DVJ BUZZ TV第2回目は、アップルストア渋谷で開催し好評!今回もその臨場感を伝えるべく再現したいと思う。さてその第2回目の内容は、ハリウッドスタイルに見る映画の製作スタイルからの考察と、2009 NAB Showから読み取れる2009年映像業界のトレンドをお伝えしたいと思う。

ハリウッド映画制作から見えてくる日本の課題とは?

米ロサンゼルス(LA)の日本人向け映画学校ISMPから、ハリウッドのプロダクション機構や制作進行などの講師を務める嵜野純也氏をゲストにお迎えした。嵜野氏は約10年LAに在住され、実際にハリウッドでインディペンデント映画制作に関わっている。今回はその裏事情と題して、最近ハリウッドのメジャースタジオでも進んでいる映画のインディペンデント化への動きや、米国と日本の映画製作システムの違いなどについて、まさに生のお話を聴く事ができた。

最近のトレンドとしては、デジタルワークフローが取り沙汰される今の制作事情における「デジタルビデオカメラ」と「デジタルシネマカメラ」という2つの潮流だ。現状は、日本のテレビ制作をベースに培われて来たデジタルビデオカメラのワークフローでは、デジタルシネマカメラのワークフローには充分に対応出来ない状況だ。

もちろんこれまでの映画の制作方法は活かされているが、ポスプロ側がそこに充分対応出来ていないことに加えて、特に日本では撮影において撮影監督(DP)制をとっていないことなどが、細かい部分でデジタルシネマカメラの最新ワークフローについて行けない状況を生み出しているようだ。これは、ハリウッド至上主義というわけではない。

しかし、ハリウッドの像制作における知識の奥深さを知れば知るほど、基礎知識として映像制作者なら身につけるべきであると感じている。さらには、日本の多くの映像関係者に関わり、インタビューしてきた経験からも、この知識の差は明らかであり、ハリウッドで学ぶ基礎には学ぶべきところは多い。

2009 NAB Showから見える新たな潮流

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REDカム

2009 NAB Showで見える3つのトレンドを紹介したいと思う。 1つはRED ONEやSI-2K(映画『スラムドッグ$ミリオネア』はこのカメラで撮影)といった「デジタルシネマカメラ」という新たな流れが確立、これまでのビデオ文化との違いがワークフロー上にハッキリと見えて来たこと。これは今後日本でも普及するであろうHDR(ハイダイナミックレンジ)などの加工において、DPの能力や役割がますます重要視されてくると思われるからだ。

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注目のKiPRO

2つ目は、AJA Video SystemsのKi Proに代表される、”エディターオリエンテッド”なツールが出て来た事。カメラから直接ProRes 422で録画可能というスタイルは、Apple Final Cut Pro(FCP)に偏っているが、どうやらFCPが完全にベースNLEとして浸透したことを証明したともいえる。HD-SDIやHDMI出力を持つカメラ機材であれば、すべてProRes 422→FCPというワークフローが成立する。Ki ProはNLE側が撮影からワークフローに参入可能なプロダクトであり、長く続いているコーデック戦争に終止符を打つことになるかもしれない。ただし独自コーデックを推進してきたカメラメーカー側にとっては少しネガティブな方向性なのかもしれないが…。

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ソニーのスマートフォンによる報道向けソリューション

3つ目は、iPhone等によるモバイルデバイス、スマートフォンによるモバイルコントロールだ。Ki ProもiPhoneによるWiFiコントロールが可能、さらにiPhoneからサーバ管理が行えるActive Storage XRAID、iPhoneやiPod Touchでデジタルフィルターのルック等を確認出来るTiffen Dfx、さらにはiPhoneによるプロンプターの登場など、とにかくこの業界にもモバイルでの役割が目立った。

中でも注目は、ソニーのスマートフォンによる報道向けソリューションの参考展示だ。これはAvidの報道向けソリューションiNewsを活用したものだが、例えば予め取材用のコンテンツのメタデータなどを入力しておき、PCからiPhoneなどのスマートフォンへデータ転送、そしてWiFiでXDCAM HDなどのデータ系カメラ側へメタデータを転送でき、そのメタデータに従って取材撮影を進めることができる。さらに面白いのは撮った画像データのプロキシファイルを再度スマートフォン側に転送し、例えば取材からの帰社途中でもスマートフォン上で仮編集ができるのだ。In点out点の設定はもちろん、OK、NGテイクなどのマーキングも可能で、そのデータを放送局側のPCへデータ転送すれば、帰局時には仮編集が完成している事は、新たなモバイルSaaSシステムとしても有用だろう。

しかし残念ながら日本ではiNewsはほとんど普及しておらず、他の報道システムと連動出来る可能性は少ない。むしろ国内では、制作に応用出来るはずだ。FCPなどのNLEと連動し、シナリオ等のメタデータが収録前にあれば、制作が短期間になってきているドラマ制作などに活かせるだろう。

次回DVJ BUZZ TV #3開催は、6月下旬ごろを予定している。今回も大きな手ごたえがあり、今後もこのコミュニティイベントの見通しは明るそうなことに、少しホッとしている。リアルな体験はいつでも新たな刺激を生み、それを期待していつも足を運んでいただける来場者のためにも更なる面白い企画を考えていきたい。

http://dvjbuzz.tv

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。