多機能なDaVinci Resolve

これまで4回に渡ってDaVinci Resolveの使い方を解説してきました。基本的な機能を使えるようになるのが目的でしたが、そのためにあえて解説を省いてきた便利な機能もあります。今回はそんな空白になってしまった、効果的に使える機能の解説を可能な限り埋めていきます。

ログイン画面のカスタマイズ

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Resolve起動直後には、User Login画面が表示されます。初期設定ではadminとguestの二つのアカウントがすでにできています。通常はadminアカウントを使ってグレーディング作業を進めていけます。ひとつの環境を何人かで共用して使う場合には、複数のアカウントを使うことが管理上でもトラブルシューティングでも有効です。新規アカウントを作成するためには、adminアイコンをクリックした状態で、画面下の+ボタンをクリックします。User nameとPasswordを入力してOKをクリックします。ここに表示されるアイコンは変更することもできるので、お気に入りのものに入れ換え可能です。使用できる画像にはアルファチャンネルも使えるので、PNG形式のアルファチャンネル付きで作成するのがお勧めです。画像サイズは横120ピクセル縦90ピクセルです。アイコンの右クリックから、Change Pictureを実行します。

対応フォーマット

DaVinci ResolveはQuickTimeファイルをはじめ、TIFF、DPXなど幅広く素材の受け入れをサポートします。Mac版の最大の利点はProResコーデックへの対応です。読み込むことに加えて書き出しにおいてもProResファミリーすべてのコーデックを使えるので、オンライン用途に限らず、オフラインメディアの書き出しでも利用できるでしょう。さらにAvidで使われるDNxHDコーデックは、オプションのパッケージを購入することで使えるようになります。オフライン編集でAvidを使う場合には、購入の検討をされてもいいかもしれません。価格は5万円程度と聞いています。

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ResolveではREDのR3Dファイルへの対応も積極的に進められています。CONFIG画面から一番右のSOURCEタブに移動すると、R3DデータをResolveで使うための設定ができます。REDワークフローをご存知の方には見慣れたパラメータが並んでいるでしょう。debayerのクオリティやカラーサイエンスのバージョン選択、カラースペース、Gammaカーブなどプロジェクト全体で統一したメタデータを使う場合にはここで指定します。お勧めの設定は、Decode Clips UsingからCamera Metadataを選択します。

これにより、RED ONEで設定しておいた状態でResolveに読み込まれます。カットによっては個別にISO感度やColor Tempを変更したい場合があるかもしれません。そんなときには、COLORメニューのタイムラインから変更したいクリップを選択して、右クリックからEdit RED Codec Settingsを実行します。ここから、クリップごとの設定変更ができます。複数カットでメタデータを変更したい場合には、CONFORMメニューから右クリックすることで複数変更が同時にできます。

この他DaVinci Resolveでは、キヤノンEOSムービーのH.264ファイルもダイレクトに読み込み可能です。デコードはResolveのパワフルな処理のため、CPU負荷のかかるH.264でも比較的軽快にグレーディング作業ができると思います。

LUT

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最近話題のARRI社のデジタルカメラAlexaも、限定的ではありますがサポートしています。AlexaはLogCモードのProRes4444形式で記録できます。ファイルとしてはProRes形式なので問題なく読み込み可能です。ただし色の再現はそのままでは正常に行えません。Logカーブ特有のローコントラストでハイライト側の階調になっています。手動でこの状態からグレーディングすることも、強引ではありますができなくはありません。しかし、ログモード記録の素材は、それに合わせたLUTでde-Logするのが本筋です。Alexaに最適化されたLUTを入手してResolveに読み込むことで、Alexaクリップに最適なde-Logをかけることができます。これにより、もっとも階調を広く生かしたAlexaカメラの持つ広いダイナミックレンジを生かすことができます。

LUTファイルは現状でまだ正式にはリリースされていませんが、Resolveの初期設定でインストールされているLUTを流用することで、ある程度の色再現はできます。今回はこの方法を紹介します。COLORメニューからAlexaで撮影したクリップを選択し、ノードグラフからノードを右クリックします。LUT、1D、Output Formatと進み、そのリストの中からCustomer1を選択します。これでローコントラストな階調が標準に近くなったと思います。ここからグレーディングをスタートすれば、LUT無しの時にに比べて広い階調で調整できるはずです。

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LUTを独自に入手してDaVinci Resolveで使うには、決められた場所にファイルを配置することが必要です。/Library/Application Support/Blackmagic Design/DaVinci Resolve/LUT、この階層がLUTを保存するところです。すでにたくさんのLUTがインストールされているのが確認できると思います。

Still Store

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COLORメニューの中心に位置していながらこれまでの解説から漏れていたのが、Still Store機能です。Still Storeはタイムラインで現在調整中のクリップを、静止画像と共に設定を保存できます。サムネイルの左上にはカット番号とサブ番号が自動的に振られます。気に入った設定ができて別のカットに流用したい場合には、一時的にこのStill Storeを経由して設定をコピーすることができます。Still Storeへの保存はCommand+Option+Gキーです。Still Storeからタイムラインのクリップに設定をコピーするには、サムネイルを右クリックして、Add Correctionを実行するか、マウスのセンタークリックです。

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このStill Storeを使えば、保存した静止画とタイムラインのクリップをワイプして比較することもできます。Still Storeのサムネイルをマウスからダブルクリックすると、ビューワ上にワイプで表示されます。続けてキーボードからWキーでワイプの方向を横に変更したり、2ミックスにすることもできます。どのモードのミックスになっているかは、プライマリパートのWipe Typeで確認できます。ワイプを解除するには、ビューワ上の右クリックでToggle Wipeを実行します。これにより、Wipe Typeの表示が消えます。

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このStill Storeは、CONFORMメニューからタイムラインを切り替えても常に同じ状態で表示されます。これによりプロジェクト全体で参照することができます。しかし、CONFIGメニューからプロジェクトを切り替えてしまうと、Still Storeも別のものに切り替わります。POWER GRADEタブの中にStill Storeを実行すると、プロジェクトをまたいだ利用ができます。

このStill Storeを使うことで、クロマキープレビューを使うこともできます。ブルーやグリーンバックの素材では、グレーディングの結果としてどんな合成になるかを確認できると便利なことがあります。まずフォアグラウンドになるブルースクリーンなどのクリップを選択します。QUALIFIERタブを選択後、ビューワから抜きたい部分の色をクリックします。

選択状態はHighlightボタンをONにすることで確認できます。次にこの抜いた部分にはめ込みたい静止画をStill Storeから選択し、ダブルクリックします。Wipe TypeがWipe-AになるまでキーボードからWキーを押します。ノードグラフに移り、ノードの出力側の2番目の黄色い三角から、出力の2つめのプレートに接続します。これで簡易的に静止画をキーイングできます。

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リタッチ機能

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DaVinci Resolveには、組み合わせて使うと非常に強力になるダストバスターシステムのREVIVALが用意されています。オプションのREVIVALがインストールされていなくても、REVIVALメニューとしてResolveの中には残っています。標準ではREVIVALは使えませんが、簡単なノイズを消すための機能は用意されています。この機能はクリップがDPXファイルでなければならないという条件はありますが、H.264やProRes、R3Dのクリップでも一時的にDPXに書き出してそれを再度読み込むことでこのリタッチ機能を使うことができます。

使い方はいたって簡単で、COLORメニューのビューアやVIEWERメニューからからアクセスします。一番右のリタッチボタンを有効にして、消したい傷の部分を四角く囲うだけです。この時に囲う四角の方向を、左上から右下にすると次のフレームからピクセルを参考にしてリタッチされます。囲う四角を右上から左下にすると前のフレームからピクセルを参照します。複数個所のリタッチではこの操作を繰り返すだけで、手軽にノイズや見せたくない部分を隠すことができます。

Ingest機能

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DaVinci Resolveは、いわゆるノンリニアタイプのカラーグレーディングシステムです。データ記録されたクリップを取り込むのがもっとも効率高いワークフローができますが、もちろんレガシーなVTRからのインジェストにも対応しています。インジェストはDeckLink Extreme 3D+などのサポートされたビデオI/Oデバイスを経由して行います。この時の接続はコネクタ面に表記がないため注意が必要です。私が使ったボードでは、マルチコネクタを左側に配置した状態で、右側のBNCコネクタからIN-2、IN-1、OUT-1、OUT-2でした。DaVinci ResolveからVTRへの書き出しでは、出力コネクタだけに接続するのではなく、必ずINPUTへもSDI信号を戻すことが必要ですので注意が必要です。

インジェストではタイムコードブレークもある程度は検知できます。ブレークが発生した部分で自動的にクリップが分割されますが、タイムコードの精度はそれ以降の部分で信頼性が低くなるので、念入りに確認することをお勧めします。VTRを使う時にはSDI信号を接続した状態で、Connectボタンをクリックします。コミュニケーション確定に数秒かかってから、問題なければコントロールができるようになります。何かのエラーが出ている場合にはEvent Logの中にメッセージが現れます。それを参考にトラブルを解決することになります。よくあるトラブルは、CONFIGメニューで設定したビデオフォーマットとの不整合です。再度設定を確認してみてください。

FORMAT機能

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これまでの機能紹介では、色の調整が中心でした。DaVinci Resolveではこれらに加えて、いわゆるトランスフォーム機能、画面サイズの調整も可能です。FORMATメニューに移動すると、タイムラインを中心に左右に配置された画面や、ダイナミクスウインドウがあります。左下のフォーマット調整部では、INPUTとOUTPUTから目的のクリップの対象を選択します。INPUTタブではクリップひとつだけが対象で、OUTPUTタブではタイムライン全体が操作の対象になります。また、両者の組み合わせも可能です。ダイナミクス機能を組み合わせることで、画面サイズの調整にトランジションを組み込むこともできます。さらに黒帯を加えたブランキングも追加できるので、フォーマット変更時には役に立つと思います。SLATEタブでは、「キャラ入り」素材の作成ができます。素材やタイムラインのタイムコードを出力結果に加えたり、独自のテキストを加えることも可能です。

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オフライン編集比較機能

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コンフォーム機能を使えば、オフライン編集結果をEDLを経由して、同一のタイムラインをDaVinci Resolveの中に再現できます。この場合、タイムコードの読み込みミスなどで本来の編集結果と間違った状態で取り込まれているかもしれません。そんな確認をResolveの中だけで確認して、修正することができます。これには、編集結果をキャラクタ入りでQuickTimeファイルとして書き出しておくと便利です。

EDLとキャラ入りで書き出した素材を準備して、DaVinci ResolveのBROWSEメニューに入ります。あらかじめEDLを使ってコンフォームを済ませておきましょう。Media Storageパートからキャラ入りのクリップを選択して右クリックから、Add as Offline Clipを選択します。CONFORMメニューに移動し、Timeline Managementで先に作成したセッションを選択します。Offline Clipのポップアップから、先ほどBROWSEメニューで指定したクリップが選択できるはずです。これにより二つの映像ビューワには、左側がコンフォーム結果、右側がキャラ入りのクリップが対比されているでしょう。

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これでカットごとに進めていき、編集点でカットに間違いがないかを確かめることができます。もし間違っていた場合には、CONFORMメニューからEnable Editingにしてから、カットのコンフリクトを修正します。コンフリクトリストに該当クリップが見つからない場合には、再度素材の取り込みを確認することになります。

今回はこれまでに漏れていた便利な機能を紹介しました。ここまで来るとある程度のDaVinci Resolveの操作体系の傾向が見えてきたのではないでしょうか。時間に余裕があれば、英語版ではありますが操作マニュアルに目を通すと、新しい発見が見つかるかもしれません。ここまで来ると、すでにDaVinci Resolveの奥深い世界の中に浸っています。

WRITER PROFILE

山本久之

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。