なぜカムコーダーを選ぶのか?

今回のテーマはカムコーダー(ビデオカメラ)を選択する理由ということだが、その回答は非常に簡単だ。カメラの全てをコントロールして意図した画を撮りたいから…。これに尽きる。こう書けばそれは当たり前のことでは?と言われる方も多いだろう。はたしてそうなのか?

確かにすべてを自分のコントロール下に置かなければ意図した画は撮れない。でも本当にすべてをコントロールして映像を撮っているカメラマンは、今の時代に少ないと個人的には思っている。その感覚は、古くはEOS 5D Mark II以降のデジイチ系を中心にして疑問を感じている。何故か?

写真機ベースのカメラでは「全て」をコントロールしているのかもしれないが、それは「リアルタイム」でできているのかと言えば、9割はNOと言い切れる。

カメラをコントロールする

デジイチ系のカメラとカムコーダー(ビデオカメラ)の大きな違いはレンズコントロールをどこまで自分の意思で動かせるかだろう。映画などの撮るものが台本の元で何回もリテイクできる被写体は別にして、ライブ収録などのリアルタイムで被写体を追うようなものでは、フォーカス・ズーム・アイリスのレンズコントロールを全て自分の意思下に置くことができなければならない。

そして、それを可能にするのはレンズ交換可能な写真系レンズを用いるカメラではなく、固定レンズを用いたカムコーダーしかない(ENGカムコーダーは別枠扱い)。例として報道系では定番となっているZ280や、長年ハンドヘルドカムコーダーとして使われているNX5・NX5Rがなぜ人気なのかは、レンズコントロールが確実にできるから以外にない。

これらの操作はいわゆる3連リングがレンズ上にフォーカス、ズーム、アイリスと同軸上に並んでいないと片手での操作が不可能となる。

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F・Z・Iの3つのリングをリアルタイムで同時操作できないとカメラマンとして失格といっていい。パン棒は上向き下向き人様々だが、レンズは上から掴む様に操作、下から支えてレンズ握っても何も動かせない。それだけでカメラマンの力量がわかってしまう。

今でもカメラマンにカムコーダーが選ばれる理由

前記したが、リアルタイムでレンズコントロールをできるか否かでカメラを選択する、と言っても過言ではないぐらい、レンズコントロールは重要だ。フォーカス・ズーム・アイリスと並んでいるのには意味がある。人差し指でアイリス、中指でズーム、薬指でフォーカスを同時に操作する。これができなければカメラをコントロールすることは不可能だ。

筆者の世代だと業務用ビデオカメラというのはENGカメラしかなかったので、必然とこのレンズコントロールを片手でできる様に練習を積んだのでできるのが当たり前になるのだが、これがいろいろな部分がオート化するようになると3連リングが2連リングになる。さらに小型のカムコーダーになると1連リングにセレクト式で他の機能を共通させることになる。だが、これではリアルタイムにコントロールできない。

写真用レンズでは2連リングでしかない上に、ズームの回転がフォーカスの回転と真逆なものが多い。左回転することで全てがテレ側にシフトするのに対して、写真用の多くのレンズはズームだけ右回転なものが多い。これでは指の動きが逆になりコントロールができない。最近新登場したソニーPXW-Z200が一部のカメラマンから不満が出ているのは2連リングだからだ。

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1連リング(ソニー「PXW-X70」)
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2連リング(JVC「GY-HM175」)
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3連リング(JVC「GY-HM600」)
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やはり3連リングではないと100%のコントロールはほぼできない。フォーカスとズームはメカニカルリングだと、なおコントロール性が良い(JVC「GY-HC550」/パナソニック「AG-DVX200」)
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被写体までの距離があるライブ収録やコンサートではマニュアルズームよりもズームデマンドを使って、左手でフォーカス・アイリス、右手でズーム操作の方がバランスが良い。ズームもマニュアルでやりたいところだが、写真用のズームレンズと違ってカムコーダーのズーム比は20倍~26倍。ここまでの倍率だとテレ端の動きがシビア過ぎるので基本はデマンドを使うべきだ。

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1連リングの場合は、ズームのみに集中できるような使い方を考えなければならない。どうしても小さいカメラでの収録をしなければならないときは、何かを犠牲にする必要があるので画作りはその辺もディレクターとの相談は必須だろう。光が一定の場所、例えば曇天での収録ならリングにフォーカスを割り当て、ズームはズームデマンドで行えば2連リングのカメラとほぼ同じ動きはできるはずだ。

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車いすマラソン2021スペシャルレースのカメラカーを担当したときのセットは、バイクのタンデムで撮るため、小さいカメラを使う必要があった。上記写真は、X70をベースにRIGを組んだもの。フォーカス部分はAFに任せて、なるべく操作に負担がないようにセットアップ。約2時間バイクの後ろに座りっぱなしの中なので最低限の操作性を重視した。

しかしアーカイブを見るとやはり、2連リングのカメラでフォーカス部分もしっかりコントロールするべきだと思い返している。

Z200がフォーカス・ズームの2連リングで残念に思っている方も多いだろうが、マルチカメラ環境でVEが居るならばRM-30BPなどをLANC接続で使い、アイリス部分は任せてしまうということも考えられる(RM-30BPなら1台で3台のカメラをコントロール可能)。

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今でもカムコーダーが選ばれ続けている理由

動く被写体をリアルタイムに追いかけるにはカムコーダーしかない。大判系のカメラが高画質と言われているが、とにかく使う場所が限定され過ぎる。リテイクができる現場で、台本ありきでカメラの動きもしっかりしている現場なら、筆者もFX3&6等のカメラを使うかもしれない。

しかし、レンズワークが必要な収録ならカムコーダー以外の選択肢はない。バックフォーカスを調整できない(し難い)写真系のレンズではズームを動かすたびにフォーカスが狂うので特にライブなどでは使えない。

ズーム操作でフォーカスがずれてもAFで補正してくれるので問題ないのでは?と思う方もいるかもしれない。

ただ、それは3、4倍程度のズーム比率の場合だろう(筆者的にはそれ自体も信じてないが)。インデペンデントな出演者で小さい箱での収録ならそれでも足りるかもしれないが、そもそも使い方が違うので、それで大丈夫と思っている方は今一度カムコーダーの使い方を覚えた方が良いだろう。

AFやAEの技術が最近は格段と進歩しているが、それでもまだまだ人間の手によるMFの方が正確だ。AFを否定しているわけではないが、過信はもっと駄目だ。よくF1だって「ATの時代にマニュアル操作するのはナンセンス」という言葉も聞かれるが、その考え方自体がナンセンスだ。カメラにおけるF・Z・Iは、F1に置き換えるならハンドル・ブレーキ・アクセルだ。

ATの部分というのはカメラだとズームデマンド程度の話になる。つまり、人間が操作する部分はリニアに動かなければそこに結果がついてこないということだ。この先、大判系の交換レンズにちゃんとF・Z・Iがコントロールできる物が出てこない限り(現実にない訳ではないがまだまだ高価な類)舞台やコンサート、スポーツ系では確実にカムコーダー以外の選択肢はない。ダイナミックな映像を撮るにはカムコーダーしかない。

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舞台やコンサート、スポーツ系では確実にカムコーダー以外の選択肢はない

フォトグラファーからビデオの世界に飛び込んでくる方や、映像系の学校以外のゼミを出た方からすると、カムコーダーは低画質でダサいと言われているうわさもよく聞く。だが、そういう方はYouTubeなどの見過ぎで、実際の現場を知らな過ぎるのではないか?というのが筆者の考えであり、カメラマンを生業にしている方の同意部分でもあると感じている。

今後のカメラ選択

何が何でもカムコーダーが良いとは思っていないが、筆者の現場で人を集める時に若い世代はカムコーダーの扱いが本当にダメで、中々人員を揃えるのに苦労することが多々ある(ENGカメラだとほぼ絶望的だ)。某ビデオグラファー系のイベントでのセミナーでも話が出るのは大判センサー系の話ばかり。

確かにこの風潮ではカムコーダー自体の存在が中々表に出にくいが、カメラマンを生業としてお金を稼ぐという話なら、特に若い世代、業界の浅い世代は大判センサー系のカメラよりもカムコーダーを確実に扱えるようになる方が良い。

カメラ系のYouTuberがよく使う言葉の「案件」1本よりもカムコーダーを扱えるカメラマンの1本の方が確実に稼いでいるのが良い例だと思う。これをカメラマン歴が長い方ほどわかっているので、いろいろなカメラを使い所持しているにも関わらず、1台だけ選ぶなら自分の手の中にしっくりとくるカムコーダーを選ぶのは当然のこと。

最近は映像業界の流れ的にメーカーもカムコーダーの新規販売が少ないが、先日発表された2連リングのZ200ではなくカメラマンは3連リングを搭載したNX5シリーズの後継機種(3連リング、4K、IP装備、60iも装備しているカメラが実際に出てきたら即座に購入する)の登場を心待ちにしているはずなので、ぜひ早い時期での登場を願うばかりだ。

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この様なインタビュー中心の収録なら、FIXを大判系カメラ、動きの部分をカムコーダーという組み合わせが使いやすい。これが両方とも大判系だと、何か現場での台本変更の時にアドリブが利かない場合にどうしようもなくなる可能性がある

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。