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RF24-105 F2.8ZとARRIマットボックスを取り付けたシネマ仕様のEOS C80

シネマトグラファーの湯越慶太です。

今年の9月に、「11月に日本と台湾共同制作の短編のインディーズ映画を台湾ロケで撮影したいのでぜひ協力してほしい」という相談を知り合いの映画監督である今井ミカさんから受けました。30分程度の短編で、最小限の機材とスタッフで台湾に行くというものでした。

今井ミカさんは耳の聞こえない、日本語と異なる言語の日本手話を母語とする聾者の映画監督で、劇場公開された『虹色の朝が来るまで』(2019)、TAMA NEW WAVEなどで多数受賞された『ジンジャーミルク』(2021)などの作品を手掛けられています。映画のストーリーは台湾と日本の聾者が交流するという内容で、脚本がとても秀逸で是非とも撮影したいと思いました。

そんな時にPRONEWS編集部から、キヤノンが9月に発表したシネマカメラ「EOS C80」(以下、C80と表記)のレビューの打診があり、少人数スタッフ、軽量なセッティングということでこのカメラにぴったりの現場だと思い、投入することにしてみました。基本的なスペックに関しては既に他のレビューで詳細に紹介されていますので、現場で使った感覚という形でレビューをさせていただきたいと思います。

EOS C80とBMCC6Kを比較!

僕は個人でBlackmagic Cinema Camera6K FF(以下、BMCC6Kと表記)を所有しており、今回も最初はそのカメラを使用するつもりでしたが、この依頼を受けたことで、C80とBMCC6K、どちらがこの仕事に向いているかを検討してみることにしました。

奇抜なデザイン!?

C80とBMCC6Kは、どちらもミラーレスカメラのベーシックなデザインを踏襲しつつ、よりムービーに最適化したデザインを模索するようなものになっています。BMCC6Kは初代ポケシネから数世代の改良を経ているため、非常にまとまりがあるデザインと感じます。C80は基本的なアウトラインはEOS C70をそのまま踏襲しています。

今回発表されたC80について、フルフレームのセンサーが搭載されたことや映像出力用のSDI端子が搭載されたことは大いに歓迎すべきポイントです。SDI端子がボディの真横に向けて飛び出しているデザイン(そこかよ!)などは苦労したんだなぁ…と感じました。

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出力まわり。SDIの搭載は大きなアドバンテージ。

全体的なサイズ感の印象がほとんど同じで、横幅に関してはC80の方が少しコンパクトだったのは意外なポイントでした。

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外観を比較。第一印象は「あれ?そんなに大きさ変わらない?」だった。

出力端子とアサインボタンについて

HDMIのみのBMCC6Kに対し、C80が今回SDI端子を搭載したのは大いに歓迎すべきポイントと思います。制作の現場ではやはりSDIが安定性、取り回し共に圧倒的に使いやすいので、今回の撮影ではHDMIを全く使用しませんでした。

カスタマイズ性については、C80が13個のボタンアサインを搭載し、使いやすさをアピールしています。一方でBMCC6Kのボタンアサインは3つだけですが、適切に設定されていれば現場で操作するボタンの数としては十分。

本体モニターについて

C80の背面モニターは3.5インチで、BMCC6Kは5インチを搭載しています。3.5インチでは、ワンオペで構図や露出、カメラ設定を同時にチェックするには少し小さいかなと感じました。

C80には純正アクセサリーとしてファインダーや大きなモニターがない点は残念です。ぜひともこうしたオプションの拡充が望まれます。

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背面を比較。C80のアサインボタンはちょっと多い。モニターの小ささは残念なポイントだが大容量バッテリーを搭載できるのは大きなアドバンテージ。

バッテリーの持ちについて

バッテリー性能に関して、C80はものすごく優れています。BP-A60Nを使用することで最大約380分のフルフレームRAW収録が可能です。

実際、朝7時から多少の休憩を挟みつつ夜の23時まで撮影した日もBP-A60が3本プラスアルファ程度で済んだので、省電力性能については賞賛すべきポイントだと思いました。

画質について

一番重要とも言えるポイント。BMCC6KのBRAW、Blackmagic Film Gen5はシネマチックなトーンが持ち味。対してCINEMA RAW Light 、Canon Log 2の絵作りはクリアでスッキリした印象。EOS C400と同等の6Kセンサーを搭載したC80のCanon Log 2の素性は非常に良く、かなり柔軟なカラコレ耐性があると感じました。少しの微調整でグッと落ち着いたトーンを作ることができますし、DaVinci Resolveの「フィルムルック・クリエーター」を使って微調整すると、かなり落ち着いたフィルムトーンに持っていくことができます。画質についてはどちらのカメラでも最終結果は同等か、むしろC80のCanon Log 2の方が柔軟性は高いという計算がありました。

そして高感度耐性ですが、こちらもC80にはEOS C400と同じ「3段階のBase ISO」があり、大きく魅力を感じた部分です。基本的にISO800を使用しましたが、いくつかのシーンではナイトシーンにノーライトで撮影をする必要があり、Base ISO3200で撮影をすることもありましたが、嫌なノイズのない、非常にクリアな画質だと感じました。

決め手は…

最終的にC80を選択した決定的な理由は安定性です。CanonはEOS C70やEOS C400を使用しても長時間使用で過熱により収録が止まる心配がなく、今回のC80も一度もトラブルがなく無事に撮影を終えることができました。この信頼性が選択の大きな要因となりました。

撮影準備-レンズとリグ組みについて-

さて、使用するカメラをC80に決めたところで、運用面をどうするかを検討しました。

今回の動画スペックとしては、

  • フルフレーム6K、RAW LT、23.98fpsで収録
  • Canon Log 2で収録し、モニタリングは709Lutにて行う

というものを基本にしました。また、荷物を軽くして機材をシンプルにするために監督のモニターはiPadを使用することにし、モニタリングとカメラモニターを兼ねたHollylandのMars M1をカメラ上に設置して映像はWi-Fiで飛ばすスタイルにしました。

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現場でのC80。とにかくシンプルなセッティングを心がけた。
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カメラ上にHollyLandのMarsM1を取り付け、モニタリングと飛ばしを兼ねた。

今回の画作りとして、台湾のクラシックな街並みを雰囲気ごと切り取りたいという狙いがあり、ボケ味の緩さや収差の残るオールドスチルレンズをあえて使用しています。ちなみに幾つかのシーンでは取り回しを優先してRF24-105mm F2.8L IS USM ZとRF15-35mm F2.8L IS USMも使用しています。

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CanonのカメラにNikonのオールドレンズという荒技!

また、フィルターはシネマ用の4×5.65インチ(パナサイズ)のブラックプロミストとND0.3(1stop相当)を用意。NDについては内蔵が充実しているので1段分の露出のずれは感度でカバーするという考えもありますが、時間と気持ちに余裕があればきちんとNDを使って露出をコントロールしたいところです。

また、フィルターの保持とフレアのコントロールのためにマットボックスを使用しましたが、スチルレンズでマットボックスを使用する際は基本的にロッドを使って保持することにしています。PLマウントのシネマレンズと異なり、レンズ前に重量物を設置することが想定されていないスチルレンズでは、マウントやズームの継ぎ目で歪みが出ることがあるからです。

ミラーレスのリグカスタムでよくあるVマウントバッテリー化のようなパワーカスタムは今回無し。本体のBP-A60で十分過ぎるのと、外部への電源供給をやらなかった(Mars M1はバッテリー直差しで運用)からです。トップハンドルはNATOレールアダプタを取り付けてSmallRigのトップハンドルを使うことに。

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現場でのC80。トップハンドルはネジ穴いっぱいのSmallRigに変更。

いざ、撮影に投入!

撮影は11月中旬、5日間かけて台北市内および台北から自動車で1時間ほどのところにある「十份」という古都で行いました。すぐ近くにある「九份」が有名ですが、こちらもとても魅力的な場所でした。

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十份での撮影風景。筐体がコンパクトなおかげで狭い室内でも撮影は問題なかった。
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※撮影した映像素材から切り出し

スタッフは監督以下カメラマン、アシスタント1名、録音技師。あとは日本手話、台湾手話と中国語の通訳、プロデューサーに出演者ととにかくミニマムな構成。移動もタクシーが基本となるため、キャリーケースにレンズ一式、バッテリーを詰め込み、撮影前後のみカメラバッグに本体をしまうというスタイル。そこに若干ですが、照明も加わります。

撮影手法として、今回監督からは手持ちをメインにしたいとの要望がありました。イージーリグ等のサポートや追加のハンドルは使用せずにカメラ直持ちスタイルで通すことにしました。フォーカスはスチルレンズのフォーカスリングを直接手で回して、フォローフォーカス等は無し。使い慣れたレンズならかえってこの方が精度が上がります。

無理なリグ組みをしなかったことで重量バランスも大きく変化しない状態では、非常に軽量でバランスの良い持ちやすいカメラだと思いました。

メディアは128GBのSDXCが5枚。1枚で30分収録可能で、1日の収録を2時間前後と考えて枚数を決定しましたが、ほとんどの日で4枚消費、1日だけ5枚使ったので妥当なメディア量でした。

バッテリーはBP-A60が4本と予備にBP-A30Nが1本。それとモニターのMarsM1用にSONYのNP-F970を4本。これで1日撮影持たせることができました。

撮影レビュー

良かったことは、なんといってもボディのコンパクトさです。車載撮影時にはマットボックスとトップハンドル、モニターを外した最軽量状態で撮影もしましたが、それでも問題なく撮影を進めることができました。

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車内撮影時。マットボックスを外してコンパクトにしている。

また夜市での撮影も行いましたが、コンパクトなボディのおかげで全く目立たずに撮影することができました。特に軽量ボディの恩恵は大きく、丸1日撮影してもほとんど体の負担なく撮影を進められたことには大いに助けられました。

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夜市にて。小雨だったのでビニールカバーを取り付けて撮影。片手で持てる軽量さ。

最後に。このカメラの「立ち位置」について考える。

最初はデザイン面など若干疑問を持ちつつ投入した現場でしたが、少人数チームで臨んだ今回のロケにおいては、ここまでに書いたとおりコンパクト且つ軽量なボディ、バッテリーのもち、画質などの観点から、終わってみたらこのカメラ以外考えられないと言えるくらい扱いやすいカメラでした。

しかし、気になってしまうのがこのカメラの「立ち位置」について。

というのも、すぐ下の価格帯には動画機能を強化したEOS R5 Mark IIがあり、すぐ上には本格シネマ機であるEOS C400があるという中で、このカメラをチョイスする理由が薄れてしまっているのでは?と感じるからです。

独特なデザインも相まって、微妙な立ち位置に感じてしまいます。しかし実際に使ってみると、C80の強みはミラーレス機に対しては強力なバッテリーや、長時間収録に耐えられる冷却システムと全体的な安定性が大きなメリットとして感じられると思います。また本格シネマ機に対しては同じ機能を持ちながらさらに小型軽量の筐体で、ボックス型のモジュールではなく一体型のオールインワンボディとすることで収納性がよくなるだけでなく、セッティング時間の短縮といった現場での運用性が増しているので、ミラーレスをリグ組みするくらいなら、最初からC80を買う、という選択肢は大いにありだと思います。

使ってみると良さがわかるという「玄人向け」なカメラなので、この方向性をさらに熟成させて、息の長いシリーズにして欲しいと切に願っています。