txt:土持幸三 構成:編集部
みんなで物語を作ること
撮影可能な場所でワンシーンのアイデアを話す
「物語を考える」、この簡単そうにみえることが実に難しい。ましてや締切等の時間の制約がある事で、難易度はさらに上がる。制約がある事が良い事もあるのは事実。子供達の映像教室では、そう簡単にもいなかない。
去る3月29日に恒例となっている川崎市の生田緑地での「こども映像教室」の講師を任された。この映像教室は1日で企画・撮影・編集まで行う。そして子供達はこの日に初めて出会う、小学4年生から中学生までが4人から5人でグループをつくっての参加となる。当然、朝の二時間ほどはお互いにチラチラと様子を伺うことで時間が過ぎていく。
まず、朝9時の集合からコチラであらかじめ決めていたグループに別れて座ってもらい映像の基本を少し教える。内容は引き画と寄った画の情報の質の違いを理解してもらい、撮影の時は引き画と寄りの画を撮ることが重要だということ。
最後に監督・カメラマン・マイク・出演者と、それぞれ役割を体験して同ポジ撮影をする。そして、実際に撮った素材をパソコンに取り込み、EDIUS Neoで編集してみせる。引き画と寄りの画が合わさり、同ポジ撮影で出演者が消えると毎回、大きな歓声があがり気持ちがよい。
生田緑地には面白い場所がいっぱいある
全体の流れを確認し、いよいよ物語の作成となるが、まず、物語のアイデアを得るのと絵コンテ作成のため、広い生田緑地の中で撮影可能な場所を見て回り、その場所を活かすことで、どのようなシーンの撮影が可能かを考えてもらう。
具体的には鳥の燻製や昆虫の標本がある宙と緑の科学館では、後で声をかぶせる事で鳥や昆虫が話すことが出来るようになることや、古民家が移築されている日本民家園ではタイムスリップや、撮った映像を編集でモノクロにできる事などを伝える。そうすると1人でブツブツ言ったり、仲間内でああでもない、こうでもないが始まってくる。
部屋に戻るとまず、個人で見て周った場所で、こんな事が起こったら面白い、という1シーンを考えてもらう。僕はこの作業が、この1日映像教室で物語を創るキモだと思っている。はじめから物語を創ろうとすると、ストーリーが長くなったり結末や出だしのアイデアがなくて時間がかかり初心者には難易度が高い。
しかし、いま見てきたロケーションの中で個人として面白い、こんなワンシーンがあったら楽しいな、と思うものを1つの絵コンテとして書くことは比較的簡単にできてしまう。グループで物語を考えてもらうのではなくてまず、ラフにでもよいので個人で考え出来た絵コンテを僕にプレゼンしてもらう。どんなシーンなんだと説明できれば充分だ。
そしてグループ全員がプレゼンしたところで、個人のアイデアをグループ内でつなげていく提案をいくつか僕の方でする。方向性の可能性をいくつかあげると自然にグループ内での会話が活発になり、それぞれの絵コンテ間を埋めるアイデアが出て作品の方向性が決まり案外簡単に物語が出来てしまう。実際に脚本などを書く場合も書けるシーンから書いていくのが良いと思っている。
さぁ!物語を作っていこう!
撮影の様子。4人から5人のグループで作品を創る
物語になった絵コンテを持ってグループでのプレゼンが終わると昼食をとっていよいよ撮影に向かう。実際の撮影になると興奮を止められないのか、午前中に話した引き画と寄りの画の事は忘れてしまうことが多いが、撮影は順調に進んでいく。平日の昼間は多くの家族連れが広場などに集まっているが、それを利用して背景に入れ込んだり、あまり人のいない林の所で撮影したりと、それぞれのグループで工夫して撮影にのぞんでいた。
編集も自分達で行う。初めてでもすぐに慣れてしまう
撮影が終わると編集になるが参加者全員、EDIUS Neoを使用するのは初めて。しかし10分ほどの説明でだいたい使えるようになる。このパソコンに対するリテラシーは大人に比べて子供が圧倒的に有利な部分だ。編集を始めて2時間ほどでラフな編集が終了する。そこで一旦、ファイルで書き出して発表し全員で鑑賞する。そしてタイトルやエフェクト・効果音・音楽等の希望を書いてもらい、後日、僕のほうで最終的な編集を仕上げて参加者に渡すことになっている。
毎回、独創的な面白い物語ができているが、もし自分が1日で物語を創り、撮影・編集を初対面の人間と制作するとなると腰が引けてしまう。子供達の熱意と想像力には毎回頭が下がる思いがする。