txt:茂出木謙太郎 構成:編集部
VRと東京オリンピック
世間を騒がせているいろいろな問題を抱えたままの、2020年東京オリンピックの話題から始めようと思う。東京オリンピックを目指して、様々な企業がVRコンテンツやサービスの研究と開発を進めている。先月も360度対応の映像やCGの開発を手がけるスタートアップのDverseが資金調達を実施したと発表。東京オリンピックで「VRによるセカンドスクリーン」の提供を目指すとしている。
また、パナソニックも2月にオリンピックを目指したVR用の動画撮影システムとHMDの開発を発表しており、今後共同開発のパートナーと開発を進めていくことになっている。
さらに、国内でも数社、海外でもNextVR社をはじめとしたHMD用のスポーツ動画配信システムの構築や開発が進められ、実戦投入に向けて配信テストを行っており、5年後の東京オリンピックがますます楽しみになってきている。
(C) Next VR
しかし、スポーツ動画をVRで配信するにあたって、まだ解決していないいくつかのことがあると私は思っている。その最たるものは「長時間HMDを装着して動画を見続けることができるか?」ということだ。HMDをつけて動画を見たことがある人ならわかると思う。ではなぜ長時間動画を見続けることが出きるのだろうか?という心配が生まれてくるのだろうか。理由は以下の5つが挙げられる。
- 目が疲れる
- 3D酔いをする
- HMDの装着が面倒くさい、恥ずかしい
- ながら視聴ができない
- 動画を配信しているだけでは情報が足りない
(1)は今後ディスプレイの解像度や、描画が進化することで解決するのではないかと思っている。照度とコントラストが個別に設定できればより良いだろう。
(2)はすでにいくつかの研究発表も出始めている。また、FOVEのようにアイトラッキング機能を用いて見ているところを中心にした部分だけ詳細に描画することができるようであれば、3D酔いは軽減されることがわかっている。
(3)はHMDの存在を否定しかねない内容であることはわかっているのだが、リビングに座ってスイッチを入れれば観ることのできるテレビに対抗するには、HMDをつけることの煩雑さを凌駕する体験を提供しなくてはいけない。また、ケーブルの煩わしさや、メガネをつけている人でもHMDをかぶりやすくするなどの工夫が必要だ。さらに、HMDをつけている姿が格好良くないといけない。こちらの姿がHMDをつけている人には見えないわけで、急にニヤニヤしだしたり、笑ったりすれば周りの人は驚くし、見えていない、聞こえていないのをいいコトにいたずらしないとも限らない。
(4)は前述の周りが見えなくなるということにもつながっているが、HMDをつけていればビールを飲むことや、インターバル中にLINEをチェックすることもできない。ながら視聴ができないということは現代人にとって意外と苦痛なのではないかと考えている。
(5)に関してはサービス内容が進化すれば解決すると思うが、「そこにいるように感じる」だけではなく、好みのアングルに変えることができたり、スコアを見たり、選手の詳細情報を見たり、また友達とコミュニケーションできたりと、様々な必要性や可能性がある。
NextVR社の配信サンプル
また、一般には意外と知られていないが、二眼のHMDで動画やゲームを試聴するのに年齢制限が敷かれている。13歳未満のいわゆる小学生以下の子どもたちはそもそも現在のHMDをつけることができない。子供にも見てもらうためには「ハコスコ」のように一枚のレンズで動画を視聴できるように考える必要があるのだ。
まだサービスが始まっていない現在は良いのだが、この先コンテンツを充実させて多くの人に見てもらうためには、子供向けのHMDもそろそろ出てきても良いのではないかと思う。ゲームメーカーなどは必須ではないかと思うのだが、いかがだろうか。
また、ライブ配信にかぎらずVR用の動画の撮影や編集、演出についてすでにいくつかのサイトやブログでも情報が提示されてきている。やはりVRの動画撮影というのは、これまでの動画撮影のナレッジとはまた異なったナレッジが生まれつつある。たとえば、Oculus Story studioでは、“「LOST」の制作を通して学んだこと”という情報をブログにアップしている。
https://storystudio.oculus.com/en-us/blog/5-lessons-learned-while-making-lost/
和訳:http://www.moguravr.com/oculus-story-studio-lost/
(※MoguraVRより引用)
現状としてはVRで動画を視聴させるための様々な問題点やナレッジは初期段階にあって、やっと各社溜まってきたかなというところ。さらに言えば動画コンテンツだけではなくデバイスそのもの、プラットフォームそのものについてもまだまだ深く研究する余地があるのだ。