2月特集[ファイルベース収録カメラ最新案内]では、各社のカメラを紹介してファイルベースについて考えた。もう一つ紹介したいカメラを追加したい。それが、NXCAM(HXR-NX5J)だ。このカメラは、昨年のInterBEEで参考出品され、翌1月7日に発表と同時に発売され話題になった。InterBEEの時点では、ソニーが業務用カメラにAVCHDフォーマットを採用したことやGPSの搭載、デュアル記録用のフラッシュメモリーユニットなどといった点で注目されたようだが、発売時にはメモリースティック、SDメモリーカード兼用のデュアルスロットを装備したことに驚いたのは筆者だけではないと思う。

ソニーがSDメモリーに対応したのは、2009年6月に発売されたデジタル一眼カメラα380、α330、α230にデュアルスロットを搭載したあたりから始まったといえるが、2010年のCESにおいて発表したコンパクトデジカメDSC-TX7やDSC-HX5Vのほか、ハンディカムHDR-CX550VやHDR-XR550Vにもデュアルスロットを搭載しており、HXR-NX5Jだけでなく、民生機器も業務用機器も今年は一気にSD化を進めた年といえそうだ。

AVCHDフォーマットは2006年にソニーとパナソニックが提唱したフォーマットで、当初は民生用AV機器の記録フォーマットとしての普及を見込んでいたが、パナソニックが業務用機にも採用し、編集ソフトの対応も進んだことから現在では業務用のワークフローもAVCHDフォーマットによるデメリットはほとんど無くなっている。今回は、AVCHDフォーマットの業務用機採用で先行しているパナソニックのAG-HMC155を参考にしながらHXR-NX5Jのレビューを行ってみよう。

機能・特徴

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メモリースティックとSDメモリーカード兼用のデュアルスロットを装備
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フラッシュメモリーユニットHXR-FMU128はカメラ後部へ装着。デザイン的にも一体感がある
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オプションで用意されている機種もあるが、HXR-NX5J はGPSユニット標準搭載
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GPS時刻表示はローカルとUTC時間を選択できる

動画記録のレートは、いずれも最大24Mbpsとなっており、AVCHDの上限を採用している。違いがでるとしたら、撮像素子の違いや画像処理といったカメラ部分とVFや各種操作部分になるだろう。AG-HMC155の発売は2年ほど前の2008年9月となっており、最新機種であるHXR-NX5Jとまともに比較するのは酷だが、光学系や撮像素子はAG-HMC155の発売と同じ年の11月に発売になったHDR-FX1000や12月に発売になったHVR-Z5Jとスペックを見る限りHXR-NX5Jと同等であり、価格的にもAG-HMC155の525,000円とHVR-Z5Jの528,000円はほぼ同じと見てよいだろう。あとは、この2年間の技術進歩と貨幣価値の違いであろうか。

さて、HXR-NX5Jの最大の特徴は、メモリースティックとSDメモリーカード兼用のデュアルスロットを装備したことと新たに開発されたフラッシュメモリーユニット HXR-FMU128といった記録媒体を複数装備できる点だ。これにより、デュアルスロットに装着したメモリーとフラッシュメモリーユニットへ同時に画像を収録できるだけでなく、一方にHD、もう一方をSDといった異なる解像度での収録も行える。今までバックアップを必要としていた現場では、非常に有効といえる機能だ。

   

また、録画ボタンとハンドル録画ボタンで、それぞれ別の記録メディアの記録開始と終了を行うことが可能で、容量の大きいフラッシュメモリーユニットへは連続記録し、デュアルスロットへは必要な場面のみを記録するなど様々な使い分けが可能だろう。フラッシュメモリーユニットHXR-FMU128の価格は147,000円だが、その価値は充分にあると思う。

HXR-NX5Jは、約112万画素の1/3型Exmor CMOSセンサーを採用した3板式で、画素を45°回転させて、1画素の面積を広くするクリアビッド配列のCMOSイメージセンサーを採用している。これにより、最低被写体照度1.5luxを実現しており、照明環境の悪いところでもノイズの少ないきれいな画像が得られた。撮像系はHVR-Z5JやHDR-FX1000と同等のはずだが、処理回路など若干改良されているようだ。

業務用のカメラでGPSユニットを標準搭載したのは、おそらく初めての機種となると思う。時刻とともに緯度と経度をメタデータとして0.5秒間隔で記録。こうして記録されたGPSデータは、PCなどを使ってグーグルアースなどと連携させることで、撮影場所をインターネット上の地図上に表示させることができる。移動を伴う撮影や災害時の映像など、撮影後の位置情報が必要な場合は有効な機能だが、ビルやトンネルなどGPS衛星のデータが受信できない場所ではうまく機能しない。

民生機のビデオカメラでは半ば標準搭載となっている手ぶれ補正だが、プロの現場でもあれば便利な機能である。HXR-NX5JにはActive SteadyShotという光学式補正と信号処理を併用した手ぶれ補正機能が搭載されている。この機能を使うと画角がわずかに望遠側に寄り、解像度が低下するが、手持ちでの望遠撮影ではそれなりに効果がある機能だ。

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外観・操作性

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HD/SD-SDIのほか、HDMI、アナログコンポーネント、コンポジットの端子を備えている
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メニューには出力選択がある
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出力フォーマットの設定。ダウンコンバーターを装備しているのでHD記録したものでもSDモニター可能
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デュアルスロットとフラッシュメモリーユニット はHD / HD、SD / HD、HD / SDの3通りの組み合わせが選択可能

全体の印象はHVR-Z5Jや民生機バージョンのHDR-AX2000と同じだが、後部に設けられたフラッシュメモリーユニット装着部分が大きく異なるところだ。フラッシュメモリーユニットは今のところ128GBのHXR-FMU128だけだが、容量の大きなものなど今後発売されるだろう。ただ、専用ユニットなのでPCで使われているSSDのように価格が安い物が出るようなことはないと思う。

 

従来バックアップが必要な撮影では、カメラに小型レコーダーなどを装着して対応していたが、残念ながら小型ビデオカメラの機動性や使い勝手を阻害する要因となっていた。HXR-NX5Jではそうした問題をみごとに解決したといえる。装着した状態でも質量の増加も80gとわずかで、本体から供給される電源も1W以下なのであまり影響はない。HXR-FMU128には、USBコネクターが装備されており、PCとはバスパワー接続で外部ドライブとして認識する。同梱のNXCAM専用ソフトContent Management Utilityなどで、ファイルの閲覧や整理を行い必要なクリップなどのファイルの取り込みを行うなどが簡単に行える。

特徴的なのは、単なるミラーリング記録だけでなく、HDとSDという変則的な記録にも対応しているところだが、画質設定の組み合わせは、HD / HD、SD / HD、HD / SDの3通りで、SDの同時記録には対応していない。なお、同時記録中でもメモリーカードのリレー記録はできるほか、同時記録中に一方の記録メディアが記録不可能になっても、もう一方の記録メディアは記録を続けるので、バックアップという面では安心だ。

ただし、SMOOTH SLOW REC時の同時記録ができないのと同時記録時はタイムコードが不連続になることがあるということなので、この点は注意が必要だろう。ちなみにSDの記録フォーマットは、DVDと同じMPEG 2 LognGOPを採用しており、オーサリングソフトへエンコードなしで受け渡しすることができる。


性能・画質

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HXR-NX5Jに搭載されている撮像素子はクリアビッド配列のExmor CMOSセンサーだ。画素を45°回転させているので、サーキュラーゾーンチャートやマルチバーストチャートでどのような結果になるか興味があったが。結果的には偽解像やモアレもほとんどない良好な結果だった。これは、水晶フィルターというより、クリアビッド配列を処理している信号処理系の結果のようである。このあたりはAG-HMC155のように画素ずらしを行っているカメラとは画質的に大きく異なるようである。

今回は、HD-SDIに対応した波形モニターやベクトルスコープを用意できなかったので、SDI出力によるカメラ生だしの信号と記録再生信号の比較ができなかったが、カラーモニターで見る限り色の再現などカメラ生だしの信号のほうが良かった。このあたりは、AVCHDというフォーマットの限界のようで、AG-HMC155でも同様な傾向である。ただし、AG-HMC155にはSDI出力が装備されていないので、アナログコンポーネントでの信号比較である。

撮像素子にCCDを採用したAG-HMC155とCMOSを採用したHXR-NX5Jでは、発売時期の2年間のブランクもあり、感度やSNといった面でHXR-NX5Jのほうが優れている。ただし、CMOS特有のフラッシュバンドといったスタティックな測定では測れないウィークポイントがあるのも事実である。後処理でこうしたウィークポイントを補正できるようになっているが、歌番組やコンサート、PVなどでは演出効果としてストロボを使用することもあり、こうした撮影ではどうすることもできない。

だからといってCCDを採用したカメラなら万能かというと、記録系がAVCHDのようにロングGOPだと連続してたかれたストロボでフィールド間の相関がなくなり、画面が破錠することもあるので注意が必要だろう。特にニュース取材などで、スチルと一緒の場合は要注意であろう。アナログからデジタルへ、テープからファイルへと技術の発展にともない機能性能ともに向上しているが、全てにおいてかといえばそういかないのである。今まで当たり前にできたことが出来なくなることもあるのだ。業務用の機材は様々な使われ方をするので、全ての面で満足する機能性能をもった機材を要求するのは不可能だが、今までの常識を常識と思わず適切な機材選択を行うようにしたい。

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高解像度チャートのカラーモニター写真

その一部分

 
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サーキュラーゾーンチャートの実写映像

その一部分

 
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マルチバーストチャートの実写映像

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グレースケールの実写映像

 
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カラーチャートの実写映像

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。