txt:岡英史 構成:編集部

360°撮影の依頼

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ベースはGoPro HERO3を6台使用し、それを専用RIGに装着しステディカムを組み合わせた

2015NABSHOWの最終日、本コラムでもお馴染みの石川氏と一緒にNorth会場を取材していた時、「岡さん、今年は360°来ますよ!」と言う話になったのだが、そんなもんかなぁ?と思っていた次第。視聴環境やGoPro映像じゃお遊び程度なのでは?と思っていたのだが、わずか半年足らずで360°撮影が仕事として依頼が舞い込んできた…。偶然と言うか、その手のモノは来るべき時に舞い込んで来るのか?今回の撮影は本人の意図しない所から舞い込んだ。

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さらにその2日前、ポスプロのインターセプターに別件でお邪魔しいてた所、カラリストの田巻氏に面白いものあるんだけどと見せられたのが、GoPro 6個で360°撮影を実現するRIG。同時に制作した360°映像も見せて頂き、これは面白いなーと思ったのがそもそもの出会い。今回依頼を頂いたプロダクションは、ENG系の撮影技術協力をさせて頂いた制作会社seven8で、別件の進行中案件もあるのでその打ち合わせかと思いつつお話を伺うと「岡さん、360°撮影って出来ますか?」と。

一昨日その話を聞いたばかりなので、静止画の撮影は見たことがあるが動画に関しては初体験。とりあえず「やりましょう!」と返事をし、もう一度田巻氏に詳しく話を聞いた結果、問題なく出来る判断ができたので、今回の撮影を受けることにした。

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カメラが体の中心になるようにアルミステーを切り出し

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正面向きのカメラだけモニターを配置し、ステディカムのアームを応用※全体的にはこの高さが必要

機材

今回の360°収録の機材を挙げてみよう。最近であれば、手っ取り早く済ませるならRICOH THETAだ。しかし今回はそれなりに画質も収録時間も要求されるのでGoProを中心としたシステムを採用(田巻氏よりのレンタル)。NABでも360°展示の多くはGoProを使用した物だったが、中にはRED EPICに超ワイドレンズを取り付けた驚愕のモデルもあった。

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6台の映像を1つの360°映像にする処理にはGoPro傘下になったKolorを使用し、更にVideoStitchで細かい部分を調整。もちろん6台のカメラの色合わせはDaVinci Resolveを使って色合せをしなければならない。何しろ360°映像なので振り向いた時に質感が違っては全く意味が無い。

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Kolor&VideoStitchのGUI
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それらを編集するためには6台分で5Kサイズとなるレゾリューションの為にPC自体もそれなりのパワーが必要である。今回は、最強のMac Proを用意。これらのポスト部分は全てインターセプターさんにお任せだが、この部分をもし個人でやるとなるとGoPro×6台+専用RIG+360°専用ソフト2本で約80万円ちょっと。最高スペックのPCを用意するとなれば更に倍額が掛かる。

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実際の撮影スタイル。カメラ本体はなるべく体の中心部に

また今回はステディカム・アームも使用しているので、全体のシステム価格は中々良い金額になっている。3D映像の時は単純にフルHD2レイヤー分なのでカメラさえ手に入れれば既存のNLEシステムで編集も可能だったが、流石に5Kクラスになるとそうは行かない。

収録方法

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自分の影も気にしなければならない

実際の本番前にテスト収録も行い、それでも微妙な部分はWEB等で色々な360°映像を見たが、今回の様に一人称での収録というのは見つけることが出来なかった(カメラ固定でまわりを動く、自分も映り込む物がほとんど)為に、第一人者と呼ばれている方の映像やその方法論も調べてみたが、やはり一人称での映像にはどれもしっくり来ない。言うなれば「そこまでは解っている、その先が知りたい!」という事。これはつまり自分でトライを繰り返すしか無い。

また今回の収録でディレクターが一番こだわった部分が、ワンカメショーと言う事。実質3分強の映像なのでカット割り無しのワンカメでも全く問題ないが、この360°収録だと完全にカメラマン一人での収録になる為、何がOKで何がNGか解らない。他の演者とのタイミング等々、コレばかりは最終的に細かい所は演出(ディレクター)の判断になる。通常の収録ならカメラの後ろにモニターを配置する事で細かく出来るが、360°では後ろも丸見えなのでそうも行かない。更に一度スタートしてみないと上下左右方向で何がバレているか(余分な物が映り込むこと)はテイク毎にチェックしなければならない。しかし360°見えると言う事は本当に色んな物がバレてくる。

一番のバレものは照明機器、これは本当にテイク毎にチェックしないとわからない。場面的には夜(薄暗い)設定なので、必要最低限の光を窓から流し込む形になるが、前後左右方向はなんとなくテイクを繰り返せば雰囲気で掴めるが、それに上方が加わると想像が出来ない。またバレた部分を移動すると光が足りず、ギリギリまで攻めると今度は違う角度からその照明機器がバレている。もう一つは自分自身の影で、特に壁際は注意が必要だ。開口部に影が落ち込む様に歩くコース設定を微調整し、これらの繰り返しで妥協点を見つけていくのだが、どうしようも無い部分は最後ポストでなんとかしてもらおうと言う事で行く。

総評

全てが手探り状態の中で進行したがその中でも如何にバレものを隠すか?その隠し方とコース設定には今回の撮影で非常に色んな物を吸収出来た。時間的(予算的)にもギリギリのバジェットの中で色んな事をコンパクトに終わらせられたのは、最後のポスプロ部分で助けて貰えるだろうと言う安心感があったのも大きな部分である。

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終了してからゴーストとの2ショット。約14時間の現場で2シーン25テイクは流石に疲れた(1テイク約4分)

とは言えこの一人称での360°収録のノウハウは特殊RIGを含めた方法がいろいろと発明できると思う。今回ご一緒したインターセプター田巻氏とこの辺の情報をもっと詰めていけば、ワンランク上の映像が撮影できるのではないかと確信しているので、何処かで360°セミナーを開催したいと思っている。

なお、今回の映像は既にYouTubeとオフィシャルHPで公開されている。内容は、サントリーが扱っているPEPSI GHOSTの映像だ。スマホ等を使えば振り向いた分映像も動くので色んな所に隠れているメッセージや、何気ないゴーストの動きを見つけて欲しい。何がバレていて、それを消しているのか?を見つけるもの楽しいかもしれない。因みに1箇所ウルトラC級に編集で助けて貰ってる場面があるのは内緒だ…。

■前編
■後編

WRITER PROFILE

岡英史

岡英史

モータースポーツを経てビデオグラファーへと転身。ミドルレンジをキーワードに舞台撮影及びVP製作、最近ではLIVE収録やフォトグラファーの顔も持つ。