ワークフローは多種多彩

DaVinci Resolveはカラーグレーディングツールですが、今日のデジタルワークフローでは、撮影した素材をDaVinci Resolveに取り込んでグレーディングするだけの機能では、現場でのさまざまなニーズには到底対応しきれません。これはカラーグレーディングというプロセスが、単に撮影直後にやることが決まっているテレシネ作業と大きく異なるからです。まずはDaVinci Resolveを使うことが、テレシネ作業とは全く違うプロセスであることの認識から始めることをお勧めします。ときには編集が終わってからDaVinci作業に入ることも、十分にあり得るのです。現に今年公開されたアバターでは、日替わりでやって来る素材を、更新されたEDLと共に柔軟にコンフォームしていたと聞きます。

コンフォームの基本

コンフォームというキーワードを正確に理解することで、DaVinci Resolveの色調製に先立って柔軟に素材を取り込む手順を手にすることができると思います。今回は中心になる色調整の機能から少し外れますが、コンフォーム機能を理解することで、デジタルワークフローに柔軟に対応できるようなテクニックを習得できることを目的とします。まずは、DaVinci Resolveが想定しているワークフローをリストアップします。

  • 撮影後のオリジナル素材を、手動でタイムラインに追加して、グレーディング作業をする。(マスターセッション)
  • EDLを元に、各カットに対してハンドルサイズに基づいて、編集のためにカット尺に余裕を持った素材を作成する。(スプリット)
  • 単一もしくは複数のEDLに基づいて、使用しているカットすべてをピックアップして、その全尺をグレーディングの対象とする。(ホールクリップ)
  • 編集したEDL結果をDaVinci Resolveの中にそのまま反映させて、編集結果に対してグレーディングする。(コンフォーム)
  • 編集済みカットのハンドルを持たない白素材に対してグレーディングする。(プリコンフォーム)
  • 単一ファイルやビデオテープから撮影済みの1ロールすべてを取り込んで、カットごとにグレーディングする。(シーンチェンジ)

もちろんこれらの事例に完全に適合しないケースも想定されます。その場合にも、取り込んだ素材に対して、DaVinci Resolve内部でのみ論理的にタイムコードのオフセットを指定する機能を活用するなど、柔軟にワークフローをサポートしています。素材の取り込みや多彩なコンフォーム機能は、DaVinci Resolveの中のBROWSEとCONFORMメニューからアクセスします。VTRをコントロールしてテープから素材を取り込むケースでは、DECKメニューを経由することもあるでしょう。

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これらすべての手順では、必ず素材はDaVinci Resolve内のMedia Poolを経由します。言い換えれば、COLORメニューで対象となるタイムラインに並んでいるクリップは、すべてMedia Poolの中を参照していることになります。Final Cut Proでは、これがブラウザウインドウの中に並んだオリジナルQuickTimeファイルへのポインタに相当します。

しかし、DaVinci Resolveでは、FCPのそれと大きく異なる概念があります。Media Poolの中のクリップは、必ずしもオリジナルファイルと同一の長さやタイムコードではないのです。FCPではブラウザ内のクリップはサブクリップを作らない限り、必ずオリジナルファイルと同じ長さを持っていますし、タイムコードは変更することはあり得ません。DaVinci Resolveでは、オリジナルファイルの開始タイムコードが1:00:00:00で、終了が1:01:00:00だったとしても、Media Pool内のそれに対応するクリップは、2:00:00:00から2:00:30:00ということがあり得るのです。

Media Poolの中には仮想フォルダを作成できます。Mac OS Xの中のディレクトリ階層とは全く関係を持たない、DaVinci Resolve独自の階層構造です。これにより、VTRからの複数クリップ取り込み時など、カラーリストがクリップを管理しやすいようにサブフォルダを作成できます。

マスターセッション

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それでは上記のワークフローごとに、具体的に操作手順を追って行くことにしましょう。はじめにマスターセッションです。これは一般的な撮影直後のファイルベースの素材をグレーディング対象とします。あらかじめ素材ファイルを、DaVinci Resolveが手の届くディレクトリの中にコピーしておきます。ダイレクトアタッチのDASストレージや、SANボリュームが一般的に使われるでしょう。

注意点は、現状のDaVinci Resolveでは、ネットワークストレージへはダイレクトにアクセスできません。NASに素材を置いた場合、Media Poolへは取り込めないのでその点はご注意下さい。Media Poolへ取り込み可能なMac OS X側のディレクトリ指定は、PreferencesメニューのMedia Storage Volumesから追加します。ここで複数指定することで、そのディレクトリの中だけしかDaVinci Resolveからは素材をポイントしないので、余計なファイルサーチを避けることができます。

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対象になるファイル群が単一のディレクトリの直下に集まっている場合には、BROWSEメニューのMedia Storageの該当するフォルダを選択してAdd Folder into Media Poolを実行します。REDのR3Dファイルのように、カットごとにディレクトリが分割されて、その中にRAWファイルを保存するような何層にもサブディレクトリを構成する場合には、Add Folder and SubFolders〜を実行します。

この結果Media Pool Foldersの中に指定したクリップが追加されるはずです。次にCONFORMメニューに移りTimeline ManagementからCreate Defaultをクリックします。ここでの操作でCOLORメニューで使うタイムラインを作成するので、その開始タイムコードを指定します。この方法は、もっともシンプルな素材の一括取り込みの手順です。

これでCOLORメニューでグレーディングを進めて行くことになるのですが、作業の途中でクリップを追加したり、明らかに不要になったクリップが出てくることがあるかもしれません。追加する場合には、BROWSEメニューから再度メディアファイルをAddするだけです。しかし、不要になったクリップを削除するのは、手順が少し変わります。これまでCOLORメニューで使っていたタイムラインは、Master Sessionと呼ばれるすべての素材が含まれたライブラリのようなものを参照しています。Master Session自体は編集することができません。

クリップを削除するには二つの方法があります。ひとつめは、CONFORMメニューのMedia Poolから右クリックでRemove Selected Clipsを実行する方法です。これは今後一切そのクリップがプロジェクトから使えなくなります。

もうひとつは、別のタイムラインを作り直して不要と思われるクリップ以外を登録する方法です。CONFORMメニューから再度Create Defaultを実行し、現れるウインドウの中のEmpty Sessionにチェックを入れます。これにより全く素材を含まない空のタイムラインができ上がります。CONFORMメニューの真ん中にある空のタイムラインを右クリックしてEnable Editingを実行すると、タイムラインの編集が可能になりクリップの追加や削除ができるようになります。

その中にMedia Poolからクリップをドラッグ&ドロップすることで素材が追加できます。削除する時は右クリックから、Delete Clipを実行します。タイムラインの編集が完了したらDisable Editingを実行すれば編集機能をロックできます。

スプリット

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BROWSEメニューのMedia Storageから、素材の保存されているフォルダを指定してSplit and Add Folder into Media Poolを実行します。これはそのフォルダ直下にあるクリップに対して、EDLに基づいてハンドルサイズを加えた余長を含んだクリップをMedia Poolに取り込むことを意味します。したがってEDLを選択するためのウインドウが現れます。タイムラインのフレームベースを指定してハンドルサイズを指定すれば、EDLにしたがって素材が取り込まれます。

EDLを参照しますが、トランジションは無視されますので、完全に編集で使った素材にハンドルをつけただけの素材の集まりになります。そのためカットの順番も編集結果と同一にはなりません。ここでのポイントは、取り込まれたMedia Pool内のクリップは、オリジナルのファイルの長さとは異なっていることです。

ホールクリップ

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先に述べたスプリットに似ています。EDLを選択してフレームベースを指定しますが、ここではクリップの全部の尺を使うためハンドルサイズの指定はありません。たとえば編集で使っていたカットが指し示すオリジナルが、30分もの長さの素材だったとします。編集はその30分から必要なパートをいくつか切り出す結果だった場合に、DaVinci Resolveでの取り込み結果は、たった1カットだけということになります。編集で使っていた元素材に対するクリップだけを全尺で取り込みます。実行するにはスプリットと同様にBROWSEメニューから、右クリックしSplit and Add Folder into Media Poolを選択します。

コンフォーム

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コンフォームワークフローは、編集結果が完全にでき上がっていて、その結果の素材だけをグレーディングの対象とする流れです。撮影した素材が膨大にあった場合など、使わない部分もDaVinci Resolveに取り込むのは効率が悪くなります。このワークフローが最も素材の管理の面では効率的です。作業の手順はこれまでとは少し異なります。まずは編集で使ったオリジナルクリップを手動で取り込んでおくことが前提です。場合によってはBROWSEメニューのMedia Pool Foldersでサブフォルダを作るとわかりやすいかもしれません。

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その後CONFORMメニューに移り、Timeline ManagementからLoad AAF/EDLをクリックします。これまでの手順と異なるのは、EDLをIMPORTした後に素材が含まれるMedia Pool Folderを指定するところです。問題なく取り込みが完了するとCONFORMメニューの中央にサムネイルを含んだタイムラインが現れるでしょう。カット尻のサムネイルの部分にオレンジ色の「C」マークが出ているかもしれません。これはコンフリクトを示します。EDLに基づいてコンフォームしていますが、同一タイムコードを含むクリップが存在していることを示します。

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右クリックすると候補になるクリップが表示されるので、その中から手動でクリップを指定し直します。その結果CマークがRに変わります。必ずしも変更する必要はないので、CマークのままでCOLORメニューに移動しても構いません。

プリコンフォーム

プリコンフォームワークフローは、コンフォームワークフローと混同するかもしれません。しかし、対象となる素材の状態を明確に意識することで、それを解消することができます。プリコンフォームは、完全に編集が完了して、一本の白素材としてクリップが固まりになっていることを想定しています。素材は大きな単一ファイルとなっていたり、VTRからIngestすることになるでしょう。そのひとつの素材をMedia Poolの中でEDLに基づいて分割するのがプリコンフォームの役目です。

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プリコンフォームの対象は編集済みのクリップですから、ハンドルサイズを指定することはできません。操作はCONFORMメニューのPreconformをクリックすることから始めますが、手順の流れはこれまでと同様です。あらかじめMaster Sessionに編集済みのクリップだけを取り込んでおきます。

プリコンフォームを使わずに編集完了後の素材を大きな固まりでCOLORメニューに持っていくことは可能です。しかし、カラーグレーディング作業はカット単位で進めることが大半ですから、カットごとにタイムラインでも細切れになっている方が作業は楽になるはずです。もしここで対象になる編集したクリップ全体にたったひとつだけの色調製を全編に渡って適用するのなら、プリコンフォームを使う必要はありません。

シーンチェンジ

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単一ファイルやビデオテープから取り込んだ大きな固まりの素材を、グレーディング対象にするときに便利な機能がシーンチェンジです。半自動的にカットの切り替えポイントを判定して、カット点を見つけてくれます。1フレーム単位で前後のフレームをスキャンしながらDaVinci Resolveがバッチ処理します。この時のスレッシュホールドは任意に指定できます。BROWSEメニューのClip Detailsから素材を選択して、右クリックからScene Cut Detectionを実行します。これにより自動的にSCENEメニューに画面が切り替わります。

Automatic Scene DetectionからStart Detectionをクリックするとスキャンが始まります。その結果をヒストグラムで見ながらカット点のスレッシュホールドを調整します。カットの判別結果は右側のScene Detailsにリストされます。確認後問題なければImport and Export ListからSplitを実行すると、BROWSEメニューのMedia Pool Clipsの中にカット全部が取り込まれます。シンプルなEDLとして出力することもできるので、スキャンの結果として残すことも可能です。

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DaVinci Resolveでサポートするワークフローは多岐にわたります。これらを組み合わせることで、さまざまなケースの作業に対応できるはずです。今回紹介した手順の目的は、一貫してMedia Poolにどの方法を使って素材を取り込むかということです。編集に基づいてカットを分割するか、素材のファイルをひとつの単位として取り込むかなど、すべてが取り込む時のオプションと考えられます。これらを組み合わせることで複雑なワークフローへの対応が容易になるでしょう。

WRITER PROFILE

山本久之

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。