土持幸三の映像制作101

「カメラワーク」の初歩的なこと

前回の「画と音楽の関係」に続いて、今回は「カメラワーク」の初歩的なことについて書いてみたい。

前回も話したが、僕は川崎市で小学5・6年生に映像制作を教えている。学校によってプログラムの違いはあるが大多数は「学校紹介」をグループに分かれて制作する。最初の導入授業で話すことは、完成させた映像を「誰」が観るのか?ということ。これを小学生に意識してもらうことが重要だ。観るのは多少の知識はあるが、学校のことをあまり知らない地域の人や保護者、低学年の児童たち。この人達に映像を理解してもらうためには「わかりやすい」映像をつくらなければならないことに気付いてもらう。では「わかりやすい」とはどういうことか?

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ここで写真を見せる。僕が住んでいる調布市の調布駅前の引き画だ。駅前のビルも映るようにかなり引きの画を見せる。「ココ、どこかわかったらアイス買ってあげるよ!」なんて言うと子供たちは大喜びでいろんな地名をあげる。当然、川崎在住の児童だから調布駅を当てられる子はいない。

そこで、この引き画から何がわかるかを質問すると「天気は晴れ」「バスやタクシーがたくさん止まっている」「居酒屋やお店がいっぱいある」「人が多い」などいろんな意見が出てくる。

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ここで調布駅入口の写真を見せる。「調布駅」って書いてある写真だ。「さぁ、ココはどこでしょう?」と質問すると、当然「調布駅!」って答えが出てくる。「なぜわかった?」と聞くと「書いてあるから!」と答える。「この寄り画からわかることは?」と聞くと「急いでいるように見える」「暑そう」「工事している」などという意見。

ここで最初の引き画を見せて、引き画の中に寄り画の部分が入っていることを説明して二つの写真が同じ場所で撮影されたことを説明する。引き画は街を行きかう人や乗り物の様子や、どんな建物やお店があるかなど、周辺の状況がわかるが、行きかう人の表情などはわからない。

一方、寄り画のほうは、行きかう人の表情はわかるが、街自体の様子はわからない。よって、わかりやすい映像とは引き画と寄り画を組み合わせ、必要なら文字も入れて編集した映像のことだと説明する。当然!と思われるだろうが、日本のドラマや映画などプロの映像でも引き画はかなり少ない。

引き画や寄り画。様々な画角を考える

一度、ベテランの撮影の方に質問してみた「なんで引き画を撮らないのですか?」答えはアッサリと「見せたくないものが多いから」とのこと。要するに引き画を見せるには広い空間を演出しなければならず、それに応じて照明もあてなければならなくなる…、予算がない。

多くのハリウッド映画のように、まず全体に照明をあてて、そこに照明をさらに加えていく方法だが、日本映画の場合は必要な部分にのみ照明をあてるのが多いと思う。残念だがデジタルになってカメラの感度が上がっても照明なしでは一般的に「綺麗」といわれる映像は撮れない。照明が多く必要な引き画は日本映画の鬼門なのかもしれない。

引き画や寄り画と言っても様々なサイズがある。代表的なものとして例を挙げる(監督や撮影監督によって若干の違いがあるので確認が必要)と「ロングショット」は空や高い建物を含んだ背景が入り、人物がいる空間の説明ができるが人物の表情はほとんどわからない。

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「フルショット」は人物の足の先から頭の先までの全身と建物の一部などの背景が入る。「ミディアムショット」は「ニーショット」とも言われ、その名の通りひざ上から頭の先まで、フルショットよりは背景の見える範囲が狭くなる。「ミディアムクローズアップ」は「ウエストショット」とも言われ、おへそより上、「クローズアップ」は肩より上、「エキストラクローズアップ」は目だけとか、一部が細部まで見えるショットだ。

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僕が好きなものには「カウボーイショット」というカウボーイブーツがきれるひざ下から頭の上までプラス背景が少々映るものがある。ちょうどフルショットとミディアムショットの中間にあたる。

これらを使ってカメラが映す被写体のサイズを決めて映像を撮り、編集して観る人にわかりやすく伝わるようにする。基本的には大きいサイズのものを見せた後に、より被写体に寄っていく映像を見せる。もちろん、これらのサイズを使わないといけないわけではないし、演出としてあえて観る人を混乱させて気持ち悪くさせることもあるので、監督次第だが、基本を押さえておくことは重要だと思う。

WRITER PROFILE

土持幸三

土持幸三

鹿児島県出身。LA市立大卒業・加州立大学ではスピルバーグと同期卒業。帰国後、映画・ドラマの脚本・監督を担当。川崎の小学校で映像講師も務める。