txt:茂出木謙太郎 構成:編集部
360°movieの問題点
街中を移動しながらの360°movieの撮影というのは、一脚の先にカメラを取り付けて、頭上に掲げて撮影することが多い。この撮影スタイルにはいくつか問題があって、撮影し終わったものを見ながらいつももっといい方法がないだろうかと思っていた。何が問題かというと、まず、一脚を持って歩くというスタイルだと歩き方を工夫しないとカメラが上下に揺れてしまって気持ちが悪い映像になる。ハコスコなどでこの動画を見ると、ゆらゆら揺れて移動する映像はどうしても「素人っぽい」映像になってしまう。
これを回避するためには、できるだけ歩幅を狭めに均等にして、カメラが上下に動かないように水平位置をキープするような歩き方を会得する必要がある。さらに、一脚の反対側にジャイロスタビライザーをつけてカメラの揺れを安定させるという方法を取れば完璧だ。ただ、ジャイロスタビライザーはけっこうな価格のため、手を出すにはなかなか勇気がいる。また、入手しにくいがパノラマカメラ用の電動ジンバルを使うという方法もある。これもテストモデルはいくつかあるようだが、一般に売り出されるにはまだちょっと時間がかかるかもしれないのが現状。
そして、このように問題を解決したところで、まだ問題が発生する。それはカメラの高さがどうしても高い位置に来てしまうという問題だ。カメラ位置が大体地上190センチ以上の位置に来てしまうので、見通しが良い映像を取ることができるのだが、人の目線で撮影したいと思うとどうしても中腰でカメラを持って歩かないといけない。中腰の状態で前述のような揺れをなくすように歩くなど、撮影にかなりの身体的負担を強いることになる。可愛いアイドルとデートする動画がなかなか撮影されないのはこの撮影方法にムリがあるからかもしれない。
さらにこれらを克服しても、まだ問題がある。それは「カメラマンが写ってしまう」という問題だ。これは「360°カメラ最大のバグ」と揶揄されているのだけど、周囲すべてを撮影してしまうカメラには死角がないので、カメラを支えているカメラマン(そしてその多くがおじさんであるという悲しい事実)がしっかりと写り込んでしまい、編集後の作業でこのおじさんを「消す」作業がどうしても必要になってしまう。
Dolly360(仮)で問題解決!
Dolly360(仮)
前置きが長くなってしまったが、このような問題を解決するために、古くからお世話になっている、RC(ラジオコントロール)メーカーの株式会社京商さんとお打ち合わせの時に、思い切って相談してみた。「RCでドリー作りたいんですけど…」無線で操作できれば、カメラマンの映り込み問題はほぼ解消するはず。RCカーのサスペンションと、カメラのバランスを上手く調整できれば、ジャイロスタビライザーのような高価なものを使わなくても、平地くらいは全く問題なく撮影できるはず。
さらに、人の目線の高さで撮影が可能になるのでこれまでよりもっと「見た目に近い」動画を撮影できるようになる(ドローンを使えばいいのではないかという指摘もあるが、撮影許可を取るのが大変だし、室内など狭いところを撮影しようとするとプロペラの風の問題や、操縦する人間の熟練度も求められてしまう)。最初は全くピンときていなかった開発スタッフの皆さんと話をしているうちにどんどん盛り上がってきて、ついに出来上がったのがプロトタイプのRCドリー。「Dolly360(仮)」。この道50年のRCメーカーが本気を出して開発した、日本初の電動RCドリーである。
人の歩く速さで撮影しやすいということ、人の目線で撮影できるということ、開けたところなら100m離れていてもバッチリ操作でき、ドローン用のFPVカメラを取り付けることも可能。
室内はもちろん、アスファルト、砂利道などでの走破性や段差の乗り越えなどのテストを行い、かなり安定した撮影ができるようになりそうだ。
YouTubeやFacebookにプロトタイプで撮影した動画をアップしているので、ぜひご覧いただきたい。
8月に足回りや拡張性を意識してさらに使い勝手を良くしたベータ版をご披露できると思いますので、カメラマンの皆さんにもぜひお試しいただき、その後受注予定です。沢山の人が今の撮影の悩みを解消できるといいな!
※ラジコンは株式会社増田屋コーポレーションの商標。