XF305なのかXF105なのか?それとも…205?

XF305が発売されて既に5年の歳月が経っている。このカメラは筆者も色々お世話になったカメラで、今でも好きな機種の一つ。どうも人気はイマイチ感がある。その最も大きな理由が、画質は良いが、大きさが…。このカメラをハンドヘルドと考えると特に手の小さい方には大きく感じるだろう。

話を元に戻そう。確かに日本人にはジャストサイズとは言い難いXF305の声を受けて登場したのが正にディレクターカメラとしては何でも載っているXF105だった。何しろこの筐体の大きさでSDI端子が実装され、しかも低コストなこのカメラは様々な現場で重宝された。当然、愛用している間に改善してほしい事もいくつか浮かび上がる。

XF105ではまずワイドの引尻と音声のダメ出し。そしてその解答としてキヤノンが出したのはAVCHD収録のXA25になった。このカメラも人気が高かったが、やはりMXF収録とハイビットレートがバランス良くまとまったカメラが現場では必要になる。当然の方向性として出して来たのがXF205。

ネーミングの205は、305と105の間だから?!

冗談の様な話だがそんな意味合いらしい…。とは言えそれは筐体の大きさや機能ということではなく、全体的なニュアンスと位置づけだ。今年のNABでの新機種カメラ展示はXF205だけと言うキヤノン自信作を見てみよう。

やっとレンズメーカーが作ったカメラを十分に納得できるスペックとなったレンズ周り。このサイズで光学20倍、ワイド端26.8mm。コレなら通常のインタビューならワイコンは必要無いだろう。前にレンズ周りの開発関係者にお話を聞いた時には、今回の様なスペックは既に出来ていおり、キヤノンと言うブランドで出すにはまだまだブラッシュアップが必要と言っていたのが、このカメラがその回答と言う事だろう。

キレのある明るい視野はキヤノンのENGレンズ譲り、イメージ的にはSD時代のJ20に近い気もする。レンズ周りが気持ちよくなったら次はそのセンサーとエンジン部分だ。EOS C100でスタンダードになったワイドDRガンマ(600%)は当然の如く搭載されている。収録は勿論ハイビットレート(50Mbps)が収録可能なMXFを採用。しかも同時記録としてSDカードにMP4を収録出来る様になった。つまりWスロット収録と併せると3枚同時に記録が出来る。これは今までのカメラには無かった機能だ。

またXFシリーズとしては初めての常時記録にも対応出来る様になった。筐体も今迄の小型カメラとはだいぶ違う。まず目に入るのはFZEが別々に操作できる三環リング。このリングは最近の端付きリングとは違い、一般的な操作感となる。もう一つはグリップ部分が最大120°の角度で回転が出来ること。この機能自体は既にPMW-EX1が搭載していたが、XF205はその回転グリップはC100と同じホールド性を狙ったと聞く。確かにウェスト位置で構える時にはこのグリップはすこぶる調子が良い。

最後にXF105ではイマイチ評判が良くなかった音声収録は、なんとこのサイズのカメラで4ch収録ができる様になった。残念ながら4ch共に外部入力という訳には行かないが、カメラ内蔵のステレオマイクと外部からのキャノン端子からの2ch入力分で合計4chになる。此れだけでも少人数での舞台収録などはPAからSTで貰い、オーディエンスもSTで収録ができるので後処理が一手間省けるのと同じ意味合いになる。

特に音声は映像に大きな変化を出すことができるので、この4ch収録はミドルレンジにはかなり嬉しい装備だ。さてそんな細々とした嬉しい装備を搭載したXF205だが実際の運用はどうなのか?既にデモリールとしては素晴らしい映像がネットに上がっているが、もう少し日本の業務レンジに近い運用をして見ようと思う。その形態はブライダル・オープンロケ・舞台収録である。

撮影シーン別ケーススタディ

■ブライダル(撮って出し)
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ブライダルで最重要な要素といえば、間違いなくバックアップ収録が出来るかどうかだ。逆にいえばバックアップ収録が出来無いカメラはその選択から外れるといっても良いだろう。XFシリーズはW収録が前から出来ていたが、バックアップという意味では搭載されていなかった。しかし、今回ようやくその部分を強化し、常時記録を搭載して来た。もちろん常時記録と言うだけあってRECボタンは通常のRECボタンとは違うものをアサインで振り分ける事ができる。

但し少しだけ条件があり、同一フォーマットでの常時記録は出来無い。MXFに対してあくまでもMP4での記録を条件としている。この部分が同じフォーマットで撮れる訳では無いのでバックアップ収録とは言わず常時記録と呼んでいる。またこの手の小型ハンディカムだとAF機能に若干不安を持つ事が多い。筐体の小ささからくる絶対的なハード面等の弱さの為もあるがXF205に関してはその不安は一切無い。

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XF305に搭載されたAF専用のセンサー、更にスチルレンズメーカーとしての技術力も踏まえてAFの精度はかなり高い。しかし、その精度の高さから反応が早過ぎて違和感を覚えるかも知れないが、そのAFの速さはメニューより変更が出来る。ブライダルにおいてAFの精度はかなり重要で、他の撮影形態と比べると明らかにキャリア不足のカメラマンでも現場に出ていることが多いので精度・速度の速さは、大きな利点となるはずだ。

■オープンロケ(マルチ・パラ収録)
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某私立学校の撮影をこの時期に行っている。毎年この撮影のハイライトに当たる卒業生達の創作ダンスがあり、曲時間として7分強でほぼ全ての生徒を撮らなければならない。その為に数台のマルチカメラを投入して一気に攻めるパターンを導入している。何時もはENGカメラ2台をベースにデジを複数台での構成だが、今回はXF205と305を中心に気付けばXF105に5D Mark III、その他と言うキヤノンベースでのシステム運用。オープンロケなので光量的には全く問題はない。

どちらかと言うとアイリスの絞り過ぎによる小絞りボケが、この手のNDフィルター切り替えが無い小型カメラだと気になる所だが、メニューからオートNDを選択することである程度の絞り値からNDフィルターが入るので特に気にする事はない。また、動きの早い被写体に対してSDカードに収録出来るMP4/60pでの収録は、素早い動きのシーンでもボヤける事なくスッキリと記録が出来る。この手のロケは手持ちでアクションを追っかける時に、手ぶれを如何に感じさせないかがカメラマンの腕でもあるが、このカメラに搭載されたISは非常に強力でとにかく止まる。

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特にパワードモードでテレ端の止まりっぷりは凄い。SONYの空間手振れ補正もガッツリ止まるが、其れよりもブレを止めるという意味では強力だと感じた。更にこのモデルから採用された回転グリップは最大120°回転する事により、撮影ポジションのスタイルが増えた。既に他メーカーでもこの回転グリップは採用されているが、XF205の場合はそのシューティングスタイルをC100等のシネマEOSスタイルと共通化する事が目的だろう。

■舞台撮影(マルチ・スイッチャー収録)
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最後はミドルレンジの業務としても撮影率が高い舞台撮影に使用。前のオープンロケでは偶然にもキヤノンが集まってしまったが、今回は意識的にXFシリーズをお借りし、その中での立ち位置を探って見た。舞台に使う上で色々な物がファクターとして考えられるが、筆者的に一番興味深かったのは4chの音声入力モードだ。このサイズで4ch入力出来るのは初めてだと思う。この場合、1・2chはキャノン入力による外部音声が入り、残りの3・4chはカメラのステレオマイクがそのまま入る。

4ch全てが外部入力であれば完璧だと思う。舞台撮影の場合、PAからステレオで入れ、カメラのステレオマイクでエアをワンパッケージで収録出来るのは、後編集が非常に楽になる。今迄はカメラに2ch分の音声をいれ、残りの足りない部分を別収録で補っていた。

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もちろん、マルチチャンネル録画と共にリミッターもグレードアップしているおかげでオートで音声入力しても音割れ等の被害は少ないだろう。舞台では悩ましい色の調整は、何を白として決めれば良いか非常に問題となる。ケルビンを数字指定で合わせると言うのも一つの手だが、同じカメラじゃないとレンズのコーティングによって微妙に変わり合わないことも多々ある。もちろんしっかりと波形で合わせたい所だが、それも時間的や環境的に難しい現場がたくさんある。

今回は305・205・105とXF三兄弟でのシューティングの為に、現場モニター目視確認し一番同じ色に見える3400Kで設定、全てのカメラを同条件とした。結果的にほぼ同じに見えるWBがとれた。更に微調整で、ピクチャープロファイルを用いれば編集段階での手間は省けるはずだ。

さすがにキヤノン製カメラ選択ならこれで問題は無いが、他メーカー混在の場合は、やはり調整しきれない色が出てしまう。その場合は無理にケルビンで合わせるよりも、最近の業務機で電球や太陽のマークが設定出来るなら迷わず電球マークを選びそこからピクチャープロファイルで追い込むと良い。 また今回の現場はLANC互換のズームレバーを基本的に使用している。 3環のリングでフルマニュアルも良いのだが、長時間撮影の為にある程度体の変化も付けないと疲労が溜まってしまう為、XF205はこの互換ズームリモコン(Libec製品)でも滑らかなスローズームをすることが可能。

更にSONY製のズームリモコンではフォーカスやAEボタン、マグニファイ(拡大フォーカス)も連動できることを確認した。もちろん光学20倍ズームはXF305よりも倍率が大きく、より被写体に近づくことが可能だ。その為に今回の舞台は敢えてXF205をセンターの一番深い位置に、305をサイドからの位置に設定し収録を行った。(KAHULA2014全国ツアー)

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ただし、ワイド端が広いので同じ20倍レンズでもXL H1Sの様な望遠域までは届かない。また舞台だとオートNDフィルター設定はオフが良い。強烈な光の演出のために、カメラ自身がそれを強い光源と感じ、NDが入ってバランスが崩れる可能性があるのだ。この辺は事前のテクニカルリハーサル等での確認と注意が必要だ。

総評

XF205はその大きさからXF305のサブ機的な印象もあるが、やはり単体で使った方がその性能は発揮される。ワイド端26.8mm~20倍のレンズはインタビューから中規模舞台撮影までこなすことが出来る。また新搭載されたワイドDRもオープンロケから強烈なスポット舞台まで使用することが出来る。

但し、筐体が小さいため絶対的な重さから来る安定感はXF305等と比べると弱い。特に舞台で望遠域で使用するには三脚ワークに注意が必要だろう。

もう一つの注意点は、フォーカスとズームリングの形状と位置関係が非常にタイトなので手の感覚で操作をする時には十分注意したい。恥ずかしながら筆者も一度間違えて操作をしてしまった。

また小さいからこそ手持ちで振り回すのではなく、しっかりと安定したホールドを常に考えないと、その強力なIS(手振れ補正)は時としてマイナス方向に働く可能性もある。基本はしっかりというのは当にこの手のマルチパーパスなカメラこそ必要だろう。

さてそんなXF205だが、6月19日(木)にPROGEAR半蔵門セミナールームでセミナーが開催される。筆者もそこで少しだけ今回使用した雑感をお話する機会を頂けたので、お時間に余裕がある方は一度このカメラを是非実際に触って確認して頂ければと思う。

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。