GH6新機能検証説明写真

S1Hの特徴を惜しみなく継承したハイエンド機へ

2022年3月25日は、LUMIX GH6の発売日だ。心の底から「発売、おめでとうございます」と祝福したくなるほど、GH6は素敵なカメラだ。

筆者は正直なところ、今やフルサイズセンサーこそ大正義のミラーレスカメラ業界で、「マイクロフォーサーズ機の新製品はもう出ないでは?」と思っていた。ところが2月22日のGH6発表で、ダイナミックレンジブーストや新世代ヴィーナスエンジン、S1Hから様々な撮影アシスト機能の継承などが判明。もしかしたら、マイクロフォーサーズ機でありながらフルサイズハイエンド機のS1Hを凌駕する性能があるかもしれないと脳裏によぎった。

そこでまずは、生粋のS1Hユーザーである筆者がGH6を最初に手にして「これも搭載してきたのか?」と気になったポイントを8つ紹介したい。

その1-ハイエンドモデルでありながら小型システムを実現

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GH6の重量は約823g(バッテリー、SDカード含)でキヤノンのEOS R5などより多少上回っているが、ハイスペックゆえということで許せる範囲だと思う。それでもレンズや周辺システムは変わらずコンパクトにまとめられるのは変わっていない。

その2-かゆいところに手が届く前面録画ボタン

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本体前面のサブ動画記録ボタンもS1Hから引き継がれている。リグやケージなどの装着により、天面の動画記録ボタンが使用しづらいときにも役立つ。

その3-フロントとリアにタリーランプ搭載

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S1Hで好評のタリーランプを、GH6でもフロントとリアに搭載している。

その4-動画記録中の赤枠表示

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S1Hは動画記録中の赤枠表示が好評だったが、GH6にもこの機能を搭載している。押し忘れ防止に大変便利な機能だ。

その5-チルトフリーアングル構造背面液晶モニター搭載

GH6新機能検証説明写真 GH6新機能検証説明写真

S1Hで好評だったチルトフリーアングル構造を、GH6にも継承している。もちろん液晶モニターの展開や回転しても本体に挿された各種ケーブルとの干渉はしない。

その6-ジョイスティックの操作性向上

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S1Hよりも、操作性は向上している。やや誤入力に気をつけさせるような感触が解消された。

その7-効率的な編集を実現できるApple ProRes対応

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ProRes 422を、CFexpressカードを使用してカメラ本体へ内部記録することが可能だ。これはS1Hにはなかった機能だ。ProResの特徴は編集しやすさで、圧縮率が低いためにPCの処理性能が比較的低くても滑らかにプレビュー可能だ。ただし現時点では一部解像度の対応で、今後のファームウェアアップデートでProRes 422 HQやProRes 422のC4KやFHD対応モード追加に拡充する予定だ。

その8-低感度Log撮影

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フォトスタイルD-Log設定下において、ISO250で撮影可能。ノイズを抑えたLog画質が手に入る。NDフィルターも無用か少なめで済む。

話題のダイナミックレンジブーストを検証

ダイナミックレンジブースト機能とは?

さまざまな進化を遂げたGH6の中でも、「ダイナミックレンジブースト」機能は大きな特徴だ。デジタルビデオ業界では、シーンによって低感度向けと高感度向けの回路を自動や手動で切り替えるデュアルネイティブISOがお馴染みの機能である。これによって低照度のシーンでも比較的ノイズを抑えた撮影を可能としている。

新搭載のダイナミックレンジブーストでは、さらに上記の2回路を同一シーンに使用してダイナミックレンジを拡張可能。マイクロフォーサーズ機でありながら、フルサイズセンサー機なみの13+ストップダイナミックレンジによる画質で記録ができるようになる。

例えば、これまで白飛びしてしまう場合は露出を少し暗く設定することがあったが、逆に暗部は黒つぶれしてしまう。しかしダイナミックレンジブーストをオンにすると、白飛びや黒飛びを抑えた撮影が可能になる。

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ダイナミックレンジブーストは、「撮影モード」を「M」、メニューの「ダイナミックレンジブースト」を「ON」にすることで使用可能になる

ダイナミックレンジブーストはNDフィルターと組み合わせて撮影

なお、ダイナミックレンジブースト機能は、最低感度がISO800、フォトスタイルV-LogとHLGではISO2000となる。低照度シーンではそのまま対応できるが、高照度シーンではNDフィルターが必須になるだろう。

今回のテストでは、ダイナミックブーストを使用した動画撮影を行うためにマルミ光機製NDフィルター「EXUS」シリーズのND4、ND8、ND16、ND32、ND64の5枚を用意した。サイズはキットレンズの12-60mmと組み合わせることを想定して62mmを選んだ。

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マルミ光機のNDフィルター「EXUS」シリーズ。今回用意したほかにも、さらに減光が可能な「EXUS ND500」「EXUS ND1000」などもラインナップされている

ダイナミックレンジブースト使用かつD-logモードでなるだけ絞りを開きたい(ボケを稼ぎたい)場合は、濃いNDフィルターが必要となる。以降で紹介するAFテストでは、最大のND64をもってしてもF2.8では空が白飛びしてしまうので、F4.5まで絞って撮影をした。

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日中の野外でダイナミックレンジブーストをオンの場合は、ND64と組み合わせることが多かった。写真は光量を1/64に落とすEXUS ND64
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レンズのボケ味を活かした画づくりをしたいならば、ND32からND64以上のフィルターが必要になるだろう

ダイナミックレンジブーストのオンとオフの違い・その1

ダイナミックレンジブーストを使用するとなにが起きるのかを、砂浜シーンの撮影から紹介しよう。

GH6には、カメラ操作を支えるサポート機能として、白飛びエリアを縞模様に表示する「ゼブラパターン」が搭載されている。下記の例では空は階調が失われ真っ白になり、ゼブラパターン「オン」の状態では縞模様表示の警告が表示されている。

    テキスト
ダイナミックレンジブーストをオフの状態。空が白飛びしている
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ダイナミックレンジブーストをオンにさせると、白飛びを示すために表示したゼブラパターン(画面左上の空)が消えた。つまりこの例において後者では、前者で収まらなかった明部を包含するほどダイナミックレンジが拡大されたということだ。

    テキスト
ダイナミックレンジブーストをオンの状態
※画像をクリックして拡大

ダイナミックレンジブーストのオンとオフの違い・その2

別のシーンでも検証してみよう。上がダイナミックレンジブーストをオフの状態で、下がダイナミックレンジブーストをオンの状態。それぞれ実写とRGBパレードで比較してみよう。オンにするとシーンはわずかに暗くなり、波形が下がることが確認できる。

    テキスト     テキスト
ダイナミックレンジブーストをオフの状態
※画像をクリックして拡大
    テキスト     テキスト
ダイナミックレンジブーストをオンの状態。実写は若干明るくなり、波形は若干下がった
※画像をクリックして拡大

ダイナミックレンジブーストのオンとオフの違いは記事中の画面の差だけでは分かりづらいが、輝度再現性の高いモニターと経験値が豊富で評価力のある方なら現場で判別可能かもしれない。

これまでは小型センサーを採用した小型軽量カメラはそのサイズ重量と引き換えに、ダイナミックレンジの広さは諦めなければならない傾向にあった。しかし、13+ストップのダイナミックレンジを実現できる機能は、小型センサーの弱点を根本的に補ってくれる。「根本的に」と言うのは、こうした高画質化(サポート)機能の類は、撮影設定如何によっては「併用できない」「併用すると画質が低下する」ということがしばしばあった。ところがダイナミックレンジブーストについてはそれがほぼない。つまり、常に機能オンも可能だ。

オン時のデメリットとしては、低感度で撮影できない(滑らかでキレのある画が得にくい、ノイズが若干含まれがち)ことと、NDフィルターが必要なケースが多くなる。それでも常時オンにすることで「小型センサーながら十分なダイナミックレンジのあるカメラ」として取り扱えたり、平時オフで「ダイナミックレンジ幅の欲しいときにオンにして稼ぐことができるカメラ」として取り扱うことができるのではないかと感じた。

GH6でAFは何が変わったのか?

パナソニック製のカメラでは空間を認識して、被写体までの距離情報を瞬時に算出する空間認識AFが採用されている。同社製カメラでは数世代前より被写体認識(人物、顔・瞳、動物)機能が充実し、GH6では従来より向上したとのことだ。

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カメラ画面のテスト風景
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GH6のAFテスト撮影風景

■人物認識

  • 遠〜近までの全距離において良好。

■顔・瞳認識

  • 中距離から近接において被写体を見失うことがあり、フォーカス再取得まで時間が必要になるときがあったが、再取得後は被写体がカメラから遠ざかる、背を向けるなどしても見失わなかった。

■人物・動物認識

  • 全体的に良好。

絶対的評価としては、先代機種のGH5Sより向上していると感じられた。「顔・瞳認識」で近接人物を長めの時間、見失ったのは少し気になるところだが、テスト空間として時季的な春の霞み多め、被写体として猫耳女子はヒトかネコか?といった点から、カメラには少し過酷なテスト環境であったためかもしれない。

なお、パナソニック製カメラのオートフォーカスについて、指摘されることがあるウォブリング(フォーカス位置が被写体を探して前後し定まらないこと)は発生しなかった。

ちなみに筆者は、機械の挙動がゆえに外れたときに大幅に前後してしまうオートフォーカスはあまり使用しない。フォーカス位置が、手前の被写体から明らかに意図していないずっと奥の無限に行ってしまう挙動を避けたいからだ。

しかしGH6では、今般オートフォーカスの補助機能として搭載の「フォーカスリミッター」機能を搭載してきた。あらかじめフォーカス位置の行き来する範囲を設定可能で、これを併用すれば、オートフォーカスが不自然な大外しする問題を防ぐことが可能だ。併せて積極使用したいと考えている。

GH6はクロップされない、ハイスピードも綺麗

GH6の中でも、さらに気になった機能はハイスピード撮影(スローモーション映像)を含むほぼすべての撮影モードで画角クロップとならないところだ。4.4Kアナモフィックを除く解像度、すべてのフレームレートにおいて画角をフルに使用した撮影が可能だ。240fps、120fps、60fpsハイスピード撮影でもかなり高画質となっている。

まとめ

GH6はソフト、ハードともパナソニック製カメラが従来から持つ小気味いい使い良さはそのままに、マイクロフォーサーズのセンサー搭載機としての進化可能性に全力が注がれて実現した一機という印象だ。

高解像度化しつつノイズを抑えた画質は、フルサイズ機を使用してもなんかモヤッとするような局面を上回っているような手応えさえある。

GH4やGH5S登場時の4K解像度、高感度性能に革新を感じたものだった。今般登場のGH6は、マイクロフォーサーズセンサー機のまた新たな風を感じる。長年のGHシリーズユーザー、ファンである筆者としては、当面のデファクトスタンダード機として普及、活躍することを期待したい。

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モデル:SASSAN

伊丹迅

綺麗め女子、ネコ、風景を写真・映像で素敵に表現する作家、ドローンパイロット。「Panasonic S5/S1/S1R/S1H User’s Information Board」「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K & 6K info」「DJI RS2/RSC2、RONIN、RONIN 4D使用者懇談会」「DJI MAVIC・SPARKオーナーズ」などのFacebookグループを管理運営する。徳島ドローン協会 設立者/事務局長。正体は悪魔音楽集団「ギロチン伯爵」主宰/ヴォーカリストの悪魔、デーモン獄長。