本特集Vol.01では、岡英史氏が若手カメラマン向けに向けて「なぜプロはカムコーダーを選ぶのか?」を公開した。3連リングでフォーカス・ズーム・アイリスのレンズコントロールを全て自分の意思下に置くことの重要性を改めて知ることができる内容だった。そこでVol.03でも再び基本に立ち返り、「ビデオカムコーダーはなぜ必要なのか」をテーマに、カムコーダーの重要性を解説しよう。
「背景をぼかす描写」と「画面全体を鮮明に描写」に分けられる
まず、周知の事実ではあるが、昨今の映像機材を大分すると、デジタルシネマカメラやミラーレスフォト機に代表されるような、背景をぼかして被写体を際立たせる描写を得意とするものと、1インチ以下のセンサーで画面全体を比較的鮮明に描写するものに分けられる。
今回「今ビデオカムコーダーが求められる理由」について考察するわけだが、そもそも筆者はこの表現に違和感を覚える。なぜなら、ビデオカムコーダーの次世代機が待望される状況は、今に始まったことではないからだ。一世を風靡したソニー「HXR-NX5」シリーズの生産完了が発表された時は業界に激震が走った。それと同時に、中古市場でこのシリーズを探し回った記憶のあるカメラマンも多いだろう。
ではなぜミラーレスやシネマカメラが業界を席巻する中、多くのカメラマンがビデオカムコーダーを待ち望んでいるのか。
今回は「映像の違い」と「形状の違い」の2点に着目してそれを整理してみよう。
映像の違い
初めに述べたように、シネマカメラやミラーレスフォト機はマイクロフォーサーズ、APS-C、35mmフルサイズなど、1インチを超える面積を持つセンサーを搭載しているものが多い。
これはシネマレンズやフォト用のレンズを使用することを前提とした設計の筐体を使用しているため、当然と言えば当然である。一方、HXR-NX5シリーズを例に挙げると、搭載されているセンサーのサイズは約1/3インチである。
このセンサーサイズの差が「表現の幅」に及ぼす影響は大きい。代表的なものを挙げると、「背景のぼけ具合」である。
特殊なレンズを使用しない限りは、センサーサイズが大きくなるほど、画面上でピントの合う範囲が狭い、いわゆる「被写界深度の浅い」映像となる。
映画やCMなど、被写体をデフォルメして印象的な映像を撮りたい時には、この被写界深度の浅い表現は有効だろう。
一方で、バラエティ番組などで見られる「ひな段」のような、多くの出演者が同時に画面に登場したり、事件や事故などドラマティックに描写したくない場合は、被写界深度は深く撮影したい。
もちろん、低照度に強いシネマカメラでF値を大きくすれば、ある程度被写界深度を深くすることは可能だが、高濃度のNDフィルターなど余計なギアを用意しなければならなかったり、「小絞りぼけ」に注意しなければならないなどの手間がかかる。
こうした場面ではセンサーサイズの小さいビデオカムコーダーを使って、パンフォーカスで撮影した方が効果的と言える。
また、スポーツ撮影などで高倍率のズームを使用したい時も、センサーサイズの小さなカメラが有利となる。
ビデオカムコーダーにおいては、ワイド端からテレ端までのズーム域が10倍、20倍というのも珍しくないのに対し、センサーが大きくなるほどこのズーム域を実現するのが難しくなる。
例えば、ズームフォトレンズの大三元と呼ばれる中に「70-200mm」というレンズがあるが、35mmフルサイズセンサーを搭載したカメラと組み合わせると、あのサイズのレンズも3倍に満たない程度のズームしかできないのだ。
当然、手持ちでの撮影も難しくなるので、相応の三脚と雲台も用意しなければならない上に、機動力も損なわれてしまう。
もし自分が、子供の運動会の様子をビデオ撮影しようと思った時、子供の表情がわかるくらいの寄りのカットを撮ろうとしたら、一体どれだけの望遠レンズが必要となるかイメージして欲しい。
まるで天体望遠鏡のようなレンズを持ち込んで、被写界深度が浅い中で、常にフォーカスを操作しなければいけないのだ。
形状の違い
また、手持ち撮影の場合を考えると、ミラーレスフォト機とビデオカムコーダーの形状にも決定的と言える大きな違いがある。
一般的なカメラでは、どちらもカメラをホールドするためのグリップが右手側にある。
そして、ミラーレスフォト機はそのグリップを横から握って人差し指でRECボタンを押すのに対して、ビデオカムコーダーは下から握って親指でRECボタンを押すものが多い。
これは、撮影中のカメラの安定に大きく影響する。
下から手を差し込んで支えるビデオカムコーダーの場合、親指はREC操作のためにカメラから浮かせても、他の指にかかる負担は比較的少ない。
だが、横からカメラをホールドするフォト機などの場合、REC操作のために人差し指をカメラから離すと、中指、薬指、小指にかかる負担が大幅に増える。
それでも、フォト撮影のように一瞬の静止や、動画撮影でも短いカットを短時間で撮影するなら問題ないかもしれないが、長時間の撮影となるとその疲労は腕や指に確実に蓄積されていく。
結果、REC中にカメラが揺れたり、撮影後に疲れを感じるケースも多い。
このように、ビデオカムコーダーはその形状においても、如何に最小限の労力で最大限の効果を発揮するかを追求しているのだ。
ここまで、何故ビデオカムコーダーを待望する声が絶えないのかを考察してきたが、前述の違いが、カメラの優劣を決めるものではないことは、改めて伝えておきたい。
もちろん、シネマカメラやミラーレスフォト機が描写する世界観は、ビデオカムコーダーでは表現できない場合が多いし、シネマライク、フィルムライクな質感も求めるシーンも多い。
要するに、自分が撮りたい映像や要求される機能に沿って正しい機材を選択するためのヒントとして、それぞれの機能や特徴を知ることが重要なのである。