そもそも立体視って?
今年は、3Dという言葉が聞かれなくなり、代わりに立体視やステレオスコピック等の言葉を何故か多く聞く。言っていることは同じなのだが内容は若干違う気がする。3D=飛び出す映像、立体視=奥行き感のあるXYZ軸の映像、イメージ的にはこんな感じだ。よく見れば同じ事を違う言葉で表現しているだけなのだが、この表現こそ最近の3D映像を表しているように思える。一昔前、3D映像を撮るには2台のカメラをリグを使って正確に視線を出しワンカット毎に再調整、画角は元よりそのシーンにあったコンバージェンスまでも台本と3Dディレクターによる調整が必要だった。確かにそれはそれで素晴らしい映像だがそれにかかる費用と時間はチョット疑問符がついてしまうほど。それらはトップエンドのシネマ位でしか制作出来ないものだ。
3D自体はコンバージェンス自体をカメラの角度を付ける方向から水平に距離を出す方法と色々な物が試され、人間の目の距離が一番良いとされていた。最近では、テクノロジーによって更なる進化を遂げている。その最たる物がJVC技術で有名な2D-3D変換技術。いわゆるこれまでの飛び出す3Dではなく、映像面を0としてマイナス方向にはいくらでも奥行き感を出すことが出来るものだ。理論上レンズ間を200m離すことも出来るので、特にワイドレンジでの立体視には有効だ。このようなあり得ない条件下での3D映像もできるのだ。
小型3Dカメラの登場
この大きさ気軽さはこのカメラの武器になる
どちらにしても色々大がかりな3D映像をグンと身近にしたものが、ワンボディ2眼3DカメラであるPanasonic AG-3DA1だろう。このカメラの画期的な部分は、一番面倒なズームとコンバージェンスを感覚的に操作でき、ワンマンオペレートでもかなり使えるということだ。ストリーム自体は単純に左右の異なる映像を2枚のSDカードに収録するという単純明快なもの。このカメラによって3D映像は一部のシネマだった物が一気に業務レンジレベルまで下がってきた。筆者もこのカメラ登場まで3Dというものには全く興味がなかったが、このカメラを覗いた瞬間から「こんなに面白いものだったのか」と再確認した感じだ。
しかしこの3DA1、今までの3Dカメラに比べれば比較にならないほど小さく価格も安いものだが、それでもそれなりの価格とそれをペイに出来るほどの仕事がなかなか無く、さすがに自費購入というところまでは行かなかった方も多いはず。そんな中で3D映像という言葉もだんだん沈静化していったが今年のNABを前にしてSONY・JVC・Panasonicの3社から小型ハンディカムスタイルの3Dカメラが登場した。特にSONY・JVCは独自フォーマットのAVCHDながらも二眼ワンボディをコンパクトな民生機レベルのボディに詰め込んできたが、その中でもハンディカム3Dカメラでも業務用として販売されているSONY HXR-NX3D1Jを今回使用できるチャンスが出来た。このカメラの特徴は3D機能というより、その実売30万を切る価格かもしれない。
簡単極楽ステレオスコピック
左:未修正 |
右:修正 |
※この画像後ろの木が斜めでローリングシャッター現象に見えるが、撮影場所自体が12°の斜面
特徴は低価格と書いたがもちろんそれだけでは無い。このカメラは3Dカメラ初のフルオートカメラとして機能することだろう。一番の特徴は、やはりオートコンバージェンス機能だ。被写体によってその都度最適な視差を調整してくれるので3D映像を撮り初めに起こりがちな立体視の破綻を押さえてくる。マニュアルで調整も出来るが、筆者が試した感じではオートが一番良い結果を生み出してくれていると思う。これは制作系と言うよりもENG寄りの使い方での話だが。このカメラの一番使いやすい部分はとにかく普通のカメラと全く同じに使えるということ。
このサイズで10倍のズーム比を持ち、2D映像ではHDだけではなくSDでも撮れる。しかも2D時にはワイド端30mmを切る画角を持つ。つまりこのカメラは素材をしっかり撮るというよりもディレクターカメラとしての役割が大きいかもしれない。画質的には民生機のCX700とほぼ同等と思って良いだろう。感度も画質もほぼ同じ、静止画切り出しを見ると2枚一組の3Dな分、インターレースズレのように切り出し画像は見えるが、PS等でインタレースを解除する事で十分に使えるレベルになる。
3D対応ノンリニア編集は?
筆者のメインであるEDIUSとはNLEとしてかなり概念が違う感じを受けた。
筆者は基本的にEDIUS使いなのだが、残念ながらまだ3Dに対応されていないのでNX3D1Jと一番相性が良いとされているVegas Pro 10を使用してみた。確かにSONY製品だけあって、基本設定の中に既に3Dの設定が多数あり、おおよそのフォーマットさえ決めてしまえば後は自動的に調整される。今回はYouTubeの推奨3D設定に合わせるべく、サイドバイサイドのハーフと言う設定でプロジェクトを作ってみた。中々使い勝手がよいソフトで流石カメラと同メーカーだけである…
…と、言いたいところなのだが、前評判では”軽いソフト””使い勝手がよい”と聞いていたが、今回Vegasを初めて使ってみたところ、筆者的にはそのどちらも当てはまらなかった。まず”軽い”という部分、同じPCにEDIUSの中でも重いとされるVer6が入っているがそれと比べても動作感の軽さは感じられなかった。むしろ重いレベルでは?動作感や操作感も、ほとんどMacを使うことがなくFCPを初めて触った時の方が直感的なアイコンも含めて筆者的には解りやすかった。
つまり今までのNLEとは考え方が少々違うのか、むしろリニアの3点編集に近い感じがある。という事はデジタイズしなければいけない分、余計な操作が必要となり、直感的なNLEの操作を受け付けてくれない。例えばミュージックビデオ等で音を聞きながら映像を作っていくような編集には向いているかもしれないが、一般的な業務レンジには向いていない気がする。それとも筆者が使い方を根本的に間違っているのかいずれかだろう。そうそう、ウチの環境だけなのかトライアル版だからなのか、ソフト自体の安定度も悪く、作業中にバッツリ落ちてしまうことが度々あった。これも何がトリガーなのか解らず困った現象ではある。今回は、トライアル版であるから正当な評価ではない事は付け加えておく。
総評
やはりこの様な縦の動き、向かってくる映像には3Dの迫力は捨てがたい
実は筆者は3Dより4K推進派(笑)だったりする。一番の理由は「眼鏡を掛けて食卓でテレビを見るのはあり得ない」という事。映画を見るなら良いじゃないか!という意見もごもっともだが、4Kの詳細な映像はプラス方向には出てこないがマイナス方向の奥行き感はナチュラルに見えてくる。そういった意味も含めて3Dよりも4Kだったが、さすがにここまで3Dカメラ自体が小さく、色々な部分がオートになり気楽に撮れるという事は確かに面白い。ただ通常の撮影と大きく違う部分が多々あるとも感じられた。
とにかく全てをフラットに映すということ。被写界深度は深めにし被写体に対してその後方までもしっかり明るく撮るようにする。物理的に難しくても若干オーバーアイリス気味でもしっかり明るく撮った方がこの手のオート3Dカメラには具合が良いように感じる。カメラワークもスパッと切れるよりヌターっとしっとりとした方が見やすい気がする。本格的な3Dをやってる方にしてみれば「それ違うだろ!」と言われるのも解っているが、少なくとも街のビデオ屋さん的な3Dカメラの活用法の第一歩はこんなところだと思うのだが…。