大判カメラでENGって?

OKANF24_NE50_03.jpg

三脚はマンフロット509HDを使用したが若干オーバースペック。504HDならBESTバランスだろう

ご存知の方は多いかもしれないが、かつては筆者はDSLR撮影が好きではなかった…。理由は簡単。学生や趣味で作るPVや自主映画ならともかくとして、デジイチのオマケ機能で仕事をすると言うのがどうにも納得できないからだ。オマケはあくまでもオマケで在って本筋ではない。そもそも撮影ってのは…とか言っていた頃がチョット懐かしい。そこまで意固地になっていたのは、EOS 5D MarkIIが登場したときの余りにもの使いにくさと、それをさも良いかの如く比喩をして、ピンも甘い浅い映像を撮りまくってThe・クリエーターと自称する輩が余りにも多かったからかも知れない。とあくまでも過去の事である…。

その事はともかくとして、大判センサーと35mmレンズの組み合わせは、動画撮影の場合では動く被写体に対してのフォローが難しい事が上げられる。理由の一つとして、EFレンズ等のフォーカスはAF主体の為か、とにかくストロークが短い。微妙なコントロールをするにはやはりフォローフォーカス等が必要である。またNDも内蔵されていないのでマットボックス等を利用することとなる。当時それらは高価なシネマ用しか無く中々手に入れられなかったが、最近はかなり値段のこなれた物も増え、それらを活用することで扱い辛かったDSLRもちゃんとコントロール出来るようになってきた。と言う事で、筆者もDSLRを含む大判センサーカメラも積極的に取り入れるようになったと言うのがこの1年の話である。

そうなってくると制作やシネマ等はPRONEWSライターでも著名なマリモレコーズ江夏氏やふるいち氏に任せるとして、ココはやはり自分の仕事範囲であるENGへの投入を考えるのは至極当然。それは最初の大判センサーハンディカムでもあるNEX-VG10の時にもやはり同じ事を考えていたし、同じような事を考えているENG系のカメラマンも多々存在し、各々が創意工夫して運用をしている事も多く聞く。

新しいスタイルを考える

OKANF24_NE50_02.jpg

どう見てもセミショルダーボディに、大判センサーが積まれている様には見えない

そんな中、大判=シネマの考え方を一番先に変えたのは実はPMW-F3だ。意外かと思われるのも無理はないが、元々のコンセプトがマルチパーパスカメラと言う位置付けであったはず。その理由がメーカー純正の14倍パワーズームレンズの登場だ。筆者もこのセットを使いENGでの現場をこなしてきたが、60i収録も含めてパキパキの映像は完全にENGカメラその物。

しかしそこからチョットだけ大判の良さを生かすようなセッティングをすれば、インパクトのある映像が撮れる。実はこの事実こそ、筆者が2011年5月特集で書いた「理想のカメラ」に限りなく近い物だった。とは言え、F3のあのスタイルをハンディで持ち歩くのは流石に辛い、と言うか実用的ではない。その為にRIGを組んでショルダーパッド等で腕への負担を減らすわけだが、結局そこでまた重量がかさみカメラコントロールがし難くなる。

かと言ってNEX-FS100やNEX-FS700はレンズやカメラ本体の形状も考えるとこちらも扱いやすいとは言い難く、ショルダー型の大判センサーカメラの登場を待っていたのだが、今年のNABでは展示されず半ば諦めていた。ところが、2Qも終わった頃からセミショルダー型の大判センサーカメラが登場した。それが今回のNEX-EA50JH(以下EA50)である。因みに型番”EA”の意味は、ENG and Actionではなくて「Event shooting APS-C Camcorder」と言う事である。シリーズもNEXとした訳も、イメージセンサーが大判=NEX、1/3インチ=HXR、と言う意味合いがある。共通項目はAVCHD収録だ。

ENGカメラとしての運用は?

OKANF24_NE50_05.jpg OKANF24_NE50_04.jpg

10倍パワーズームとHXRシリーズと同じ系統のボディデザインでENGカメラに!

まず基本的な部分である撮像素子はVG20と共通の物でサイズ的にはAPS-Cであり、FS700の様なスーパー35mm相当ではない。その後ろの映像エンジン部分に関してはEA50用にリファインされていると言うが、VG20と共通の入力部分であるために偽色やモアレも出てしまう。FS700Jでは採用されていたNDフィルターも今回はコスト的な理由もあって見送られている。しかしそれ以外のデザインは確実にENGライクになっている。

まずは新開発の電動10倍ズームレンズ。これはVGやFSシリーズに従来から付いていた18-200mmのレンズのズーム部分にモーターを仕込んだもの。実物を見るとそのサイズに驚くはず。良くここまでコンパクトに出来たものだと感心する。レンズ本体の重さもあってそのズーム速度はHVR-Z5JやHXR-NX5Jに慣れた方には遅く感じるだろうが、筆者が実際に現場で運用した時にはそのズームスピードが遅すぎるとは感じなかった。フォーカスも勿論AFとMFの切り替え式、さらには手振れ補正も効き具合を2段階で設定出来る。ボディに関してもHXRシリーズと共通のデザインを随所に取り入れている為に操作の違和感は無いだろう。

OKANF24_NE50_12.jpg OKANF24_NE50_13.jpg

ワイヤレスとLEDライトを装備、ワイヤレスはショルダー部分の1/4インチにL字ステー1本で装着可能

流石に今回は皆さんも大いに興味の在るモデルらしく、メーカー主催のハンズオンセミナーも満席になるほどだ。筆者が本機をお借りできた期間も短かったが、大筋には期待通りの使い勝手だったのでいきなり現場で使ってみた。今回は、SONYとしても力を入れていくというジャンルである結婚式の現場と、同じくPRONEWSライターでオタク社長として有名な手塚氏が行っていたBlackmagic Cinema Camera(BMCC)のTESTシュートの現場での使用例を、動画を交えながらご紹介しよう。

結婚式

ブライダルで一番大事な部分はバックアップ収録が出来るかと言う事だ。EA50はSDカードと共にSSDユニット(HXR-FMU128)を装着出来るが、残念ながら可能なのはミラーリング収録で、SSDユニットを回しっぱなしにするバックアップ収録は出来ない。先日のセミナーでもこの事を随分憤慨に思っている方が居たが、ミラーリングは保険と考えずにSDカード記録は撮って出しに使用、バックアップはHDMIから4:2:2信号が出ているのでNINJA等を仕込む方が運用的に良い。

レンズワークに関しては出来るだけマニュアルではやらずにズームリモコンをお勧めしたい。何故なら、ズーム方向がEマウントレンズはB4レンズと逆方向なので、ことブライダルの様に70%以上が三脚運用の場合は、方向が同じリモコンを用いた方が間違いがないだろう。

OKANF24_NE50_01.jpg

NDが内蔵されていない為、最悪ISO160設定、絞り込むことによって多少の晴れ間なら対処出来る。女性だとやや大型ボディに感じるかもしれない

大判センサーカメラについて話題となるのが、カメラの感度設定をGAINにするかISOにするかと言うテーマがあるが、お勧めはISO。GAIN設定はENGカメラの場合0dBが基準だが、この手の大判カメラの場合0dBでは殆どが低すぎる。大判の0dB=ENGの-6~9dBと考えて良い。よってISOの方が他の大判カメラを使った時にも応用が利くのでお勧めしたい。この時ISOは640~800を常用と考えて良い。そしてピントに自信が無ければ、ワンプッシュAFを積極的に使うことによりピンボケはかなり解消されるはずだ。

実際に本番で使用してみたが、ENGの様にエッジの効いたキレのある映像と大判特有の柔らかい深みの在る映像が1台のカメラで混在出来るのは、かなり映像表現に幅が出来る。

人物(モデル撮影)
OKANF24_NE50_07.jpg

これは仕事現場ではなくTESTシュートの一環でこっそりお邪魔した物だが、イメージ的にはオープンでのPV撮影を想定してモデルさんに入り込んで貰った。雰囲気は動画を見て貰うとして、広めの画角でも被写界深度を浅く出来るのは、やはり大判センサー特有の物だろう。

手持ち撮影の部分は手振れ補正を積極的に使用している。HXR-NX30の様な強烈な手振れ補正は期待出来ないが、それでもこの手の大型レンズの割にはしっかり効いていた。またダイナミックレンジの広さもこの手のセンサーには有効で黒つぶれの部分はよく見るとしっかり階調が載っている。

さて足りない部分はどこだろう?

ENGカメラとして新しい試みや、映像を撮ることが出来るEA50であるが、まず何よりもピントは難しいと思って良い。LCD自体も従来のタイプ(92万画素/640x3x480)で在る為に内蔵のマグニ等を利用してレンズに慣れる迄はしっかりとピンを掴みたい。出来れば5インチ位のモニターも装着したい所だがここの部分をNINJAに置き換えると一石二鳥である。

もう一つは感度に関する考え方。こればかりはGAINで考えるよりもISOで覚えた方が良い。またENGタイプと言ってもセミショルダー形状なので完全に担ぐ事は出来ない。ズームレバーが若干手前に来ている分、こちらもバランス的には良いとは言えないだろう。

総評

OKANF24_NE50_09.jpg

EA50付属の電動ズームレンズはレンズ本体横にもズームレバーあり。Eマウントのカメラならコンデジも含めて、取り付けて動作可能

大判センサーカメラをこの様なスタイルにし、記録映像やブライダル等の現場に投入しようとしている方、これは是非デモ機を借りてでも試して頂きたい。今までの収録した物に+αが加わるのはカメラマンとしても気持ちの良いモンです。基本はイージーライクに撮影出来るが流石にHVR-Z5JやHXR-NX5Jの様にフルオートで直ぐに運用出来るかと言えばそこまで簡単ではない。理由は一度書いたがピントの浅さと感度の概念の違い。ここをしっかり理解すればこのカメラは本当に隙無く現場を終わらすことが出来るカメラだと思う。その為には本当ならSONY主催のワークショップや販社主催のハンズオン等でしっかりと基礎を正すことが必要かと感じた。

最後に…。このカメラを迷ってる方、買い換えではなくて買い増しならば迷うことなく手に入れて下さい。逆に、今までのカメラからの買い換えの場合、HVR-Z1JやHVR-Z5Jを使っている方は直ぐにでも買い換えた方が良いです。特にHXR-NX5Jを使ってる方はメモリーユニットやバッテリーも互換で使用出来るので高値で捌ける内に下取りを出してEA50購入は当然アリだと思う。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。