安価なスライダーの簡単調整方法

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DSLRの盛り上がりと同時に小型のガジェットも昨今は数多く登場してきている。元々が2kg前後のカメラと言うこともあり各パーツが小型化したお陰か、販売価格も大型のENG用のそれと比べるとかなり安価だ。特にアジア系のメーカーが安い物を出しているが、最近はその質も上がって来たのか動きもかなり良くなってきている。しかし軽量なカメラを動かすには若干動き出しの滑らかさに疑問を持つ方も多いだろう。

今回はその様に考える方に向けて動作に一番大事なベアリング(BB)部分の調整とチューニングを中心に書きたいと思う。考えてみると、時代はクリス・アンダーソンの唱えるMakersの(DIY)。なんでも自分で作っちゃおう!という時代の流れ。いっちょ自分で行う事のもまた一考なのである!それではスタート!

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まずはスライド雲台部分をレールから引き抜く。小型のインナーレール式のスライダーだと大体この様に3個のBBでその動きを補っている。ここから先は自己責任での話になるので、手先に自信がない方は今回は終了と言うことに。好奇心があり手先の器用さにもある程度自信がある方(とは言えプラモデルを作れる程度で十分!)ならまずは徹底的に分解をする。この時、むやみに分解せずバラした順番に綺麗に解りやすく並べた方が部品の紛失も防ぐことが出来る。またバラす工具は出来ればBPやSnap-on等が理想だがそこそこの精度がある物なら大丈夫だ。百均で揃えた工具では話にならないので注意。見かけは同じでもエッジの立ち方が悪いのでビス等を舐めやすい。

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今回のポイントであるBBが今回のターゲット。スライダーを滑らかに動かすには、このBBを性能の高い物にするのが一番。大体のメーカーで専用品を使っていることはなく工業製品から上位グレードを選ぶことが出来る。BBには精度の悪い順からABEC3~7と言うのが一般的で、中にはABEC9と言う超高性能なBBもある。とは言えそこまでする必要が無いのも本音なので、まずは動きの悪いBBを如何にして回すかに重点を置こう。

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BBにはシールド式とオープン式があり、今回のベアリングはシールド式のベアリングを使用している。このスライダーは両側接触ゴムシール型を採用しているのでそのシールドをニードル等で外すと粘度の高いグリスが入っている。このBB自体は耐荷重がかなり高い物なので最初からその荷重に見合ったグリスが入っているが1kgも無いガジェットにはこの粘性が高すぎる。コレをパーツクリーナー等で除去しよう。パーツクリーナーでグリスを除去し完全脱脂したら、グリスの変わりに粘度の低いBBオイルや浸透製メンテナンスオイルを適量使用する。この時に研磨材入りのものは厳禁だ。

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オイルを注入したらシールドを元に戻しスライダー本体を組み立てるのだが、この時にセンターのBBはレールとの接触部分を調整するために回転するようになっているので、ここの部分は金属研磨材等を使って鏡面仕上げにすると後の調整がやりやすくなる。レールにスライド雲台を取り付けた後に、レールとの面圧の調整をするわけだが、理想はレールとの隙間が髪の毛1本位が最高に良い。とは言えそれも難しいので、実際の重量分の負荷を掛けて一番動作が軽い部分を見つける位の感覚でOKだ。その後バラしたパーツを組み立てて終了。この時にレール部分も金属研磨剤を使って鏡面仕上げになるように磨くのも忘れないようにしたい。

SK8-Dolly(スケートドリー)の調整方法

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SK8-Dollyも最近よく見られる小型ガジェットの一つだ。スライダーと違い構造が簡単な分、物によっては結構大型のENG系カメラを搭載できる場合もある。テーブルの上なので簡単に自由曲線を描けるしセットアップも簡単なのが特徴だ。しかしこの手のガジェットも10kg前後のENG系ならともかくとして2kg以下のDSLR系ではやはり滑り出しが悪く感じる事も多い。スライダーの部分でも書いたがその原因はやはり使用荷重以上のグリスが封入されているからだ。ここの部分をグリス型BBからオイル型BBに変更するだけでその渋さは完全に消える。

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SK8-Dollyの場合は動き出しの軽さを出すためにBB以外にもウィール(タイヤ)の交換もポイントになる。例えば今回使用したKONOBAの製品に付いていたのは64mm径の物だ。それを高性能なインライン用の72mmに交換した。その差8mmだが、この大きさはかなり動きに違いが出る。また大きさだけではなく硬度も重要。78Aから80Aにした。数値が大きい程堅くなるのだが、最高硬度は108Aという物がある。柔らかければ振動を吸収し、堅ければ動きが軽くなる。この辺は各自の好みで良いが、お勧めとしては硬度80~82A、直径は72mmを最小とし90mm前後までがコストパフォーマンスも高くて良い。種類によっては120mmエアタイヤもあるのでアスファルトで使用する時などは視野に入れるのも良い。

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BBをウィールから抜くには8mmのボルトを引っかけて捻るように引き抜く。反対側は抜いたBB側から押し出すように抜ける。間違っても叩いたり外側からこじるのは止めた方が良い。またSK8-Dolly径のウィールはインラインスケート互換の物を使っているので当然BBも互換性のある物を使っている。型番で言えば608ZZが多いが高級品だと688ZZを使用している物がある。どちらも工業製品(BB屋)を取り扱っているお店ならこの型番で購入できる。

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BBはスライダーの時と同じように余分なグリスを抜いて脱脂するわけだが、今回のBBはゴムシールド式ではなく金属によるセミシールドBBなのでパーツクリーナー等での脱脂は難しい。この場合はペットボトルに灯油やクリーナーを入れて強く数分振れば完全脱脂出来る。この後はキッチンペーパー等の上で余分なクリーナーを十分に吸い出しグリスの変わりにオイルをシールドの隙間から入れるからオイルの中に漬け込んだ後に余分なオイルを拭き取りBBをウィールに組み込み元に戻して完成だ。

総評

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BBは小さく見えてもかなり耐荷重が大きく、従って中に入っているグリスもその荷重に見合っている物が入っているために粘性がもの凄く高い。このお陰で動作が重く感じてBBを留めているネジを緩めて軽さを出そうとする方も居るが、それではBBの意味がない。今回のチューニングはグリスを抜き取りオイル式のBBに作り替える事がポイント。手間は若干掛かるが効果は大きいので是非試して欲しい。しかしこの手の工作に苦手な方は単純に高性能BBを購入して入れ替えるのが良いだろう。その場合インライン用のスピードランニングかハイスピードフィットネス径のBB(ABEC7)を選ぶと、このグリス抜き作業の手間が無くなるのでお勧めだ。但し、ABEC7のBBは標準で付いているABEC3のベアリングの大体10倍の価格はするので要注意だ。

最後に、使うことの無くなったスケートボードの一部のパーツ(トラック&ウィール)を使って小型のSK8-Dollyを作ってみた。なるべく簡略化するために13mmのスパナ1本で出来る様な構成で作ったので自宅にスケボーが余ってる方は是非チャレンジしてみて欲しい。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。