夏休み真っただ中、相も変わらず家でだらだらビール飲みながら読書、筋トレ、映像鑑賞に励む独身界の最優秀残念賞こと、ママ永子だよ!おっはよー!という訳で、今月もお気に入り映像をまとめてご紹介いたしまっす! まずは、辻川幸一郎とcorneliusという音楽映像ファン垂涎のタッグがお届けする、厳しい夏の一服の清涼剤。

SPACE SHOWER TV – STATION ID 「MUSIC SAVES TOMORROW」辻川幸一郎×cornelius

 

美しい! ただただひたすらに視聴覚が心地よい!1分といわず、5、6時間見ていたい。スペースシャワーTVが今年4月より開始したキャンペーン「MUSIC SAVES TOMORROW」の一環として制作されたこのSTATION IDは、ビデオアート界の重鎮リプチンスキーへのオマージュという側面も持ち合わせているようです(Facebook調べ)。

 

fragments of short films by Zbigniew Zbig Rybczynski

ズビグニュー・リプチンスキーについては、実験映像や感覚的な映像ファン諸君には説明するまでもありませんね。1970年代よりデジタル映像技術を駆使した映像作品やジョン・レノン、アート・オブ・ノイズなどのMVを多数手がけ、80年にはアカデミー賞短編アニメーション賞を筆頭に様々な映画祭を賑わせた「Tango」を発表。90年には「The ORCHESTRA」でエミー賞を受賞。現在はアメリカで映像制作会社「Zbig Vision」を主催し、日本の女子美術大学客員教授、って本当かよ! 女子美の生徒ちゃんたち、うらやましいぜ、おい! 私がムサ美の映像学科に在籍していた時には学食で半裸で賭トランプばっかりやっていたけれど、リプチンスキーが教授だったら真面目に授業出たぜ!

Zbigniew Zbig Rybczynski, The Orchestra (fragment), Ave Maria

Zbigniew Zbig Rybczynski, The Orchestra (fragment), Bolero (stairway to Lenin)

Zbigniew Zbig Rybczynski,The Orchestra (fragment), Funeral march, Chopin

Fragments of short films by Zbigniew Zbig Rybczynski

鬼の手数と評される膨大な作業量で最先端技術を調理し、先駆的な映像表現を編み出す。そんなリプチンスキー・スピリットを継承する映像作家は後をたちません。辻川氏がオマージュを捧げた手法は「The Fourth Dimension」における「捻れ」=スリットスキャン技法。この技法を用いた映像作品も、国内外問わず多数散見されます。

動画をお見せしたいところではありますが、残念ながら公式チャンネルには見当たらず、静止画のみのご紹介となります。アカデミー賞等を賑わせた「Tango」含め、全リプチンスキー作品を存分に堪能したい諸君は「ズビグ・リプチンスキー コレクション」DVD三部作をお勧めいたします!

さて。もう1作品、最新MVで気になったのはこちら。

androp「Bright Siren」

250台のカメラのストロボ光によって描かれたMV。特設サイトでは、ユーザーそれぞれがお気に入りのメッセージを入力し、MVに反映させたオリジナルバージョンを閲覧できるという仕掛けが楽しめます。ユーザーとの相互関係を築き上げるWebインタラクティブ広告の在り方も定着してまいりましたが、この作品の魅力はプロモーションの方法論としての互換性では全然なく、むしろMVの伝統芸ともいえる、音感、バンド感の可視化をシンプルかつ徹底的に追及している点であると、私は思います。

ディレクタークレジットに、川村真司氏、清水幹太氏、長添雅嗣氏の名を見つけて、なるほど。SOURの一連のインタラクティブMVで一世を風靡した川村氏と清水氏の革新的な思想に、BOOM BOOM SATELLITES等のバンドMVを多数手がける長添氏の「体感」が加わることにより、「一風変わった目新しいプログラミングMV」ではなく、王道の域で正々堂々勝負をする先進的なMVが生まれたと考えれば合点がいく。インタラクティブもプログラミングも門外漢、邪道と捉えて傍観している、旧態依然としたMV保守派制作者はもう言い訳できないね。

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。