業務用大判センサーカメラ
C100の外見上の違いは全く見られない
大判センサーがシネマカメラ以外に業務レベルで使えるビデオカメラとしての機種が出てきてどれ位が経つのか?筆者の記憶する限り、最初の汎用型大判センサービデオカメラはこのコラムでも紹介したSONY NEX-VG10。2010年発売なので実はまだ4年しか経ってない。昨今の大判センサーカメラでの収録数、収録スタイル、撮影形式を数えるともう10年は経っているのか?と錯覚してしまうが、それはこの4年で大判センサーカメラが新しいスタイルのカメラの割には現場サイドで完全に吸収されてバンバン投入されているからかも知れない。とは言え大判センサー初号機であるVG10の時は色々な掲示板等で駄目出しをされていたが、この新しい技術を真正面に考えた方々はその弱点を色々な方法で克服し見事に使い切っていた。
越しショットでも的確にピントは動く
つまりこの新しい技術には制作サイド以上に技術班もしっかりと目を向けていたと言う事だろう。もちろん筆者も多種多様の大判センサーカメラを使ったがどのカメラも真っ先に言えるのがちゃんと運用するまで“慣れ”が必要だと言うこと。今までのENGカメラと同じ様に考えると非常に厳しく、特にレンズに関してはもの凄くシビアだと言って構わないだろう。ENGカメラを扱っている方ならピンを撮るための「カメリハ」を行うと思うが、大判センサーカメラに使われている単焦点ではそれは出来ない。
ステディカムショット
ズームレンズでもバックフォーカスの概念が違うので同じ方法は使えない。いわゆる「拡大フォーカス」と言う機能を使ってピントを合わせるしかない。しかしこの方法だと純正のLCDやVFでは見づらいのでサードパーティーの外部モニターかEVFを使用する方法が良いだろう。さらにいうと、この部分は慣れや経験が物を言う世界になってくる。実際にC100等を使う現場で後にチェックを見たら、微妙に後ピンになっていてシャープさが出ていないと言う笑えない話も聞く。大判センサーカメラでは常に画角を決めた後にしっかりとピンを決めなければいけないが、この作業は初心者にはほぼ無理と言える。この事から大判センサーは「経験値の浅いカメラマンには厳しいカメラ」と言う風潮が出るのは当たり前の事だろう。
ラストカット部分
DAF(デュアルピクセルCMOS AF)
Canon CINEMA EOSシリーズはハイエンドの4KカメラであるC500を筆頭に、マルチパーパス的に使用できるC300と大判センサー入門機の位置付けに当たるC100と3機種のラインアップがある。この中でC100には発売当初から他のモデルと違ってオート機能としてワンプッシュAFとAEが付いているが、この機能は他の上位機種には無くC100だけの物。ピントに自信の無い場合は画角を決めた後にワンプッシュAFを使ってピントを取れば良いのだが、それはあくまでも静止物での話で被写体が動的な物ではこうはいかない。理由としてワンプッシュAFを使うのは余りにもその速度が現実的ではなく、昔ながらの言って来い的な動きなので、対象物の動きに合わせてフォーカスフォローをするのが一般的なのだが、そこには経験が必要となる。
C100自体はブライダルの現場で非常に多く使われていると聞くが、その現場で百戦錬磨のカメラマンならフォローも直ぐに対応できるが初心者では厳しい。それを解消するべく今年の2月25日から有償サービス扱いにはなるが、DAFが搭載出来る様になった。単純に言えば今までのAFと同じ様に追従型のAFになったと言う事だがこの恩恵はかなり大きい。今まで大判センサーで追尾型のAFを搭載していたのはSONY NEX-EA50のみだ。それも純正のズームレンズのみでの対応となるので、レンズの選択肢が少ない。
しかしC100なら同メーカーの豊富にあるEFレンズ群の殆どを使用することが出来るので、このカメラにAFが搭載されるメリットはかなり恩恵のある撮影(もしくはカメラマン)が多い筈。更には小型のJIBアームに載せての運用や、スタビライザーに搭載しての運用でこのDAFの恩恵は非常に受けるはずだ。勿論フォーカスマンやフォーカスデマンドを用意出来るならこの機能は必要ないが、カメラの格的に言えば、ワンマンオペレートを想定している。
今回このDAFの検証に業務ユーザーなら比較的多いと思われる場面を想定してデモ撮影を行ってみたが、アクション系の派手なカメラワークにも、ブライダルの様な低照度下でもその恩恵は素晴らしい。深度の浅い映像は元よりショートズームでの深度が深い映像でもDAFを設定中はもの凄く細かく被写体との距離感を補正している。特にステディカムで動き回っているときにはその効果は絶大だ。AF自体の測定はセンサーの中心部分で行っているために、被写体(ピントが取れる部分)を常にセンターに置いておく必要がある。映像を見ればわかるが、センターから被写体が抜けた瞬間に別の被写体へ直ぐにピントを求めるように動くのだが、この時にAFロックをアサインに設定することにより任意の距離に固定することも可能だ。
更に低照度下での被写体を掴みにくい状態でも今回のデモ映像にあるような一般的な教会内での照度なら全く問題は無かった。とは言え擬似的にここから更に暗くした状態では流石にピントが迷う事もあったが、その明るさでは既に撮影自体に影響が出るレベルなのであまりウェイトは置かなくても良いだろう。またここまで細かくAFが動き廻っていると言う事は消費電力もかなりのものを想像したが現実にはそんなに気になる程度ではなかった。さらにこのDAFオプションを入れるとワンプッシュAFの動きも従来とは違い格段に速くなる。なお、DAFの設定はメニューの中から選ぶ事により機能する。勿論、ワンプッシュAFを使って基本はマニュアル操作で使用するというのも当然可能だ。
常時記録モードとEDIUS Pro 7によるワークフロー
業務レンジユーザーの撮影形態に今や必須の装備が同時バックアップ収録である。この機能は数年前まではSONY HDV機種かNXシリーズしか搭載して無く、2スロットを同時に廻すミラーリング収録でしか無かった。バックアップでの一番の理由はトリガーを押すタイミングを間違えた時でもあるが、ファイルベース収録になった事による一瞬のミスで素材が消えてしまう事の保険の意味もある。単純に2スロット(または2メディア)あるのなら、片方はRECボタンでの繋ぎ撮りでもう片方は廻りっぱなしで良いので、TCは廻りっぱなしの方に依存されるので何かエラーがあった場合はTCを頼りに探せばいい。
しかし、何かの理由でバックアップメディアが飛んだときはもうどうすることもできない。今回Canonが付加した常時記録モードと言うのはこれらの概念からチョット外れていて、本ファイル自体が常に廻りっぱなし、つまりバックアップ収録と同じ事になっている。その本ファイルに対してRECボタンを操作して事に対するIN-OUT点をメタデーター的な扱い(イメージ的に)として本ファイルに読みに行く。それによってNLE上では見せかけのクリップが切れており、通常の編集ではこの部分を使用し何かトラブッた場合のバックアップとして、本ファイルを引っ張り出せば良いと言うことになるが、通常のバックアップ収録をされている方ならこの説明だと首を捻ることだろう。
※常時記録モードでマルチカムモードにすると、2本のTLが出来る
「1枚のメディア内に2つのファイルではファイルベースの信頼性は薄い」というのはその通りで、それは筆者も同様に思った。その点をC100ではバックアップ収録を更にミラーリング収録することで解消している。つまりPCに例えるならRAID0+1と言う事になる。これならばバックアップ収録され、尚かつIN-OUTが出来たメディアが2枚出来ている、つまり全く中身の同じメディアが同時に作成されているのでファイルベースでの信頼性も高くなったはずだ。
通常の常時記録をマルチカムモードに載せた場合
しかし今の所この機能はEDIUS Pro 7でしか実現は出来ていない。実際に収録した物をEDIUSに取り込むと、断片化されてカット撮りしたクリップと長尺の常時記録ファイルが混在している。筆者の環境だと最初のクリップが常時記録クリップで、後の断片化しているクリップが実際に編集に使う分割クリップ、という感じで並んでいた。
一度常時記録を止めるとこの様にTLが変わる
もちろん両方のTCは同じなので、何か補正をしたいときはTCを確認して使えばいいことになる。この常時記録は一度止めてしまうと次のクリップからは別TL扱いになるらしくマルチカムモードでやるなら注意が必要だ。また何かのトラブルで常時記録中にバッテリーが無くなってしまった場合、もしくはバッテリーが外れてしまった場合でも同じ環境下で再度カメラ本体の電源を入れることでファイル終端の修正が行われ、バッテリートラブルのほぼ直前迄のデーターは復元が出来る。
総評
今回のDAFに関してはプラスの金額を払っての有償アップグレードと言う形になっているが、この価値が在るのかどうかはもう自分の腕と撮影形態を相談して決めて欲しい。この先もC100には標準搭載する予定は無く、あくまでも有償扱いなので後で買ったから得をしたと言う事はないみたいだ。筆者的に感じたのはワンマンでENG的な扱いをするならDAFを付けた方が良いと思う。
特にスタビライザーやJIB運用をする可能性があるならば絶対に付加する方が良い。また常時記録モードの弱点?は常に廻っていると言う事を考えると、例えばブライダルの現場などでは披露宴時間丸々を収録できる容量が必要になる。AVCHDフォーマットなので都内の披露宴なら大体3時間と考えると32GBでも行けるだろうが64GBを片方に保険代わりに入れておくのも手だ。何にしろEOS C100は素晴らしい武器を2つ手に入れたと言うことだ。しかもその内の一つであるEDIUS Pro 7は今年いっぱい無償でダウンロードが出来る。これは本当に凄いことだ!
■撮影協力