Macの次の世界が垣間見れた

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Appleは10月21日、新製品の発表に加えて来年夏にリリースを予定している次期Mac OS Xの一部の機能を紹介しました。ここでの発表はリニューアルしたMacBook Airに注目が集中して、まだリリースまでは時間的に余裕がある次のOSについては、あまり話題にはなっていないようです。さらっと流したような印象だったAppStoreは、映像業界だけではなくMacを使っているユーザーには大きな転換点になる直感を受けました。AppStoreは現在iPhoneやiPadなどで採用しているアプリケーションの配布形態を、そのままMacにも転用するようなイメージでしょう。これにより、Macで使うソフトウエアもAppStoreを経由してダウンロード購入するという流れをAppleは想定しているのでしょう。

ソフトウエアというのはコンピュータの中心になるアプリケーションだけではなく、ハードウエアのためのドライバソフトウエアや、ファームウエアなど、単なる「アプリ」だけにとどまりません。これらのドライバソフトもAppStoreからいちいちダウンロードすることになるのでしょうか。コストに関しては無償ということにはなっても、そこまでAppleがすべてのソフトウエアに関して面倒をみるとは考えにくいのです。まずはAppStore経由のダウンロードは、アプリケーションだけに限定して、その後たくさんの経験を積んで進化していくというのが妥当な線だと思います。

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アプリケーションという視点で考えてみると、このAppStoreは大きな転換点を迎えるであろう可能性を秘めていると感じています。iPhoneやiPadのアプリケーションは平均すると500円前後でダウンロード購入できます。Mac版のAppStoreでも同じ価格帯になるとは考えにくいですが、しかし、何十万円もする価格帯でAppStoreに製品が並ぶとも考えにくいのです。10万円のアプリでは、簡単にクリックしにくいですから。そうなると、せいぜい3万円くらいを上限とする価格、理想を言えばAppleがすでにリリースしているiLifeやiWorkの価格帯なら気軽に購入できそうです。Mac版のソフトウエアでビジネスをしていたデベロッパ達には、このようなシナリオは歓迎できないでしょうが、AppStoreを経由してアプリケーションを販売するとはこのようなことを意味するのではないかと想像しています。

もしこのようなアプリの価格帯が低くなることがあれば、デベロッパ各社は撤退するか方針を変更するという二者選択になるでしょう。今年に入ってiPad版のビューアアプリのリリースをきっかけにAppleの世界に戻ってきたAutodesk社のように、それまではMac版に手をつけていなかったデベロッパの参入も続々と現れるかもしれません。そう考えると既存のMac版デベロッパ各社は、形を変えてMacというプラットホームに対応していくのではないかと思います。そうなるといったいどんな展開になるのでしょうか。

映像系アプリに起こるコンパクト化への波

Final Cut ProやAdobeの各種アプリケーションなど、歴史があってたくさんのユーザーに支持されてきたアプリは、近年アプリケーション単体の肥大化が進んでいます。Mac OS XでCocoaに開発の軸足が移ってから本格的に参入したデベロッパ達はこれとは対照的で、スタンドアローンで比較的コンパクトなアプリに仕上がっています。映像系アプリはまだCocoaへの切り替えができていないものすらあり、客観的に見てかなり出遅れている感はあります。Mac OS XがLionに進化してAppStoreからのダウンロードへ変遷していくと、重厚長大なアプリケーションはお呼びではなくなるでしょう。そうなるとFinal Cut Proなどは絶滅してしまうのでしょうか。その可能性もありますが、延命するための方策も無くはないと思うのです。使用用途に則したコンパクトなパートに分割化するのです。企業でも大きくなり過ぎて分割民営化したことがあったように。

Final Cut Proで言えば、素材の取り込み、編集、エフェクト、書き出しなどのパートに分けることは可能だと思います。エディターは編集できればいいので、分割化されたFCPの編集パートのアプリだけを持っていればいいことになります。事前のキャプチャや、完成後の書き出しは別のアプリを使って、別のスタッフがやってもいいのです。もしもこんな展開になるのであれば、やっとワークフローのイノベーションがやって来る予感がします。 コンパクト化の恩恵は他にもたくさん現れてくると思いますが、私にも簡単に想像できるのがiPadやiPhoneへの転用です。まだまだ映像編集をバリバリ携帯デバイスでやることに違和感はありますが、慣れの問題も少なからずあり、さらにワークフローのなかでひとつのパートだけを携帯デバイスやるとなれば、その違和感も少なくなるかもしれません。

Xserveの販売終了が加速を促す

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11月に入って静かにXserveの販売終了のお知らせがありました。大々的にプレスリリースをする形ではなく、サポートサイトにひっそりと掲げられたかっこうで、来年の2011年1月31日をもって販売を終了するとのことです。すでに兄弟分のXserveRAIDは販売が完了しています。本来はこれと同時にXserveもディスコンにしたかったのではないかと感じるくらいです。Xserveは、基本的には中で走るOSがサーバ版のMac OS Xです。ファイル共有やWeb配信、メール管理など、UNIXベースとは言え管理ツールが不足しているクライアント版のMac OS Xでは力不足の部分を補う役目です。

XserveはXserveRAIDにつづいて販売終了にはなりましたが、サーバ版のMac OS Xはディスコンになるような噂も出ていないようです。どちらかといえばMac miniとの組み合わせというこれまでのスタンダードなサーバ用途ではなく、ホームサーバとして生きていく道を模索しているように見受けられます。ホームユースも含めた中規模のコンピュータを集中管理する、さらにMacというユーザーフレンドリーな操作体系でそれをケアできる分野。そこに対してはAppleはまだ食指を残しているように感じます。

サーバというと、どうしても大型コンピュータをマシンルームに設置して、24時間365日の連続運用でダウンタイムが許されないという過酷なイメージがありました。このようなサーバはこの先も多方面で必要不可欠ではあるのですが、その在り方は変わっていくでしょう。クラウドへの移行はそのひとつで、Appleもそのための巨大なクラウドを建設中との噂もあります。パーソナルとクラウドの中間に位置する「中継基地」のような位置づけがMac OS X Serveと考えると、この先の生きる道がイメージしやすくなります。

サーバーはクラウドへ進化することで、目に見えない存在になります。実態はどこにあっても関係なく、安定して自分の役に立ってくれればいいのですから。それに対して実体があるのは、人間が使うパーソナルなデバイスだけです。パーソナルコンピュータはさらにコンパクトになり、携帯デバイスもさらに進化して、それらの垣根がいつのまにか曖昧になるでしょう。

このように考えていけば、コンピュータや携帯デバイスのハードウエアは、この先どんどんコンパクトになっていきます。その中でハードウエアと密接につながることになるソフトウエアも、コンパクトになるというのは自明のことなのでしょう。コンパクトなハードに肥大化したアプリケーションは馴染まないのです。これをスムーズに移行しようとするのが、AppStoreの目的のひとつなのではないかと考えています。

エンタープライズ部門の撤退なのか

XserveRAIDが去り、Xseveもそれを追いかけて、エンタープライズ分野からの撤退と感じる向きも少なくないでしょう。しかし、そうとは簡単に言い切れないのではないかと思うのです。エンタープライズ分野は、企業で長期安定して使うことができる信頼性の高い製品が求められます。しかし、そんな企業でそれらを使うのはひとりの人間の集まりです。企業でも家庭でも、小さな職場でもそこにいるのはひとりの人間です。そうであれば使うデバイスは同じでいいのではないか。安定して運用するサーバはクラウド側へ任せておく。そう考えれば、エンタープライズという定義自体が変わっていく必要があるのではないでしょうか。使うのはひとりの人間です。重要なのはそこで、ひとりの満足を高めるための製品作りを、分野は関係なく進めていくことなのです。Appleはそんな製品を作ることに特化していくと、今回の一連の動きから感じます。

WRITER PROFILE

山本久之

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。