小型ビデオカメラは民生機並みのサイクルとバリエーションで次々と新製品が発売され、肩乗せタイプのカメラの領域までもカバーしつつある。特に業務用のカメラは小型ビデオカメラの普及が著しくほとんどの撮影を小型ビデオカメラでこなしてしまっているのが現状ともいえる。

そうはいってもマルチカメラ収録やスタジオ仕様での運用、様々な撮影シーンに対応できる周辺機器など肩乗せタイプのカメラでなくては対応できない領域も依然として存在する。

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ソニーでは、業務用の肩乗せカメラとしていくつかの製品がラインナップしているが、EXシリーズの新製品として1/2型の撮像素子を採用したPMW-320を発売する。外観上は先に発売になった2/3型撮像素子を採用したPMW-350とそっくりだが、仕様を比べてみると中身はPMW-EX1RやEX3と同等と見ることができる。イメージとしてはPMW-EX1RをPMW-350の筐体に組み込んだモデルといったところだろうか。

価格的にはPMW-EX3(1,029,000円)とPMW-350(PMW-350L: 2,079,000円、PMW-350K:2,310,000円)の間と思われるが、この価格帯のソニーの肩乗せタイプカメラのラインナップには、1/2型のCCDを採用したXDCAM HDカムコーダーPDW-F335(PDW-F335L: 1,659,000円、PDW-F335K:2,236,500円)がある。ただし、記録媒体がメモリーではなくディスクなのでいわゆるファイルベースでの運用が難しいのと撮像素子が1440×1080になっていることに注意したい。

機能・特徴

PMW-320は、NAB2010でHDカメラアダプターXDCA-55やHDカメラエクステンションユニットXDCU-50などと共に発表になったカメラで、PMW-320にオプションの50ピンインターフェースCBK-CE01基板を内蔵し、XDCA-55やXDCU-50を組み合わせることで、映像信号や電源のほかインカム、タリー、リターンビデオ、ゲンロック、リモートコントロール等に対応し、スタジオ仕様として運用することができる。本格的なスタジオ運用ができるカメラが少なくなった現在では貴重な存在といえよう。

ちなみに上位機種であるPMW-350も同様にスタジオスタジオ仕様とすることができるほか、PMW-EX3用のHDカメラアダプターXDCA-53もNAB2010で発表となっている。両者の主な違いはカメラとHDカメラアダプターとの接続方法で、PMW-320/350はケーブルレスで、PMW-EX3はSDI、ゲンロック、リモート、電源の4本を接続する必要がある。カメラを取材用とスタジオ仕様とで頻繁に使い回しするような場合はPMW-320/350のほうは運用性が良いと言えるだろう。なお、いずれもカメラエクステンションユニットとHDカメラアダプター間のケーブルは最大100mまで延長することが可能だ。

来年から本格的に地デジ放送が始まるということもあり、新たに発売されるカメラはHD対応の物となっている。そうはいっても現状では業務用途におけるDVD納品もまだ当分は続くだろう。もちろん、HDで記録してもワークフローの何処かでSDに変換すれば済むことではあるが、手持ちのシステムの都合やワークフロー上始めからSDで記録したほうが有利なこともある。そうした現状を反映してか、PMW-350ではオプション対応だったDVCAMフォーマットでの記録がPMW-320では標準対応になっている。 ただし、DVCAMフォーマットで収録したクリップを含むメディアは、PMW-EX3やPMW-EX30、PMW- EX1では認識できないので、これらの機材と混在運用する場合は注意が必要であろう。

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DSC_0643.JPG PMW-320Kの付属レンズはオートフォーカス機能搭載のフジノン製16倍ズームレンズ

PMW-EX3の付属レンズが14倍に対し、レンズとセットになっているPMW-320Kにはオートフォーカス機能が搭載されたフジノン製の16倍ズームレンズが付属している。いずれも広角側の画角は同じなので、望遠側に倍率を増やしたものといえよう。 そのほか、スロットインデジタルワイヤレス、自動レンズ色収差補正、ハイパーガンマ、4チャンネルオーディオ、キャッシュレック、シーンファイルなどに対応しているのはPMW-350と同じだ。

外観・操作性

肩乗せタイプのカメラとしてはオーソドックスなスタイルだ。外観だけでなく操作スイッチや機能などもPMW-350と同じなので、詳細はPMW-350のレポートをご覧頂きたい。  

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外観だけでなく操作スイッチや機能などもPMW-350(奥)とPMW-320(手前)は同じ

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唯一の違いはDVCAMのロゴシールだろうかPMW-320(左)、PMW-350(右)

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カメラ後部のLCD表示部分。TCやオーディオレベルなどが表示される

蓋を開くとオーディオ設定スイッチ、メニュー操作ボタンなどがある

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レンズマウント下にはホワイト/ブラックバランス、オーディオレベル、RECボタンなどがある

VF関連の設定スイッチはここにまとめられている。左下にあるのがVF表示の反転スイッチ

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操作スイッチ類の配置。ボタンに任意の機能をアサインすることも可能

コネクター関連は後部にまとめて配置されている

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VF内の表示。左が撮影時、右が再生時

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DVCAMによるSD収録が可能

DVCAMモードでのVF画面。左上にモードが表示されている

 

性能・画質

レンズ交換できる機種としてPMW-EX3と同等な性能といえるが、機能的な面を含めるとPMW-EX1Rと同等といったほうが正確だろう。記録フォーマットなどもPMW-320/350とPMW-EX1Rは同じフォーマットに対応している。

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ただスペックを良く見ると感度アップがPMW-EX1Rでは+18dBまでなのに対しPMW-320では+24dBとワンランクアップしている。同じ素子でも性能の良いものを採用しているのか、回路的にブラッシュアップが図られたかは不明だが、SNが54dB、標準感度がF10となっており、PMW-320とPMW-EX1Rで同じ値なので、画質的な面は別として単に+24dBまで対応しただけなのかもしれない。

それに伴い最低被写体照度が0.14 lxから0.05 lxへ大幅にアップしたかに見えるが、感度アップが+24dBであることとF値が1.6になっているので、本質的には性能差はないように思える。

PMW-350やPMW-EX1R、PMW-EX3では、付属のレンズのF値であるF1.9を最低被写体照度の測定基準としているが、PMW-320ではプリズムの明るさF1.6を測定基準としており、ここへきて何故測定基準を変えたのか、理解に苦しむ。ちなみにPMW-350の最低被写体照度はF1.9、+42dBで 0.006 lxなので、プリズムの明るさF1.4を基準にするとさらに低照度まで対応可能ということになる。最も、いずれも64フレーム蓄積モードなので、通常の動きとは異なってしまい、特殊な用途でしか使うことはできないと思われる。

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高解像度チャートの記録再生映像。右はその一部分

 
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サーキュラーゾーンチャートの記録再生映像。右はその一部分

   
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グレースケールの波形モニター写真と記録再生映像

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マルチバーストチャートの波形モニター写真

マルチバーストチャートの記録再生映像

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カラーチャートのベクトルモニター写真と記録再生映像

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+12dB感度アップ時の記録再生映像。ノイズは少ないが黒の描写がちょっと怪しくなる感じだ。その点右のPMW-350は同じ+12dBでもしっかりしている。

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。