前回のキヤノンXF305によるレビューを行いたい。今回は、クロマキー合成だ。 ビデオ画像を合成する方法としては色をキーにしたクロマキーと輝度をキーにしたルミナンスキーがあるが、いずれも元になる映像信号の精度できれいに合成できるか否かが決定されるといってよいだろう。

このため、SD時代のスタジオなどでは、カメラからのRGB信号を元にキー信号を生成するRGBクロマキーが一般的で、一旦VTRなどに記録した映像を使う場合アナログコンポジット信号からキー信号を生成するラインクロマキーとはその仕上がりに歴然とした差があった。

また、キー信号の生成方法やキー信号のエッジをどう処理するかも最終的な合成画面では重要な要素となっており、そうした専用のシステムとして古くからUltimatteが使われている。

ノンリニアでもUltimatteは健在で、Avid、Discreet、Adobe、Appleといった編集ソフト用のプラグインとしてUltimatte AdvantEdge/UltimatteRTが販売されている。通常のノンリニア編集システムにもクロマキーやルミナンスキーが行えるようになっているが、現在でも綺麗に合成を行う必要がある現場では、専用のプラグインなどを駆使しているのが現状だ。

今回、XF305で撮影した画像を元に合成を行うにあたって、一般的なノンリニア編集システムのクロマキー機能を使わずにUltimatteとROBUSKEYというプラグインを使用した。

クロマキー合成

クロマキーはブルーまたはグリーンのバックとの色の境界線で画像を切り抜くわけだが、このとき切り抜く境界線が曖昧だと綺麗に合成することができない。重要な要素は解像度と色数ということになるだろうが、ビデオの場合通常量子化ビット数は8bit(合成の専用システムでは8bit以上で処理することが多い)なので、綺麗な合成を行うには解像度が重要ということになる。

一般に解像度というと輝度またはGchのことだが、クロマキーの場合は色の解像度を考慮する必要がある。これは、ファイルフォーマットによって異なり、HDVやAVCHDは規格上輝度信号の4分の1しかない。XF305はHDVやAVCHDの2倍あり、クロマキー合成を行う上で、かなり有利といえる。さらに、走査線ごとにRBが反転しないので、境界線の精度も高いといえる。

クロマキーというと以前はブルーバックが多かったが最近ではグリーンバックを使うことが多くなってきた。フェーストーンに対して補色関係にある色で、原理的に抜きやすい色といえばRGBの内GかBということで決められた色だろうが、RGBクロマキーのように合成を行う場合常にカメラで撮影してリアルタイムで合成を行う訳にはいかないので、いったん記録したもので合成を行うためにブルーからグリーンになったようだ。

というのは、1インチVTRのようにコンポジットの信号を直接記録する方式からベータカムのようにコンポーネント記録を行うVTRが出現したころから、4:2:2で記録するようになってきたからと言えるだろう。4:2:2記録はデジタルVTRやファイルベース記録でも普及しており、HDの場合輝度信号のほとんどがG成分であることから、グリーンバックにした方がクロマキー合成を行うのに有利だからだ。

XF305の記録フォーマットは、表のようになっているが、今回4:2:2と4:2:0の比較のために50Mbpsと35Mbps、25Mbpsで記録した。フレームレートはいずれも60iで1920×1080に統一したかったが25Mbpsのみ1440×1080となっている。

35M 1920ss.jpg

まずは撮影した映像から、左から50Mbps/4:2:2/60i/1920×1080、35Mbps/4:2:0/60i/1920×1080、25Mbps/4:2:0/60i/1440×1080である。25Mbpsとの差は歴然だが、35Mbpsと50Mbpsは良く見ないとその差は読み取れない。

フォアグラウンドの映像は上記の3点を用意したが、25Mbpsはバックグラウンドと解像度が合わなかったので、実際にクロマキー合成を行ったのは、50Mbpsと35MbpsでUltimatteとROBUSKEYを使って合成を行った。

MTS_000006106s.jpg MTS_000006606s.jpg

35M 1920sss.jpg

バッググラウンドに使った画像は2種類で、いずれも60i/1920×1080。フォアグラウンドの映像はグリーンのバックに花をあしらったものを用意。クロマキー用に50Mbps/4:2:2/60i/1920×1080と35Mbps/4:2:0/60i/1920×1080を使用した

 

ROBUSKEYで合成

F001 123ss.jpg

ROBUSKEYで合成したオリジナル画像

50m 1920 g.jpg

ROBUSKEY。上が50Mbps/4:2:2/60i/1920×1080、下35Mbps/4:2:0/60i/1920×1080

Ultimatteで合成

F003 123ss.jpg

Ultimatteで合成したオリジナル画像

F003 50M1920b ss.jpg

Ultimatte。上が50Mbps/4:2:2/60i/1920×1080、下が35Mbps/4:2:0/60i/1920×1080

UltimatteとROBUSKEYでは、ROBUSKEYのほうが50Mbpsと35Mbpsの差が少ないように見えるのはROBUSKEYがグリーンバック合成に最適化されているからだろうか。Ultimatteの方は境界線部分が50Mbpの方が良いのが見て取れる。いずれにしてもその差は画面を相当拡大しないとなかなか判別できないが、これはグリーンバックを使った事とクロマキー用の専用ソフトを使っているからだと思う。

ちなみに、60i/1920×1080では1フィールドあたり1080の半分の走査線(垂直解像度)となるので、静止画にした場合差がでないのかと思い30p/1920×1080 でも同様にテストしてみたが、結果は60iとほとんど変わらなかったので、掲載は一般的な60iのみとした。このあたりは圧縮フォーマットを採用しているという事情もあるのかもしれない。

もっと明確に差が出るものと想像していたが、それほどでもなかったのは意外であった。ノンリニア編集ソフトのクロマキー機能を使えば、もっと明確に差が出たかもしれないが、ソフトのメーカーによる差もあるので、今回専用ソフトを使用した。

最後に、当たり前のことだがクロマキー撮影を行う場合、バックに使う背景紙やライティング、フォアグラウンドにバックがかぶらないようにするなど、注意が必要なものだが、最近の専用ソフトはある意味非常に優秀で、かなりラフに撮影してもなんとかしてくれる部分もあるようだ。もちろんクロマキー用にきちんと撮影すれば、本領を発揮してくれるわけで、今回はこうした条件が明確な差がでなかった要因の一つになっているのかもしれない。



SpecialThanks to:
ROBUSKEY
株式会社システム計画研究所
http://www.isp.co.jp/

Ultimatte AdvantEdge
フロンティアエンタープライゼズ株式会社
http://www.digitalvideo.jp/

背景紙
VERI GREEN13252
アナミ海外
http://www.anamikaigai.co.jp/pages/6_bd.html

チャート
Image Engineering社
http://image-engineering.jp/

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。