田村雄介のThe Side Gearsとは
昨今、カメラ本体の性能は飛躍的に向上し、メーカーごとの味付けや機能の差はあれど、一部のフラッグシップ機を除けば、大きな差を感じられない。各社の技術力が高く、拮抗し、カメラ選びに決定打を見いだせない方も一定数いると思われる。
さらに、筆者をはじめプロ、アマチュア問わず、撮影に携わる方の多くは無意識の領域で「どうしたらもっと撮影しやすくなるだろう」という苦難と葛藤していることだろう。
今回はそんな葛藤を解決するヒントになればという老婆心から、筆者愛用の大小様々なSide Gearsを紹介する。
01:INOVATIV Voyager 36 NXT WorkStation
まず初めに紹介したいのが「INOVATIV Voyager 36 NXT WorkStation」だ。
1つ目としては比較的大物で「Side Gear」に類していいのか悩むところではあった。「撮影用カート」は、車を所有する撮影関係者ならどのポジションの方が所有していても未来永劫役に立つと言える機材である。
現場に持っていくと「え…それ所有してるの?」と引かれることも多いが、個人的にはカメラやレンズをたくさん所有する前にまずはこれを買うべきだったと思うほど役に立つ。
この「撮影用カート」というジャンルは、最近各社が参入しつつあり多様な展開をしているが、ブランド力で言えばINOVATIVがNo.1と言っても過言ではない。現在は円安の影響もあり少々身構える価格感になってしまっているが、それでも絶対に役に立つと言い切れる。
ラインナップは様々あるが、筆者の推しはこの「Voyager(シリーズ)」の「36(約91.4cm)(サイズ)」の「NXT(タイヤ種類)」だ。完全折りたたみ式のVoyager、完全収納形態では薄い箱の中にタイヤ一式まで仕舞い込める省スペース設計、40サイズ(約101.6cm)までいくと少々持て余すが、36サイズ(約91.4cm)なら一般的なミニバンクラスに楽々積み込め、NXT仕様のタイヤはEVO仕様のタイヤと比べると少々重いが、重量と引き換えに購入予算を抑えるのに役立つ。
階段や大きな段差が多い地形は確かに苦手だが、駐車場から離れた場所に行くときなど本格的なタイヤのおかげで難なく移動できる。操縦のコツを覚えればエレベーターの乗り込みやドアの通過、オフィスビル内の移動などで挫折したことはない。もちろん堅牢性も充分なので、荷物を積んで移動した後は撮影ベースを作るもよし(本来のVoyager的使い方)。
そのまま荷物固めに使用して、上段にレンズ一式や細かい物を展開、下段に空ケースなどを収納すれば、使いやすくかつ紛失防止にもなる。
使用方法を変えて、その現場に合わせた効率的なワークスペースを作ることができる(筆者の場合は個人所有なのでカート自体で車内や自分が傷つかないように所々カスタムしている)。
レンタルハウスなどでも借りることができるので、気になる方はぜひ一度触れてみることをお勧めする。
02:ノーブランドマット ボックス Adapter Ring for 114mm(+etc)
続いて紹介するのは、マットボックスを使う際に必須のAdapter Ringだ。
ここ数年でカメラ用のフィルターは多種多様に充実したと感じる。レンズ前に捩じ込むタイプのフィルターは主にフォト用という認識だった。しかしながら映像用としての効果を持つものも増え、その装着方法もマグネットや可変式などバリエーション豊富だ。さらに、ミラーレス機が主流になりマウントアダプタにスロットインするタイプも普及している。
映像用として主流であった、マットボックスに差し込んで使用する板ガラスタイプのフィルターも、マットボックス自体が小型化したりいろいろなギミックが発明されたりと、選択肢が大きく増えた。
当然撮影スタイルは多種多様なので「このフィルターシステムが使いやすい」というのは時と場合によるが、個人的にマットボックスでのフィルターワークはモチベーションが上がる。
一方で、マットボックス運用には懐を直撃する地味な問題がある。それは、レンズの大きさや種類に合わせてサイズ違いのアダプターリングをいくつも揃えなければならないことだ。
「本格シネレンズの分だけでいいか」と思いきや、Thypoch Simera-CやNisi ATHENA PRIME、Cooke SP3など最近一気に小型化が進んだ人気本格シネレンズ達。なんとも魅力的で使用してみたいが、手持ちのシネレンズとは前径が異なる。
そんな時に見つけたのがこのアダプターリングだ。自分でも眉唾物の商品だと思う。何せノーブランドなのだ。どこのだれが作っているのかもわからない。品質保証もない。しかも販売元は某海外のオンラインサイト。
ただ値段は、名の知れたブランドの1/10。アダプターリング1サイズにつき1,300円前後~(2025年7月現在)だ。
手元に用意したのは、中~大型シネレンズで採用されている「前径114mm用マットボックス」に使う「~mm to 114mm」のアダプターリングだ。
驚くことに46・48・49・52・54・55・58・60・62・67・72・77・82・86・95・105mmと主要なサイズを網羅している。そして質感はというと、安っぽさはなく、堅牢な塊感が伝わってくる。
さらに先端の外径が114mmになっているだけではなく、内径に105mmのねじ切りがしてある。これにより105mmサイズのリングは105mm to 105mmと少々難解な面白筒状態になっている。これが1300円前後とは恐れ入る。
欠点といえば若干重いのと、使用する組み合わせによってはレンズの前玉からフィルターまで少し距離ができるので、NDやCPLを使う際は内面反射に注意が必要なこと、質感を加える系のフィルターを使用する時に適切な効果がでているか確認が必要なこと。
そういう点では老舗メーカーの製品はよく考えた設計になっているが、コスパを考えると非常に助かる。
なお、このシリーズは「~mm to 95mm」や「~mm to 85mm」「~mm to 80mm」なども存在する。大小様々なマットボックスに対応できるラインナップの豊富さにはもはや脱帽だ。さらに余談だが「メタルレンズアダプタキャップ」(1,500円前後)なるものも存在する。今更ながらこの製品の製作者が誰なのか気になるところである。
03:Desview テレプロンプター T3
撮影現場でよくある怪談…。
プロデューサー:今回コメント撮影ありますけどプロンプターとか必要ですか?
クライアント様:大丈夫大丈夫!私そういうの全然できるんで予算かけなくていいですよ!
そんなやり取りのうえ迎えた撮影当日「あ…あ、あ……(ガチガチ)」。古から繰り返され、多くの撮影者を悩ませるその状況に備えて常備しているSide Gearが、2万円以下という手頃な価格で販売されている「Desview テレプロンプター T3」である。
テレプロンプターとは何か。あまり馴染みのない方のために簡単に説明すると、原稿を映したマジックミラーの後ろにカメラを設置し、極力カメラ目線を維持したままカンペを読み上げるシステムのことである。
本格的なものだとおよそ20万円超という、そこそこ値の張る機材だ。人物がカメラに向かってコメントする撮影では、これの有無で撮影の進行が大きく左右される。筆者の経験だと、打ち合わせで自信満々な出演者ほど本番で喋れなくなるケースが多い。そんな時「スッ…」とお出しできるように、インタビューやコメント撮影がある日は「一応」「念のため」小型タブレットと共に毎回忍ばせるようになった。
非常にシンプルかつ小型なので機能は必要最低限だが、原稿とまではいかずとも、今何について話しているかを表示しておくだけでも進行は雲泥の差だ。

プロンプターを使うとなると原稿の用意と本体のレンタル、画面スクロールや原稿の書き換えを担当するオペレーターの追加と仰々しい様子を思い浮かべる方も多いだろう。
そうなると、撮影する側もそうそう咄嗟に出せる機材ではないが、このくらいの簡易的なものを忍ばせておいて、必要な場面で「実はこういうものが…」と出し、スマホで作った簡単な原稿をタブレットに送ってもらい投影する。実際にこれで事なきを得たことが何度あったか数えればキリがない。
当然毎度使うものでもないので、いわゆるお守り感覚で持ち歩いておくと、いざという時に撮影現場がハッピーになる可能性を持った機材だ。
ただし、リモコンの使い方やクセ、セットアップ方法や使用カメラへの合わせ方など、所有したからには事前テストや練習は必須である。
04:Libec QL40B
最後に、今回の企画に際してLibecの「QL40B」を使用する機会を得たので、ぜひ紹介させてほしい。
Libec QL40B

QL40Bは、カメラマンの負担を軽減するため、多くの映像クリエイターの声を取り入れて開発されたクイックロック三脚である。
最大の特長は、特許出願中の新ロック機構。上段のロックひとつで瞬時に高さ調整ができ、フリップ式ロックによりわずかな動作で確実に固定・解除が可能なところだ。

ロックの形状は人間工学に基づいたデザインで、下からでも横からでも指をかけやすく、直感的に操作できる。下段ロックをなくしたことで屈まずに操作でき、セッティング時間を大幅に短縮。作業効率と快適さが向上した。さらに、従来モデルRT30Bを大きく上回る198cmの最大高を実現。レンズ高は2mを超え、イベントや取材現場でも追加機材なしでハイアングル撮影が可能となった。
市場にはメンテナンスが難しく修理費用も高額になりがちな三脚が数多く存在するが、QL40Bはその常識を覆し、脚の固定力が落ちにくい独自構造に加え、付属の専用ツールで誰でも簡単にメンテナンスが可能。わざわざ高額な修理に出さずとも、ユーザー自身で最適な固定力を維持できる。
長期的に使い続けられる"経済的なクイックロック三脚"として、ランニングコストの面でも大きなメリットを発揮する。その他にも持ち運びに便利なキャリングハンドルやアクセサリーポートも搭載しており、コストパフォーマンスの高い三脚と言える。

QL40Bはいわゆる各脚一箇所のロックで 全ての段数をロック&リリースするタイプ(Libecの正式名称はクイックロック)の三脚である。原理的にはだいぶ昔からあるものだが、Sachtler/Vintenのflowtechによって大流行となった。筆者も普段Sachtlerのflowtech75と100mmのSpeedLock CFを使用している。そこで、せっかくなのでQL40Bは同じような機構で、どういう思想の三脚なのか比べることにした。
まず気付いたのは、ロックレバーの形状と位置。三脚を持ち上げる「取手」のような形状で常に最上位置にあり続けるflowtech、ロックレバーは横向きだが伸ばした脚の全高中央付近に位置し続け、ハイアングルにした際に手元でロック操作がしやすいSpeedLock。そしてこの両者の中間に食い込んでくるのがQL40Bだ。
ロックレバーは持ち上げやすい形状でありつつその位置は全高の真ん中付近にくる。操作性の良し悪しを大変良い方向に埋めてきた、そんな印象だ。
QL40Bはビデオ三脚に求められるツインチューブ仕様で、きちんとしたワークを求められるビデオカメラユーザーをメインターゲットにしている。あくまで個人的な感想であるが、各脚のポイントを並べてみたので参考にしてほしい。
QL40B
<メリット>
- flowtech、SpeedLockよりも圧倒的に安い(flowtechの半額以下)。
- 操作しやすいレバー形状と位置でハイアングルからローアングルまで様々な現場で使用しやすい。
- ツインチューブで捻れ剛性も高い。金属性のため「割れ」の心配がない。
- カーボン脚でよくあるパイプの歪みや摩耗で、スムーズに伸ばせなくなることがない。
- 全伸時の高さが高いため、ハイアングルが必要な撮影で有利。
- 耐荷重がflowtechの2倍(flowtechは耐荷重20kgなのに対し、QL40Bは耐荷重40kg)。
- ユーザー自身である程度のメンテナンスができる。
- 万が一メーカー修理が必要となっても海外製に比べて懐に優しい(安いし早い。日本メーカーならではの強み)。
<デメリット>
- ロックレバーはもう少し重厚感と丸みがあっても良い。
- スプレッダーなしの運用ができない。
- ハイアングルが有利な一方、ローアングルが少し高め。
flowtech
<メリット>
- 極端なロー・ハイでなければ、常に操作しやすい位置にロックレバーが来る。
- 独創的なデザインとフルカーボン仕様による耐環境性能。
- スプレッダーなしで運用が可能。
<デメリット>
- 最上段にロックレバーがあるためハイアングル時はロック動作がしにくい。
- クランプなどを使う際は割れに注意が必要。
SpeedLock
<メリット>
- ワンアクション三脚の先駆けとして業界標準的存在。
- シンプルな操作性。
<デメリット>
- 構造的な問題でロックの要となる棒が破損するとロックができなくなる。運搬中、撮影中のハードヒットで壊れたという報告多数あり。
QL40Bの紹介なのに各社クローズアップしてしまった感があるが、正直なところ今回挙げた4種類の三脚クラスまでくるとプロダクトとしての完成度は高い。様々な新興ブランドの製品と一線を画すモノであるのはいうまでもない。さらに言えば、載せるヘッドも使用感に大きく関わってくるので、一通りデモ機が揃っている店舗に行って実際に吟味することをお勧めする。
Libecに一つ要望があるとすれば、100mm対応のQLシリーズを是非発売して欲しいということだ。できるだけ三脚のブランドは合わせておきたいと思いつつ、小規模で複数カメラを回すことが多い筆者の撮影環境では、どうシャッフルしてもハマるように、ワイルドカード的に100mm仕様のQL40Bを組み込むのもアリだと実際に感じている(もはや2箇所ロックの三脚には戻れなくなりつつある)。
さらに言うなら、Libecといえば何といっても日本ブランドである。円安、関税などの様々な要素で少々現実離れした価格になりはじめている他社に対抗して、安定した供給と価格に期待している。
総評
今回挙げた以外にも紹介したいものはたくさんある、はっきり言ってネタにはキリがない。改めて「The Side Gears」というテーマを通して、自身の機材に対する思い入れを認識できたのは貴重な機会であった。
いつの日かこの記事の読者と現場でお会いし、熱い機材談義を交わせる日を楽しみに思う。