CESが行われるアメリカ、そして、毎年そこに大挙して出展し、独自の大ブース群をつくってきた中国・深圳のテック企業たち。
昨年のCESの直後、ドナルド・トランプ大統領の就任式が行われて以降、アメリカと中国という二大国の間には、まだ1年しか経っていないのか、というほどの激動の時間が流れた。
まだ「トランプ前」だった昨年のCES、そして、「トランプ後」の今年。例年であれば深圳の熱気がむせ返るほどに充満しているエリアへ足を踏み入れた瞬間、違和感を覚えた。
「なんか規模、小さくなってない?」
2026年のCES。そこには、かつてのような「混沌とした中華バザール」は縮小していた。激動の一年を経て、中国系ブースの風景はどのように変化したのか。そして、そこから見えてくる「製造大国」の現在地とは。現地のブースを歩き回り、見えてきたものをレポートする。そう今年も恒例の地味CESが帰ってきた…。が、しかし…。
「有象無象のOEM」の激減と、埋まらない空白
まず数字の話から。今年のCESにおける中国企業の出展数は、全体の約4分の1を占めると言われている。数字だけ見れば依然として「最大勢力」の一つだ。しかし、現場での感覚はかなり変わった感じがする。
TCLやHisense、Dreameといった「ブランド」を確立した大手企業は、例年通り、あるいはそれ以上に巨大なブースを構え、世界のテックジャイアントと互角に渡り合っていた。
一方で、劇的に減ったのが、いわゆる「深圳の中小OEMブース」だ。かつては所狭しと並んでいた、ケーブル、充電器、謎の部品を並べるだけのOEM業者が、今年はかなりの数姿を消していた。絶対量が少なくなっている。
特に印象的だったのがSouth Hallの2階だ。かつては中華系小規模ブースで埋め尽くされていたエリアが、今年はSouth Hallの1階にごっそり移動してきて、2階の展示は消滅していた。
そのうえで、その1階も中国ブースだけで埋まっていたわけではなく、そのスペースを埋めるように、韓国系のスタートアップやベトナム企業のブースが増殖していたのが印象的だった。
実は、ラスベガスからの帰りの飛行機で隣になったのがロボット掃除機で存在感を強めているDREAMEのブランドディレクターの方だったのでいろいろ聞いてみた。彼は「新し目のテクノロジー系はここに来る意味があるが、単純な部品OEMは来ても意味ないんだよ」と語る。それはなぜなのか。答えは「関税」だ。アメリカという国は、中国のOEM部品メーカーにとって、この1年で「お得意様」から「意地悪なクレーマー」に変わってしまった。
最終日の「投げ売り」が消えた理由
CES名物とも言える、最終日の「サンプル品投げ売り」。「これ持って帰りたくないから10ドルでいいよ!」というあのやり取りも、今年は様変わりしていた。
「Are you selling samples?」と聞いても、冷たく「No」と言われることも多くなった。以前ならどんなガジェットでも現金と引き換えに売ってくれた彼らが、なぜ今年は頑ななのか。その背景には、2つの明確な理由があるらしい。
一つは、これもまた関税だ。トランプ政権下での関税強化に加え、ちょうど、この2026年1月1日から、リチウムイオン電池に対する関税が大幅に引き上げられた(7.5%から25%)。「バッテリー内蔵製品を現地で販売(譲渡)することは、以前よりも遥かにリスクが高い」という空気があるらしい。
もう一つは価格の高騰だ。かつては「10ドル」で投げ売られていたようなガジェットが姿を消し、翻訳機能付きスマートグラスのような、原価そのものが高い製品(100ドル〜)が主役になった。そうなると「捨てて帰る」には高価すぎるらしい。
それでも光る「深圳イズム」:ユニークなプロダクトたち
「数は減った、価格は上がった。じゃあ面白くなくなったのか?」と問われれば、そうでもない。それでも中国ブースの絶対量は多い。彼らが持ち込むプロダクトには、やはり中国ならではの「斜め上の発想」と「圧倒的な実装力」が詰まっていた。筆者が足で見つけた、きらりと光る(あるいは、斜め上の)プロダクトを紹介する。
マグネット型充電スタンド兼用スマホスピーカー(Dong Xinliang Smart Technology)
謎のバケツ型デバイスだが、MagSafeでスマートフォンにくっつけることができる。そしてこのバケツ部分がBluetoothスピーカーになっている。
USB-Cで電源と接続できるようになっていて、スマホをくっつけるだけで充電と音楽再生が同時にできる。つまり、「スピーカーと充電器のハイブリッド」だ。
ブースの方は、驚く私に「One More Thing」とばかりに、このスピーカーをつけると、スマホスタンドにもなることを教えてくれた。
「これ売ってもらえるの?」と聞くと、「5ドル」だと言うので、その場で購入した。
U字型電動歯ブラシ(Magentak)
普通の歯ブラシが超絶進化したような形状のU字型歯ブラシ。マウスピースのようにブラシ全体を口にカポッと入れて振動させて全歯を一気に磨く。以前から子供向け製品としては存在したらしいが、大人向けに本気で作ってきたのがこれだ。
「時短」への執念を感じさせる一品だが、実際に10ドルで購入して使ってみると、位置が動かない分、本当にこれで磨けているのかよくわからなかった。
スマートブレスレット(SH AI TECH)
「スマートリング」が流行る中、あえて「スマートブレスレット」で勝負してきたのがこれだ。
スマートリングで取得できていた睡眠や心拍などの生体データを、手首から取得する。「なんでブレスレットにしたの?」と担当の方に聞いてみると、「だってかわいいじゃない?」と言われた。これはちょっと価格が高かったので購入しなかった。
「リアルすぎる」対話ロボット(JS Robot)
これは夜道で会ったら悲鳴を上げるレベルだった。皮膚の質感、表情の微細な動きが不気味な人間型ロボット。LLMによる対話機能は、多言語対応。
しゃべるスマートペットは後述するようにたくさん出てきているが、それなら、ということでリアルな人型のスマートドールをつくったのだと思われる。
「リアルすぎる」対話ロボット
「量産フェーズ」の物差しとしての中国ブース
そして何より中国ブースをウォッチする最大の意義は、「今、深センで何がコモディティ化(一般化)したか」を一目で把握できる点にある。今年、会場を埋め尽くしていた「金太郎飴」カテゴリーで目立ったのは以下の3つだった。
- 電子ペーパー(特にカラーE-ink)
- スマートグラス
- スマートペット
これらはもはや「未来の技術」というよりは、中国では「量産してばら撒くフェーズ」に入っているということになる。特に面白かったのは、カラーE-inkの応用だ。日本やアメリカでは流行っていないが、好きな画像を背面に表示できるE-inkスマホケースや、落とし物トラッカーの表面に自分の絵を表示できるデバイスなどが複数のブースで展示されていた。
また、現代版「ファービー」みたいなスマートペットもそこかしこに出展されていた。LLMと連動しておしゃべりしてくれるペット、ということになる。
BEIFA(貝発)は元は文具メーカーだったが、昨年からAI分野に進出、ということでCESに出展していた。
そのBEIFA猫型ロボット「小猫软软」は、LLMでおしゃべりをしてくれる「猫型ロボット」だ。なんか、すごくいい…。
小猫软软
これだけでなく、円形LCDで「目」の表情を豊かに表現し、中国語LLM(大規模言語モデル)で流暢に会話するペットたちが、会場のあちこちで愛嬌を振りまいていた。
中国ではこれが流行ってるのか…などと思いつつも、馬鹿にできないクオリティのものも散見された。
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CES 2026における中国ブースは、縮小していた。「とりあえず出しとこう」というブースは消え去り、「ユニークな技術」か「ユニークなアイデア」を持つ企業だけが関税や規制を乗り越えてわざわざラスベガスにやってきていた感じがする。
トランプ関税によって露呈したのは、「中国がいないと何もつくれないアメリカ」だった。
一方で、中国は中国で、「アメリカはもういいや」と見切りをつけ出している雰囲気も感じ取ることができた。
この1年でこれだけ変わってしまうのだから、1年後、この状況がどうなっているかは全くわからないが、少なくとも長く続いた「CESと中国の蜜月」が1つの区切りを迎えた2026年だったのではないかと思う。