はじめに
Mac版DaVinci Resolveは、それまでの高価なシステムでしか使えなかったハイエンド・カラーグレーディングシステムを、制作者が簡単に手の届くところに近づけました。その反面、この安価になったツールをどのように活かしていくかの具体策は、まだほとんど語られていません。そこで、短期集中連載ということで、6回にわたってDaVinci Resolveのクイックスタートガイドから、有効なワークフローへの導入など、制作現場ですぐに活用できる技術情報の提供を目指します。
DaVinciという製品は、1980年代から使われている老舗のカラーコレクションシステムです。当時はフィルム素材をテレシネという工程を経て、ビデオテープにトランスコードすることが、ハイエンドの映像制作になっていました。時代は経過して、ここ数年でフィルムの撮影件数も激減して、それに変わって登場したデジタルカメラでの撮影が急激に広まってきました。フィルムとともにカラーコレクションも衰退するかといえば、結果的にはさらにニーズが拡大しているといえます。
デジタルカメラはRED ONEのようなRAWデータで記録するものや、ARRI AlexaのようなLogモードの記録など、ビデオカメラとは異なったアプローチで映像を記録します。記録直後に素材を単純にプレイバックしただけでは、最適な色表現ができないという原理的な仕組みがあります。これが今になってカラーコレクションが必要になっている背景です。
さらに今後は、現場での色調整の不備を補うためのカラーコレクションから、素材の質感をさらに引き出すためのカラーグレーディングへのニーズも広まるでしょう。またDaVinci ResolveがMac版をリリースして誰の手にも届くものになった事実は、この先のワークフローに大きな影響を与えるでしょう。
第1回はクイックスタートガイドです。概要は何となく理解しているので、とにかくすぐに使ってみたいといったニーズを満たすために、DaVinci Resolve本来の多機能にはあえて深く触れずに、プロジェクトを完結させることを目標に解説します。
ハードウエア・コンフィグ
どんなMacを用意すればインストールできるかは、BlackmagicDesign社Webサイトにコンフィグガイドがアップされています。対応しているMacの機種やバージョン、必要なハードウエアが細かく解説されています。またDaVinci Resolveソフトウエアのバージョンによっても必要条件が変更されるので、まずはこちらに目を通されることをお勧めします。
インストール可能なMacは、Mac ProとMacBook Proだけです。現状ではiMacは未サポートです。Mac Proは2008年モデルは限定的な対応で、できれば2009年か2010年モデルがお勧めです。MacBook Proは2009年以降のモデルが使用可能です。
Mac Proは本格的なDaVinci Resolveの運用で使うことができます。MacBook Proはクリップのフルモーション再生ができないので、フレーム単位での作業に限定されます。コンパクトな筐体を活かした撮影現場でのグレーディング作業には、こちらの方が適しているケースもあるでしょう。
Mac Proでは、PCI Expressバスへのハードウエアインストールがセットアップの肝です。4つあるバスは、Slot1と2が16レーンのバススピードで、Slot3と4が4レーンです。バンド幅を必要とするグラフィックスカードは16レーンを使います。グラフィックスはレンダリング用のGPUと、ディスプレイを接続するためのGUIの2枚が必要です。GPU用にはNVIDIA社製のFX 4800かGTX 285が使用可能ですが、現在市場で入手可能なのはFX 4800だけのようです。
GTX 285は生産終了されているので、流通在庫限りの状況です。GUI用のグラフィックスはNVIDIA社のGeForce GT 120だけがサポート対象機種です。FX 4800をSlot1へ、GT 120をSlot2にインストールします。ビデオ入出力やモニター出力が必要な場合にはDeckLinkが使用可能ですが、現在対応しているのはDeckLink 3D+/3/3Dだけです。BlackmagicDesign社の製品でもこれ以外のものは未サポートですので注意が必要です。
この状態ではPCI Expressバスの残りは1スロットだけになります。このたったひとつが必要に応じて取り合いになるでしょう。外部ストレージを接続するのであれば、eSATAカードやFibreChannelを使うことになるでしょうし、REDのR3Dを軽快に使うのであればREDRocketをインストールすることになります。Macの場合はバスは限られていますので、あらかじめインストール計画は入念に立ててください。
ストレージは外部接続でない場合は、Mac Proの内部HDDベイを利用できます。SAT接続のベイが4つありますので、1本をMac OS Xのためのシステムディスクとして使えば、残りの3つを使ってRAID0でストライピングすることができます。3.5インチ2TBディスクを用意すれば、フォーマット後約6TBの容量が実現できます。さらにバンド幅を持たせたいのであれば、Mac Proの5インチベイも利用できます。通常は2台目のDVDドライブ増設のために空いているので、ここにシステムディスクを専用マウンターを使ってインストールすることで、3.5インチSATAベイ4つを使ってRAID0ボリュームを構築できます。
メモリの構成はコンフィグガイドに明確に指定されています。6GB、12GB、24GBが強く推奨されています。これ以外のメモリ容量の場合には高いパフォーマンスが得られないケースがあると説明されています。
これらのハードウエアのインストールが完了すれば、購入時に付属するUSB接続のドングルを差し込んでソフトウエアをインストールします。インストーラは一般的なアプリケーション同様に、簡単な操作で完了します。再起動後には早くもDaVinci Resolveが起動可能になっているはずです。FAQとして挙げられているインストール直後の問題には2点あります。
/Libraryディレクトリへの書き込み権限がなかった場合には、構成ファイルがインストール完了できず起動できなくなることがあります。この/Libraryへの書き込み権限を確認してみてください。もう一つのよくある問題はMacBook Proで起こります。2010年モデルでは、省エネルギー設定の中に、自動的にグラフィックスのパフォーマンスを切り替える機能があります。これは必ず無効にしなければなりません。
アプリケーションの設定
インストールが完了すれば、まず起動後にメニューからPreferencesを開きます。その中のMedia Storage Volumesから、クリップの読み込み先を指定します。DaVinci Resolveではメディアを読み込むディレクトリを限定します。またここで指定するディレクトリはレンダリング時の保存先でも使用します。複数指定できるので必要によって設定します。さらにビデオI/Oを使う場合はVideo Capture Hardwareでデバイスを指定し、操作用のコントロールパネルが有る場合にはControl Panel Typeからそれも指定します。以上で、初期設定は完了です。いよいよここからはDaVinci Resolveのカラーグレーディング機能を利用できます。
DaVinci Resolveは操作画面の一番下にメニューの切り替えボタンがあります。左から右へ切り替えて行くにつれて、処理を進めていく流れになります。まずは、プロジェクトを作成するためにCONFIGメニューに入ります。左下のProject ListからAddボタンをクリックして新規作成します。次にそのプロジェクトの仕様を設定します。操作画面右側のPROJECTタブからタイムラインのフレームレートを指定します。Timeline FormatのPlayback framerateと、Timeline Conform OptionのTimecode calculated atから30もしくは24などを指定します。さらにビデオキャプチャとビデオモニタリングも使用するフォーマットに合わせます。データの自動バックアップのためには、AUTOSAVEタブからEnable Auto-backupを有効にします。これらのタブの変更があった場合には、必ず右下のApplyボタンで設定を反映させます。
グレーディング作業の初歩
今回はもっともシンプルなグレーディング方法を取り上げます。BROWSEメニューに移動して、任意の素材を手動指定してタイムラインに配置して、それらに対してグレーディングを加えていきます。
まずはじめに素材の置かれているMac側のディレクトリをMedia Storageから指定します。Preferencesで指定したフォルダがトップに見えているはずです。そのサブフォルダの中から目的の場所を指定します。フォルダをクリックすると右側のClip Detailsにファイルリストが現れますので、マウスの右クリックからAdd Folder into Media Poolを選択します。これによりMedia Pool Clipsに素材が追加されていきます。必要に応じてこれを繰り返します。
次にCONFORMメニューに移動します。Timeline ManagementからCreate Defaultをクリックすると小さなウインドウが現れるので、タイムコードのフレームベースを指定しOKをクリックします。これでタイムラインが作成されるので、COLORメニューに移動します。
COLORメニューは、DaVinci Resolveで最も長い時間かかわるメニューです。色の調整はすべてここで行われるので、仕事時間の大半はここで過ごすことになるでしょう。中央にタイムラインがあり、サムネイルをクリックすることで色調整の対象クリップを切り替えていきます。
操作画面の下部に色のパラメータ調整部があり、一番左側のブロックがプライマリー部で、さらに右側がセカンダリ部です。セカンダリ調整は複数セット作成できますが、それは画面右上のノードとともに増やすことができます。今回は最もシンプルにするために単一のノードで進めます。まずはプライマリ部から好みに合わせてパラメータを調整してみてください。一般的なカラコレ機能に似て、見慣れたパラメータだと思います。他のクリップにも色調製を加えていきましょう。
ひととおり希望通り調整できたら、レンダリングに移行します。レンダリングは、SessionメニューからRenderを選ぶか、キーボードからCommand+Rです。レンダリング用の横長なウインドウが現れます。まずタイムラインを全体をレンダリング対象にするために、Select Allをクリックします。Rendering ModeはTargetに指定します。これにより、タイムライン全体がひとつの固まりで作成されます。保存先はDestination PathのBrowseから指定します。
始めにPreferencesで指定したディレクトリ内にしか書き出せませんので、他を指定したい場合は再度Preferencesから追加設定します。出力フォーマットはOutput Typeで指定します。今回はMac版ならではのQuickTimeのProRes4444を選択してみましょう。以上でレンダリングの書き出し設定は完了です。あとはRenderボタンを押すだけです。MacBook Proの場合にはレンダリング実行中に表示画面が乱れることがあるかもしれませんが、レンダリング結果には問題がないことが多いので、まずは最後まで待ってみましょう。完了すれば、先に指定したMac側のディレクトリにQuickTimeファイルができ上がっているはずです。
以上が最もシンプルなDaVinci Resolveワークフローです。もっといろんな機能はあるのですが、むしろこんな単純な設定だけでも十分に希望の目的は果たせることが理解頂けたのではないでしょうか。次回以降でさらに便利な機能を紹介していきます。