土持幸三の映像制作101

ワイヤレスマイクシステムへの気づき

前回のコラムで書いた長編撮影で筆者が複数所有しているうち一つのワイヤレスマイクの調子が悪くなり、不具合の原因が送信機が悪いのか、受信機が悪いのかわからなかったので、ワイヤレスマイクシステムの購入を検討し、調べているといくつかの気付きがあったので書いてみたい。

まずは送信機、受信機とも小型が進み、従来のものと比べると3分の1程度の大きさになっていることと、メジャーなメーカーから新興の会社まで多くが新たに参入し、価格も手頃なものが多いこと、無線方式がB帯ではなく2.4GHz帯のものが主流であることに驚いた。

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ワイヤレスシステムにも新しい時代が来たのかもしれない

しかし、これらはどうもYouTuberが主に使うことを目的とした製品のように感じて筆者の使い方には合わないと判断した。もちろん、インタビューなどの撮影に使え、音質にも問題はないのだろうが、小型化の弊害なのか取り換えのできない内蔵電池になっており、長時間の撮影には向かないと考えたからだ。

YouTuberのVlog撮影やインタビュー撮影であれば全く問題なく電池がもつレベルである。しかし短編映画などの長時間撮影の場合、内蔵電池が切れたら、撮影を中断して充電を始めるか、モバイルバッテリーなどを接続する必要が出てきて実用性が落ちてしまう。さらにカメラや照明用のバッテリー充電に追われる撮影前日にこれ以上、充電が必要なものは減らしたい。

従来のように電源が一般的な単三電池で、切れたら予備のものと交換したり、予備がなければ近くのコンビニで買うことができる優位性はとても大きい。もちろん、従来のような乾電池で駆動するB帯ワイヤレスマイクセットでも新製品があるのだが、それはそれで大きな問題があることに気付いた。それは最後の方に書く。

32bitフロートで録音の魅力

近年、カメラにおいては大きな変化がある。一眼レフ、ミラーレスカメラで動画が撮れるようになって久しいが、さらにカメラ内部でLogやRAWで撮影できるようになったのは大きな進歩だと思う。それに比べて録音の方はそこまで大きな進歩はなかったように思えるが、ここ数年、32bitフロートで録音できる機材が出てきて筆者の興味をひいている。

32bitフロートとはカメラでいうところのLogやRAWと似ていてダイナミックレンジが広いことが特徴で、静止画のJPEGファイルとPNGファイル、すなわちビットマップ画像とベクトル画像の違いのような感じだ。何がいいかというと、編集時に音の修正をしても劣化が少ない。

YouTube等の検証動画を見ると、小さな声で録音された音のレベルを大きくしても雑音が少なく、録音レバルが高すぎて一見、割れているような音でもきちんと録音されており問題がない。製品によっては録音時のゲイン調整が必要ない、つまり録音ボタンさえ押せばどんな音でも録音できます、と言わんばかりなものもある。

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録音は24bitでも良いのだが編集のことを考えると32bitフロートで録音できるとありがたい

実際にはマイクを口元に持っていって叫ぶと割れた音にはなるようなので常識の範囲内ということではあるのだが、低予算の撮影の場合、録音時のゲイン調整は難しくあきらめていたので大きな進歩だと感じた。ただ人気の製品は品切れ状態でなかなか手に入れる事が難しい状況が続いているようだ。

B帯ワイヤレスシステムの行方

新製品を調べていくうえでB帯ワイヤレスマイクの問題点をみつけて驚いてしまったのが、古いB帯ワイヤレスシステムが今年で使えなくなる可能性があることだった。ただ、新しい電波法で新スプリアス規格でないものは11月までで使えなくなると決まっていたらしいが、コロナ禍の影響で「当分の間」無線局の運用に妨害を与えない場合に限り、そのまま使ってよいことになったとのこと。

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この番号で新規格に対応しているかわかる

筆者の所有しているB帯ワイヤレスシステムは古いのでてっきり旧規格だと思い込んでいたが、総務省のページで調べてみると新規格に対応していた。現在販売されているものも当然、新規格対応だと思われる。気になる方は調べてみる事をお勧めする。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。