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SXSW2025の映画祭が注目される大きな理由

SXSW2025の映画祭が注目される大きな理由の一つとして、上映カテゴリーの一部にXR映像部門があることが挙げられます。XRとはVR/AR/MR等の先端技術を用いた映像表現の総称で、テクノロジーと未来についての議論が行われるSXSWならではの特徴と言えます。会期中の3月9日から11日の3日間にかけて、「XR Experience」と呼ばれるXR作品だけを集めた展示会が開催されました。

会場となるFairmont Hotelは、XRをテーマとしたカンファレンスセッションの会場にもなっており、最先端のテクノロジーを開発する人々や映像クリエイターが一同に会し、それぞれの表現を披露する場所となります。

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XR ExperienceではVRヘッドセットを装着して体験するタイプの作品が多いために、どうしても一度に視聴可能な人数が限られてしまい、毎朝の展示会オープン時間には当日受付の予約枠を求めての行列ができます。

そんなハードルもあり、現地でも人気作品は体験するチャンスを得るのが難しいのですが、今年も特に人気を集めていた作品をいくつかご紹介したいと思います。

様々な社会課題やSF的な未来の可能性が議論されるSXSWだからこそ、XR Experienceに並ぶ作品もそれぞれのテーマやメッセージ性が色濃く反映されたラインナップが特徴です。

人気作品をピックアップ

1906 Atlanta Race Massacre

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VR界のゴッドマザーと呼ばれるNonny de la Peñaによる作品。彼女はSXSWには毎年登場していて、2022年にはこれまでの功績を称えられHall of Fameにも選ばれています。彼女のドキュメンタリー作品は、XR技術を使うことによってまるで自分がその場に存在するかのような当事者目線を再現することを得意としています。

今回の作品は、1906年に実際に起きたアトランタでの事件をベースに、その真実を伝えようとするジャーナリストの目線をスマホやタブレットのカメラを通してARで追体験できるというプロジェクトです。

Cosmos in Focus

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2021年に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、135億年前の天体から発せられた光を観測できると言われており、人類がまだ見たことのない宇宙の姿を映し出します。そんな高解像度の銀河の様子を、Apple Vision Proを通して手の届くような目の前で体験できるという映像作品です。

SXSWでの宇宙に関するセッションにはNASAの研究者が登壇することが多く、これまでにはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の開発者が登壇したこともあります。今年のカンファレンスでは、アルテミス計画で月に向かう予定の宇宙飛行士4名が登壇するセッションが開催されました。

Face Jumping

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アイトラッキング技術を活用したインタラクティブなVRアニメーション作品。登場キャラクターや動物・オブジェクトに目線を合わせると、自分の視点が入れ替わり、そのキャラクターの視点から世界を見ることができるようになります。

例えば、木の視点から見ると世界は早送りで再生され、ロボットの視点で見るとデジタル映像っぽく表示され、犬の目線では匂いが視覚的に見えるようになるそうです。私達は普段どんなバイアスを持って世界を捉えているのか、そんな疑問を投げかけられる作品です。

Uncanny Alley:A New Day

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サイバーパンクなメタバース世界にハッカーとして入り込み、囚われた民衆を脱出させるVRゲーム風の作品。ロボットの見た目をしたアバターに乗り移り、人々を導きながらポータルを通って安全な世界へと導きます。

コロナ禍にSXSWがオンライン開催された際には、VRChatのバーチャル空間に再現されたオースティンの街にアバターの姿で集まる「XR Experience World」が開催されましたが、アバターを通したコミュニケーションやゲーム性といった点では、こういった作品にコロナ禍の経験が引き継がれているように思いました。

Resolution:A Cinephonic Rhapsody for the Soul

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The Polyphonic Spreeというバンドの楽曲に合わせて展開される、没入型のミュージックビデオのようなアニメーション作品。展示会ではドーム型のスクリーンに映像を投影する上映会を行いました。楽曲の世界にどっぷりと入り込むことで、観客に癒しを与えるだけでなく、人生の喜びや希望を感じさせる様な新しい音楽の視聴体験を提示しています。

SXSWのカンファレンスでは、メンタルヘルスケアの文脈でのVR映像の活用についてのパネルセッション等も行われており、音楽と映像による未来のヘルスケアの可能性と言えるかもしれません。

Future Botanica

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AIによる画像生成によって、この世には存在しない新たな植物や生物をデザインして楽しむARアプリ。部屋の中に設置されたQRコードを読み込むと、画面上に奇妙な植物が表示され、その遺伝子構造を動かしながらオリジナルの植物をデザインしていく。オランダのデザインスタジオPOLYMORFによる作品で、彼らはこれまでもSXSWでは先進的なXR作品を発表しています。

環境問題や遺伝子編集技術についての議論も多いSXSWでは、単なるアートだけでなく、問題提起とも捉えられる作品です。

Origins – Life’s Epic Journey

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宇宙の誕生から生命の誕生までを映像と音楽で描くというインスタレーション作品。部屋の中に3面のプロジェクターが設置され、ビッグバン・太陽の誕生・地球の誕生・生命の誕生という悠久の流れを美麗な映像で表現した、没入的でトリッピーな映像体験でした。

番外編:XR Experienceの他にもあるSXSW2025のイマーシブ映像体験

SXSWは屋内の展示会だけではなく、オースティンの街中でも様々なイベントやインスタレーションが開催されるので、街を歩きながら色々な発見ができるフェスティバルとしての面白さもあります。今年はXR Experience以外の場所でも没入型の映像体験ができるイベントや施設が目立っていたので、ご紹介したいと思います。

Black Hole Experience

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総合展示会のSXSW Expoの方に現れた巨大なトラックの中には、ブラックホールの様子を表した映像体験ができる空間が広がっています。映像表現を通して地球環境問題のメッセージを発信するカナダのNPO「Age of Union」による作品で、宇宙における私達の位置、そして地球における私達の役割を思い起こさせる事を目的としているそうです。

The Museum of the Future House

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SXSWでは様々な企業やブランドがオリジナルイベントを行うが、その中でも今年話題を集めていたのは、3月7日〜11日にかけて行われたDubai Future Foundationによる企画だ。街中に設置されたドーム型ハウスの中では、巨大なLEDスクリーンを用いて画像生成AIによるインスタレーション「Earth Dreams」が上映された。

その他にもFuturistを集めてパネルセッションを行ったり、「2050」というカンファレンス部門のスポンサーになったりと、未来への先進的な取り組みにおいて今年はドバイの存在感が目立っていた。