クルマを撮影するということ
「あのクルマをカッコよく撮りたい!」
街中で出会う美しいクルマに心惹かれ、そんな想いを馳せたことはないだろうか。
筆者がクルマに興味を持ったのは15年以上も前のことだ。撮影帰りに横浜みなとみらいを颯爽と走るポルシェ911カレラを目撃し、その美しいフォルムに見惚れるとともに「あんなクルマを撮影してみたい!」と思ったことがキッカケだ(「欲しい」よりも「撮影したい」と真っ先に思うのがカメラマンの奥ゆかしくも愛すべき性分である)。
クルマとは、自分が運転して走行している姿を自分で見ることはできないが、購入の決め手に"デザイン"が大きく影響する一風変わったプロダクトだ。だからこそ動画におけるファーストインプレッションは直感でクルマは「カッコいい」と感じてもらうことが非常に重要なのである。

クルマの撮影には、実に様々な配慮とテクニックが必要とされる。なかでも気を遣うのは走行シーンでの撮影だ。
個人的にはクルマがもっとも輝くのは走行シーンだと考えている。当然だがクルマは走ってこそ美しい。視聴者は動画の中で疾走するクルマの姿に、その運転席でステアリングを握る自分を投影し、憧れと所有欲を抱くのだ。
そうした想いを掻き立てるリアルな表現は、先行または並走する撮影車からのいわゆる「ひっぱり撮影」が効果的だ。筆者の場合は撮影車のリアガラスやボディパネルにカメラを装着して遠隔操作で撮影することが多い。
「後部座席から望遠で撮影してるんじゃないの?」「クルマの上に"やぐら"を組んでカメラ装着してないの?」と思うかもしれないが、実際は撮影に携わるスタッフは多くても3人程度の場合がほとんどで、時間的にも人数的にも残念ながら多くの人が大掛かりなシステムを組み撮影することは難しいのが現実だ。
現場でのセッティング時間を短縮し、且つ映像にも妥協しない。そんな条件に当てはまるカメラが「DJI Osmo Pocket 3(以下:OP3)」だった。今回は、OP3をさらに活かせるギアや、自動車メディアのビデオグラファーとして活動する筆者が、試行錯誤の末にたどり着いた愛用のSide Gearを紹介できればと思う。
01:Movmax Blade Arm 、TILTA Hydra Alien Mini
走行中の揺れを抑えるためのギアとして最初に目を付けたのがMovMaxの「BLADE ARM」だ。

今では量販店などでも普通に購入できるが、当初は本国の専売サイトでのみ販売しており、購入から入手までは数週間を要した。
本体はかなり存在感があり剛性も高い。アームに組み込まれた大きなダンパーが上下動にあわせてショックを吸収してくれるという仕組みだ。セッティングはシンプルで、角度を合わせてカメラネジで下からOP3を固定するのみとなる。
カメラマンは撮影車の助手席でプレビューしながら画角の微調整および後続車にポジションの指示をしながらスマートに撮影ができる。もちろんOP3の標準機能であるアクティブトラックも併用する。

実際にやってみるとこの方法は実に合理的だ。ただ、構造上の理由でアームの角度に微妙に制限があったり、手動式の吸盤ゆえ、高速域やオフロードの走行中に脱落するのではないか?という心配もある(実際にそのようなことはなかったが)。検証を含め、他社製の同じような機器も導入することにした。
同業者からの情報で知ったのがTILTA 「Hydra Alien Mini」。サクションカップに電子吸盤を備えたアイテムだ。

こちらもセッティングはシンプルで、3つのパーツに分かれたアームを組み上げ、オプションのブラケットを取り付けたらあとはクルマのリアに電子吸盤で圧着するだけ。この電子吸盤がかなり強力で、脱落の不安を大きく減らしてくれた。

装着する環境によるが、前者で気になっていたアームの角度も、こちらのほうがやや余裕があり自由度が高い。さらに、オプションパーツの衝撃吸収ヘッドが+αの衝撃吸収に貢献し、底付き状態でのブレが少なくなった。クルマ好きの読者には伝わると思うが、さながら某高級車に搭載されたウィッシュボーン・ダンパーのような機能と佇まいである。

オリジナル動画から抜粋した短いクリップではあるが、このシステムで撮影した走行シーンをご覧いただきたい。
オリジナル動画はこちら
正直、一般的な路面であればシンプルな吸盤にカメラを固定し、O.I.SやB.I.S頼りで撮影することも可能かもしれない。しかし、収録素材を見てプレビューの際には分からなかった細かい振動が出ていたり、ブリージングが発生して満足に使えなかったりすることも多く、クルマのカッコよさを最大限引き出すためにはこのSide Gearの存在は大きい。
ただ、Hydra Alien Miniについて欲を言えば、ネジで締める接点の数を一つでも減らすことでより剛性が高まるとありがたい。収納を考えると悩ましいポイントではあるが今後の改良に期待したいところである。
また、一度だけHydra Alien Mini の電子吸盤が原因不明のエラーを起こして機能しないことがあった。TILTA Hydra Alien Miniには手動ポンプ式もあるが、それぞれ別個体が必要なため、電子式をベースに予備機構として手動の両方の機構を備えた製品が出れば鬼に金棒である。
「Movmax Blade Arm」と「TILTA Hydra Alien Mini」のポンプ方式の違い
※公道においては車両の全長や全幅を超える位置に機材を装着すると突起物として道路交通法違反になることがあるため、くれぐれもご注意ください。詳しくは事前に管轄の警察署などにお問い合わせください。
02:DJI SDR Transmission
2024年に登場し業界を賑わせた、SDRとWi-Fiの両方による映像伝送システムである。

登場からやや時間は経っているものの、使うたびに改めて使い勝手の良さを実感するので紹介しておきたい。
スペースや時間の都合もあるが、カメラマンとしてはディレクターやクライアントにモニターで逐一プレビューしてもらいながら撮影を進めるのが理想である。
しかし、特にクルマの撮影においては、有線でモニターとカメラを繋ぐのは現実的ではない。
以前からWi-Fi無線伝送システムを使用してはいたが、どうにも接続が安定しない。その都度再接続されるのを待つというのは地味に撮影時間を圧迫するし、最悪の場合「あ、ちょっと…画が出るまでお待ちください」などと言ってるうちにクルマは眼の前を通り過ぎていく。
それに比べて、このSDR Transmissionの安定性と伝送距離は頼もしい。
自動周波数ホッピング機能で、シームレスにチャンネルを切り替えてくれるうえ、遮蔽物のないサーキットのショートコース程度の広さは難なくカバーしてくれる。さらに、専用アプリを使用すればレシーバーを通さずにスマホやタブレットでプレビューできる手軽さも嬉しい。そんな高いスペックを持ちながらも、UIはシンプルで送受信機のサイズも他社製品とさほど変わらない。


03:撮影に適したクルマ
日本中、いや世界中のカメラマンがほぼ100%使用している、ある意味最も汎用性の高いSide Gearがある。
そう、「クルマ」である。
筆者がクルマの撮影を生業としていることはお分かりいただけたと思うが、もちろん私自身も撮影のためにクルマを使っている。
そこで、カメラマンのクルマ選びの参考として、いくつかのクルマのタイプを分類して紹介したい。
近年、カメラや周辺機材が小型軽量化したとはいえ、やはりクルマは撮影の仕事には必須だ。ところが、道幅の問題や駐車場の有無など、ある意味撮影よりも頭を悩ませるケースも少なくない。
荷物やスタッフを運ぶという意味ではトヨタのハイエースは秀逸だ。だが、フリーランスで撮影の移動車と自家用車を兼用しているカメラマンにとっては必ずしも最良ではない。そういった事情も含めて、ある程度の機材積載性と大きすぎないボディサイズということを条件に、仕事にも私用にも適したラインナップを挙げてみた。
コンパクトミニバン
トヨタのシエンタやホンダのフリードなどに代表されるコンパクトミニバンは荷物の積載性もさることながら後席スライドドアを備え、荷物を持った状態でも容易に開閉することができる。
リアハッチが観音開きのルノー カングーもカメラマンに人気がある。

SUV
近年、乗用車のメインストリームになりつつあるSUV。
撮影場所まで長距離の移動となると、その乗り心地や視界良好性によって疲労度がかなり変わってくる。また市街地の舗装路だけの移動であれば良いが、たとえば山道やキャンプ場などのオフロードを走る際には、最低地上高が200mm程度は欲しいところ。
スバル フォレスター、日産 エクストレイル、三菱 アウトランダーPHEVなどはパワートレーンも頼もしく走破性にも優れる。

ステーションワゴン
SUVのような走行性能を持ちながら、立体式駐車場(タワー式やパズル式含む)に駐車したい人にはステーションワゴンがおすすめ。
日本の立体駐車場の上限サイズに多い1,550mm以下で乗り心地も良く、充分な積載性ということを考えると、BMW 5シリーズツーリングやボルボ V60など、わりと高価な輸入車が選択肢として入ってくるのが悩ましいところである。
また、BMWの5シリーズツーリングには独立開閉式リアウインドウといって、リアゲートを開けずに窓だけあける便利機構が存在したのだが、現行モデルには付いていないらしい。ちなみにミニバンである日産セレナ、オフローダーのトヨタ ランドクルーザー250にも同様の機構があるが、クルマのサイズ的に異なってくる。

個性派オフローダー
乗り心地や積載性よりも、カメラマンは己の好きを極めるのだ!
という方にはスズキ ジムニーのようなオフローダーがオススメである。5ドアを備えたジムニー ノマドは人気集中で入手困難とも言われているが、こだわって撮影する職人気質を前面に押し出すことが可能である。

カメラマン自身も現場の「Side Gear」
私自身は自動車を評価・評論する立場にはないため、私がクルマの人気や売れ行きにどこまで貢献しているのかはわからない。
私の仕事はあくまでクルマの良いところを少ない時間で見極め、映像という手段を用いてお伝えするというサポート役である。様々なSide Gearの力を借りながら撮影をしている自分自身も、自動車メディアにとっての「Side Gear」的な存在であると感じる。
今後一人でも多くの「次の愛車選び」や「クルマへのあこがれ」をつくるお手伝いができたなら幸いである。
浜崎 大祐(はまざき だいすけ)氏 プロフィール

株式会社CLIPS プランナー/ビデオグラファー
映像制作プロダクションにおいてカメラマンとしてキャリアをスタートし、広告プランナー、ディレクターを経て、現在は企画・制作、技術まで担うワンストップ映像クリエイターとして活動中。
制作ジャンルは自動車のほか、ITや医療福祉系などのサービス、エンターテインメント領域やイベント演出映像など多岐にわたる。
現在は自動車専門YouTubeチャンネルである「LOVECARS!TV!」の制作を担当するとともに日本カー・オブ・ザ・イヤー 実行委員を務める。
画像・動画提供:LOVECARS!TV!
自動車ジャーナリスト・河口まなぶが中心となってお届けする、"クルマのある生活"を身近にする自動車情報チャンネル。
新車動画を中心に2019年8月から毎日更新。
チャンネル登録者数は56万人、総再生回数は6億回にもおよぶ。