AVCHDの存在をどう考えるか?訊いてみた

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AVCHDロゴ。AVCHD(Advanced Video Codec High Definition)は2006年5月にパナソニックとソニーが基本仕様を策定したハイビジョン動画記録フォーマット。映像にはH.264/MPEG-4 AVC方式が採用されている

気になるフォーマットといえば、「AVCHD」に他ならない。小型ビデオカメラを始めとした収録にはAVCHDフォーマットを採用した機材が増えてきた。ファイルベースカメラも隆盛の昨今、民生用、業務用を含めて小型ビデオカメラのほとんどがAVCHDフォーマットを採用しているといっても過言ではない。

AVCHDは、2006年にソニーとパナソニックが基本的な仕様を策定したフォーマットで、当初は記録媒体にDVDやHDD、メモリーに画像を記録する民生用ビデオ機器のためのフォーマットだったということもあり、非常に効率的な圧縮を行っている半面編集に向いているフォーマットとはいえなかった。

現在では、業務用のビデオカメラもAVCHDで記録するものが増えてきており、編集ソフトもApple Final Cut ProやAdobe Premiere、Sony Vegas、Canopus EDIUSなどが対応しており、当初のように中間コーデックへの変換やインジェストなどを行わなくともAVCHDネイティブでも編集が行える環境が整ってきた。

AVCHDフォーマットは予想以上に業務用ビデオの世界にも普及しているわけだが、ユーザーはどう受け止めているのだろうか、今回AVCHDに関するアンケートを行った。そこで私稲田がそれを元にAVCHDを考察してみようと思う。

今回のアンケートは、過去にAVCHDフォーマットの業務用ビデオカメラを購入したユーザーを対象に調査を行った。

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回答者のプロフィールは、映像プロダクション、ビデオソフト制作会社、一般企業の広報映像関係者といった仕事でビデオを利用しているユーザーを合計すると41%で、趣味のユーザーは31%となっている。他のフォーマットよりも趣味のユーザーが高いという点は興味深い。現状、ミドルレンジからローエンドのユーザーが多いといった印象だ。HDVフォーマットのように、ハイエンドからローエンドまで幅広く使われるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。それには、AVCHDがHDV同様、コストや運用面での手軽さを如何にユーザーに訴えることが出来るかにかかっていると言えそうだ。年齢的には40代を中心に50代、30代、20代と続いている。60代以上になると極端に減っているのが特徴だ。


1)AVCHDは手軽に扱えるフォーマットなのか

記録媒体にメモリーやHDDを採用しているので、PCとはUSBなどのインターフェースを使って手軽にマウントすることが可能で、PCのローカルディスクにコピーしても従来のように実時間あるいはそれ以上の時間がかかるということはない。きわめて効率的なワークフローを構築可能なのだが、ユーザーがどう受け止めているのだろうか。

まず、第一印象に関する回答だが、52%と半数以上が良い印象をもっており、良くない印象をもっていたユーザーは14%となっている。すでにAVCHDフォーマットのカメラを所有している以上良い印象をもったユーザーが多いのは当たり前とも言えるが、どちらでもないという回答をしたユーザーが34%いる。第一印象の半数以上は良い印象をもっていたが、実際にAVCHDフォーマットを扱ってみて最初のイメージはどのように推移したのだろうか。

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2)食わず嫌いは一生の損。そのイメージと実際の間にあるものは何か

良いイメージを持っていたが、イメージ通りであったが31%あるものの、逆にイメージが悪くなったというユーザーが14%いるのも見逃せない。ただ、個々の感想をみると編集システムのマシンスペックが足りないとか予想以上に重たいという意見が多い。また、少数だが、ファイル管理が面倒という意見もあった。編集環境はやはり高スペックのマシンが必要ということだろう。また、ファイル管理は、テープのように素材をそのまま保存するわけにはいかないので、MXFなどの利用環境など今後に期待したいところだ。

さて、悪いイメージをもっていたが、良くなったというユーザーが、悪くなったというユーザー14%の倍の28%もあり、良いイメージをもっていたが、イメージ通りだったというユーザーを含めるとトータルで59%になっている。最終的には最初に良い印象を持っていたユーザー52%を上回っており、食わず嫌いだったユーザーが結構いたといった印象だ。

3)重いといわれているAVCHD編集の対応

イメージが悪くなったというユーザー14%は、どのような編集ソフトを使っているのだろうか。マシーンのスペックが必要なのは一般的な共通認識といえるだろうが、編集ソフトによっても編集が重い・軽いに影響するはずだ。結論からいうとFinal Cut Proユーザーが大半を占めており、それに次いでPremiere Proとなっている。

面白いことに最初から悪いイメージを持っているユーザーもほぼ同様な結果になっている。逆に良いと判断したユーザーの多くはEDIUSで、次いでVegas Pro、Premiere Proとなっている。

これを見る限りは、AVCHDに対する編集ソフトの優位はEDIUSといえる。Final Cut Proのバージョン(インテルMacか否か)やPremiere ProもMacかWindowsプラットホームまでは、アンケートはとっておらず、CPUの違いやOSの違い、またはソフトのバージョンによるところもあるのかもしれない。 いずれにしてもAVCHDフォーマットを行うには最新のマシーンというだけでなく、最新ソフトが必須といえそうだ。

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4)テープからメモリーへ。アーカイブの実態を探る

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AVCHDユーザーは撮影した素材の管理・アーカイブをどうしているのだろうか。AVCHDの編集では必然的にファイルベースの編集ということになるので、これは予想通りHDDへ保存が大半を占めている。ただ、納品形態の関係からか、テープやDVDやBlu-rayディスクへ保存しているユーザーも存在する。

このあたり、素材をそのまま保存しているのか納品したものと同じものをバックアップ的に保存しているかでも異なっている。納品形態はやはりDVDが圧倒的多数とはいえ、テープや中にはファイルの状態で納品など実に様々だ。

すでにHD納品が当前かと思われたが、業務用の世界では、インフラがまだDVDが圧倒的多数のため、現状ではBlu-rayは少数派だ。しかしながら、Blu-rayオーサリングはよく行っている、たまに行っている回答を合わせると42%で、今後必要と考えているユーザーも34%いることから、ちょうど今年がDVDからBlu-rayへの変わり目ということになりそうだ。


5)実用期に入ったファイルベース(設問ではテープレス)の運用

テープレスへの課題やフォーマットについてはユーザーによって様々だが、メディアの信頼性やファイルの管理に関しては概ね共通した問題のようだ。実際にメモリーやHDDへ保存したデータが壊れたといった報告はないが、何らかのバックアップは必須と思っているユーザーが大半である。これは、業務でビデオを扱うユーザーであるかぎり避けられない問題で、テープでの収録でも同様であった。

とはいっても、収録から編集にかけての運用は効率的になったと思っているユーザーが多いので、ワークフロー上ここまでの運用はメリットになっているといえそうだ。ただ、メディアのコストを問題にしているユーザーもおり、実際の運用は各ユーザーとも知恵をしぼっている様子が伺われる。

管理の問題は、納品形態に左右されるとともにコストと保存性の問題も関心が高い。HDDにしろ、ディスクメディアにしろ、歴史のあるテープほど経済的かつ長期保存に耐えられないと考えているようだ。このあたりは業務用ユーザーにとっては切実な問題であろう。なかには、放送局の納品がテープからファイルになって欲しいと望んでいるユーザーもおり、運用上のネックは編集からアーカイブにかけて存在しているといえよう。

テープレス化についてどのように思われますか?
  • コストや運用の手軽さは魅力。だが、不意のトラブルが怖い。バックアップが本当にバックアップしているのか不安。やはりテープに頼ってしまう。
  • 納品フォーマットとメディアがバラバラで対応しきれない現状がある。
  • 保管が省スペース。しかし、HDDなので、バックアップをとっていないと不安。バックアップが面倒とちょっとコストがかかる。
  • データの扱いが、簡単になったことはよいが、仮想的にどのフッテージがどこにあるのかを意識しないと、メディアを使いまわすことから、マスターの管理が以前(テープ)よりもシビアになる。
  • 放送局の納品がファイルベースでおこなえると効率アップ&コストダウンに繋がる。
  • 取り込み作業に掛かる時間と手間が大幅に削減されて助かる。32GBの撮影データをHDDに保管しているが、ブルーレイメディアの価格が今のDVD-R並に下がってくれば、HDDとブルーレイにバックアップできて安心。
  • 振動に強く長時間記録でき、ユニットを取り付ければメディアへのラベリングからも開放されるので、非常に便利。
  • テープレス化はいいと思う。HDDやメモリーを使うとテープに戻れない。
  • 映像管理に非常に困っています。
  • テープレス化は当たり前になっていくだろうが、データ納品を受け付けない(特に放送局)場合は、テープに変換しないといけないので、面倒である。また、ムービーデータの形式も膨大になるので、変換できない、読み込まないなど支障が起きている。その垣根を取り払って欲しい。
  • 記録のエラーが無く、コストがかからなければ、取材等は問題ないと思いますが、保存に不安があります。
  • モーターノイズもないし、よいと思うが、操作ミスによるデータの損傷、消去などが怖い。
  • テープレスになって編集が早い。結構満足。
  • バックアップがとれればOK。
  • 基本は手軽で賛成。
  • 複数の記録形式があり煩雑であるが、技術の進歩によるものとあきらめるが、せめて、その間のコンバート方法が確立することを希望。
  • メモリー、HDDなど容量が少ない上に高額である。
  • 便利である反面、デジタルデータであるがゆえにいつデータが飛んでもおかしくないという不安がある。
  • メディアを低価格化し、撮影素材の保管方法システム化、体系化しやすくすることを望む。
  • データの保存が大きな問題だと思う。安価な保存のためのメディアが必要となる。大きな容量で高速な保存装置が必要となる。
  • HDDは、保存メディアにはならず、無機色素のBlu-rayディスクも、テープほど長期の保存は不可能と思われる為、データの長期保存の方法が必要。

6)AVCHDの満足度

今後テープレス化を進めた場合、採用ファイルフォーマットは何をお考えですか?の設問では圧倒的にAVCHDとの回答が多いものの、AppleProResやXDCAMEXとの回答もあり、現状はAVCHDで満足しているが、より上位のフォーマットも視野に入れているといったところだろうか。もちろん、制作内容によって使い分けているという現状もあると思う。

アンケートユーザーが全員何らかのAVCHDフォーマットの機材を使用していることもあり、満足度は非常に高いものの、時代の流れだから仕方がないといった意見もあり、AVCHDよりも良いフォーマットがあれば、いつでも乗り換えるという見方もできる。今後さらなるAVCHDフォーマットの普及の鍵はメディアコストとファイルの管理にありそうだ。

WRITER PROFILE

稲田出

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。