ネット配信は、ひとつのポジションを築いたのか?

ライブメディアコーディネーターのヒマナイヌ川井です。

2010年の2月にソフトバンクがUstreamへの出資を発表したその瞬間。孫さんに「Ustreamへの出資素晴らしいニュースですね!ぜひ表参道に誰でも使えるスタジオを作って下さい!」とツイートした男がいました。孫さんは3分後に「了解。やりましょう!」とリプライしそれから2カ月後に溜池の本社内にスタジオが、その2カ月後にUstreamスタジオ渋谷が出来ました。このツイートをしたのが私。それから私自身もTV-CM製作会社で過ごした20代、独立した広告プランナーとして携わったソーシャルメディアの融合点としてライブメディアに深く関わるようになりました。ライブメディアは中継メディア。その場で起こっていることを素早く低コストでネットで伝えることができます。巨大資本であったテレビとはまったく違う土壌から育っていくメディア。それから2年どっぷりとこの世界で経験を積んできましたが、混沌としていて魅力的な世界です。PRONEWSでも過去に何度かレポートさせていただいていますが、日々状況は変わります。

必要性が生んだ手帖

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この場で起こっていることを伝えたい!というニーズに応え、全国で中継・講演を重ねていくうちに日々の中継の視聴者数などの数字をメモできる手帖が欲しくなりました。これまでは、自分のノートにその数字をメモしていました。Ustreamの場合はのべ視聴者数と瞬間視聴者数が表示されるのでそれを10分ごとに記録していたのです。これらの数字はコントロールパネルであとで自動集計されるのですが、自分のノートに書き留めておけば中継終了後にすぐに分析できますし、どのような要因で視聴者が増えたか?も分析できます。

また中継をする機材の進化も凄まじく、当初はWebカメラやFireWire接続のDVカメラが主流だったものの、ローランドのVR-5やVR-3などが登場しマルチカメラをスイッチングして中継することが簡単になりました。MacBookにサンダーボルトが搭載されてからはHD-SDIやHDMIのデジタル信号を安価にPCにとりこむサンダーボルト対応コンバーターなども発売され、カスタムで組んだデスクトップでなくてもデジタルキャプチャーしたクリアな映像を中継に使うことができるようになりました。こうなると個々の中継でどんなカメラやコンバーターを使い、どのぐらいのビットレートで送出したのか?など細かな数値もログに残しておきたくなります。そこでライブ配信をする人が現場で毎日持ち歩き、自分の配信の機材や配信ビットレート、視聴者数の推移などをメモできる「ライブ配信手帖」を作ろうと思い立ったのです。

ちょうど私はFacebookで「Ust光学部」という250人前後のグループを主宰していました。これは主にDSLRを使って中継することを研究する部活動なのですが、レンズ交換に魅せられたレンズ沼の人々が吸い寄せられるように集まり独特のコミュニティを形成していたのです。メンバーには映画やテレビなどの映像製作を本業にする人からメーカーの人、アマチュアの人まで多様なメンバーが参加しています。この「Ust光学部」のメンバーに声をかけ「ライブ配信手帖」の中に全国のライブ配信者の連絡先が分かるイエローページを作ろう!と呼びかけたのです。するとあっという間に120件あまりのプロダクション情報が集まりました。企業として配信に取り組むところから個人までスケールはさまざまなのですが、全国を網羅しており今後何かイベントを配信したいと思う企業や地方自治体のみなさんには有益な情報になると思いました。この連載はこの「ライブ配信手帖」を作る過程をライブで発信していくコラムです。

お役立ちの「ライブ配信手帖」

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ライブ配信のデモンストレーションをする筆者

「ライブ配信手帖」は配信の機材や視聴者ログを記すホワイトページと全国のライブコーディネーターのイエローページがメインですが、その他にも配信者が日常持っていると便利なページを作ろうと考えています。そのお手本は映画・テレビ技術協会が発行している「映画・テレビ技術手帳」です。これは年会費を払うとついてくる特典なのですが、映画・テレビ・CMの撮影部と呼ばれる人が常に持ち歩いてるものです。フィルムの基礎知識からカメラのスペックまで様々な数値データが盛り込まれているのですが、「ライブ配信手帖」では映像をネットで扱うのに特有な数値やデータを掲載したいと思ったのです。例えばよく使うカメラのレンズ35mm換算ミリ数一覧。大きな会場で講演会などを中継するともっと寄りたいと思うことがありますが、それもカメラごとのミリ数を把握していれば次にどんなカメラを借りればいいかも分かります。配信ソフトごとの画面比率やビットレート一覧表。これも現場のモバイル回線の上り帯域を測定してどの配信ソフトを使うのがいいか?などを考えるのに役立ちます。よく使う機材の使用電力量一覧表。これも会場側にどのくらいの電力を使うのか?を提出するときに役立ちます。

このように「ライブ配信」に特化した現場の人が欲しい情報が圧縮された手帖を作りたいと思っています。「ライブ配信手帖」はスポンサーをすでに複数社獲得しており初版300部程度は無料で配布する予定です。一部はカメラや配信機材の販売会社店頭(PRONEWSを運営しているシステムファイブさんでもw)にも置く予定ですし、希望者には郵送で送る計画もあります。ぜひこの連載を呼んでくださっている配信者の方も「こんなページがあったら便利だと思う」という意見をお寄せ下さい!我々を取り巻くライブ配信という世界は、少なくとも映像業界の中に何かしら時代を作るものだと考えています。次号からは具体的にそのライブ配信の現場と映像業界にどう影響を及ぼすのかを考えていきます。

WRITER PROFILE

ヒマナイヌ

ヒマナイヌ

頓知を駆使した創造企業