桜、咲いちゃってますねー。いやあ、春です。あ、どうも、永子ママです。さて、みなさんは、スタイリストという職業について、どのような職種を思い浮かべますか。監督やミュージシャンからオーダーされた衣装をリースしてくる人? 撮影中に衣装の皺をのばしたり、裾をあげたりする人? そういう人もいらっしゃいますが、プロ中のプロは、違います。演出意図、美術、背景、カメラワークなど、現場で行われるすべての工程との兼ね合いを鑑みた上で、被写体を活かすスタイリングを行うのが、プロのスタイリストの仕事です。

さて、今回は、そのスタイリストという職種の垣根を大きく越え、MV全体のイメージやビジュアルの方向性などをトータルプロデュースする、北澤”momo”寿志さんを紹介いたします。北澤さんは、スチールからムービーまで幅広く手がけるベテランスタイリストさんですが、ミュージシャンを愛し、愛されているため、音楽もののトータルビジュアルプロデュースを任される機会が多々ある方です。最近でいえば、サカナクション。「ネイティブダンサー」以降、彼らのMVのトータルイメージをプロデュースされています。

サカナクション「ネイティブダンサー」Victor Entertainment

とにもかくにも、シンプル イズ ベスト。ビートに同期するスニーカーの動きのクールさにはママ失神寸前! 監督はスペースシャワーTVのMVAで3年連続BEST DIRECTOR賞を獲得した児玉裕一。ダンサーの足さばきはもちろんのこと、スニーカーの蛍光色、蛍光色を艶かしく演出するグロッシーなブラックの背景、控えめながら効果的に弾ける火花のようなCGの組みあせ方が絶妙。何時間でも、何日でも見ていられる快楽MV。

サカナクション「アルクアラウンド」Victor Entertainment

歌詞を立体物に置き換え、配置した導線をボーカルの山口氏が歌いながら歩く。ただ文字をくり抜いた紙やパネルを羅列するだけでなく、部首を解体した漢字を建て込み、カメラが近寄らなければ読み取れないといった工夫を凝らしている。監督はPerfumeのCDジャケットやMVでお馴染みの関和亮氏。

サカナクション「目が明く藍色」Victor Entertainment

楽曲の情緒を断片的に切り取る、ポエトリーなコマ撮り作品を披露してくれたのは、オリジナリティー溢れる幻想的な世界観を持つ島田大介監督。積み木やカトラリーなど、一見突拍子もないものが出現したかのように見えるが、歌詞に耳を澄ますとすべてはリンクする。途中、転調する際に登場する光の点滅のシーンは必見。大胆かつ繊細とは、まさにこの作品のための表現だと、ママは思う!

これら、MVのイメージや方向性、映像全体のアート・ディレクションを、北澤さんは行っています。おそらく今後は、北澤さんのように、ファッションや美術やカメラなど、得意な武器を掲げてクリエイティブ表現全体をトータライズするクリエイターがどんどん増えていくと思います。戦国時代です。今まで、なんとなく「やれちゃってた」ディレクターのみなさん、ふんどし引き締めて真面目に仕事してくださいね。

最後に、TOKYO FM「SCHOOL OF LOCK!」の企画した、サカナクション「アルクPVプロジェクト」をご覧下さい。リスナーから送られて来た「アルク」動画をつなげたこの映像。手法自体に新鮮味はありませんが、出演者の顔が非常にハッピーで微笑ましい。今や携帯電話やデジカメでの動画撮影を一般の若い子が気軽に楽しんでいますね。映像は見て楽しむコンテンツから、参加して楽しむインタラクティブな遊戯へ。そんな時代性を体現しているプロジェクトです。

サカナクション「アルクPVプロジェクト」

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。