土持幸三の映像制作101

画と音の関係性

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安価で高性能のフィールドレコーダーが各メーカーより発売されている

昨今、DSLR動画で撮影する映像制作者が増えているが、カメラの録音機能がまだよくないためフィールドレコーダーなどで音を別撮りしている方も多いと思う。それを見越して各メーカーが編集時に画と音をシンクさせ易くするためスレート音機能を付けたりしている。

撮影機材における近年のデジタル化のスピードはすさまじく、カメラなどは数年で新機種が登場し、古いカメラは使われなくなってしまう。しかし映像制作の基本的なテクニックは変わっていない。撮影した画を編集したあと、音を編集して仕上げをする。画と音は別々に編集するのが特にフィルム撮影をしていた時は当然のことだった。

撮影がテープ、さらに各種デジタルデバイスに画と音が一緒に録画録音されるようになって、画と音を別々に編集するということが忘れられたのではないかと思っている。画と音を別々に編集することを基本に考えることで可能になる事もあるのだ。

小学校5、6年生へ映像制作教室から

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小学生の動画制作は教える方も刺激がいっぱいだ

僕は川崎市の小学校で5、6年生に映像づくりを教えているが、最初はカメラに触るだけで興奮していた子供達も、だんだんカメラで撮影された映像が暗かったりすると不満を持ち始める(基本AUTOで撮影)。逆光で撮影すると顔が暗くなるとわかると、マニュアル撮影にしたり逆光を避けるようになる。しかし、一番問題なのは音だ。単純に音が聞こえづらい。出演者が恥ずかしがって声が小さいのもあるが、単純にカメラから出演者の距離が離れているため、録音される音が小さい。編集ソフトは基本、学校のパソコンに入っているムービーメーカーなので音の編集機能は高くない。

さらに、彼等には出演者の全身が映る引き画(ルーズ)と寄り画(アップ)をすべてのカットに撮るように要求している。二つの画は情報の種類が違い、二つを合わせることで見る人にわかりやすい映像になると説明している。寄り画を撮るメリットは、出演者の表情がわかりやすい事と、出演者にカメラとマイクが近づけるので音がクリアに録れる。

カメラ本体のマイクではなく2mほどの延長コードを取り付けた外付けのビデオマイクを出演者が持つか、出演者の近くでマイクを出演者に向けてクリアな音を録る。編集では引き画をまず使って場所や状況を見る人にわかってもらい、寄り画で出演者の表情とセリフがわかる部分を使うことを基本としている。これは導入授業の時に色んな引き画、寄り画を見せて子供達に二つの違いは理解してもらっている。

二つの画がつながるのを見て子供達は歓喜の声を上げるが、ココで気付くことがある。引き画と寄り画では音に違いがあるのだ。プロのようにワイヤレスマイクを使ったり、ブームにマイクを付けて音を録っていないから引き画の声は小さい。室内で大きな声でセリフを言ってようやく使えるレベルで、出演者がマイクに圧倒的に近い寄り画とはセリフの聞こえ方が全く違って比較にならない。

また、子供達が出演者なので引き画と寄り画で演技やセリフが違う事も多く、同じ動きをすべき引き画と寄り画が合わず、うまくつなげることができない場合もある。ココで映像と音は分けて編集できることを説明する。効果音や音楽を付けるのはすぐ理解してくれるのに、画と音を分けて編集する事は全く理解してもらえない。画と音は一緒に撮影されているのに分けるって?まるでチンプンカンプンなのだ。そこで音を消して引き画を見せ、寄り画の画を消し音だけを聴かせる。この画と音を組み合わせると、どうなると思う?と質問すると少しは理解してくれる。

編集時の選択肢が増える理由とは?

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/03/tsuchimochi_01_c01.jpg カメラの音とシンクさせる。最近では便利なプラグインソフトもある
※画像をクリックすると拡大します

寄り画の音(セリフ)を引き画の音に部分的に入れ替えて使い、両者の動きとセリフが違う部分を解消する。多少、口の動きとセリフが合わないところも出てくるが、見ていて違和感があることは少ない。引き画と寄り画がうまくつながるのを見ると子供達も大満足だ。

ほとんどの動画編集ソフトには画と音を分離する機能が付いている。残念ながらムービーメーカーではクリック一つで画と音は分けられないが、映像を音としてタイムラインに並べることが出来るので、多少面倒くさいが画と音を分けることができる。

この機能をどれだけの人が使っているだろうか?僕は相当の頻度で使っている。プロの現場でも引き画と寄り画で多少の演技のタイミング(手などの動き)の違いで自分の思う切り替えポイントで寄り画に切り替えできなかったとしても、音を編集し寄り画の音を引き画にも流用することで切り替えるタイミングをより自分が思った場所に変更できることが多い。口の動きとセリフの多少の違いは特に引き画では気にならない場合が多いと僕は思う。画と音は別に編集するものだということを基本にすると編集時の選択肢が増えるのだ。

高画質カメラの機能に目が行きがちだが、昔からの技術である画と音を分けて編集する感覚があると、より自分が思い描く映像に近づくのかもしれない。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。