先日、SONYのExmor Super35 CMOSセンサー採用新型ミドルレンジカメラ「NEX-FS100J」を使う機会を得た。とはいえ、実は、私の映像制作会社アイラ・ラボラトリ向けには同じSONYで同時発売の防塵防滴業務カメラ「HXR-NX70J」の方を買ったので、FS100は自分で買ったわけではないが、せっかくなので、手持ちのマイクロフォーサーズカメラ「AG-AF105」と使い比べて見ることにした。

両カメラは、一眼レフ動画(DSLR動画)から始まったレンズ交換式大型単板素子カメラの動画カメラメーカー側からの回答であり、業務用カメラの雄、SONYとPanasonic両者が正面から激突する注目の2台なのだ。ちょうど、私の手元にDVDの撮影の仕事が入っていたこともあり、業務で両者を並行運用しつつ、10日ほどがっつりと使ってみた。今回は、実業務から見た、厳しめのインプレッションを行ってみたい。

ミドルレンジシネカメラに相応しい、暗所&閃光の鍛冶場にて撮影!

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左がパナソニックのAG-AF105。右がSONYのNEX-FS100J。こうしてみると、FS100Jの方がかなり大きいことがわかる

実は私は、映像制作の傍ら、数年前から刀匠「松葉國正」に弟子入りし、刀工免許取得を目指して刀工修行を続けている。あまり知られていないが、刀工免許所持者が伝統的技法に則って作刀した刀剣は、銃刀所持許可証が付くため、誰でも所持することが出来る。これは、もちろん斬ることの出来る本物の刀だ。現代日本では、そうした刀を作る許しを国から得た刀工免許所持者のことを「刀匠」と呼ぶ。

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NEX-FS100Jのセットアップ前。サイドハンドルまで取り付け式で、収納時パーツ数が非常に多い

今回のDVD撮影もこの刀工上の関係であり、これは、FS100JやAF105のシネカメラ(映像制作用カメラ)としての性能を示すには、もってこいの状況ではないかと思われた。なぜなら、鍛冶場は暗く、しかし、その炎は明るく、叩かれた鉄から放たれる閃光は強烈な明るさを持つという、撮影上の矛盾を抱える場所であるからだ。

師匠の鍛冶場には安全の都合上(なにしろ鉄を溶かす温度なので)カメラを一台しか置くことは出来ない。そのため、各カメラごとに、週をまたいで別々の鍛刀過程を2回にわけての撮影となった。本来は同時撮影で性能差をはっきり見たかったのであるが、この点はやむを得ない。本来そもそも極秘の鍛冶場を撮影しているのだから、ご勘弁願えるものと思う。こうしたフルHDシネカメラ2台体制というのは、DVD向けには完全にオーバースペックではあるが、まあ、そこはそれ、楽しんで作っていくことにした。

機材は、FS100Jは本体+標準Eマウントズームレンズ+HDMI外部収録機、AG-AF105もこれに合わせて本体+コシナ NOKTON F0.95+HDMI外部収録機というシンプルな構成とした。

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FS100J、今回の撮影に使った構成。独特の形状だ

しかし、この収録後、東京に帰る間に外部収録機が思わぬトラブル。ファイル構造が怪しくなり、ほとんどの撮影データの読み出しが出来ない事態に陥ってしまった。そこで、急遽、収録機のオンラインデータ(ProRes422データ)ではなく、本体内の予備データであるAVCHDデータによる編集を強いられることとなった。

しかし、撮影時、弊社はAdobe CS5.5の導入前で、AVCHD編集はこのとき実はまだ試験対応状態。そのままの環境ではのんびり1カットずつFinal Cut Pro 7の「切り出しと転送」でProRes422に変換する他無く、変換作業と並行して真っ青になりながらDVD発注元に頭を下げ、急遽CS5.5の導入手配を掛け、2週間以上制作開始を引き延ばして貰う羽目になった。

トラブルを起こした収録機への入力を前提とした撮影のため、FS100Jは30Pの撮影になっている。また、比較のAF105は外部収録機を当て込んでいてあまり積極的には内部同録をしていなかった(実は、AG-AF105はリモコン信号が特殊で、単独リモコンによる外部収録機との同時録画指令が出来ない)。そのため、外部収録データが全て消失した今、カメラ内のSDカードには特殊効果向けに収録機を使わずに撮影した24Pのデータしか残っていないというちぐはぐな収録状況ではあるが、ご勘弁頂きたい。

ファーストインプレッション

FS100Jの第一印象は、とにかく扱いにくいカメラだということだった。カメラ形状からして独特の同カメラでは、機能の何もかもが従来のカメラとは異なる位置にあり、いちいち目視をして使わなければならない。しかも、業務用のフルスペックが揃っていないため、散々カメラのあちこちを探した後で、実は機能そのものが初めから存在しないことに気がつき、愕然とする場面も多かった。例えば、NDフィルタが無い、SDI端子も無い、といった点は、このサイズと価格帯の業務用カメラとしては驚きだ。

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また、トップハンドルの使いにくさは特に気になる。レンズ込みでかなり重量のある本体を、コールドシューに嵌めた一本足ハンドルで運用すると、いかにハンドルをしっかり固定したところでどうしてもたわみがでて、カメラが揺れる。液晶モニタに付けるタイプの巨大な日よけファインダーは、跳ね上げると後寄りにセッティングしたトップハンドルやその上に設置したサブモニタ類と干渉する。スライドさせ、前寄りにハンドルをセッティングすれば干渉は避けられるが、今度は三脚から外して運用しようとしたときにバックヘビーで非常に持ちにくくなる。そもそも、本体NDフィルタの無い同カメラではレンズ側のNDフィルタの差し替えが必要で、運用中に頻繁に明暗所を行き来することは考えにくく、わざわざ跳ね上げ機構の付いた後付けファインダーを用意した意味がわからない。

右サイドハンドルも可動式になっているため、いちいち蝶ねじで留め直して収納する必要があり、セットアップに大変時間がかかる。しかも、せっかく可動式であるにもかかわらず、ハンドル位置がアンバランスで、標準レンズでも右手一本で重量バランスがマッチするポジションを取れない。それだけでなく、どうもFS100Jは本体の剛性が低く、三脚上に固定してもカメラ本体自体がたわんでブレがでてしまう場面もあった。形状の都合でレンズを付けると前に長くなってしまうためバランスも悪く、三脚上の据わりも悪い。せっかくの小型業務用カメラであるにもかかわらず、手持ちでは運用不可、三脚利用でも扱いが困難という印象のカメラであった。

困り果てたのがマイクで、このカメラにステレオマイクを差すと、2チャンネル目のコネクタが1チャンネル目と90度角度を違えて、なんとカメラ手前側に来る。これが邪魔でしょうがない。撮影中にマイクケーブルに触れるのはノイズを自ら起こしているようなもので恐ろしくて堪らないが、それを強要されるスタイルなのだ。ただし、FS100Jのレンズマウントは素晴らしい。同機の民生版とも言えるNEX-VG10の為に作られたEマウントレンズは固定も万全で剛性も高く、フォーカス機能や手ぶれ防止機能まで備えている。電動ズーム対応レンズこそ無く、まだまだ対応レンズ自体も少ないが、今後が大いに期待できるレンズマウントだ。

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初めてでも即使いこなせるAG-AF105の安定感は特筆に値する。セットアップも簡単だ

これに対し、AG-AF105は、とにかく扱いやすい。安価ながら業務用に必要なフルスペックがほぼ揃っており(唯一リモコン端子のみが半家庭用のような独自仕様)、業務カメラを使い慣れた者ならば半時間も練習すれば充分に使いこなすことが出来る。NDフィルタも3種類を内蔵。端子類も充実しており、本体も金属製でたわみも出ない。ハンドルも取り外し可能な上剛性が高く、非常に運用しやすい。三脚上での座りも万全で、まさに業務用として違和感なく運用が出来る。

中の回路は小型スチルカメラのGH2と同等のものをベースとしているのため見た目に反して大変軽く、小型カメラならではの手持ち運用も容易で、バッテリーも本体奥に収納されるためバッテリーサイズによる重量バランス変化も抑えられていて非常に扱いやすい。

AG-AF105の最大の欠点は、その最大の利点でもあるレンズマウントだ。同機の採用するマイクロフォーサーズマウントはそもそも動画での運用を考えていないアマチュア向けスチルカメラ規格のため、業務用動画カメラとしては精度も剛性も頼りない。動画用に口径の大きい重いレンズとマットボックスを付けて運用する内に、だんだんガタが出てきて、ブームやフォーカスでがたつき、しまいには音が出るのではないかと不安になることがある。その代わり、マイクロフォーサーズの民生品ならではの無数のレンズ資産を使うことが出来、浅いフランジバックを利用した変換マウントアダプタを使用すれば、多種多様なマウントのレンズを使うことが出来るのは大きな魅力だ。

FS100Jの抜群のCMOSセンサー

松葉刀匠による「剣」の作刀。FS100Jによる撮影

今回の撮影では、結果的に収録機側のデータ消失という過酷な状況となってしまったが、FS100Jの画質の優秀さは内部AVCHD収録でも充分に見て取れる。なお、全ての動画データはカメラ本体収録のAVCHDデータをFinal Cut Pro 7でProRes422変換した。最初のシーンはFS100Jの性能の高さがわかる「素延べ」の場面。素延べとは、繰り返し折り返して鍛着して鍛錬した鉄の棒をいよいよ刀の形に変える第一段階の工程で、比較的高い温度で叩かれる場面だ。

松葉刀匠の絶妙の温度管理で、鉄が燃える寸前の温度でコントロールされ、切っ先の形状がたたき出される難しい技法の瞬間を捉えている。温度管理を鉄の赤熱した色で行うために鍛冶場の照明はコントロールされ、背景は真っ暗に近い状況、なおかつ、刀身は白熱して光り輝いている難しい場面だが、FS100JのCMOSセンサーは、見事にその両者を描画しきっている。水に浸けた後のわずかな湯気まで撮影しきっていることには驚く他無い。さすがに熱せられた鉄の白熱部分は白飛びしてしまっているが、背景にも、CMOS特有の暗所ノイズは全く見られず、FS100Jの性能の高さを思い知る事が出来る。

続いて、両カメラでの収録データをいくつか比較してゆきたい。まずは、光の表現と暗部性能について、二つの映像を比較したい。

松葉刀匠による「剣」の荒素延べ。FS100Jによる撮影


松葉刀匠による「剣」の火作り。AG-AF105による撮影(24P撮影)

実はこの二つのシーンは、同じ熱鍛造でも手順がだいぶ異なり、FS100Jの方が弟子の大鎚や機械ハンマーなどで荒く大まかな形を打ち出す荒素延べ工程、AG-AF105の方が素延べの後で刀の形を作り込む段階の「火作り」工程を撮したものとなっている。そのため両動画で捉えている剣の温度もかなり異なっている。AG-AF105の方がかなり温度が低い(=鉄の色が暗い)事をご了承の上ご覧頂きたい。まず、FS100Jでは、高速で打ち下ろされるスプリングハンマーの動きを余すところ無く捉え、徐々に下がってゆく鉄の熱や、水打ちによって起こされる水蒸気爆発と、それによって吹き飛ばされる酸化鉄の破片までも映し出している。ほぼフルオートで撮影した状態でこれだけ撮れるのは、驚嘆する他無い。

これに対し、AG-AF105の方は、背景に暗所ノイズが乗ってしまっている。ハンマーで叩かれて飛び散る水滴も、表現し切れていないところがある。しかし、解像感は十分で、低い温度にもかかわらず、鉄の赤みの変化まで見事に映し出している。パナソニックの24Pならではの映画的表現が美しい。ちなみに本来は、このFS100Jで撮影したスプリングハンマーの役割をするのが刀匠の弟子としての私の役目である。5キロもある大鎚を2.5メートルの高さまで持ち上げて振り下ろし、この速度で叩くのだ。無論、人力での作業である。しかし、撮影しながら鎚を打つのは不可能なため、今回は涙を飲んで機械ハンマー君に活躍して貰った。私の作業を皆様にお見せできないのが残念だ。…ずっと撮影していれば楽なのに、と思ったのは、師には内緒である。

人物撮影の美しさは、それぞれの特徴あり

松葉刀匠の合気道鍛錬シーン。FS100Jによる撮影

続いて、シネカメラとして肝要な人物撮影の性能を知るため、松葉刀匠の合気道鍛錬シーンを、両カメラで捉えてみた。実は松葉刀匠は合気道の達人としても名が知られ、武道集団「大和劔心会」を率いている。同刀匠の鍛錬は、常人の枠を越えたもので、なんと、旧家の大黒柱を削りだした巨大な鍛錬棒を片手で振るという凄まじいものだ。私自身も武道家で体力には多少の自信があるが、この鍛錬棒は到底片手では扱えないものだ。こんな漫画の中から出来たような超人が、世の中には存在しているのである。そんな無茶なシチュエーションを、両カメラは見事に捉えている。

松葉刀匠の合気道鍛錬シーン。AG-AF105による撮影(24P撮影)

このシーンでは、SONYカメラ特有の皮膚の透明感が生きず、むしろFS100Jの方がのっぺりとした印象を受ける、意外な結果となった。ダイナミックレンジはシネライクVモードで撮影のAG-AF105の方が明らかに優れており、生き生きした印象がある。精細度も細部をよく見ればセンサーサイズの大きいFS100Jの方が細かい部分まで映っているのだが、色描写力の高さでAG-AF105の方が精細感が高いかのように見える。これは、内蔵NDフィルタの有無がもろに出てしまっているのだろうと思われる。NDフィルタのないFS100Jでは、屋外ではどうしてもゲインを落とさざるを得ず、そのため、全体に曇った感じの質感になってしまっているのだ。実際、撮影当日は光の変化の大きい明るめの薄曇りであり、AG-AF105では光に合わせてNDフィルタをどんどん切り替えながらの撮影となった。しかし、FS100Jではたとえ別途レンズフィルタを用意していたとしても、光に合わせていちいちNDフィルタを切り替えるのは難しい。こういう実際の屋外撮影シチュエーションにおいて、内蔵NDフィルタのないFS100Jの方は全く不利だ。

また、両者のレンズ性能の差も大きい。AG-AF105に取り付けたコシナのNOKTONは夜間撮影のみ注目されがちだが、そもそもが極めて優れたレンズであり、NDフィルタなどで光量さえ絞ってやれば、昼間でもこうした素晴らしい描画力を示せるのだ。それに対して、FS100では標準レンズであり、どうしても不利になってしまっている。同じ標準レンズ同士であれば、ここまでの差はなかったかも知れない。

最難関!刃中の働きを動画で捉える!

松葉刀匠による小烏丸写し、寸延び短刀。FS100Jによる撮影

さて、こうして刀匠が鍛え上げた刀は、研ぎ師に出され、刀剣として完成される。研ぎ上げられた刀剣は、そこではじめてその刃紋や地鉄の美しさを表現され、一つの芸術作品として昇華するのである。研がれた刀剣には「沸え・匂い」「刃中の働き」と呼ばれるものがある。これは、刀剣に含まれる微粒子が焼き入れという熱処理の過程で大きさを変えて変質し、それを研ぎによって析出させて、光を反射させ、その風景を楽しむ、というものである。日本刀にわざわざ土を乗せてから焼き入れを行って刃紋を出すのは、実はこの「沸え・匂い」や「刃中の働き」を創り出すためである。日本刀を斬れ味やただの刃紋で楽しむのは初心者も初心者。つまり刀剣の一番の肝は、鉄に含まれた粒子が織りなす、光の表現にあるのだ。とはいえ、刀剣の鑑賞は、多少の慣れが要る難しいものだ。ましてや普通、動画にそれを捉えるなどと言うことはなかなかに出来ない。

そこで、今回は、無茶を承知でこの2台のカメラを用い、刀の鑑賞者の視点での撮影を敢行してみた。撮影対象は松葉國正刀匠作刀の小烏丸写しの剣。古刀を思わせる練り鍛えられた肌に、相伝備前伝の大乱れ丁字のつけられた美しい一口だ。もちろん、これも教育委員会の美術審査を経て銃刀所持許可証を付けられた正統な刀剣であり、現代日本の宝でもある。

松葉刀匠による小烏丸写し、寸延び短刀。AG-AF105による撮影(24P撮影)

AF105の方はピントを手動合わせ出来たが、FS100Jの方は独特の扱いにくさから到底ピントまで手が回らず、かなりオートフォーカス任せのピントとなった事をご了承頂きたい。そのため、FS100Jの方は、若干カメラパンに遅れてピントが合う形となっている。撮影の結果はご覧の通り。両カメラともきっちりと刃中の働きを映し出している。これには驚いた。正直なところ、両カメラ共に刃中の働きの撮影は不可能だろうと思っていたのである。フルHDの時代には、こうした、SD時代では考えられない現象が起こるのだ。

両動画を比較すると、FS100Jは、極めて高いCMOSセンサー性能を発揮し、全くノイズのない鮮明な画像だ。古鉄を混ぜた青々とした鉄地の色がはっきりとわかる。その代わり、地肌の凹凸は潰れてしまっていて判別が難しい状態になっている。それに対し、AF105では、マイクロフォーサーズというFS100Jよりも一回り小さい素子のため、光量の不足から全体にうっすらとCMOSノイズが乗ってしまっている。代わりに、NOKTONの見事な光学解像度を生かし切り、古刀を思わせる地肌の凹凸まで見事に描写しきっており、描画エンジンもその表現を邪魔していないことが見て取れる。粗い粒子である「沸え(粒子状に白くつぶつぶに 見える表現)」どころか人の目にやっと映るかどうかの細かい粒子である「匂い(粒子が判別できず、霞のように見える表現)」まで見事に描画しきっているのには驚いた。

ここで両カメラの特徴がはっきりわかる特徴的なフレームの一部を切り出してみた。

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FS100Jで撮影。30P。全体の色味は自然だが地肌は捉え切れていない。また、所々偽色が見られる

AF105で撮影。24P。全体に色は黄色いが、地肌や微粒子まで見事に捉えている。偽色は見られない

静止画で見るとはっきりわかるが、FS100では、暗所までしっかり映ってはいるものの、刀身の地肌の変化は撮り切れていないのがわかる。また、画面右奥側にあたる刃先の側にある刃中の変化も撮り切れて居らず、大まかな模様しか映っていない。これに対しAF105では、暗所は真っ黒に潰れてしまっているものの、刀身の地肌の変化は正確に映し出され、刃先にある刃中の変化も正確に映し出している。実はこの刀身は三日月宗近を意識したもので「地景(鉄地に現れる鉄の変化した部分。黒い太めの筋のように見える)」や「稲妻(地景の内、刃にまで入り込んだもの)」「金筋(地景と同じ鉄の変化だが、金色に光り輝いて見えるもの)」なども刃中に織り込んであるのだが、AF105ではそれらも鮮明に見ることが出来る。

この両カメラの画質の違いは、両カメラのCMOS性能の違いと、ローパスフィルタの違いに起因すると思われる。上位機種「PMW-F3」譲りのFS100のCMOSは素晴らしい感度で暗所なども鮮明に捉えることが出来る。それに対し、AF105ではCMOS自体は民生機のマイクロフォーサーズそのもので暗所性能はそこそこだが、その代わり、動画専門のローパスフィルタによってレンズからの光を余すところ無く収録し、抜群の解像感を実現している。全体の色味については、さすがSONYだけありFS100では自然な発色が特に調整無く得られている。これに対し、AF105では同カメラ特有の黄色に寄った発色が非常に目に付く。

超高性能大判CMOS素子を備えた実験的カメラNEX-FS100Jと、堅実な業務機AG-AF105

さて、このように両カメラを使い込んでみて、どちらが優れているかとなると、これは難しい。NEX-FS100Jは、極めて優れたCMOSセンサーを持ち、その描画力は価格帯をはるかに超えた素晴らしいものだ。しかしその反面、業務用カメラとしての操作性には疑問があり、かなり実験的な匂いのするカメラ、という評価をせざるを得ない。

FS100Jでは、HDMIしか端子を持たないため、SDI端子による機材システムへの組み込みが困難な点が特に引っかかる。FS100Jは、元々の形状も特殊で微調整なども本体単独ではこなしにくいため、後編集が不可欠なシネカメラだ。内部収録もAVCHD収録、しかも60P対応という特殊な環境前提のため、極めて扱いにくい。そんなカメラであるにもかかわらず、SDI端子を持たず拡張性が低いというのは、これは大きなマイナスポイントであると言えるだろう。今回も、AVCHD圧縮で、せっかくのセンサー画質の良さも死んでしまっている場面も多かった。

これに対し、AG-AF105の方は、マイクロフォーサーズという安価路線の民生仕様をベースにしただけあって、正直言って一眼レフと比べると価格相応以下のセンサー性能しか持たないが、その代わり、極めて優れた業務用カメラとしての操作性を持っており、今すぐにでも撮影現場のカメラをAF105に置き換えても全く違和感なく使うことが出来る。AF105の画質が価格相応以下とは言っても、それは35ミリフルサイズ機を含めた一眼レフ動画(DSLR)基準でのことで、従来の業務用カメラの水準を考えれば最高品質に近い格段の画質であり、業務上何ら問題はない。AF105ではSDI端子も備えており、本体各所に用意されたねじ穴に追加パーツを展開できるのもメリットだ。もちろん同機はHDMI端子も持っている。

今回はHDMI収録機がトラブルを起こしたが、使用実績のあるSDI端子の収録機と異なり、正直なところHDMI収録機はまだまだ未知数であり撮影現場での積極的な利用は難しい。今回の収録機側HDDのトラブルの元として、振動と埃の多い鍛冶場での使用という状況の影響もあったとは推測される。しかし、プロの撮影現場で、一切振動もなく埃もないところなどスタジオ内以外には存在しないだろう。そうした条件を考えると、ハードディスクベースのHDMI収録機は、今現在はまだ、とてもプロの実用に耐えると言うことができない。HDD以外のHDMI収録機も出始めてはいるが、まだまだそれらも未知数と言える。

そんな状況でHDMI端子しか持たないFS100Jは、内部収録のAVCHDをオンライン素材として使うことを前提にして収録を行うしかない。せっかくの美麗なセンサー能力なのに、収録時にそのデータの大半を捨ててしまうのだから、これはもったいないという他無い。

私自身、映像のプロとしては今まで通りAG-AF105を主に使い続ける選択となるが、趣味的にはFS100Jのハイエンド画質を使ってみたくなる気もする。特に、撮り直しの効くアマチュア映画や、プロモーションビデオ撮影などでは、FS100Jの出番もあるのではないだろうか?逆に言えば、撮り直しの効かない場面では、どんなに画質の要求があったとしても、私は迷わずAF105を選択する。

いずれにせよ、両機共に、まだレインコートも出ていないような発売ほやほやの最新機種である。サードパーティを含めた今後の展開にも注目しつつ、成長を見守ってゆきたいカメラであると言える。なお、今回の撮影データによるDVDは、松葉刀匠率いる大和劔心会に参加すれば、入手することが出来る。松葉刀匠の刀剣、大和劔心会などのお問い合わせは下記HPまで。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。