photo by Tadamasa Iguchi 井口忠正

国内最大級の屋内フェス

イベント映像演出の中でも最先端の技術や演出に出会えるのがいわゆるフェスだ。昨年11月29日に千葉・幕張メッセで開催された「electraglide 2013」は、今回で9回目を迎える。多くのファンに通称「エレグラ」と呼ばれ、WIRE、METAMORPHOSEとともに日本最大級の規模で開催される屋内テクノ・フェスティバルだ。テクノの枠には留まらない、ダンスミュージック全般にわたる広範囲で多彩な出演者が特徴。過去にはアンダーワールド、オービタル、ファットボーイ・スリムなど世界で活躍するアーティストが出演した。

演奏とリアルタイム生成映像の融合

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写真手前から真鍋大度氏、堀井哲史氏、比嘉了氏

今回トップ・バッターとして登場したのは、LAビート・シーンのスター、ノサッジ・シング。そしてPerfumeのライブ演出なども担当する真鍋大度氏を筆頭に、堀井哲史氏、比嘉了氏といった気鋭のクリエイターがVJを務めた。

ノサッジ・シングがMPDの演奏を始めると大型スクリーンには実際の映像とリアルタイムに生成される映像がAR(拡張現実)のように合成され映し出された。MPDのPADを叩くとPADの上にカラフルなポリゴンの柱が現れたり、つまみを回すと図形や宇宙のイメージが現れたり、MPCの操作や音とリンクした映像演出であった。

MPCの操作を可視化

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ノサッジ・シングの回りにGoPro HERO2やWEBCAMなど6台のカメラが設置されていた

真鍋氏に今回のパフォーマンスの詳細を聞くことができた。

株式会社ライゾマティクス 取締役
メディアアーティスト 真鍋大度氏

真鍋氏:MPDの周りに6台のカメラを設置し、それをMacBook Pro 4台に入力しました。そして、ノサッジのMacで動いているAbleton LiveのイベントとMPCを操作した時に出るMIDI信号などをOSCというプロトコルに変換しVJ側に送信。それぞれがOpenFrameWorksなどでカメラの映像にAR的にリアルタイムでコーディングしたグラフィックを重ね、Macで作られた映像は最終的にローランドのV-1600HDに入力し、そこで手動で切り替えていました。


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カメラからの入力にOpenFrameWorksでグラフィックを合成

今回の映像パフォーマンスはノサッジ・シングの要望を細かく聞き出して出来たものだそうだ。

真鍋氏:ノサッジから「MPDで何をやっているかを見せたい」という要望がありました。MPDはツマミがどんな機能にも割り当てられるのでフィルターを触っているのか何を触っているのかわかりにくいんですよ。それをグラフィックで可視化させるというのが今回のシステムの始まりでしたね。

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ノサッジ・シングはAbleton LiveとMPDで演奏

今までもVJとして数々のアーティストと共演してきた真鍋氏だが今回のシステムは初。真鍋氏はライブごと、アーティストごとに毎回違うシステムを組み立てるという。

真鍋氏:慶應大の筧君の言葉なんですが、「僕らは町医者みたいなもんだから、本当毎回毎回細かく要望を聞き出して、ひとつひとつ処方していくっていうのをテクノロジーでやっていく」っていうのがあって、僕らは汎用性の高いものを作るっていうのは目指していないんです。一点ものを作っていくって感じですね。やっぱり使い回しっていうのはアーティストに失礼だなって思っていて、最大限そのアーティストが望んでいるモノを実現できるよう心掛けています。

リスクヘッジをするための機材

レンダリングして完成された映像ではなくリアルタイムに映像を生成していくスタイル。計算された中で偶然の産物が魅力だという。

真鍋氏:映像の完成度では作りこんだものの方が高いと思います。リッチなライティングもできますし。でも、プログラミングは書き出しがないので、結構そのへんですぐに変更出来たりします。パラメータの与え方で全然変わってきますから。僕らもギリギリまでいろいろ付け足したり、変えていったので、結構セッションみたいな感じですね。どんどん面白いことが見えてくる。一期一会の映像が楽しいですね。

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MacBook Proでリアルタイム生成された映像はすべてローランド「V-1600HD」に入力しスイッチング

リアルタイムでプログラミングを扱うということ、毎回違うシステムを組むということにはやはりリスクが生じる。そのリスクをどう考え、どう対処するかを聞いてみた。

真鍋氏:リスクの分だけ面白いものができると思っています。難しいことにチャレンジするから面白いモノが生まれるわけで…ただ、失敗は許されないので2重3重にバックアッププランは用意します。今回でいうと最終出力の前にローランドのV-1600HDを設置するのは大きなリスクヘッジですね。プレビューモニターでそれぞれがどんな映像を出しているか確認できますし、Macがもしフリーズした場合はすぐに他のソースに逃げることができます。そういう意味では堅牢なハードウェアの信頼性は心強いですね。

リアルタイム映像演出の今後

EMPW_05_06.jpg ノサッジ・シングの手の動きに合わせてグラフィックが発生
photo by Tadamasa Iguchi 井口忠正

映像を投影するだけのライブ演出が普遍化している中で、アーティストと映像のインタラクティブ性がある演出が、プログラミングによってどんどん進化している。業界でも、新しい表現を受け入れる傾向にあるようだ。

真鍋氏:海外でいうとレンダリングした映像だけというのはなかなか目新しさにかけるのかなと。プロジェクションマッピングも同じですね。プログラムの制御で動くLEDディスプレイなどのハードを動かしながらの映像演出というのは多くなってきているかなと思います。日本でも最近は紅白などでの成功例があるのでかなり認めてもらえるようになりました。

テクノロジー×人

最先端テクノロジーのイメージが強い真鍋氏だがパフォーマンス・表現に関しては「人」の存在を大事にしている。

真鍋氏:最近はクワッドコプターの制御と人間の動きを連動させるものなども作っていますが、基本的には人ありきでパフォーマンスを考えます。ヘリだけとかロボットアームだけのパフォーマンスは、見るのは好きですが自分で作る場合はやっぱり人が入ったほうが好きなんですよね。舞台での映像表現にはまだまだ身体パフォーマンスを取り入れることに余地があるのかなと思います。映像と共にそれ以外のメディア、デバイスを使いつつ、人を入れて新しい表現が出来ればなと思っています。

人は見たことのないモノを見たいという欲求がある。その欲求はテクノロジーとともに高いものになっている。しかし、本質の部分では変わっていないような気がする。真鍋氏のパフォーマンスが魅力的なのは彼がその部分を大切に思っているからではないだろうか。これからも目が離せない一人であることは間違いない。

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