Canon CINEMA EOS SYSTEMに待望のフルサイズセンサー搭載&RFマウント対応のコンパクトなシネマカメラCanonEOS C80 が登場した。

2024年6月に発表されたCanonEOS C400 とセンサーサイズや最大解像度は同等であり、Canonの最新のテクノロジーが数多く搭載されている。

また、EOS C80 の加わるラインナップには Super 35mmセンサーを搭載しているEOS C70が存在し、両機種は併売となる。

このレビューでは、それらの機種と比較をおこないつつ、日頃の筆者の業務カテゴリーであるテレビロケにおいて EOS C80 の使用を想定した機能検証を行っていきたい。

スペック

まずは、EOS C80 の基本スペックを整理する。

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レンズマウント RFマウント
センサー 35mmフルサイズ 裏面照射積層 CMOSセンサー
画素数 総画素数:約2,670万画素/有効画素数:最大約1,900万画素
感度 3段階 BASE ISO
NDフィルター 機械式NDフィルター(2/4/6/8/10stops)拡張選択時
最大フレームレート 6K 29.97p(RAW)
ガンマ Canon Log 2/Canon Log 3 HLG 他
ダイナミックレンジ 最大 16 stops
オートフォーカス デュアルピクセル CMOS AF II
動画記録フォーマット Cinema RAW Light/XF AVC/XF HEVC S/XF AVC S
記録メディア SDカード(2スロット)
入出力端子 SDI OUT/HDMI(Type-A)/マルチアクセサリーシュー/タイムコード/LAN/Wi-Fi/他

主要な仕様をザッと書き出したが、上位機種の EOS C400 譲りの Canonの最新の機能が搭載されていることが分かる。

特に、裏面照射積層CMOS採用のフルサイズセンサーで6K 30p収録対応。なめらかで素早いオートフォーカスを実現する「デュアルピクセルCMOS AF II」。ディープラーニング技術による被写体検出アルゴリズムの「EOS iTR AF X」。低感度から高感度まで高いS/Nを保ちつつダイナミックレンジの広い映像を撮影可能にする"3段階の BaseISO "など、EOS C400で採用されたばかりの最新技術が EOS C80 には搭載されている。

このことから、これらの技術は単に Canonのハイエンドスペックというだけでなく、これからのCanon機の標準機能としての位置づけでもあることが分かる。

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6Kオーバーサンプリングによる4K 4:2:2 10bit映像には空気感さえ描写されているようだ
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ソロオペレートスタイル

EOS C80はCanonが"ソロオペレートスタイル"と名付けているラインアップに加えられる。EOS C70や EOS R5 C などが同シリーズにある。 これは、EOS C400や EOS C500 Mark IIなどのハイエンドのボックス形状シネマカメラが揃う"シネマスタイル"と対になるラインアップである。

ソロオペレートスタイルのカメラはスチルカメラの形状と構え方(持ち方)で、ワンマンでの撮影(ソロオペレート)を行うユーザーをターゲットとしたシリーズ。 ミラーレスカメラの機動力に、CINEMAカメラの画質と信頼性を搭載するモデル群となる。

EOS C80のボディーサイズは約160×137.4×116 mm。本体質量は約1,300g(執筆時点では未確定)となっていて、ボックススタイルのEOS C400よりも小型に収まっている。また Super35mmセンサー搭載のEOS C70と比較しても僅かに高さが増しているだけで、ほぼ同様のサイズ感を実現している。

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左:EOS C70/右:EOS C80
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ジンバルにも載せられるサイズと重量
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ソロオペレートスタイルは、従来のスチルカメラをそのまま動画撮影向けに拡張したようなデザインになっており、ミラーレス一眼カメラユーザーであれば、違和感なく手にできるスタイルだろう。

一方、今回のレビューで実際に使用してみたところ、コンパクトかつスチルカメラの形状を維持するために、妥協しないといけない部分も見えてきた。 EOS C80のデザインがもたらすメリット・デメリットも検証していきたい。

デザインと端子類

EOS C80は正面から見るとハイエンドモデルのミラーレス一眼カメラのような見た目をしているが、横から見るとかなり奥行きのある筐体であることが分かる。

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見た目はやや大きめのミラーレス一眼カメラに見える
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吸気/排気用の大きなスリットがボディーに設けられおり、上位機種と同等の独立気室ダクト構造を採用。高い耐久性と信頼性を確保し、ノンストップ記録を可能としている。

カメラの左側面には、ボタン類や端子類が所狭しと並べられており、コンパクトに纏めつつも、必要なインターフェイスは全て詰め込んでやろうというCanonの意気込みが見える。

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左側面
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特に、EOS C80には新たに12G-SDI OUT端子が搭載され、配信などをはじめとする映像業務のフィールドでガッチリと使えるようになっている。従来から搭載されているHDMI端子はType-A——すなわち標準端子で備わっているのも安心だ。

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12G-SDIに対応
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また、音声入力用に3pin mini-XLR端子が2系統備わっている。動画制作を行う業務用カメラではXLR端子は必須とも言える装備だが、EOS C80/C70ではコンパクト化のためにmini-XLR端子が採用されている。

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mini-XLR端子を2系統搭載
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ほとんどの音響・収音機器は標準サイズのXLR端子を採用しており、一般的には標準サイズのXLRケーブルしか所有していないため、EOS C80/C70への音声入力は変換ケーブルが必須となるだろう。この仕様に関してはマイナス点だが、後述する運用方法で、このmini-XLR端子仕様を補うことも可能になるので、後ほど目を通していただきたい。

音声周りでは、φ3.5mmジャックのマイク端子も用意されており、最近ではラインナップが豊富となった2.4GHz系のワイヤレスマイクの入力などに利用できる。これまでミラーレス一眼カメラで動画撮影をしていたユーザーであれば、φ3.5mmプラグを採用した音声機材の所有者も多いと思われるが、そのままEOS C80でも利用できるのはメリットだ。

その他、イヤフォン端子やREMOTE端子なども並んでいる。

それらの端子の周囲には、アサイン可能なユーザーボタンや NDフィルター切替ボタンが配置されている。

背面部は液晶モニターとバッテリーが大きな面積を占め、その右側にはメニューボタンとSELECTダイアルや背面電子ダイアルが並ぶ。

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背面
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バッテリーは、EOS C400 やカムコーダーのXF605と同じバッテリーを使える。そのため長時間駆動が可能であり、小型のBP−A30Nで約120分、大容量のBP-A60Nで約255分のロングライフを可能にしている。

背面でEOS C70と大きく変わったのがジョイスティックの位置だ。C70ではジョイスティックが右側に寄っていたが、C80 では内側に入っている。

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EOS C70(奥)とEOS C80(手前)ではジョイスティックとアサインボタンの配置が逆転している
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C70ではジョイスティックを操作しようとすると親指の付け根を浮かさないと、操作できるポジションに親指が来ないためホールド性が弱くなる。だが、C80の位置だと、ある程度右手でのホールド感を保ったまま親指の指先で操作できる。恐らくこれはC70のユーザーの声を受けての改良だと思われる。

またイーサネット端子(LAN端子)や内蔵Wi-Fiも新搭載されており、IPストリーミングやFTP転送による映像データの伝送、アプリによるリモートコントロールなども追加アクセサリなしで可能になる。

バッテリー取り付け部の横にはDC-IN 24Vコネクタも用意されおり、その近くにはコネクタ脱落防止用のケーブルフックも用意されている。

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DC-IN端子の隣にはケーブルフックが用意
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液晶モニターを開くと、収納部分には音声系のダイアルとスイッチが並ぶ。mini-XLR端子から入力されるINPUT1/2の音声調整を行える。また、AUDIO STATUSボタンも同じエリアに備わっており、このボタンを押すと音声設定のステータスが見られるほか、SELECTダイアル中央のSETボタンを押すことで、オーディオ関連メニューにショートカットできるので、素早く音声収録の設定を変更することも可能だ。

こうした合理的なユーザーインターフェイスは、Canonの他機種にも採用されており、EOS C400やXF605などでも同様の操作性を実現している。

カメラの右側面は、右手でホールドする事になるためボタン類は備わっていないが、SDカードスロットや縦動画撮影用の 1/4インチ三脚ネジが配置されている。

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右側面
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さらにタイムコード端子(BNC)も用意されており、複数台のカメラや外部音声収録機とのタイムコード同期が可能になっている。

上面はシンプルで、電源スイッチ、MEDIAボタンとSLOT SELECTボタン。前方には赤い録画ボタンと前面電子ダイアルなどがある。

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上面
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中央部分には同梱のハンドルユニットを取り付けられるネジ穴が用意されているほか、新たにマルチアクセサリーシュー端子を搭載。オーディオアクセサリーをケーブルレスかつ外部電源不要で装着できるようになる。こちらも詳しく後述する。

EOS C70ではコールドシューとハンドルユニットの取付が排他仕様になっていたのだが、EOS C80でそれらが別々に利用できるようになった都合、マルチアクセサリーシュー端子が後方へ移動してきている。

また、SDI端子が左側に取り付けられた関係で、C70では左上面にあったメジャーフックが右寄りに場所を変更している。

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正面
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最後に前面だが、RFマウントとその下に2つのアサインボタンが配されている。 そのアサインボタンの11番には「REC割り当て」が可能になっている。

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アサイン11はREC割り当て可能
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つまりフロントRECボタンとして機能し、レンズ下に構えている左手で録画操作をしたり三脚載せている時などにスマートに使える。EOS C70ではフロントRECボタンの実装はされていないが、EOS C80では最初から選択可能になっているのは嬉しい。

なお、「REC割り当て」はアサインボタン11の他、左側面に配されている4番にも割り当て可能だ。いずれもボタンが赤く縁取られており、RECボタンとしての機能が認識しやすい。

基本的にはEOS C70のレイアウトに則りつつ、一部改良や追加端子が搭載されたと考えて良いだろう。

オートフォーカス

動画のオートフォーカスは、正確で素早くピントが合うのはもちろんだが、なめらかで自然なフォーカス合わせを行う動作も大切だ。動画の場合はフォーカスを合わせている間も記録(録画)されている状態になるため、フォーカスの変化が不用意に目立ってしまっては主体となる映像表現を阻害してしまう。

CanonのCINEMA EOSシリーズでは、映画現場のフォーカスマンが行うようなフォーカスカーブを組み込んでおり、自然なオートフォーカス動作でそれを再現している。

EOS C80では、デュアルピクセルCMOS AF IIを搭載し、進化した高精度のオートフォーカスを実現。測距エリアが従来では画面全体の80%程度の枠内での補足だったのが、画面いっぱいの約100%の範囲で被写体を捉えることができる。つまりフレームの端ギリギリでも被写体を認識できるため、画面の何処かにさえ捉えていればその被写体を追いかけてフォーカスを合わせることができる。

検出被写体対象もディープラーニング技術により、アルゴリズムが進化。 従来機でも既に人物の瞳や顔、頭部を認識しオートフォーカスが追従する性能を持っていたが、デュアルピクセルCMOS AF IIでは「EOS iTR AF X」により人物の胴体、さらに動物の犬と猫の瞳・顔・全身が検出できるようになった。

実際にフィールドテストを行ってみたが、まずは最大100%×100%の測距エリアのお陰で、撮影対象となる人物を画面端においてスタートしても、最初から最後までフォーカスを自然に合わせ続けることができた。

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画面右端ギリギリに被写体を置いても、AFによる人物認識が可能
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フォーカスは人物認識AFに任せて、画角に専念できる
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また自宅の猫を撮影したが、しっかりと猫の瞳や全身を認識してフォーカスが追従する。今後は鳥や馬など動きの速い動物にも認識対象が広がると、更に撮影のフィールドが広がりそうだ。

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動物認識でしっかりと猫の顔に合焦している
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今回、試撮の多くの場面でオートフォーカスを頼った。流石に6K・4Kの撮影となると、3.5型の液晶モニターではフォーカスを正確に把握できない。マニュアルフォーカスで操作してカメラの液晶モニターで合焦しているように思えても、大画面でチェックするとズレていた…ということも多々あった。人物・動物認識やタッチ操作によるオートフォーカス機能など、EOS C80に搭載されたデュアルピクセル CMOS AF II の能力を積極的に活用することで、カメラマンが意図した撮影を効率よく遂行することができた。

3段階の Base ISO

EOS C80ではEOS C400に引きつづき、3段階のBase ISO機能を搭載した。特にこの機能に関しては「トリプル Base ISO」などといった機能名称が付けられていないようなので、このレビューでは「3段階の Base ISO」と呼称する。 「3段階の Base ISO」機能は、撮影シーンに応じて低感度から高感度まで3段階で、Base ISOを「マニュアルで切り換え」もしくは「自動切り替え」が可能。

ダイナミックレンジを確保しつつ、ノイズの少ない S/N 比の高い映像を得ることができる。

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Base ISO の設定画面
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3つそれぞれのBase ISOはガンマ設定によって異なっており、Canon Log2・Log 3・RAW設定では、Base ISOは800/3200/12800となる。

また、Canon 709・ BT.709 Wide DR・ PQ・HLG設定では400/1600/6400、BT.709 Standard では 160/640/2500となっている。

実際、夜景を撮影してみると、ハッキリとノイズの変化が見てとれた。テストではCanonLog 3の場合と BT.709 Wide DRの2つのガンマ設定を使い、自動切り替えによるノイズの傾向をを検証した。

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Canon Log3。ISO 16000
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「自動切り替え」に設定してISO値を少しずつ高くしていくと、当然ながらノイズが目立ってくるようになり、そろそろ画質的にはノイズが気になるな…と思いつつ、ひとつISO値を上げると感度が上がりながらもスッとノイズが低減される。この瞬間に、Base ISOがひとつ上の設定値に上がったのだ。そうしたことが2回、映像的には確認でき、しっかりと3つのBase ISOが切り替わっていることを確認した。

高感度になってもノイズが目立たなくなり、夜景などを肉眼以上に明るく、かつ綺麗に撮影できることには感動した。

特に「あとISO値をひとつあげたらBase ISOが切り替わる…」という時は、積極的にひとつ上のISO値にして、Base ISOを切り替え、その分アイリスを少し絞る…という設定をした方がノイズが少なく、明るくて美しい低照度撮影ができるだろう。

そのことに関連して1つ改善してほしいことは、手動でBase ISOを切替設定する場合は、液晶モニターの表示で「Base 800」といった風に、現在のBase ISOが明示されるのだが、「自動切り替え」に設定すると、現在のBase ISOが画面に表示されなくなってしまう。「自動切り替え」でも現在のISOが把握できるようになってほしい。

さて、Canon Log2・Log 3・RAWのガンマ設定で、高感度のBase ISO 12800は魅力的だが、ワークフローやバジェット的に、カラーグレーディングなどをしている余裕がなく、709ガンマで撮り切りたいというユーザーもいるだろう。 私なども、テレビの現場で EOS C80を使うならば、必然的に709ガンマで撮影して納品することになると思う。その場合は、高感度 Base ISOは6400になるが、それでも十分に低ノイズの夜景撮影が可能だった。実際、16000程度までISOを上げて撮影しても、ノイズによって大きく画質がスポイルされるということもなく、高感度撮影が全く怖くなくなった。

試しに、EOS C80の最大ISO値である102400まで上げて撮影してみた。夜景は完全に露出オーバーと言えるほど明るく撮れるのだが、一方でノイズによってディテールが無残に消えてしまうような画質の低下もない。

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BT.709 Wide DR。ISO 102400
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ドキュメンタリーなどの現場では、撮影側の都合で照明を仕込むということができず、その場の明かりのみで撮影しなければならないことも頻繁だ。そんな環境下でも撮れていないことには話にならないので、ノイズで荒れてもいいのでISO・ゲインアップをして撮影してしまうこともある。

しかし、EOS C80の「3段階の Base ISO」を使えば、高感度ISOで画質を保ったまま撮影することが可能ではないかと可能性を感じた。

なお、個人的にはISO値変更による感度の変化を、もう少し遷移カーブを寝かせ気味にした緩やかな変化になると嬉しい。(ISO変更に少しショックを感じる。) 設定で、高/中/低などで切替速度を選べると良いと思った。

またHDR撮影に関連して、EOS C70などで採用されているDual Gain Output(DGO)機能は EOS C80では搭載されていないが、最大16 stopsのダイナミックレンジは逆光撮影などでも、階調や色味をしっかりと残した撮影ができた。

音声入力

動画撮影用カメラを動画機たらしめるのは音声機能の充実だ。XLR端子の搭載、オーディオレベルのコントロール、入力系統と収録チャンネルの柔軟なアサイン、明瞭なオーディオレベルメーターの表示…など、カメラであっても現場で求められる音声収録の機能は重要だ。

EOS C80は、オーディオ記録フォーマットにリニアPCM 24bit/48kHz/4chとAAC 16bit/48kHz/2ch を搭載する。

音声入力は、mini-XLR端子2系統、φ3.5mmステレオ端子、マルチアクセサリーシュー、内蔵マイクが用意されており、それらの入力ソースを組み合わせての最大4ch同時収録が可能だ。

また、オーディオレベルメーターが EOS C400同様にレベル毎に色分けされたカラー表示選択が可能になった。(EOS C70はホワイト表示のみ)

ところで、EOS C80やC70の音声入力で気になる仕様があるだろう。そう、mini−XLR端子という仕様だ。先にも述べているが、一般的に業務音声の入出力端子は標準サイズの XLR端子だ。mini-XLR端子を採用する EOS C80 に音声入力するには、mini-XLR ⇔ XLR変換ケーブルなどが必要になってしまう。

しかし、EOS C80では必要に応じてこの欠点をカバーすることができる。それは TASCAM から発売されているミラーレスカメラ対応XLRアダプター"CA-XLR2d-C"を使用する方法だ。

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TASCAM CA-XLR2d-C 装着例
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CA-XLR2d-Cは Canon製のマルチアクセサリーシューに対応しており、Canonと協業しての開発のため、高い親和性を実現している。このアダプターを経由することでEOS C80でもXLR端子を扱えるようになる。

なお、CA-XLR2dの機能の詳細は、こちらの記事を参考にしてほしい。

CA-XLR2d-CをEOS C80に装着すると、音声入力のソース選択にマルチアクセサリーシューの項目が現れる…はずなのだが、残念ながらこのレビューを書いている段階では、EOS C80が試作機で、かつCA-XLR2d-C自体もバージョン対応できていないため機能しなかった。対応アクセサリーに含まれることは間違いないので、発売時には対応しているだろう。

CA-XLR2d-Cを経由する音声入力は、アダプタ側でレベル設定やチャンネル切替を行う。業務用ビデオカメラユーザーであれば、CA-XLR2dのようなインターフェイスは使い慣れていると思うので、受け入れやすい。

また、カメラの「鼻マイク」と言われるショットガンマイクにも、良い選択肢がある。

AZDEN SGM-250MXは mini−XLR端子を備えた珍しいマイクだ。変換要らずでカメラにダイレクトにマイクケーブルを挿すことができる。

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mini-XLR端子を採用したAZDEN SGM-250MX※画像をクリックして拡大

このマイク自体は、音質と堅牢性で定評のある同社のSGM-250と同じECMマイクユニットを搭載しているため、標準XLRを搭載したモデルと同等のクオリティーを得られる。

理想は、EOS C80本体に標準XLRを挿せることだが、周辺機器の対応によって mini-XLR端子でも十分な対応ができる環境が揃いつつある。

CA-XLR2d-CやAZDEN SGM-250MXなどを組み合わせることで、EOS C80 の4CH音声収録を無駄なく活用できるはずだ。

レンズ

今回はEOS C80のファーストインプレッションであるので、レンズそのものの細かな評価は行わないが、私にとっては初めてのCanonRFレンズということで、簡単に所見をまとめたい。

今回、レビューにあたっては Canonさんに以下のレンズをリクエストし、貸し出していただいた。

  • RF24-105mm F2.8 L IS USM Z+パワーズームアダプター PZ-E2
  • RF15-35mm F2.8 L IS USM
  • RF50mm F1.2 L USM
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今回お借りしたRFマウントレンズ
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Canonのレンズなので当然ながらリングの回転方向は放送用ENGレンズと同じであるし、RF24-105mm F2.8 Lはアイリスリングも装備されていて、初めて使っても戸惑うことなく操作できた。加えて、パワーズームアダプター PZ-E2との併用で、大変に滑らかでスローなズームワークも可能なのは嬉しい。

また、RFレンズは鏡筒の一番前側にコントロールリングが備わっており、こちらにアイリスをはじめ、ISOやシャッター速度などの機能を割り当てることができる。

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レンズ前方から「コントロール」「フォーカス」「ズーム」「アイリス」の4連リング構成
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今回、私はコントロールリングにISOを割り当てて使用したが、RF24-105mm F2.8 Lを使用した場合などは、フォーカス、画角(ズーム)、アイリス、ISO の各要素を全てレンズ上のリングだけで素早く決められる。このスマートな操作性は感動ものだった。

入出力コネクタ

EOS C80ではC70に搭載されていた端子類に加えて、12G-SDIに対応したBNC端子が搭載された。これにより、ハードな業務フィールドでの運用や、HDMIと12G-SDIによる2系統の映像出しが可能になった。

さらにEOS C80に限らず、昨今のCanon機の特徴だが、そうした出力端子にどういった情報を重畳するか…というのをかなり細かく設定する事ができる。クリーンピクチャーは12G-SDIで、ファインダー情報は HDMIに。ゼブラ表示させるがピーキングは非表示——などなど、現場のニーズに合わせた出力が可能だ。

もちろん、Canon Logを使った撮影の際にもビューアシスト機能の有無を出力端子別に設定できる。

またEOS C70では追加アダプタ対応だったEthernetやWi-Fi機能がEOS C80では内蔵された。 これにより、スマートフォンにCanon Multi-Camera Controlアプリが入っていれば、すぐにアプリからカメラのコントロールやプレビュー画面のチェックが可能になる。

残念ながら、レビューの時点ではEOS C80自体が未発表ということもあって、アプリ側が機種対応できておらず、動作は確認できなかった。

Canon Multi-Camera Controlアプリでは、EOS C500 Mark II、EOS C400、EOS C70 などの CINEMA EOS機だけでなく、ハンドヘルド機の XF605 にも対応し、1グループ最大4台の制御を最大5グループ設定可能。

録画のスタート/ストップの一括管理。複数台のアイリスやISO、色温度などのコントロールをそれぞれ遠隔で操作できるなど、マルチカメラの現場で活躍する。

マルチカメラの現場で必須と言えばタイムコードの同期だが、EOS C80もBNC端子によるタイムコード入出力に対応する。一方、EOS C400 などの上位機種に搭載されているGenLock端子などはオミットされている。

また、細かいことだが DC-IN(電源端子)の近くにはケーブルホルダーが追加されており、誤って電源ケーブルが抜けないように工夫されている。 12G-SDI搭載を筆頭に、失敗の許されない業務用カメラとしての信頼性を担保してくれている。

メニュー

メニュー画面は、筆者が日頃使っているXF605と同様のGUIとなっており、初めてEOS C80を触った瞬間から、どこに何のメニューがあるのか十分に想像できたので、自分好みの設定はすぐさま完了した。

Canon機に馴染みがないユーザーであっても、現在のCanon製カメラが実装しているメニューは大変に分かりやすく、各機能にアクセスしやすい設計になっている。

特に昨今は、カメラが高機能化して細かな設定や調整ができる反面、メニュー項目が膨大になり、ユーザーが素早く的確に、欲するメニュー項目に辿り着けないことがある。

その点 Canon機のメニュー構成は上手く整理されていて分かりやすい。 メニューは、3階層構造になっている。 大階層がカメラ設定・Custom Picture・記録/メディア設定・オーディオ設定・モニタリング設定・アシスト設定・ネットワーク設定・アサインボタン・システム設定・マイメニューの10カテゴリーに分かれている。

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メニュー画面の状態表示と設定選択肢
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その下にそれぞれ中階層があり、例えばカメラ設定の中階層はざっくりとアイリス/ND系・シャッター系・ISO系……などといった風にある程度の機能グループでにまとめた上で細かく分かれている。しかもそれらの中階層で表示される項目は、メニュー画面内に最大8行で表示され、画面下にスクロールしたりしないと出てこない項目というものがない。そのため閲覧性が良く、直ぐに目的の項目を見つけることができる。

    テキスト
メニュー画面。最大8行表示
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一番下の階層は、実際に状態設定を行うメニュー項目となっており、GUI自体の設計も優れている。左に設定項目、右に設定状態が表示されているのだが(例:左・システム周波数/右・59.94Hz)、項目を選択すると、右の設定状態が選択肢に変化しそこから設定したい状態を選ぶ(例:右・59.94Hz/50.00Hz/24.00Hz)。決定後は元の表示状態に戻るだけなので、視線誘導が自然だ。

今ひとつ何を言っているのか分からないかもしれないが、今お使いのカメラで、メニューの設定項目を選択したら、その次の選択肢が画面のどこに表示されるか確認してみて欲しい。選択する毎にページが切り替わったり、選択肢が元の項目の上に被ってしまったりして、視線移動が頻繁に起きないだろうか?

また、メニュー項目の移動に関しは、物理ダイアルが活躍する。背面電子ダイアルで大階層移動、前面電子ダイアルで中階層移動、SELECTダイアルで項目移動となっている。SELECTダイアルで、総ナメ移動もできるのだが、それぞれのダイアルを使い分けると、直ぐに目的のメニュー項目に辿り着ける。ただ、個人的にはダイアルの物理的なレイアウトから、前面電子ダイアルが大階層、背面電子ダイアルが中階層の移動用の方が分かり易いような気はする…。

さらに、ユーザーがよく使う項目をまとめることができる「マイメニュー」を5頁分作ることができ、加えてアサインボタンに「マイメニュー」を割り当て可能なため、ボタンひとつでマイメニューにショートカットもできる。

先述の通り、カメラの高機能化に伴いメニューによる設定項目は増加の一途をたどっている。それらの膨大な項目に如何に素早くアクセスし、且つ閲覧性や視認性の高さを確保した設計を行えるかは、カメラメーカーの腕の見せ所だと思う。

まとめ

今回は残念ながら、試用期間中に実際の撮影現場に持ち出す機会が無く、レビューのための試撮になってしまったが、このコンパクトな筐体に EOS C400と同等の最新技術と、動画撮影に必要な多様な端子や機能が詰め込まれている凝縮感に魅力を感じた。

個人的には「電子IS(手ブレ補正)」が搭載されている点が推しポイントで、レンズ内手ブレ補正を搭載しない単焦点レンズなどを手持ちで使いたい場合に重宝した。

筆者は日頃、カムコーダー系のカメラを使う機会が多く、ミラーレス一眼やコンパクトシネマ系のカメラを使うレギュラー番組も持ってはいるが、全体として割合は少ない。 そのため、EOS C80のようなスチルカメラスタイルでの撮影体制は慣れない点もある。

一番の不慣れポイントは、液晶モニターの位置だ。自然にカメラを構えると、どうしてもモニターを見る目線は下向きになる。

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手持ち撮影時の体勢
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ドキュメンタリーやアドリブ的な要素がある撮影現場だと、「被写体」と「その周辺」と「モニターの中」とを同時に確認しながら、予測不能な事態にも備えて撮影したい。その場合、EOS C80の背面液晶の位置では、視線の往復が大きくなり、やや不利だ。重量的にも、長時間に渡ってカメラを目高に持ち上げるのは厳しい。

試撮において、筆者はハンドルグリップの前方に小型のフィールドモニターを取り付けて運用したが、そうすることで自分にとっての使い勝手は劇的に向上したスタイルになった。

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別付けモニターを使った撮影スタイル
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別付けモニターとして映像伝送機能一体型のものを使うと、モニターのために使用してしまうHDMIないしSDI端子の消費を「映像伝送」という形でカバーすることができる。謂わばワイヤレス伝送による映像スルーアウトみたなものだ。

注意点としては、EOS C80は、再生時はHDMIやSDIにLUTを当てた状態での出力ができないこと。Canon Log 2/3ガンマを使って撮影して現場プレビューする場合は、LUT対応のモニターを選択する必要がある。

別付けモニターを用意したとしても課題は残る。別付けモニターではタッチパネル操作でEOS C80のフォーカスなどをコントロールする事はできないので、カメラ本体の液晶モニターは併用することになる。EOS C80の優秀なAF機能を十全に使いこなすにはタッチ操作は必須だ。

理想を言えば EOS C80のモニターが取り外せて、自由に取付位置が変更できればな…と思ってしまう。

また、別付けモニターを取り付ける際に気が付いたのだが、EOS C80の本体には三脚ネジ穴以外には、カメラ本体にもハンドルグリップにも1/4インチや3/8インチのネジ穴が全く設けられていない。そのため、マジックアームなどのアクセサリを取り付ける手段や数が限られる。

サードパーティのカメラケージやハンドルを併用すれば解決するが、EOS C80が謳うソロオペレートスタイルでは、カメラ照明やワイヤレスマイク受信機などは、カメラに取り付けてワンオペで運用することが想定される。 そうしたスタイルで効率よくオペレートするためにも、カメラ本体やハンドルグリップにはアクセサリー取付用のネジ穴などを複数用意してほしい。

一方で、EOS C80に何も取り付けずに、気軽にラン&ガンで撮影する楽しさも再発見した。

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ラン&ガンでの撮影スタイル
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今回、夜景撮影時は、EOS C80にハンドルグリップを取り付け、RF15-35mm F2.8 L IS USM レンズ1本だけを持ち出して、主に手持ちで撮影。このシンプルなスタイルで、高解像度、高感度の撮影が完結してしまうのは驚異的だったし、ワンマンでもストレスなくスマートに使用できた。

EOS C400の高性能を小さな筐体に詰め込んだサブ機として、EOS C80を使うも良し。ローバジェットな映像制作やテレビロケなどでメインカメラとして活用するも良し。

充実してきた RFレンズとの組み合わせで様々なシチュエーションに対応でき、コンパクトで強力な動画カメラのポテンシャルを感じる、そんなEOS C80だった。