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CESは、基本的には商品化されるプロダクトのプレゼンテーションの場だ。アカデミックな実験の場ではなく、ビジネスの見本市である。だからこそ、CESである特定の領域の製品を多く見かけることは、その領域のプロダクトのコモディティ化が進んでいることを如実に意味する。そういった「技術の民主化」の傾向を定点観測するうえでも、とても参考になる場所だ。

今回、あることに気づいた。あまりにも「LOVOTもどき」が多いのだ。日本のベンチャー企業GROOVE Xが、技術の粋を集めて世に問うた「役に立たない、でも愛おしい」家族型ロボットが「LOVOT」だ。

そのフォロワーとも呼べる製品が、中国メーカーを中心に、ベンチャーや大手家電メーカーからも、屈託なく大量発生している。

これは単なるパクリ騒動として片付けるべき話ではない(筆者は、パクリを否定はするにせよ肯定する立場ではない)。この光景は、ロボット開発における特異点――「魂の民主化」が完了したことを残酷な形で示唆してしまっている部分もあるからだ。以下の動画はBASSDRUMの京都にいるLOVOTの「でまっち」

「もどき」の定義と、増殖する亜種たち

会場で見かけた「もどき」たちの定義は概ねこうだ。人と目を合わせるためのLCDディスプレイの「目」を持ち、布や柔らかい素材で覆われた「もふもふ」した筐体。車輪でコロコロと移動し、カメラやセンサーが搭載され、非言語コミュニケーション(鳴き声や仕草)で人間に愛着を形成させる。

もともと、このパッケージングはLOVOTの独壇場だったはずだ。しかし今年、その舞台にいくつものプレイヤーが臆面もなく上がり込んできている。象徴的な4つの事例を紹介する。

CASE01:粗悪だが、速い「momobot」

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Venetianの2階、深圳のスタートアップが集まるエリアの片隅にいたのが「momobot」だ。パッと見のシルエットは本家LOVOTにそっくりだが、近づくとその粗さが目立つ。鼻のパーツは3Dプリンタで出力した積層痕が残ったままで、カメラモジュールもむき出しだ。物理的なプロダクトとしてのクオリティは、本家の緻密な設計には遠く及ばない。

開発者に話を聞くと、「LOVOTは知ってるけど、ウチのは目のアニメーションとか違うから別物だ」と堂々と言い放った。

この「とりあえず形にして出す」というスピード感はいかにも中国であり深圳だが、それが可能になっている状況もできつつあるのだなと感じた。

CASE02:実用への回帰「KATA Friends(SwitchBot)」

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IoTデバイスハブの雄、SwitchBotまでもが「LOVOTもどき業界」にまさかの参入。投入したのは「KATA Friends」だ。

形状は、もう全然LOVOTそのものだが、質感のもふもふ感は増している。

これが面白いのは、「ただの癒やし」に留まらず、同社の強力なエコシステムと連携させてきた点だ。可愛らしく振る舞いつつも、家中のセンサーやカーテン、ロックを制御する「動くスマートハブ」としての役割を担っている。

LOVOTが大事にしていた「役に立たない」を「役に立つ」に転換しているので、似て非なるものではあると言えるが…。

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さらに驚いたのは、くまモンとコラボレーションしていたことだ。良いのかくまモン…。

CASE03:生活の記録者「Ollobot」

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やはり中国系のスタートアップが展示していた「Ollobot」は、「家庭生活のコンパニオン」を標榜していた。

見た目はそこまで似せていないが、その存在感や機能的な立ち位置は「もどき」の範疇にある。特徴的なのは、家族の風景を記録し、AIがそれを学習して振る舞いを最適化していく点だ。

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単に可愛いだけでなく、家族のログを撮り続ける「動くアルバム」兼「見守り役」。「Olloni」というシステムと共に、より生活に密着したデータ活用の出口としてロボットを使っている。が、存在感はLOVOTだとは思う…。

CASE04:家電としての提案「AiME(TCL)」

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そしてあろうことか、大手家電メーカーTCLまでもがこの領域に参入してきた。「AiME」である。Central Hallの巨大なTCLブースのど真ん中で、かなりの面積を占有して展示されていたことからも、その本気度が伺える。

特筆すべきは、その「割り切り」と「再定義」だ。彼らはAiMEを単なる「生き物のコピー」としては作っていない。豊富なカラーバリエーションや、着せ替え可能なテキスタイル、デザインにこだわっている感じはある。

メディア向けには「ただついてくるだけの赤ちゃん(Just a baby that follows you around)」と紹介され、可愛らしさを振りまいていたが、その中身にはTCL独自のLLMが搭載されている。

AiMEは単に愛でられるだけでなく、ユーザーの会話の文脈や健康状態を理解し、適切なタイミングで「テレビでリラックスしませんか?」と提案したり、室内の空調を調整したりする。見た目は「赤ちゃん」だが、その実態は、TCLのスマートホーム網を支配する「動く司令塔」なのだ。

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さらに興味深かったのが、ロボット自身が乗るための「乗り物(モビリティドック)」のようなギミックが用意されていた点だ。ロボットが疲れたら(充電が必要なら)自ら乗り物にドッキングし、颯爽と移動する。その姿は、ペットというよりは、新しいホビーや「玩具」の延長線上にある楽しさを提供している(まあ、LOVOTだなあと思うけど…)。

なぜ今、誰でも「魂」を作れるようになったのか

なぜこれほどまでに、高度な愛玩ロボットが簡単に作れるようになったのか。その背景には、ハードウェアとソフトウェア、両面で起きた革命がある。

まずハードウェアの進化だ。
「部屋の地図を作り、障害物を避けながら移動する(SLAM)」という技術は、ロボット掃除機の普及によって完全にモジュール化され、驚くほど安価になった。かつては研究機関や大手メーカーしか扱えなかった技術が、いまや誰でも使える部品として手に入る。
次に「目」の表現である。以前なら特注の球体ディスプレイが必要だったが、いまはスマートフォン向けの高精細な液晶パネルと、Unityなどのゲームエンジンを組み合わせるだけで、「うるうるした瞳」を低コストで実装できてしまう。

さらに、LOVOTが試行錯誤の末にたどり着いた「温かさ」も、単純なヒーターと断熱材の工夫によって、安易ではあるが「それっぽく」再現可能になった。

だが、最大の変化はソフトウェア側、特にLLM(大規模言語モデル)とVLA(Vision-Language-Action)モデルの登場だろう。かつてロボットに「生き物らしい振る舞い」をさせるには、膨大な条件分岐を書き連ねる必要があった。「叩かれたら悲しむ」「撫でられたら喜ぶ」といったルールを、人間が一つひとつ定義していたのである。

しかし今は違う。カメラで捉えた映像をAIモデルに入力するだけで、「目の前の人間が笑っている→だから近づいて甘える」といった行動生成が、半ば自動的に行われる。振る舞いはプログラムされるものではなく、"解釈"されるものへと変わった。
本家LOVOTに込められた「魂」そのものには及ばないかもしれない。しかし、「それっぽい魂」なら、APIを組み合わせることで誰でも作れる時代になりつつある。

この現象もまた、「フィジカルAI」という巨大な氷山の、ほんの一角に過ぎないのだろう。

ポスト・チャットGPTとしての「身体」の模索

最後に、この「LOVOTもどき多杉問題」を、もう少し俯瞰した視点から捉え直してみたい。

2022年末にChatGPTが登場した際、革新的だったのはLLMそのものの性能だけではない。「チャット(対話)」という、誰もが直感的に使えるインターフェースへと落とし込んだ点にこそ、本質的な価値があった。これによりAIは爆発的に普及し、人々の日常生活の中に確かな存在感を築いた。

そして現在、世界中のテック企業が探し求めているのは「チャットの次」だ。テキストボックスに文字を打ち込むのではなく、より直感的で、よりマルチモーダルな入力を可能にする「次のインターフェース」とは何か、という問いである。
ある企業にとって、その答えはMetaやSnapが開発を進める「スマートグラス」かもしれない。常時ユーザーの視界を共有し、AIがそっと囁くように情報を提供するデバイスだ。そして、この会場に溢れている「LOVOTもどき」たちもまた、同じ問いに対する一つの試行錯誤なのではないだろうか。

AIが実空間を認識し、さらには感情表現まで可能になった今、AIには「身体」が求められ始めている。PCの中に閉じ込められたチャットボットではなく、物理的に目の前に存在し、視線を交わし、触れ合うことのできるインターフェース。模倣やオリジナリティの是非はさておき、その暫定的な答えが「LOVOTもどき」という形で結実してしまっている――そんな印象を受けた。