のお仕事で、ライブ配信した映像を後から編集して短尺化するようなフローには有用そうな印象を受けた。
C2Cではプロキシ>オリジナルファイルかも?
やはり気になるのが、C2CでApple ProRes RAWなどのオリジナルデータで収録しないの?というところだと思う。が、私はあくまで「出先でアップロードするデータ」であるという性質から、よほど回線速度が安定して早い環境でない限りは、C2Cでアップロードしたいのはあくまで軽量かつ、最後の砦(保険)であるプロキシだと思う。本体収録と同時にプロキシが収録されバックアップできるというのが何よりもの安心なので、設定したいと思えるアップロードファイルの形式は、私の中では「プロキシ>オリジナルファイル」の図式で、現状ではプロキシに軍配が上がりそうだ。
最後に
今回検証した現場では、私の想定を裏切って、思いのほか部署間をまたいでシームレスに使用されていたように思う。C2Cでアップロードされたファイルにアクセスさせるために、かえって現場で導入サポートの手数が増えるなんていうのは避けたいと考えていたが、確認用URLの周知から、まるでYouTubeのリンクを渡したようにすんなり受け入れてもらえたこともあって、心配は杞憂に終わった。そして潜在的な時間の節約ができ、意識の分散が防がれたことで撮影の中身の部分にも集中することができたと思う。
また、私個人のテーマとしても「いかにテクノロジーを駆使して人手を割くポイントを<人間にしかできないこと>にできるか」という観点を持っているので、マッチする案件があれば、今後も積極的に選択していきたいと思える製品だ。
雪森るな|プロフィール
油絵から写真の世界へ、DSLRムービーから映像の世界へと独自のキャリアを歩む。少数精鋭で最新機材を用いて効率化するシームレスな制作スタイルで、デジタルとアナログそれぞれの特性を理解しながら、映画・CM・MVの撮影・監督および、3DCGのリアルタイム合成配信、縦型映像の制作などに多く携わる。2023年、映画監督の岩井俊二とともに撮影した短編映画「檸檬色の夢」がLINE VISIONにて配信開始。