機能・特徴
ビクターといえば、蓄音機に耳を傾けるニッパー君が有名だが、細長いボディの GY-HM700はフォックステリアではなく、ダックスフントといったイメージである。昨年の6月に発売になった当初はSxSアダプターKA-MR100Gを接続することで、.MP4記録に対応していたが、ファームウェアのアップデートにより、本体のみでSDHCカードにMOVファイル形式またはMP4ファイル形式で記録できるようになった。また、SDHC Class10カードへの対応や新ノイズリダクションによる画面ノイズの低減もこのアップデートにより対応されている。
MOVファイル形式は、Final Cut ProのQuickTimeファイルフォーマットに対応しており、ファイルの変換や取り込みといった作業を行うことなく編集を行うことができる。また、MP4ファイル形式は、XDCAM EXで採用されているファイル形式と互換があるもので、現在ほとんどの編集システムが対応している。こうしたファイル形式を採用することで、WindowsやMacといった特定のプラットホームに縛られることなく運用することが可能なほか、軽快なネイティブ編集を行うことができる。
撮像素子に1/3型プログレッシブCCDを採用した3板式だが、カタログやWebには画素数などの表記がなくこのあたりは不明だ。GY-HD100など以前の機種にはこうしたスペックの表記があったのだが、GY-HM700やその姉妹機であるGY-HM100も画素数の表記が見当たらない。
ただ、特徴としてカタログなどに新開発「空間画素ずらし」による高解像度をうたっており、【縦横に加え、斜め方向の解像度を向上する新開発「空間画素ずらし」を採用。独自のフロントプロセス処理により、解像度水平900本以上、斜め1000本以上の高解像を実現しました。】という表記があるとことから、100万画素クラスの画素数をもつCCDが採用されているようだ。察するに、720pのGY-HD100の光学系を画素ずらしにより、1080iに対応させたというのが真相ではないだろうか。
画素数を明記しないのは、画素の多い少ないで単純に性能を判断してほしくないというメーカーのメッセージであり、それだけ新開発の空間画素ずらしに自信を持っているということなのだろう。
ビデオカメラとしてはちょっと変わった機能として、被写体の明るさの最明部と最暗部を測定&表示するスポットメーター機能を搭載している。これは、任意ポイントの照度計測も可能で、撮影時の照明比やビデオ画像として再現できる輝度を測ることができる。一般的なビデオカメラでは、輝度の高い部分にゼブラ表示することができるが、これを更にすすめた機能と言えるだろう。
2基のスロットが装備されており、交互に交換してゆくことにより、連続記録を行うことが可能
記録媒体は最近大容量化とともに安価になってきたSDHCメモリーカードを採用している。本体に2基のスロットが装備されており、交互に交換してゆくことにより、連続記録を行うことが可能なほか、記録するスロットを指定して記録することもできる。ちなみに、HQモードでも32GBのメモリーで約100分、2枚で約200分も記録可能だ。ただし、2枚同時記録を行うことはできない。
外観・操作性
GY-HM700を手にした第一印象はとにかく軽く取回しが非常に楽だ。また、重心が高くないので、バランスも取りやすい。肩乗せ式のカメラは右側の視界が良くないものが多いが、細長いデザインなので周りの状況を確認するのも容易だ。
カメラが小型ということもありその分表面積も少ない。それでも面積が必要となるオーディオ系のキャノンコネクターや映像系のBNCコネクター、電源のキャノン4ピンコネクターなど業務用ユースとして必要なものは装備されている。
面積が必要となるキャノンコネクターやBNCコネクターなど業務用ユースとして必要なものが装備されているスイッチ類の配置が一般の肩乗せ式カメラと異なる
その分操作系のスイッチ類の配置が一般の肩乗せ式カメラと異なり、他の肩乗せ式カメラを使ったことがなければ問題ないだろうが、最初は操作にちょっと手間取ってしまった。 メニュー操作や収録画像の再生操作などはバックライト付きの円形の十字キーで行うようになっている。デザイン的にも特徴的なバックライトだが、撮影時には青に、収録画像の再生などメディアモード時は緑、外部レコーダーなどIEEE1394経由のメディアモード時はオレンジに光る。けっこう目立つので、舞台など暗いところの撮影で支障がでないか心配したが、メニューにMode LEDのon/off設定があり、点灯しないようにすることができるようになっている。
サイドのモニターで再生画像確認や各種設定が行える
LCDモニターに表示されるメニュー画面
一般的な肩乗せ式のカメラと同様画像確認はVFと本体サイドのLCDモニターで行うようになっているが、本体サイドのLCDが41万画素なのに対しVFは122万画素となっており、フォーカスなどは基本的にVFで行い、サイドのモニターは再生画像確認や各種設定を行うためのものと考えたほうがよさそうである。
従来機種のGY-HD100ではフジノンの16倍ズームTh16x5.5BRMUだったが、GY-HM700の標準付属レンズはキヤノンの14倍ズームKT14×4.4 KRSを採用している。倍率は低くなっているが、ワイド側が5.5mmから4.4mmになり広くなったのは歓迎したい。
余談だが、業務用のカメラに使われている3色分解プリズムを製造しているメーカーはキヤノンかフジノンがほとんどだ。カメラメーカーはアッセンブリーパーツとしてプリズムの供給を受けることになるが、そのメーカー製のレンズを標準とすることが多い。なお、新開発の空間画素ずらしを実現させるためだろうか、撮像素子のプリズムへの貼付けは自社で行っているということである。
性能、画質
カタログスペックでは感度や最低被写体照度が公開されていないが、感度はF5.6~F8あたりのようである。最近のこのクラスのカメラでは、F11ほどの感度があるのでちょっと暗めな印象だ。もっとも感度はSNとの兼ね合いがあるので、一概にはいえないが感度アップした時の実写画像と見比べてもてもやはりF8あたりが妥当な感じだ。撮像素子が1/3型なので、このあたりはつらいところだろう。
解像度はこのクラスのカメラとして充分な解像度があると思うが、空間画素ずらしの影響であろうか、サーキュラーゾーンチャートでの偽解像が上下より左右方向にでている。グレースケールやカラーチャートの映像は綺麗にでている。
レンズ交換できない小型ビデオカメラでも3kg前後の重量があり、片手で長時間撮影を続けるのはよほどの腕力がないとかなりつらい。一方標準的な肩乗せカメラは5kg以上の重量があっても案外長い時間撮影ができるものだ。
GY-HM700は小型ビデオカメラほどの重量で肩乗せ式を採用しており、非常に特異な存在である。機能や拡張性という点では肩乗せ式で、重量は小型ビデオカメラ並というのは他に例がないと思う。価格的には実勢価格で100万を切っており、ちょうど小型ビデオカメラと肩乗せ式カメラの中間といったところだ。
高解像度チャートの実写映像。右はその一部分
サーキュラーゾーンチャートの実写映像。右はその一部分
グレースケールの波形モニター写真と実写映像
カラーチャートのベクトルモニター写真と実写映像
メーカーWebサイトはこちら仕様
- 撮像素子:1/3型プログレッシブCCD×3
- 色分解プリズム:F1.4、3色分解プリズム方式
- 記録フォーマット:MPEG-2 Long GOP
- ゲイン:0/3/6/9/12/15/18dB、ALC
- 電源:DC12V約23W(レンズ、LCDモニター含む)
- 外形寸法:幅231×高さ243×高さ514mm
- 質量:約3.6kg
- 価格:オープン
txt:稲田出 構成:編集部