ミドルレンジユーザーに優しいメーカーが繰り出す物とは?

PROTECH(プロテック)。日本ビデオシステムという社名よりも、このブランド名の方がピンと来るだろう。株式会社日本ビデオシステムは設立が1992年の比較的若い会社なのだが、今やミドルレンジユーザーならほぼ100%の確率で何屋さんなのか解る位の急成長をしている。

筆者的にはAC電源、ズームリモコン、カムライト辺りでこの会社を知ることになった。決定的なのは1997年に発売されたフィールドミキサーFS-305だ。当時ENGでのフィールドミキサーと言えば定番のシグマ SS-302しか無い状態だった。性能も高く是非手に入れたかったが、値段が高くハードルも高い商品であった。当時まだまだ掛け出しだった筆者にとっては、かなり踏ん張らないと購入に踏み切れなかったのも事実。そんなときに性能は殆ど同じで、しかも価格がグンと安いFS-305の出現に、筆者ならずとも広い範囲でミドルレンジユーザーに普及した筈だ。

その後も色々な細かい機材を出してくるが、そのどれもが細かい所をくすぐってくる製品ばかり。その理由はもの凄く簡単で、日本ビデオシステムの社長が当に”ミドルレンジどまんなか”の現役カメラマン。つまり自分が現場で使いたい物をそのまま製品化してしまったと言うわけだ。

今回ウチのチームでフラダンスKAHULA2013の全国ツアーに同行中、名古屋公演時に同社に連絡を取り、前々から気になっていたスモールパッケージでのスイッチャー環境で使ってみたい数点のデモ機材を申請したところ快諾頂き、使用することが出来た。

インターカムFD-400A

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スイッチャー環境は、意思の疎通が無ければ成り立たない。究極を言えばアイコンタクトだけでスイッチングを切れれば最高だが、流石にそんな特殊能力は持っていないのでインカムを使用する。今回のツアーでは既に同社のFD-300Aを使っていたのだが、公演中の移動日にふと同社のHPを見ると新型が出ているのを見つけた。間違いなく進化しているインカムを使わない手は無い!早速試験運用をさせて貰った。

まずFD-300Aと大きく違うのが大型化されたヘッドセットDL-500だ。FD-300Aに標準装備されているヘッドセットは小型軽量で収納も良いのだが、今回のようなダンスステージでの現場ではかなりの爆音の中でカメラ指示をしなければならない。そのような時にハーフボディーのイヤーパッドよりフルボディーのイヤーパッドの方が明らかに聞こえが良い。聞こえが良いと言うことは必要以上にインカムボリュームを上げなくて良いので無駄なノイズも押さえられて一石二鳥だ。更にバッテリーには標準的な単三型電池を使えるようになったのは非常に便利だ(前モデルは9V/006P)。ちなみに、オプション扱いで両耳フルカバーのヘッドセットもある。これも使ってみたが、このタイプなら音楽系のライブでスピーカー前のポジションにいても確実にスイッチャーからの指示が聞こえるはずだ。

HD-SDI対応モニターシリーズ

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耳で指示が聞こえたなら、今度はスイッチャーマンが何を求めてるのか理解する為にもPGMアウトが各カメラに欲しいところ。これがあるだけで、今どんな映像を使っているのか、次にどの画が欲しいのかが瞬時に解る。普段はSWアウトのHD-SDIを直前でHDMIに変換してSONY製の5インチモニタに映している。流石に最近の安価な中華製に比べれば良いとはいえ、やはりもう少し見やすいと更に良くなるのではと感じていた。

今回は通常のモニターに加えて、スイッチャーベースにはVFモードを持つHDF-700シリーズを使用させて貰った。7インチモニターとしてはかなり高価だがその恩恵は機能に比例しており、ベクタースコープ/ウェーブフォームの表示や、ビデオの輝度レベルをリアルタイム観測に対応。露出オーバー/露出アンダーの警告表示、更にはピーキング機能を使用することによりカメラマンとの映像の疏通が確実に出来る。

今回の公演のように4時間を超すLIVEを1人で乗り切るにはやはり眼精疲労も伴って若干ピンが甘くなる事もあるが、それを的確に注意できたのはやはりモニターの精度が良いからだろう。

VHD-400

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更に前記したしたPGMの返しはスイッチャーアウトからHD-SDI分配機(4分配)を使って各々のモニターに送り返している。この分配機には信号補正機能(イコライザー)を搭載しており、長距離引き回しで減衰した信号をきれいな波形に補正してくれる。エンベデッドオーディオにも対応している為そのままHD-SDIレコーダーに収録することも可能だ。

F-1

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何とも短い製品名だがその機能は非常に多い。これは簡単に言えば1台あたり4チャンネルのアナログ音声信号をHD/SD-SDIにエンベデッドオーディオとして吐き出すことが出来る物。この様な舞台物だとPAから2chをステレオで貰い、更にオーディエンスとしてL/R入れ4chエンベデッドオーディオとしてレコーダーに送り込むことが出来る。

収録中の写真画を撮ることが出来なかったが、本体モニターには視認性の良い4連のレベルメーターを装備、更に各チャンネル独立してハイパー音声リミッターとディレイ調整機能を搭載、ディレイは各チャンネルで3フレームまで調整可能となっている。更に本気を何段も重ねることにより(最大4個)1~16ch迄の音声をディレイエンベッド出来る。これくらいあればオーケストラの収録でも満足出来るのではないだろうか?

UPS-10

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最後はカメラ本体にVマウントを介して取り付けることが出来る無停電電源装置。長時間の撮影の為に基本はカメラ本体もAC駆動をさせているが、突然のコンセント不良や悪戯等で電源を断たれても瞬時にノンショックで電源を切り替えることが出来る、言わば最後のバックアップ電源と言えるだろう。

総評

今回の名古屋公演ではカメラ・スイッチャー以外の殆どの部分にPROTECH製品を使用させて貰ったが、どれもこれも、現場で考えて作られただけあって非常に使いやすい。価格も同性能の物と比べると確実に下回りコストパフォーマンスも良い。同社は最近のラインナップとしてスイッチャーを核としたマルチカメラシステムの開発が凄い。LS-750/850と言う4K伝送の製品も来月に登場予定だ。

勿論これらの装備は何もスタジオカメラやHDCAMの様な放送用カメラだけではなく、同社のHDS-300を使用することにより、通常の業務用ハンディカムでの運用も可能となる。今回の公演も社長である橋口氏にも現場に立ち会って頂き、その後食事をしながら色々と興味深い話も聞かせて貰った。当人曰く無口と言う事だったが、機材や特に技術論になると無口どころかマシンガントークとなっていた。これだけ自社の製品を熱く語れるのは知っている限りSONYのSちゃん位だろう。ミドルレンジの親分は今日も面白い機材を考え続けているに違いない。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。