Canon EOS 5D MarkⅡがプロの映像制作を変えてしまったが、ソニーの空間光学手ぶれ補正は家庭用ビデオの概念を変えてしまうだろう。業務映像と家庭映像の違いは三脚にある。子供のスナップや家族旅行に三脚まで持って行き本格的に撮影していたら嫁に怒鳴られることは必至であろう。
家庭映像ではほとんど手持ちなのである。そしてこの手持ち映像が見るに耐え難い。耐え難いのは撮った本人もそうなので編集などしたくない。そして撮るだけ撮って見返されない映像が大量に死蔵されていくのが家庭映像の末路だった。しかしこのSONY HDR-CX720V/PJ760Vに搭載された空間光学手ぶれ補正には度肝を抜かれた。
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手ぶれ補正をアクティブにしていると特にその効果は顕著である。PRONEWSのNAB2012取材で編集部から提供してもらったCX720Vを初使用。6日間行動を共にしてその強力な手ぶれ補正に惚れ込み帰国して、速攻で新規購入した。家庭用ビデオカメラを買ったのは10年ぶりくらいではないだろうか?
写真ならデジタル一眼のほうがいいし、動画機能も相当優れてきている。家庭用にビデオカメラが必要な理由がここ数年見当たらなかったのだ。しかしこの手ぶれ補正に出会ってその効果がデジタル一眼に搭載されている手ぶれ補正とは次元が違うものだと分かり俄然興味が出てきたのだ。なぜならこれはもはや「家庭用ステディカム」だからだ。
CX720Vの手ぶれ補正を最大限活かす撮影をするのにグリップの装着は欠かせない。本体グリップを使うとどうしても歩行中に手首のねじれがカメラに伝わってしまう。それでも手ぶれ補正アクティブだと回転軸に対しても補正するので驚くほど、なめらかに撮れるのは驚く。
グリップは何種類か試した。ケンコーのにぎるシリーズは短いのが特徴だが親指だけ録画ボタンにやり、他の4本指でグリップを軽く握るようにすると安定する。ソニーのハンディカム純正オプションであるGP-AVT1は録画スタートストップとズームが出来るのが便利で三脚にもなる。食事中にちょっとインタビューなどのシチュエーションにはとても役に立つ。三脚穴の位置を上下4cmの幅で変えられるのでLバッテリーなどを装着してリアヘビーになった時もバランスがとれる。
ただグリップの中心が下のほうに移動するのでカメラがふらつきやすいという欠点もあった。iPhone用のオーディオインターフェイスのFOSTEX AR-4iに付属している削りだしのアルミグリップは、ストレートですべりにくく底面に三脚穴もついていてよい。エツミのグリップは重心こそ移動できないもののグリップ感はベスト。すべての指が収まるべきところにピタッと収まる。ケンコーの26mm用円形フードとともにつけるとまるで往年の8mmフィルムカメラのようで微笑ましい。
さらに広角側だけではなく望遠側の手ぶれ補正にも凄まじい威力を発揮する。筆者が旅行帰りに撮った飛行機の離着陸を見て欲しい。光学10倍でブレないだけでなく、デジタルズーム120倍を入れて離陸する飛行機を追ってもほとんどブレないのだ!まるで三脚で追いかけているかのようなファインダーの映像に撮影している本人も笑ってしまったほどだ。これらの性能を見るにCX720V/PJ760Vにはディレクターカメラとしての素質をひしひしと感じる。
民生用と業務用が棲む世界
手ぶれ補正の延長として空間光学手ぶれ補正という名前がついているが、映像の上がりを見ればこれがもはや家庭用ステディカムと言えるレベルにあることに気がつく。PRONEWSユーザーならCX720Vをベースにした業務用NX30Jもいいだろう。HD-SDIがついていない、AVCHDオンリーであるなど物足りないところもあるが、カメラというより安いステディカムとして1台あれば映像のいいスパイスになるに違いない。
さらにCX720Vのマイク性能も予想をはるかに上回る性能だったことを付け加えておく。特に「はっきりボイス」や「風切り音低減」をオンにすると音質がめざましく改善される。オンにするとすべての音がイコライジングされるといった一昔前の機能ではなく、「はっきりボイス」の場合はカメラの顔認識と連携して、人が映っている時だけ人の声の中域を持ち上げてくる。「風切り音低減」はさまざまな音から風切り音を感知した時だけ画面のアイコンが点灯しローカットしてくれる。
まるでミキサーさんが中に入っているかのような仕事ぷり。向かい風を受けながら内蔵マイクだけで街頭レポートのテストをして、これは何も聞こえないだろうと再生したらびっくり!自分の耳でリアルタイムで聞いていたより遥かに聞きやすい音になっていてその補正技術に舌を巻いた。
たかが民生、されど民生。特機やプロの技術でしか実現出来なかった映像や音声が家庭用ビデオの標準になるとは恐ろしい時代である。