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映像をEOS RシリーズからCINEMA EOS SYSTEM、EOS C80へ

商業フォトグラファーとして活動する中で、映像への挑戦を始めた私。最初はEOS R5やR6で動画を撮影していたが、もっと高い機動性が必要だと感じるようになった。そんな時に出会ったのがEOS C70(以下「C70」と表記)だった。
当時の私は、ファンがあることによる効率的な排熱や拡張性など、「これが動画用にチューンナップされた業務機か!」と、頼もしい相棒に巡り合った感動を覚えたものだ。

そして今回、縁あってCanon EOS C80(以下「C80」と表記)の実力を検証することになった。

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C70からC80へ、進化とその魅力

動画用として初めて使ったシネマカメラは、他社のモデルだった。EFレンズを使えることから当初は便利に思えたが、リグが必須であったり、バッテリーの持ちやオートフォーカス性能が不足していたりと、多くの課題を感じていた。 リグが好きではない私にとって、その運用は非常にストレスだった。

そんな中、CINEMA EOSからC70が登場。C70はリグ不要でバッテリー持ちも良く、オートフォーカスも優秀。つまり、私のようなソロオペレートが多いカメラマンにとって待望のカメラだった。
個人的にも、RFレンズのラインナップが充実してきたのをきっかけに、ちょうどEOS Rシリーズへの移行を進めていた時期だったこともあり、私の機材選定における大きな転機となった。特に、長時間の取材や収録でのバッテリー問題やオートフォーカスの不安から解放されたことは、非常に大きかった。

そして、今回レビューすることになったC80は、言うまでもなくC70から更に進化を遂げたモデルである。
カメラリュックやメッセンジャーバッグに2台のボディとレンズ数本を詰め込み、一人で現場に向かう私のようなスタイルでは、コンパクトで、しかもリグなしで現場投入できるC70サイズの新型機を待ち望んでいた。

C70から進化したポイントは様々あるが、私が商業フォトグラファーとして、ソロオペレートでの撮影を頻繁に行う者の目線で紹介したい点を順に挙げていこう。

6K RAW収録が可能

まずは6K RAW収録が可能になった点だ。 これは、昨今の商業案件において非常に魅力的な機能だ。というのも、現在では4Kでの納品が一般的になりつつあるが、納品解像度よりも大きなサイズで撮影できるということは、編集時の自由度を確保できることとイコールだ。
つまり、6Kで撮影することにより、必要に応じて編集時に画角をトリミングすることが可能になり、少し広角で撮影し、後から表情やディテールをクローズアップするといった、柔軟な処理が可能になるのだ。
セッティングの時間が限られている、ワンオペでの撮影においてこれは非常に助かる。

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ドキュメンタリー撮影などでは、限られた秒数の中で、引きと寄りの2カットを撮影しなければならないこともある。そのような状況だと、必要最低限の秒数で素早くレンズを操作して撮影しなければならない。しかもAF性能が低いとフォーカスにも気を配らなければならない。そこまでしても欲しい秒数のカットが撮れずに再生速度を少し落として間を埋める、という苦渋の決断をした経験がある方もいるだろう。
しかし、4Kを超える解像度で撮影が可能なC80は、6Kで引きのカットさえしっかり押さえておけば、編集時に必要な秒数を切り出すことができる。レンズを操作する手間も、それによるフォーカスロストを心配することもないのだ。

もちろん、そんな撮り方は邪道だという意見があることは承知している。
カメラマンが腕を磨くべきだという意見ももっともだ。
しかし、クライアントがいる商業撮影の現場は、カメラマンが準備を終えるまで待ってくれないことが往々にしてあるのだ。
むしろそんな場面では、カメラの性能をフルに活かして作品のクオリティを上げることこそが、プロカメラマンに要求される結果なのである。

もちろん、RAW自体の性能も抜群だ。波形上でオーバー、アンダーにならないように注意しておけば、グレーディング次第でハイライトを落として背景や風景をしっかり見せることが可能だ。

画角も描写も、時間のない現場での手間を最小限に抑え、それでいて最大限の自由度を確保できることは、カメラマンにとって大きな武器と言える。

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グレーディング前
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グレーディング後

フルサイズセンサーの恩恵

C80のフルサイズセンサーは、様々な利点がある。
それを最も強く感じたのは、広角レンズの活用においてだ。RF15-35mm F2.8 L IS USMは、いわゆる「ズームレンズ大三元」と呼ばれる焦点距離で、多くのカメラマンが使っている。しかし、フォト機でR5を使う私にとっては、Super 35mmセンサーでは本来の画角を活かしきれないと感じることが多く、なんとかしたいと思っていた課題だった。
今回、フルサイズセンサー搭載のC80が発表されたことでこの問題は労せず解決。広角レンズのポテンシャルを最大限に引き出すことができる。
例えば、今回の作例のようなカウンター内の限られたスペースで撮影する際、「もっと引きたいけど、これ以上後ろに下がれない」という状況になると、せっかくの広角レンズが無駄に終わってしまう。(しかも、そんな時に限って「もう少し引いたカットはありませんか?」と聞かれるものなのだ。)
しかし、C80なら自分がイメージしているレンズの画角がそのまま活きるので、不測の事態はそうそう起きない。

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C80フルサイズモードとRF15-35mm F2.8 L IS USMで広角撮影

もちろん、その分寄り側の焦点距離は犠牲になってしまうが、ドキュメンタリーの現場では圧倒的に広角側の方が需要が高い。「寄り」は自分の足で稼げることが多いからだ。どうしてももうひと寄りしたい場合は、前述のトリミングを使うことも可能だ。

とはいえ、C80にはSuper35mmモードも搭載されており、約1.6倍の画角にクロップして撮影することが可能だ。例えば、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zの望遠側を約168mm相当として利用できる。センサーモードとレンズの組み合わせで活用の幅が広がる。
しかも、Super35mmモード時も最大4368×2304の解像度で撮影が可能。
こちらも、4.3Kという4KオーバーのRAW素材でありながら6K RAWよりも軽いデータで保存できるので、グレーディングの段階でもPCに負担をかけることが減る。

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SDカードで全モード、全機能の使用が可能

C80は記録メディアにSDカードが採用されている。今回の撮影ではProGrade Digital Cobaltを使用した。
最近は減ったが、他社のカメラだとCFexpressカードなど記録速度の早いカードでないと、カメラのスペックをフルに活かした撮影ができないものがあった。C80はビデオスピードクラスV90のカードを使用すれば、モードや機能を問わず撮影に臨めるのがありがたい。
しかも、RAW動画を2枚のSDカードに同時録画できる。他社製品はそもそもRAWの内部録画ができなかったり、どれか1つのメディアにしか記録できなかったりする中、C80はバックアップ収録までできるのだ。

撮影後はUSB 3.2 Gen 2のSSDへデータをコピーした。6K RAWや4K RAWの動画素材のコピーもスムーズに行え、実用性は十分だ。
当然、CFexpressカードの方がコピーの速度は早いのだろうが、そのために高額で汎用性の低い記録メディアを購入しなければならないことを考えると、SDカードが採用されたC80は非常にユーザービリティが高いと言えるだろう。

高性能オートフォーカス

4K納品の仕事で最も気を使うことの一つがフォーカスである。
カメラについている3インチ前後の液晶モニターでは、どんなに凝視しても4K、6Kのフォーカスを追い込むことは不可能だ。かといってリグが好きではない私は、カメラの上に外付けモニターを載せるのも、できることなら避けたい。

細かい技術的な話は割愛するが、C80のオートフォーカスはC70よりも正確に人物を捉え、追っていると感じた。さらにその挙動も自然で、被写体の動きにすっと、優しく入ってくる印象で、非常に心地がよい。

C80のオートフォーカス

3段階のBase ISOの威力

C80には、先に発売されたEOS C400と同じく、3段階のBase ISOが搭載されている。

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Canon Log2での収録では、ISO12800でもノイズがそれほど目立たないことに驚いた。 ソロオペレーションでライトの持ち込みが難しかったり、急な場面でF値(T値)を絞らねばならない時などは、思い切ってISOを上げて、ベース感度を一段上げてしまうことも選択肢に入れられるほどだ。

ただ、RAWでの撮影時はISO12800まで上げてしまうと、どうしてもノイズ感が出てしまう。
その場合は、案件次第では編集時にノイズリダクションをかけるなどの処理が必要となる。

とはいえ、Base ISOの選択肢が一つ増えたことはカメラマン心理として非常にありがたく、この機能が今後のCanon製カメラの標準機能になることを祈るばかりだ。

Canon Log2、ISO 12800で撮影

カメラマン、クライアント、どちらのニーズにも応えてくれるCanon 709

Canon 709ガンマを使用することで、後処理を行わなくても美しい映像を得ることができる。特に、スケジュールや予算の関係でカラーグレーディングに時間をかけられない案件では、いわゆる「撮って出し」の画質が非常に重要だ。

Canon 709は一般的なBT.709 Standardよりも白飛びが抑えられておりダイナミックレンジが広がったように感じる。

私のようなスタイルのカメラマンは、素材を提供して編集はお客様が行うという場合も多々ある。そういう場合はRAWやLogで素材を渡すわけにはいかない。かと言って、せっかくシネマカメラで撮影した映像が、安価なビデオカメラで撮ったものと変わらなくなってしまうのも不本意だ。「撮って出し」をしっかり撮れるCanon 709は、そのようなクライアントのニーズと、カメラマンのこだわりの両方に応える優れた選択肢である。もちろん、ライブ配信などのリアルタイム性が求められるシーンでも力を発揮することは間違いない。

ちなみに、Canon 709に設定した場合は、前述のBase ISOは400、1600、6400の3段階に変化するので注意が必要だ。

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総評

商業フォトグラファーにとって、映像に進むか否かは、その後のビジネスにおいて大きな分岐点となる。
私の場合は映像への興味が大きくなり、気づいたらCINEMA EOS、RFマウントにとても惹かれていた訳だが、今にして思えばこの選択は間違いではなかった。
CINEMA EOSを導入したことで、撮影、作品の質が上がり、クライアントの満足度も上がった。すると、さまざまな動画案件で声をかけてもらえるようになり、業務の幅が広がったのだ。

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EOS C80の登場により、6K RAWや3段階のBase ISOといった高機能を活用し、よりフレキシブルな撮影が可能になった。特に、限られた時間で最高の結果を求められるソロオペレート撮影において、C80は大きな安心感と実用性をもたらしてくれるカメラに仕上がっていることが実感できた。

EOS C80で全編撮影「Slow Rush Caffee」

撮影協力: